Ancient Artifact(エンシェント アーティファクト)

黒之輪

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第三章 魔王の息子

46.撤退。そして今後のこと。

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 レジスタンスのアジトは朝から慌ただしかった。ライン達は食堂で朝御飯を食べている最中だった。

「本国の連中がこっちに軍を放った!」

 夜中、見張りの者が戦闘機を見つけた。旋回して探りを入れる様子を見せて帰っていったが、朝になって大群で押し寄せてきているという。

 ライン達は急いで朝食を済ませ、身支度をしてミラの私室へ。彼女も支度を済ませ、今まさに飛び出そうとしていたところだった。

「お前達か。残って戦ってくれるか?」
「俺達にできることならやります」

 ラインは仲間達に聞くと頷きが返ってくる。やる気に満ち溢れていた。

「感謝する。だが、危険だと思ったらすぐに逃げろ。分かったな」

 ミラは言葉を続ける。

「我々は軍の目を掻い潜って、秘密のルートから東にあるレジスタンスのアジトへ逃げるつもりだ。逃走が完了するまででいい。しんがりを頼みたい」
「分かりました」

 よろしく頼む、と言ってミラは荷物を持って私室から出ていった。ライン達も動き出す。

「足止めするだけでいい。無理して突っ込むなよ」
「あいよ!」
「分かったー!」

 アジトを駆ける。レジスタンスのメンバーは荷物や必要物資を運び出す。奴隷だった人達は馬車や車に乗せる。裏手にある秘密のルートを通って、東を目指す準備は急ぎ進んでいた。

 ケルイズ軍が迫る。刻一刻とその時は近づいていた。

 一時間が経つ。ケルイズ軍はまだ来ていない。ライン達はアジトの表に出て空を睨み付けていた。山裾と山裾が入り組んだ地形に散らばって立っている。

「お前達!」

 ミラがこちらにやって来た。

「我々の準備は完了した。奴隷だった者達の運搬も始まっている。彼らを一番優先させて逃がさねばいけないからな」
「ミラさん、あなたも逃げてください!」
「僕達が食い止めます!」
「ありがとう。ただの旅人に、このような重荷を背負わせてすまないと思っている」
「元はといえば、奴隷解放を手伝いたいと俺が言い出したことです。仲間達を巻き込んでしまった。そしてあなたも」
「別にいい。……しくじるな。生きてまた会おう!」

 ミラと握り拳を合わせる。笑みを見せた彼女は、レジスタンスのリーダーとしてメンバーの待つ方へと戻っていった。

「我々はケルイズ軍である。武器を捨てて投降しろ。繰り返す……」

 空からアナウンスが聞こえてきた。何人もの兵士がパラシュートで下降してくる。皆が武器を構えた。

「押し留めるだけでいい。やるぞ!」

 皆から力強い返事がくる。ルフィアが水の術式を発動して空へ水を射出。フェイラストが空に向けて銃を放つ。聖南は卯を司る夘沙ウシャ、酉を司る賢鶏ケンケイを召喚して守りを固める。キャスライは得意の瞬発力を生かして着地前に攻撃を仕掛けた。

「行くぞ!」

 ラインが瞬速で駆け抜ける。紅の疾風が吹き抜けた兵士には等しく死が与えられた。

「さて、私もやろうかね」

 腕を組んで見ていた黒いのが、光と闇の一対の剣を召喚した。彼女が手を動かし、指を細かく動かす。それは大きく舞うような動きに変わっていった。呼応した剣は金と紫の軌跡を描きながら、地を空を縦横無尽に動き回った。

「我々はケルイズ軍である。速やかに投降しろ。繰り返す……」

 壊れた機械のように同じことを繰り返し喋っている。銃を構えた彼らが撃ってきた。ルフィアが水の術式を発動する。左右等間隔に並んだ水紋から間欠泉のように勢いよく水の柱が発射された。弾丸を水の中に留め動きを鈍らせた。水の柱をもろにくらった兵士が岩の坂を転がっていく。アーマーが砕けた。

「はぁあ!」

 キャスライが風の魔力を冥夜にまとわせアーマーごと兵士を狩る。瞬発力と翅を用いた急転換によって敵のターゲッティングから逃れていた。回転して敵の首を狩る。赤錆色の血が噴出した。

「こっちに来ないで!」

 聖南が大きな岩の上から地の術式を放つ。地面に広がった地紋が重力場を強め兵士を圧迫した。ボン、と音を立ててアーマーの外装が内側に凹む。まるで缶をくしゃくしゃに潰すように、兵士の体がぐちゃりと潰れた。

夘沙ウシャ母さんが守ってあげるわ!」

 十二聖獣が一人、夘沙ウシャが跳躍する。フライパンを頭上に構えて兵士の一人を思いっきり叩きつけた。

「俺も手伝おう」

 今度は賢鶏ケンケイが高く鳴き声を上げた。聖南を障壁が包み込む。銃撃から主を守った。眼鏡を直して決めポーズを取った。

「みんなのことも強くするよ!」

 聖南が鈴を鳴らして補助術式を放つ。戦っている皆に攻撃力と防御力を上昇させる術式をかけた。

「ありがとよ聖南!」

 フェイラストが加速した。ルフィアが氷の術式を放ってできた氷の足場を跳び移っては兵士に強化弾を撃ち込む。的確に撃ち抜いては氷に着地し、滑り、撃ち抜いていく。敵の頭上で体を逆さにした瞬間、驚異の速さで弾丸の雨を浴びせた。

「……はぁッ!」

 紅の疾風は呼気と共に剣を振るう。火をまとった聖剣は彼の意思の強さによって切れ味を増す。アーマーなど紙と等しく断ち切られた。

「サラマンダー!」

 炎蛇を呼び出す。彼の右腕に炎が巻きついた。ラインよりも大きくなって巨大な姿を現した炎蛇。熱波を伴った咆哮を上げると、その先にいた兵士が熱量に負けて熔け出した。兵士はサラマンダーに銃撃を浴びせるも、辿り着く前に熱で弾丸が熔けてびちゃりと岩に張り付いた。サラマンダーが姿を消した後も熱波がしばらく留まった。

「そろそろ終わらせるかね」

 黒いのが舞う。呼応した一対の剣は彼女の動きに連動して、空中を縦横無尽に動き回る。剣に生えた翼がはためく。剣は回転して兵士を真っ二つに斬り裂いた。銃撃されても、剣には障壁が張られていて軌道は変わらない。剣がひらめく。兵士の腕が落とされた。

「ラインさん! そろそろ潮時だよ!」

 黒いのが叫ぶ。彼は瞬速を解除して岩の上に着地した。

「撤退する!」

 皆に呼び掛ける。アジトのある方へ徐々に前線を下げていく。しかし兵士は次々に投下されていき数が減らない。

「まずいな」

 数で押し負けている。相手の武器は剣ではなく銃だ。間合いを取っても攻撃の手は休まらない。機械人形のように考えることなく撃ち込んできている。障壁を張って防いでいるが、いつまで続くか分からない。

「お困りのようですね」

 ラインの耳に淑やかな女性の声が入る。ルフィアの方へ振り返るとアンディーンが姿を現していた。

「私達が追い払いましょう」

 すると、キャスライの頭上にシルフィード、聖南の隣にノームが現れる。ラインの右腕に炎がまとわりつく。サラマンダーが姿を現した。

「我ら四大の力を以て、敵を討ち滅ぼさん!」

 アンディーンがトライデントを召喚し、兵士に向けて突き出す。大きな水紋から渦巻く津波が発生した。シルフィードがパチンと指を鳴らす。風紋からは円盤型の風刃が荒れ狂う。

「アタシの地の力をくらいなヨ!」

 ノームが斧を岩に叩きつけると、地紋が大地を覆い広範囲のプレッシャーをかける。重力によって身動き取れないように押さえ込んだ。

 サラマンダーが吼える。アンディーンの水を回避した兵士の足元に火紋が出現した。火炎がごうと噴出する。業火はアーマーを焦がし、銃を熔解する。熱暴走を起こしてバチバチと電撃を発生させた。異常をきたした機械が稼働を止める。黒く焦げた兵士がその場で彫像のように立ち尽くした。

 精霊達の力によって多くの兵士は倒れた。かろうじて避けきった兵士はいたが、ノームの重力をくらったためにアーマーがぼこぼこになって歩くこともできない。

「すげぇ、これが精霊の力なんだな」

 フェイラストが感嘆と言葉を漏らす。

「道は開けました。あとは皆さん次第です」

 アンディーンはそう言って姿を消した。他の精霊達も姿を消す。

「撤退だ。アジトに戻ろう」

 ラインの呼び掛けに皆は武器を収めて集まってきた。聖南は聖獣を呼び戻す。アジトへ行ってこれからのことを考えよう。

*******

 雑然としていたアジトはもぬけの殻と化していた。人の気配はない。レジスタンスは無事に逃げていったようだ。部屋に入り、各自座れる場所に腰かける。ようやく一息吐くことができた。

「精霊の力、凄まじいな。オレも精霊と契約したいぜ」

 フェイラストが笑う。隣のキャスライがつられて笑った。

「契約してから僕は強くなったよ。風の力が扱いやすくなったのを感じるよ」
「あたしも! 地の術式使うと効果がすごいもん!」
「私も水の術式が強くなったよ。ラインは?」
「俺は火の術式の火力が増した。サラマンダーが協力してくれている」

 皆が精霊の話に盛り上がっていたところ、黒いのが声をかけた。

「私がみんなに精霊と契約してもらった最終目的なんだけど、覚えてる?」
「確か、ラインの背中に刻印された魔王の息子を表に引っ張り出すってやつだろ?」
「ご名答。それをやらなきゃいけない。そうじゃないとリリスには勝てないと読んでるからね」
「リリス……」

 ラインが呟く。

「あいつを倒せる算段はあるのか?」
「まずはあんたさんの背に眠ってる魔王の息子を取り除く。それによって沈着した穢れが一緒に剥がれ落ちてくれれば一番いいのだけど。こればかりは、やってみないと分からんのよね」
「剥がれなかった時は?」
「お手上げだね」

 黒いのは両手を上げて頭を横に振る。ルフィアが小さく手を上げた。

「私の浄化の術式をかけてあげたら、取れるかもしれないよ」
「試す価値は充分あるね。その時はやってもらうわ」
「うん」

 聖南がねぇねぇと声をかけた。

「あたし達でラインさんのこと助けるのはいいけど、どうやるの?」

 黒いのは聖南を見る。うーん、と声を出して続きを答える。

「精霊達を呼び出して、ラインさんの刻印に魔力を集中させる。フェイラストの魔眼で観測して、奴を引っ張りあげるのさ」
「オレも重大任務じゃねぇか」
「そうだよ。だから頑張ってね」
「魔王の息子が飛び出してきたら?」
「戦闘になるか、もしくは逃走されるかの二択だわ」

 かつて、アンディブ戦争の最中、リリスの下で戦った魔王の息子を相手に取るのだ。万全の態勢で臨んだ方がいいだろう。黒いのは言う。

「リリスと戦う時が来たら、それはそれで覚悟が必要だからね。前哨戦だと思ってやりあった方がいいと思うよ」
「堕淫魔リリス、ねぇ……」

 フェイラストがぼやく。鉱山で出会った彼女は蠱惑的な笑みを浮かべる真の悪魔だった。リリス・ダーカーと名乗ったことからダーカーの生みの親なのは明白だ。

「あんなとんでもねぇ奴を、今のオレ達で相手にできるのか?」
「私も、そう思ってた」

 ルフィアが不安げに返答する。彼女の表情が陰るのを見て、聖南にも不安が移る。

「今の私達のままじゃ勝てないと思う。もっと強くならなくちゃ」
「精霊と契約しただけじゃ敵わないのかな」

 キャスライが問う。黒いのは頷いた。

「まだまだ。まともにやりあったら勝ち目ないね。私だって何回かぶつかり合ったことはあるけど、あいつ全然本気出さねぇからな」
「ひぇえ……」
「お前とやって本気出さねぇって、相当やべぇ奴じゃねぇか!」
「私だって本気じゃなかったからね。探り合いってところかね」

 黒いのは立ち上がる。皆を一人一人見る。

「リリスと戦うのはまだ時期尚早。それが分かったら、まずはラインさんの一件を頼まれてくれるかい?」

 皆はうなずいた。よしよし、と納得して黒いのは微笑む。

「今すぐするのか? どうする?」
「いんや、みんなに精霊の力の扱いかたをレクチャーしなきゃいけないから、すぐにはできないよ」
「お前さん、レクチャーするって言っても精霊と契約してないだろ」
「魔力集中の基礎的な部分だから分かるよ」

 黒いのはウインクした。ラインは背に眠る魔王の息子を意識する。ぞく、と悪寒が走った。嫌な予感がして考えるのをやめた。

(ケルイズの研究施設で激昂したとき、出てこようと思えばすぐに出られたはず。それでも出てこないのは、ルフィアの癒しの力の影響か……)

 彼女を見る。不安げな表情をしていたが、こちらを見ると笑顔になった。ラインも微笑み返す。

(魔王の息子と穢れの沈着で本来の力が出せない状態。それが改善されるならなんだってやろう。そうでなければ、きっとリリスには勝てない)

 ラインは決意を固めた。

「黒いの」
「なんじゃらほいほい?」
「リリスに勝つためならなんだってしよう。俺の家族を貶めた奴を放ってはおけない」
「あんたさんがそう言うなら私も一肌脱ぐわよ。一番大変なのはあんたさんだから、今日はゆっくり休息取りなよ」

 話は終わり。黒き彼女は席についた。フェイラストが疑問に思って口に出す。

「今晩はここに泊まるのか?」

 あっ。とキャスライと聖南が同時に声を上げる。

「またいつケルイズ軍が襲ってくるか分からないよ。別な場所に行った方がいいと思うな」
「あたしも賛成」
「移動するか。……どこへ行く?」
「無難にフォートレスシティでいいんじゃない? ラインさんも色々お母さんに報告したいと思うし。私らは宿に泊まればいいし」
「……そうだな」
「私もそれでいいと思うよ」

 皆が賛成する。立ち上がって転移術式を起動する。フォートレスシティを思い浮かべる。彼らは転移の光に包まれて消えた。

 その数分後、ケルイズ軍の第二波が押し寄せてくる。空っぽのアジトの中を捜索して、誰もいないと認識すると撤退していった。

*******

 フォートレスシティの固定転移紋に吐き出された。一行はラインの家に向かう。
 久々のフォートレスシティは特に何も変わっておらず、平穏な日々が過ぎていく。ラインは安心して街の中を進む。

「変わってなくて良かったね、兄さん」
「あぁ。何事もなかったようで、良かった」

 彼の言う通り何事もなくラインの家に着いた。皆とはここで別れる。ルフィア達は宿に向かった。

「ただいま、母さん」
「はぁい」

 キッチンから声がした。入ると昼食の準備をしていた母セレスがいた。ラインの姿を見て笑顔で迎えた。

「おかえり、ライン」

 出迎えてくれる母にラインは微笑んだ。

「みんなはどうしたの?」
「宿を取って泊まると。俺だけ帰ってきた形になってしまった」
「そうなの。あ、お昼ご飯食べる?」
「食べる。俺の分はある?」
「ちゃんとあるわよ、オムライス。椅子に座って待っててね」

 言う通りラインは椅子に座って待つことに。母が無事でいてくれたことに心の中で感謝した。

(俺がケルイズ軍に捕まって牢に入れられていたことは知らないんだな)

 こっちでもニュースになっているかと思ったが、そうではないようだ。それともまだ喋らないだけだろうか。

「ライン、あなた閉鎖大陸ってところで何かあったみたいね。一週間前、テレスフィアのニュースで色々言っていたわよ」
「こっちでも放送されていたのか……」

 じゅう、と卵の焼ける音がする。

「あなたの身に何かあったのかと心配したわ。でも、こうして帰ってきたものね。安心したわ」
「あぁ。心配させてごめん」
「いいのよ。自慢の息子だもの。お父さんみたいに世界を回ってるんだと思って誇りに思っていたわ」
「はは、そうかな」

 手際よくオムライスが出来上がる。まずセレスの分。次はラインの分だ。卵を焼く。

「あなたがみんなと旅をした話、聞かせてほしいわ」

 ラインはどこから話せばいいかと悩んだ。口を開いて、閉じる。少し黙して、ようやく言葉を出した。

「父さんとセーラがあんな目に遭った話は以前しただろ、母さん」
「……えぇ。そうね。あの人とセーラが、ダーカーっていう危ない人達に利用されていたって」
「閉鎖大陸でその元凶に会ったんだ」

 オムライスが運ばれてくる。ありがとうと言ってスプーンを取った。向かいにセレスが着席する。

「あの人とセーラを、悪い人にした元凶に?」
「あぁ。いずれそいつと戦うことになる。途方もない話だと思う。仇を取るつもりさ」
「そう。今、あなたは大変なことでいっぱいなのね」

 オムライスを食べる。美味しい。ケチャップライスの酸味と玉子の甘味がマッチしている。

「帰ってくることを目的としていた旅とは違う。今度は大変な旅になる。それでも俺は諦めないさ。父さんとセーラを苦しめた原因は突き止めたんだ。今度こそやるつもりだ」

 ラインの決意のこもった眼差しを見て、セレスは静かにうなずいた。大事な息子だが、戦いに身を投じるのならば、自分は止められないと思った。

 だって、あの人の子だから。

「お父さんに言ってらっしゃい。お墓にセーラの名前も彫ってあるわ。だから、二人があそこに眠っている。顔を見せてあげてね」
「分かった」

 ラインはセレスと今まで起きたことを話す。久しぶりの家族団らんの時を過ごした。


 昼食の片付けをして、ラインは外に出た。万年雪の降り積もる北のミモザ山があるため、晩秋の季節でも雪がちらちらと降っていた。ラインはいつもの花屋で花を買い、父と妹の眠る墓地へ。

(あいつらは今ごろ宿に着いただろうか)

 仲間のことを考えながら進む。街は見る限り平和で、雪を喜ぶ子ども達がきゃっきゃとはしゃいでいる。

(平和だ。とても、平和だ……)

 この平和を崩さんとするものがいる。ケルイズ国のように、奴隷商人のように。ある日突然平和が崩れ去り、恐怖が支配するときがやって来る。

(それを防ぐためにも、俺達が動かなければ)

 墓地に辿り着いた。ラインは父と妹の墓の前に誰か立っているのを見つけた。長身の、橙色の髪を後ろで二つにまとめた男性だ。用が済んだのか彼は去っていく。

「誰だ……?」

 ラインの知らない男だった。もしかしたら、父の依頼屋クライア仲間かもしれない。それにしては、感じる魔力がどこか違和感を覚えるものだが。男性が振り返る。優しげな顔をした人物だ。

「……?」

 この魔力は。どこかで似たような魔力を持った者を感じたことがある。懐かしいような、最近までそばにいたような。
 男性に問いかけようとしたとき、彼の姿が薄くなり、光の粒子となって消えていった。

「いったい、誰なんだ……?」

 疑問が尽きない。ラインは眉間にしわを寄せたまま献花した。父と妹の墓前で十字を切る。そして今までの出来事を話し始めた。

 ラインが出会った不思議な彼の正体を知るのは、まだ先のことである。
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