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第三章

対峙 1

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 リュカとその後ろの二人を、厳しい表情で見ながら話すデューイ。
「俺が許可したと言って鍵を借りて行ったって、看守から報告があったぞ。驚いてきてみれば、なんだこれは」
「団長、まだ城にいらっしゃったんですか」
「ああ、そろそろ帰ろうとしていたところだったよ! で、質問の答えは!?」
「リリーが誘拐されました。」
 リュカの言葉に、驚いた表情になるデューイ。
「犯人は弟のエヴァンです。今日、エヴァンとはほとんど話ができませんでしたが、やはり、今回の事件に関わっているようです。リリーが連れ去られた娼館の場所はジフリーが知っているので、今から案内させます」
「……まったく……勝手な事して……わかった、俺も一緒に行く」
「えっ?」
 驚くリュカの背を、バン! と叩き、デューイは大きく溜息をついた。
「緊急事態だ、しょうがない。それにリリー嬢には、娘を救ってもらった借りがある。一緒に行かない、って言うなら、ジフリーを連れ出す事は容認できん!」
「団長……」
 少し考えたが、リュカは『わかりました』と返事した。
「お願いします、団長。私はどうしても、リリーを取り戻したいのです」
「ああ、任せとけ。ジフリー、お前もしっかり働けよ! お前に子供を誘拐された父親二人が揃ってんだ! 罪滅ぼししろ!」
「は、ハッ!」
 そうして四人は急ぎ足で牢を後にし、待たせていた馬車に戻ったのだが、
「えっ? なんだこりゃ」
 ベルナルド家の馬車の中を覗き、デューイは思わず声を上げた。
「女と、犬と猫? ええっ? この馬車で合ってる?」
「合ってますよ。早く乗って下さい。ジフリーは、御者の隣で道案内を頼む。逃げたり、わざと時間をかけたりしようとするなよ」
「わかっている」
 そう言うと、ジフリーはシェリンを短く抱きしめてから、御者の隣に座った。
 そして最後に、ニックにメモを渡して指示を出したリュカが乗り込むと、馬車は暗い夜道を走り出した。



「えーと? ところで」
 しばらく経ち、誰も何も言わないので、デューイが言葉を発する。
「こちらの女性はどなたかな? ああ、失礼。私はデューイ・ディガル。近衛騎士団の団長だ」
「カミーユです。リリーの、身内みたいな者でね。これはわたしの猫のルウ」
「あれ? リュカの所のリリーちゃんじゃないのか。見分けがつかなかった」
「ルウは、リリーの母親なんですよ」
「あーなるほど。そりゃあ似てるはずだ。それにしても、猫も人も同じ名前だと、ちょっとややっこしいよなぁ、どっちの話か分からなくなる。」
「フフ、まあ、同じようなもんですよ」
 そんな事を言って笑うカミーユ。
「まあ、わたしの事はお気になさらず」
 その言葉に、素性を聞かれたくないカミーユの気持ちに気づいたリュカは、『着くまでの間に、どう動くか決めておきましょう』と話を振った。
「今向かっているのは、例の娼館だろう?」
「はい。おそらくリリーはそこだと思われます。どのような状態かわからないので、まずは私一人で中に入ってみます」
「いや、それは危険じゃないか?」
「ですが、貴族の客も多いようなので、近衛騎士団団長がいきなり入っていけば大騒ぎになるかと。その点私は、そこの女主人と懇意にしているエヴァンの兄ですし」
「あー、確かに。じゃあ、何か騒ぎが起きたり、戻りが遅い場合はすぐ行けるよう待機する」
「お願いします」
 そうして、打ち合わせもできた頃、馬車は古い屋敷へ続く小道の前に停まった。
 馬車の扉を叩き、ジフリーが上半身を中に入れる。
「この道を入ってすぐだが、このまま行っていいのか?」
「最初は、私一人が中に入る。馬車の中を検められず、待機させておくことは可能なのか?」
「馬車の待機場所は広いし、不審な動きをしなければ大丈夫だと思う。でも、万が一の事もある、リズやその女はどこかに降ろした方が……」
「わたしは一緒に行くよ」
「わたしも、大丈夫」
「……ということだ、そのまま行ってくれ」
「……わかった」
 馬車は再度動き出し、次に停まった所でリュカは自分で馬車の扉を開け、サッと降りた。
「どなた様でしょうか!」
 警護の男が、慌てたようにやって来る。
「リュカ・ベルナルドだ。弟のエヴァン・コールドウェイの招待を受けてやって来た」
 手にしているランプを掲げてリュカの顔を確認し、男は頭を下げる。
「失礼致しました。恐れ入りますが、今すぐ確認しますので、あちらで少々お待ち下さい」
 男に案内されて屋敷の中に入ったリュカを、燕尾服の男が迎える。
「これはこれは、ようこそおいで下さいました。少々こちらでお待ちください」
 そう言われ、しばらくそこで待っていると、
「お待たせ致しまして申し訳ございません。主人の確認が取れましたので、ご案内致します。お持ちの剣は、こちらで預からせて頂きます。それと、この仮面を着けていただけますか? 当館の決まりでございます」
 目元を隠す銀の仮面を渡され、リュカはそれに従った。
 仮面を着け奥に進むと、広間では大勢の男女がダンスに興じていた。
 華やかな音楽の演奏に、笑い声。酒と、香水、おしろい粉、煙草の匂い。
『あら? どなたかしら……』
『あの髪の色、もしかして……』
『ベルナルド卿じゃないか?』
 そんな囁きも聞こえてきたが、リュカは前だけを見て進んで行った。
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