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第二章 父の面影
31.【後編】魔劫界《ディスアペイア》
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魔劫界の死地の汚泥に浮かぶ三つ子島。針山は鋭く天を突く。赤い空へ先端を向けて幾本もそびえ立っていた。
一行は三つ子島の見える海岸まで歩いてきた。後ろについてきた悪魔達はすっかり姿を消していた。
「すごく大きな針だぞ、あれ」
「ハリネズミみたいな島だね」
目の前に見えている死地の汚泥を渡らねば行けない。船も橋もない中、どうやって渡ろうか。
「俺とルフィア、キャスライは空を飛べるが。フェイラストと聖南はどうする」
「なんとかして飛べないかな」
少し間を置いてラインが閃く。浮遊術式をかければ飛べるのではないか。
「俺がフェイラスト、ルフィアが聖南に浮遊術式をかけて飛べばいい。いけるはずさ」
「浮遊の仕方が分からねぇんだが、初心者でも大丈夫か?」
「あたしも心配だなぁ」
「操作は簡単さ」
ラインが二人に浮遊術式の操作を教える。その間、ルフィアとキャスライが今まで来た道を眺めていた。
「ルフィアの足跡、残ってるね」
「この世界に来た証を残しちゃった」
「悪魔達、あんなにルフィアの足跡で遊んでたのに。騒いで楽しそうだったけど、ここまで来たらいなくなっちゃったね」
「悪魔でも近づかないって言ってたし。いったいどんなところなんだろ」
「気になるね」
ラインの説明が終わったようだ。ラインはフェイラストに、ルフィアは聖南に浮遊術式をかけた。彼に教わった通り念じる。二人の体がふわりと浮いた。
「わぁ、体が浮いた!」
「すげぇな!」
ラインとルフィアが一対の羽を生やす。翡翠色と青色が荒野に美しく広がった。キャスライも四枚の翅を広げた。ゆっくり空へと上がる。ラインが後ろ向きに羽ばたいて死地の汚泥の上に浮く。皆の様子を眺めて大丈夫だと頷いて、針山の方へ体を向けた。
死地の汚泥は赤紫色と濃紺を混ぜ合わせたような色をしている。時折人の顔らしきものが浮かんできた。不浄なる魂がうごめいているのだ。天上界とは全く違う様相に一同少し暗い顔をした。
五分ほど経つ。三つ子島の上を通過した。真ん中の島に固定転移紋があるとのこと。しかし、ラインは翡翠色の羽を羽ばたかせて空中に止まった。
「空を飛ぶのは危険だな……」
大きな針の隙間を埋めるかのように、小さな針がびっしりと生えていた。飛ぶのに慣れていないフェイラストと聖南のことを考えると、避けるべきだと考えた。
他の島と真ん中の島とを繋ぐ陸路を見つけた。そこに降りることを決めた。ラインとルフィア、キャスライが先に着地する。空中であたふたする慣れない二人へ手を差し伸べる。手を掴んで地上に降ろした。浮遊術式を切る。無事に着地できた。
「ふぃー、なんとか上手くいったな」
「空を飛ぶって、あんな感じなんだね!」
フェイラストと聖南が目を輝かせていた。未だに残るふわふわした感覚を確かめる。ラインとルフィアが羽を片付けた。キャスライは翅を閉じる。
「真ん中の島にあるって言ってたけど、こんな針の中に本当にあるのかなぁ~」
聖南がトゲトゲの島を見て痛そうな顔をする。キャスライもぞわぞわしてぶるると身震いをした。
彼らは転移の紋がある真ん中の島へと足を踏み入れた。岩が転がっている地面は歩きづらい。岩と岩の間にできた狭い隙間をかに歩きで越える。行く先に紫色のてかりがある黒い草を見つけた。手のひらぐらいの大きさの虫が草を食べていた。
「こんなところに虫がいるのか」
「一匹だけじゃねぇな。向こうの草むらに群がってるのが見えるぜ」
「僕、話せないかやってみるよ」
キャスライが一歩前に出る。虫が草を食べるのをやめて彼を見た。
「……!」
普通の人には聞こえない特殊な音を立てて虫と会話する。彼の耳がぱたぱたと動いた。
「この先の草の中に、変な模様があるって言ってるよ」
「変な模様って、転移の紋が描かれているのか?」
「そこまでは分からないよ。行って確かめてみよう」
キャスライが先頭を歩く。耳をぱたぱたさせて音を確かめ、針山を掻き分ける。
何分ぐらい歩いただろうか。そろそろ島の中心くらいだと思うのだが、景色は針山の根本を越えていく以外代わり映えがない。
「草むらに模様……」
キャスライは足で草をよけて地面を見るが、特に模様は見当たらない。仲間達も地面を気にしながらついてきている。
「っ!」
キャスライの耳が違和感を覚えた。見上げると、針山から突き出た足場に大きなキマイラが牙を覗かせていた。威嚇するようにこちらを警戒している。針山の壁面を蹴って地上に降りてきた。
「人間共、何故此処ヘ来タ?」
「僕達は、冥府に行くためにここへ来ました。転移の紋があるという話を聞いたので、探しているんです」
キマイラのライオン頭がぐるるとうなる。ヤギ頭が首をかしげた。
「お願いです、通してください」
「通さねぇってなら、オレ達はこいつで訴えるしかねぇんでな」
フェイラストが銃を抜いてキマイラに銃口を向ける。
「ヤッテミルガイイ。貴様ラノ力ヲ見定メテヤル!」
キマイラのライオン頭が吠えた。気迫に押されそうだ。キャスライは短剣を握り構えた。ラインとルフィア、聖南も武器を構える。
キマイラの尻尾のヘビが鎌首をもたげた。口を大きく開いて風の術式を放つ。刃となった風が薙いだ。フェイラストとキャスライが散開して回避。ラインが火の術式を放ち風の刃と相殺させた。隙を埋めるようにルフィアが氷の術式を放つ。彼女の背後から発射される鋭い氷のトゲ。しかし軽快な動きでキマイラは氷のトゲを避けた。
「ホウ、中々ヤルナ」
キマイラのライオン頭が吠えると、火の術式が発動する。聖南が前に出て地の術式を使い、壁を作って炎を防いだ。一撃を浴びて壁は崩れ落ちる。
「ふっ!」
キャスライが一瞬の隙を突いてヤギ頭へ一撃見舞う。斬り落とすまではいかないが、それでも充分なダメージは与えた。フェイラストが追撃の弾丸を撃ち込む。キマイラが避けようと身をひねるところに命中した。
「浄化ノ力ヲ蓄エタ一撃ダト」
フェイラストの放った弾丸から浄化の力を感じ取る。しかしひるまずライオン頭がヘビ尻尾と同時に術式を放った。火の術式を風に乗せて一行を焼き払わんと迫る。
「させない!」
ルフィアが水の術式を唱えて、広範囲に及ぶ火の術式と相殺させる。追撃の昇華術式が発動した。キマイラの上に水瓶が何本も現れ水をこぼす。滝のような一撃で体が沈む。
「はぁっ!」
ラインの瞬速。一瞬で目の前に現れた彼の動きに対応できなかった。剣はライオン頭を縦に斬り裂く。痛みにヤギ頭が叫び声を上げた。鋭い爪が来る前にラインは大きく後ずさる。キマイラが踏みつけた勢いで地面にヒビが入る。
「クハハハハ、ヤルデハナイカ!」
キマイラが高笑いをする。傷を与えた箇所が再生していった。皆は警戒を解かず様子を見守る。
「認メヨウ。此ノ先ニアル転移ノ紋ニ用ガアルノダロウ。行クガイイ」
「……行っていいの?」
「ソウダ」
皆は武器を収めた。キマイラは巨体を動かしおすわりした。ヘビの尻尾がシャーと鳴く。聖南がびっくりしてラインの後ろに隠れた。
キマイラに別れを告げて、皆は先へ進む。最後までヘビの尻尾がゆらゆらと落ち着きなく動いていた。
キャスライを先頭に、虫や動物の声を頼りに道を探す。
「あっ!」
かすれた模様を見つけた。見渡せばそこは神殿のような建物が崩れた痕跡がある。床には転移の紋が刻まれた跡を確認できた。
「ここだよ、ここ!」
「やっと見つけたねー!」
聖南がキャスライと抱き合う。はしゃぐ彼らを見てフェイラストとラインは微笑んだ。ルフィアが転移の紋に乗る。組成式を確認する。未知の領域に繋がる陣が組み込まれていた。恐らくは冥府に行くのだろう。キャスライが聖南と一緒にルフィアの近くに行く。
「この紋の向こうに冥府があるんだね」
「楽しそうだね、キャスライ」
「誰も知らない場所に、僕達が行こうとしているんだから。僕、わくわくするよ」
彼は師匠が言っていた言葉を思い出していた。俺の分まで世界を見てこい。だから、様々な世界に行ったら彼の墓の前で自慢しよう。そう考えていた。
「いよいよだな」
「兄さんも緊張する?」
「ちょっとだけな」
ルフィアと一緒に組成式を眺める。難しい組成式は数字と古代文字を並べていた。
「起動させるの手伝うぞ」
「ありがとう」
ルフィアとラインが組成式を調べている間、フェイラストとキャスライ、聖南は近くの崩れた壁に腰かけていた。草を食べる虫はここにもいるようだ。観察して待っていた。
数分が経つ。組成式の解析が終了した。転移の紋に魔力を送る。かすれた模様は光で繋がり、はっきりとした形を浮かび上がらせた。
「できた!」
「やったな」
二人が喜ぶ。座っていた三人も駆け寄ってくる。
「やったねルフィア!」
「ラインもお疲れさんだぜ」
「いよいよ、冥府に行くんだね」
色めき立つ一行。しかし彼らの行く手を阻むようにひずみが現れた。
「なっ!?」
「こんな時にー!」
ひずみは今まで見たものより大きく、黒いよどみもたくさん漏れる。しかも、こちらに迫ってくるではないか。
「まずい、引き下がるぞ!」
「待って待って、こっちからもひずみが来てる!」
ひずみが移動し迫ってくる。よどみを吐き出しながら皆を取り囲んでいた。
「ルフィア、起動だ!」
「了解!」
ルフィアとラインが転移の紋に魔力を送る。紋が輝きだした。ひずみが迫る。よどみが彼らを取り囲む。転移の光が紋から伸びて、彼らを光に包んだ。
冥府へと旅立つライン達。
転移の瞬間、ひずみの中へ飛び込む黒い彼女が見えた気がした。
一行は三つ子島の見える海岸まで歩いてきた。後ろについてきた悪魔達はすっかり姿を消していた。
「すごく大きな針だぞ、あれ」
「ハリネズミみたいな島だね」
目の前に見えている死地の汚泥を渡らねば行けない。船も橋もない中、どうやって渡ろうか。
「俺とルフィア、キャスライは空を飛べるが。フェイラストと聖南はどうする」
「なんとかして飛べないかな」
少し間を置いてラインが閃く。浮遊術式をかければ飛べるのではないか。
「俺がフェイラスト、ルフィアが聖南に浮遊術式をかけて飛べばいい。いけるはずさ」
「浮遊の仕方が分からねぇんだが、初心者でも大丈夫か?」
「あたしも心配だなぁ」
「操作は簡単さ」
ラインが二人に浮遊術式の操作を教える。その間、ルフィアとキャスライが今まで来た道を眺めていた。
「ルフィアの足跡、残ってるね」
「この世界に来た証を残しちゃった」
「悪魔達、あんなにルフィアの足跡で遊んでたのに。騒いで楽しそうだったけど、ここまで来たらいなくなっちゃったね」
「悪魔でも近づかないって言ってたし。いったいどんなところなんだろ」
「気になるね」
ラインの説明が終わったようだ。ラインはフェイラストに、ルフィアは聖南に浮遊術式をかけた。彼に教わった通り念じる。二人の体がふわりと浮いた。
「わぁ、体が浮いた!」
「すげぇな!」
ラインとルフィアが一対の羽を生やす。翡翠色と青色が荒野に美しく広がった。キャスライも四枚の翅を広げた。ゆっくり空へと上がる。ラインが後ろ向きに羽ばたいて死地の汚泥の上に浮く。皆の様子を眺めて大丈夫だと頷いて、針山の方へ体を向けた。
死地の汚泥は赤紫色と濃紺を混ぜ合わせたような色をしている。時折人の顔らしきものが浮かんできた。不浄なる魂がうごめいているのだ。天上界とは全く違う様相に一同少し暗い顔をした。
五分ほど経つ。三つ子島の上を通過した。真ん中の島に固定転移紋があるとのこと。しかし、ラインは翡翠色の羽を羽ばたかせて空中に止まった。
「空を飛ぶのは危険だな……」
大きな針の隙間を埋めるかのように、小さな針がびっしりと生えていた。飛ぶのに慣れていないフェイラストと聖南のことを考えると、避けるべきだと考えた。
他の島と真ん中の島とを繋ぐ陸路を見つけた。そこに降りることを決めた。ラインとルフィア、キャスライが先に着地する。空中であたふたする慣れない二人へ手を差し伸べる。手を掴んで地上に降ろした。浮遊術式を切る。無事に着地できた。
「ふぃー、なんとか上手くいったな」
「空を飛ぶって、あんな感じなんだね!」
フェイラストと聖南が目を輝かせていた。未だに残るふわふわした感覚を確かめる。ラインとルフィアが羽を片付けた。キャスライは翅を閉じる。
「真ん中の島にあるって言ってたけど、こんな針の中に本当にあるのかなぁ~」
聖南がトゲトゲの島を見て痛そうな顔をする。キャスライもぞわぞわしてぶるると身震いをした。
彼らは転移の紋がある真ん中の島へと足を踏み入れた。岩が転がっている地面は歩きづらい。岩と岩の間にできた狭い隙間をかに歩きで越える。行く先に紫色のてかりがある黒い草を見つけた。手のひらぐらいの大きさの虫が草を食べていた。
「こんなところに虫がいるのか」
「一匹だけじゃねぇな。向こうの草むらに群がってるのが見えるぜ」
「僕、話せないかやってみるよ」
キャスライが一歩前に出る。虫が草を食べるのをやめて彼を見た。
「……!」
普通の人には聞こえない特殊な音を立てて虫と会話する。彼の耳がぱたぱたと動いた。
「この先の草の中に、変な模様があるって言ってるよ」
「変な模様って、転移の紋が描かれているのか?」
「そこまでは分からないよ。行って確かめてみよう」
キャスライが先頭を歩く。耳をぱたぱたさせて音を確かめ、針山を掻き分ける。
何分ぐらい歩いただろうか。そろそろ島の中心くらいだと思うのだが、景色は針山の根本を越えていく以外代わり映えがない。
「草むらに模様……」
キャスライは足で草をよけて地面を見るが、特に模様は見当たらない。仲間達も地面を気にしながらついてきている。
「っ!」
キャスライの耳が違和感を覚えた。見上げると、針山から突き出た足場に大きなキマイラが牙を覗かせていた。威嚇するようにこちらを警戒している。針山の壁面を蹴って地上に降りてきた。
「人間共、何故此処ヘ来タ?」
「僕達は、冥府に行くためにここへ来ました。転移の紋があるという話を聞いたので、探しているんです」
キマイラのライオン頭がぐるるとうなる。ヤギ頭が首をかしげた。
「お願いです、通してください」
「通さねぇってなら、オレ達はこいつで訴えるしかねぇんでな」
フェイラストが銃を抜いてキマイラに銃口を向ける。
「ヤッテミルガイイ。貴様ラノ力ヲ見定メテヤル!」
キマイラのライオン頭が吠えた。気迫に押されそうだ。キャスライは短剣を握り構えた。ラインとルフィア、聖南も武器を構える。
キマイラの尻尾のヘビが鎌首をもたげた。口を大きく開いて風の術式を放つ。刃となった風が薙いだ。フェイラストとキャスライが散開して回避。ラインが火の術式を放ち風の刃と相殺させた。隙を埋めるようにルフィアが氷の術式を放つ。彼女の背後から発射される鋭い氷のトゲ。しかし軽快な動きでキマイラは氷のトゲを避けた。
「ホウ、中々ヤルナ」
キマイラのライオン頭が吠えると、火の術式が発動する。聖南が前に出て地の術式を使い、壁を作って炎を防いだ。一撃を浴びて壁は崩れ落ちる。
「ふっ!」
キャスライが一瞬の隙を突いてヤギ頭へ一撃見舞う。斬り落とすまではいかないが、それでも充分なダメージは与えた。フェイラストが追撃の弾丸を撃ち込む。キマイラが避けようと身をひねるところに命中した。
「浄化ノ力ヲ蓄エタ一撃ダト」
フェイラストの放った弾丸から浄化の力を感じ取る。しかしひるまずライオン頭がヘビ尻尾と同時に術式を放った。火の術式を風に乗せて一行を焼き払わんと迫る。
「させない!」
ルフィアが水の術式を唱えて、広範囲に及ぶ火の術式と相殺させる。追撃の昇華術式が発動した。キマイラの上に水瓶が何本も現れ水をこぼす。滝のような一撃で体が沈む。
「はぁっ!」
ラインの瞬速。一瞬で目の前に現れた彼の動きに対応できなかった。剣はライオン頭を縦に斬り裂く。痛みにヤギ頭が叫び声を上げた。鋭い爪が来る前にラインは大きく後ずさる。キマイラが踏みつけた勢いで地面にヒビが入る。
「クハハハハ、ヤルデハナイカ!」
キマイラが高笑いをする。傷を与えた箇所が再生していった。皆は警戒を解かず様子を見守る。
「認メヨウ。此ノ先ニアル転移ノ紋ニ用ガアルノダロウ。行クガイイ」
「……行っていいの?」
「ソウダ」
皆は武器を収めた。キマイラは巨体を動かしおすわりした。ヘビの尻尾がシャーと鳴く。聖南がびっくりしてラインの後ろに隠れた。
キマイラに別れを告げて、皆は先へ進む。最後までヘビの尻尾がゆらゆらと落ち着きなく動いていた。
キャスライを先頭に、虫や動物の声を頼りに道を探す。
「あっ!」
かすれた模様を見つけた。見渡せばそこは神殿のような建物が崩れた痕跡がある。床には転移の紋が刻まれた跡を確認できた。
「ここだよ、ここ!」
「やっと見つけたねー!」
聖南がキャスライと抱き合う。はしゃぐ彼らを見てフェイラストとラインは微笑んだ。ルフィアが転移の紋に乗る。組成式を確認する。未知の領域に繋がる陣が組み込まれていた。恐らくは冥府に行くのだろう。キャスライが聖南と一緒にルフィアの近くに行く。
「この紋の向こうに冥府があるんだね」
「楽しそうだね、キャスライ」
「誰も知らない場所に、僕達が行こうとしているんだから。僕、わくわくするよ」
彼は師匠が言っていた言葉を思い出していた。俺の分まで世界を見てこい。だから、様々な世界に行ったら彼の墓の前で自慢しよう。そう考えていた。
「いよいよだな」
「兄さんも緊張する?」
「ちょっとだけな」
ルフィアと一緒に組成式を眺める。難しい組成式は数字と古代文字を並べていた。
「起動させるの手伝うぞ」
「ありがとう」
ルフィアとラインが組成式を調べている間、フェイラストとキャスライ、聖南は近くの崩れた壁に腰かけていた。草を食べる虫はここにもいるようだ。観察して待っていた。
数分が経つ。組成式の解析が終了した。転移の紋に魔力を送る。かすれた模様は光で繋がり、はっきりとした形を浮かび上がらせた。
「できた!」
「やったな」
二人が喜ぶ。座っていた三人も駆け寄ってくる。
「やったねルフィア!」
「ラインもお疲れさんだぜ」
「いよいよ、冥府に行くんだね」
色めき立つ一行。しかし彼らの行く手を阻むようにひずみが現れた。
「なっ!?」
「こんな時にー!」
ひずみは今まで見たものより大きく、黒いよどみもたくさん漏れる。しかも、こちらに迫ってくるではないか。
「まずい、引き下がるぞ!」
「待って待って、こっちからもひずみが来てる!」
ひずみが移動し迫ってくる。よどみを吐き出しながら皆を取り囲んでいた。
「ルフィア、起動だ!」
「了解!」
ルフィアとラインが転移の紋に魔力を送る。紋が輝きだした。ひずみが迫る。よどみが彼らを取り囲む。転移の光が紋から伸びて、彼らを光に包んだ。
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