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【4】 スミレ・ガーデンカフェ絶好調 精霊とか信じる?
① 度外視ショコラ、ヒットする
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舞が咲かせようとしていた花が全て咲いた。
リージャン・ロード・クライマーは満開で、風にほのかなバラの香りが乗ってくるほどに。それに気がついたお客様が、庭の写真を撮っては『バラの香りが凄い!』とSNSに投稿してくれ、『青い空、白い雲、羊の丘、その麓のお花畑とかわいいカフェ。まるで絵本!』という投稿も見られるようになった。その投稿からか、週末のたびに来客数が増えていく。
ついに再度の雑誌掲載の打診と、ローカルテレビの情報番組からの撮影依頼までやってくるようになった。
いまが盛りの花畑は雑誌に掲載されても、テレビで放映されても見栄えがした。さらに父のセンスで撮影される優大の焼き菓子も話題になり、それを求める女性や家族連れで溢れる夏を迎えた。
それでも舞がすることは、ひとつ。淡々とガーデンの手入れを続けること。
伸びきって倒れるようになった花を刈り、雑草を抜き、秋のための花を育て始める。
頭の中はもう来年の春のために、秋に植えておかねばならない植物と来年の庭の新しいデザイン、そして冬越えのイメージだった。
ガーデンを続けるには先へ先へと計画を練り、同時に目の前で生を育む植物と愚直に向き合う毎日を積み重ねること。
上川地方は冬も厳しい土地柄だが、山に囲まれているため夏の暑さも厳しい。
徐々に気温が上がってきた七月、北海道は花のシーズン真っ盛りで、観光客だけでなく道民のドライブでの来客がどっと増える。
きっと富良野と美瑛はいま観光客でごった返す繁忙期で、人だらけの毎日を迎えていることだろう。
いや、スミレ・ガーデンカフェも他人事ではなくなってきた。
リージャン・ロード・クライマー満開の映像が、情報番組で放映されてからの取材依頼の多さに、父が悲鳴をあげているほどだった。
『羊の丘が見える麓の森林そばにある、ガーデンカフェです。いまこんなに! 見てください! 森の入り口を西洋の絵本のように珊瑚色のバラが覆っているんです。リージャン・ロード・クライマーというバラで、野生化してそのままこの土地に残っていたオールドローズだそうです。いままさに最盛期で、もう~バラの香りに自然に包まれてすごいんです!』
リージャン・ロード・クライマーが緑の森の入り口に咲き誇るその映像を見たという人が多く、その放送の影響は父と舞の予想を上回っていた。
だが舞も確信を得ている。この土地を買うことを反対していた自分が、このバラのある庭を手入れしたいと思ったほどだ。この女王様は、野性味と華やかさで人の心を惹きつける。見たいと来る人が必ずいると、確信していた。その通りになった。しかし、人数が予想外。
穂状で揺れるデルフィニウムの青と白、夏になりピンクと白のカンパニュラも森林側の散策道にひそやかに咲き始める。ミツバチが飛びまわり、白い蝶もひらひらと、そして牧歌的に自然の草原のように花々が覆う舞のメドウガーデンには、来訪した人々がゆっくりとした時間を楽しんでいる。
その様子を、花がらを積んだ一輪のリヤカーを押しながら眺め、舞は納屋に到着する。納屋の横に花がらを摘んでいる山があり、そこにまとめる。一汗かいて、ふうと一息ついた。
「舞、悪い。販売手伝ってくれよ」
コックコート姿の優大が、納屋に道具を片付ける舞に声をかけてきた。これも最近よくあることだった。
「わかった。エプロンを変えて手を洗って行くから待っていて」
「頼む。俺、実家に追加のパンを取りに行ってくる」
毎日乗ってくるミニバンに優大が乗り込んで、駅前にある野立ベーカリーへと水色と白いデルフィニウムがふわふわと揺れる中、出かけていく。
舞もガーデン作業用の道具を差し込んでいるツールベルトを腰から外し、納屋の中へ置く。首かけエプロンも土がついているのでここで外した。
納屋を出るとすぐ側が鬱蒼とした森林へと続く小径。そこから、ひんやりした空気がやってくる。
すっかり夏になり、納屋の周りに舞が植え込んだ小さな八重咲きのオールドローズ、真っ白な『マダムハーディ』も最盛期を迎えた。
蔓バラは納屋の壁を伝って伸び、純白の小さなバラがぽんぽんと咲いているそこに、紫のクレマチス(鉄仙)も絡んで、白とパープルの涼しげなコントラストが生まれていた。
森の入り口はいまオールドローズの香りに満ちている。珊瑚色のリージャン・ロード・クライマー、ダマスクの香りを放つマダムハーディ。森からの涼しげな風、私の仕事小屋、自分が安らぐものを植えてみたから、その季節がやってきて舞はその空気を胸いっぱいに吸い込む。
『見て、あそこ、バラがすごくきれい!』
たまにこの奥にある納屋と森の入り口まで歩いてくるお客様も多い。そのお客様もスマートフォンを構え、少し影になっている納屋の前で写真を撮影しようとしている。
「ごゆっくりどうぞ」
お客様に挨拶をして、舞はカフェの手伝いへと向かう。
『ねえ、この森も歩けるのかな』
『でも薄暗いね。どこに続いているかわからないし』
大抵のお客様は危機管理感覚をきちんと持たれていて、奥へ行こうとする人はいままではいなかった。だが、舞は訪ねる人が増えるたびに、少し危機感を持ち始めている。
何故なら、花がちぎられているような痕跡を見つけたからだ。杞憂だと思いたい。
父にはそれとなく報告をしているが、せっかく繁盛し始めたところなのでもう少し様子を見て、目につくようになったら注意書きをしようということになっていた。
そしてまたしばらく、彼が来ない。人が多いと彼は姿を見せる間隔が空くようになっていた。
急いでカフェ店内へと向かう。清潔なエプロンをして店に出る。父がひとり大わらわで対応をしていた。席は満席、レジ待ちの列が出来ている。レジ打ちをしている父のもとへと舞も急ぐ。
「オーナー、変わります」
「ああ、よかった。頼みます」
舞と交代すると、父はさっと厨房へと戻っていく。
ランチタイムを終えて、スミレ・ガーデンカフェ名物の『サフォーク ジンギスカン鉄板焼き』の提供時間を過ぎていたため、ティータイムに突入していた。
父が始めた『予算度外視 オレンジ・ガトーショコラセット』は期間限定のはずだったのに、さらに十日間延長することになった。だから優大が忙しく、実家のベーカリーの工房と行き来をしている。さらに父は優大のオレンジ・ガトーショコラをお持ち帰り販売することに踏み切った。何故なら、それが飛ぶように売れ始めたからだ。
レジ待ちの人がいなくなり、今度は厨房でできあがっているメニューを運ぶ手伝いをする。
「舞、これとこれは三番テーブルだ」
「かしこまりました」
「洋酒が入っているからお子様に食べさせないこと、運転手は控えて欲しいことをきちんと伝えるように」
わかっているが父は毎回そこを気にして、何度も何度も舞に優大に念を押した。
店内は父が作るカフェドリンク片手にくつろぐ夫妻に、ガトーショコラの一皿を撮影しSNSに投稿する女性同士の輪も見られる。これがスミレ・ガーデンカフェでは日常になりつつある。
忙しく給仕スタッフであるサーブをこなしていると、お客様から『お持ち帰りのパン』についての問い合わせを受け、返答しているところで優大がベーカリーコンテナを抱えて帰ってきた。
「野立さん、お客様がパンをご所望です」
「了解」
お持ち帰りのパンコーナーへと、コックコート姿の優大が案内をしてくれ接客も始めてくれた。
優大のお食事パンは、シンプルとハーブとセットで個装して売り出していて、こちらも売れ行き好調だった。さらに優大が追加のオレンジ・ガトーショコラを限定数のみ個装で並べると、一気のお客様が取り囲んでなくなっていく。
「舞さん、レジをお願いします」
サーブと接客を優大が交代してくれ、舞はレジに入る。
優大が持ってくる時間帯を押さえ、狙って買っていくお客様も見られるようになった。平日は女性客がお友達同士で、またはリタイヤ後の生活を楽しむ老夫妻が、あるいは仕事を休んで平日のデートをするカップルに、学生が友人同士でドライブでとやってくる。休日は家族連れで若いママさんたちがSNSのために、カフェメニューに、ガーデンの花々や、羊の丘を撮影している姿が多く見られる。
「舞さん、こちらレジ、お願いします」
パンコーナーで接客を済ませた優大が、お客様をレジまで案内してくる。
「オレンジ・ガトーショコラを二点、お食事パンセットが一点ですね。お買い上げありがとうございます」
夕方までこの状態が続く。
「舞さん、こちら小物についてお問い合わせです。お願いします」
サフォークの丘の羊毛工房で生産されている毛糸のアパレル商品や、奥様の手作りサークルのドライフラワーや、ワックス・サシェもだいぶ売れるようになって、そこは舞と父が接客することが多い。
「舞さん――、レジを」
優大も忙しそうにしているが、お客様の前では『舞さん』と呼ぶので、舞は密かに笑いを堪えている。
「舞さん、ワックス・サシェについて、」
調子が狂いそうになるが、優大はいたく真剣だった。
そして彼がパン職人として生き生きと生産し販売している姿は、もう一人前の職人だった。
お客様の誰もが彼をプロのパン職人と思って、商品を期待して購入していく。
実際にガトーショコラは評判で、お客様から『度外視ショコラ』とかSNSで名付けているぐらいだった。
『キャリアがあるオーナーさんの経営のセオリーを無視して、若手のパン職人さんが、予算度外視テイスト重視で作ったというオレンジ・ガトーショコラ。本当においしい! これ続けてほしい!』
そんなコメントがたくさん見られるようになった。
この日も閉店間際の十八時まで、テーブルは満席。夕のガーデンを楽しむ人々を最後に、宵の明星が一日の終わりを告げた。
リージャン・ロード・クライマーは満開で、風にほのかなバラの香りが乗ってくるほどに。それに気がついたお客様が、庭の写真を撮っては『バラの香りが凄い!』とSNSに投稿してくれ、『青い空、白い雲、羊の丘、その麓のお花畑とかわいいカフェ。まるで絵本!』という投稿も見られるようになった。その投稿からか、週末のたびに来客数が増えていく。
ついに再度の雑誌掲載の打診と、ローカルテレビの情報番組からの撮影依頼までやってくるようになった。
いまが盛りの花畑は雑誌に掲載されても、テレビで放映されても見栄えがした。さらに父のセンスで撮影される優大の焼き菓子も話題になり、それを求める女性や家族連れで溢れる夏を迎えた。
それでも舞がすることは、ひとつ。淡々とガーデンの手入れを続けること。
伸びきって倒れるようになった花を刈り、雑草を抜き、秋のための花を育て始める。
頭の中はもう来年の春のために、秋に植えておかねばならない植物と来年の庭の新しいデザイン、そして冬越えのイメージだった。
ガーデンを続けるには先へ先へと計画を練り、同時に目の前で生を育む植物と愚直に向き合う毎日を積み重ねること。
上川地方は冬も厳しい土地柄だが、山に囲まれているため夏の暑さも厳しい。
徐々に気温が上がってきた七月、北海道は花のシーズン真っ盛りで、観光客だけでなく道民のドライブでの来客がどっと増える。
きっと富良野と美瑛はいま観光客でごった返す繁忙期で、人だらけの毎日を迎えていることだろう。
いや、スミレ・ガーデンカフェも他人事ではなくなってきた。
リージャン・ロード・クライマー満開の映像が、情報番組で放映されてからの取材依頼の多さに、父が悲鳴をあげているほどだった。
『羊の丘が見える麓の森林そばにある、ガーデンカフェです。いまこんなに! 見てください! 森の入り口を西洋の絵本のように珊瑚色のバラが覆っているんです。リージャン・ロード・クライマーというバラで、野生化してそのままこの土地に残っていたオールドローズだそうです。いままさに最盛期で、もう~バラの香りに自然に包まれてすごいんです!』
リージャン・ロード・クライマーが緑の森の入り口に咲き誇るその映像を見たという人が多く、その放送の影響は父と舞の予想を上回っていた。
だが舞も確信を得ている。この土地を買うことを反対していた自分が、このバラのある庭を手入れしたいと思ったほどだ。この女王様は、野性味と華やかさで人の心を惹きつける。見たいと来る人が必ずいると、確信していた。その通りになった。しかし、人数が予想外。
穂状で揺れるデルフィニウムの青と白、夏になりピンクと白のカンパニュラも森林側の散策道にひそやかに咲き始める。ミツバチが飛びまわり、白い蝶もひらひらと、そして牧歌的に自然の草原のように花々が覆う舞のメドウガーデンには、来訪した人々がゆっくりとした時間を楽しんでいる。
その様子を、花がらを積んだ一輪のリヤカーを押しながら眺め、舞は納屋に到着する。納屋の横に花がらを摘んでいる山があり、そこにまとめる。一汗かいて、ふうと一息ついた。
「舞、悪い。販売手伝ってくれよ」
コックコート姿の優大が、納屋に道具を片付ける舞に声をかけてきた。これも最近よくあることだった。
「わかった。エプロンを変えて手を洗って行くから待っていて」
「頼む。俺、実家に追加のパンを取りに行ってくる」
毎日乗ってくるミニバンに優大が乗り込んで、駅前にある野立ベーカリーへと水色と白いデルフィニウムがふわふわと揺れる中、出かけていく。
舞もガーデン作業用の道具を差し込んでいるツールベルトを腰から外し、納屋の中へ置く。首かけエプロンも土がついているのでここで外した。
納屋を出るとすぐ側が鬱蒼とした森林へと続く小径。そこから、ひんやりした空気がやってくる。
すっかり夏になり、納屋の周りに舞が植え込んだ小さな八重咲きのオールドローズ、真っ白な『マダムハーディ』も最盛期を迎えた。
蔓バラは納屋の壁を伝って伸び、純白の小さなバラがぽんぽんと咲いているそこに、紫のクレマチス(鉄仙)も絡んで、白とパープルの涼しげなコントラストが生まれていた。
森の入り口はいまオールドローズの香りに満ちている。珊瑚色のリージャン・ロード・クライマー、ダマスクの香りを放つマダムハーディ。森からの涼しげな風、私の仕事小屋、自分が安らぐものを植えてみたから、その季節がやってきて舞はその空気を胸いっぱいに吸い込む。
『見て、あそこ、バラがすごくきれい!』
たまにこの奥にある納屋と森の入り口まで歩いてくるお客様も多い。そのお客様もスマートフォンを構え、少し影になっている納屋の前で写真を撮影しようとしている。
「ごゆっくりどうぞ」
お客様に挨拶をして、舞はカフェの手伝いへと向かう。
『ねえ、この森も歩けるのかな』
『でも薄暗いね。どこに続いているかわからないし』
大抵のお客様は危機管理感覚をきちんと持たれていて、奥へ行こうとする人はいままではいなかった。だが、舞は訪ねる人が増えるたびに、少し危機感を持ち始めている。
何故なら、花がちぎられているような痕跡を見つけたからだ。杞憂だと思いたい。
父にはそれとなく報告をしているが、せっかく繁盛し始めたところなのでもう少し様子を見て、目につくようになったら注意書きをしようということになっていた。
そしてまたしばらく、彼が来ない。人が多いと彼は姿を見せる間隔が空くようになっていた。
急いでカフェ店内へと向かう。清潔なエプロンをして店に出る。父がひとり大わらわで対応をしていた。席は満席、レジ待ちの列が出来ている。レジ打ちをしている父のもとへと舞も急ぐ。
「オーナー、変わります」
「ああ、よかった。頼みます」
舞と交代すると、父はさっと厨房へと戻っていく。
ランチタイムを終えて、スミレ・ガーデンカフェ名物の『サフォーク ジンギスカン鉄板焼き』の提供時間を過ぎていたため、ティータイムに突入していた。
父が始めた『予算度外視 オレンジ・ガトーショコラセット』は期間限定のはずだったのに、さらに十日間延長することになった。だから優大が忙しく、実家のベーカリーの工房と行き来をしている。さらに父は優大のオレンジ・ガトーショコラをお持ち帰り販売することに踏み切った。何故なら、それが飛ぶように売れ始めたからだ。
レジ待ちの人がいなくなり、今度は厨房でできあがっているメニューを運ぶ手伝いをする。
「舞、これとこれは三番テーブルだ」
「かしこまりました」
「洋酒が入っているからお子様に食べさせないこと、運転手は控えて欲しいことをきちんと伝えるように」
わかっているが父は毎回そこを気にして、何度も何度も舞に優大に念を押した。
店内は父が作るカフェドリンク片手にくつろぐ夫妻に、ガトーショコラの一皿を撮影しSNSに投稿する女性同士の輪も見られる。これがスミレ・ガーデンカフェでは日常になりつつある。
忙しく給仕スタッフであるサーブをこなしていると、お客様から『お持ち帰りのパン』についての問い合わせを受け、返答しているところで優大がベーカリーコンテナを抱えて帰ってきた。
「野立さん、お客様がパンをご所望です」
「了解」
お持ち帰りのパンコーナーへと、コックコート姿の優大が案内をしてくれ接客も始めてくれた。
優大のお食事パンは、シンプルとハーブとセットで個装して売り出していて、こちらも売れ行き好調だった。さらに優大が追加のオレンジ・ガトーショコラを限定数のみ個装で並べると、一気のお客様が取り囲んでなくなっていく。
「舞さん、レジをお願いします」
サーブと接客を優大が交代してくれ、舞はレジに入る。
優大が持ってくる時間帯を押さえ、狙って買っていくお客様も見られるようになった。平日は女性客がお友達同士で、またはリタイヤ後の生活を楽しむ老夫妻が、あるいは仕事を休んで平日のデートをするカップルに、学生が友人同士でドライブでとやってくる。休日は家族連れで若いママさんたちがSNSのために、カフェメニューに、ガーデンの花々や、羊の丘を撮影している姿が多く見られる。
「舞さん、こちらレジ、お願いします」
パンコーナーで接客を済ませた優大が、お客様をレジまで案内してくる。
「オレンジ・ガトーショコラを二点、お食事パンセットが一点ですね。お買い上げありがとうございます」
夕方までこの状態が続く。
「舞さん、こちら小物についてお問い合わせです。お願いします」
サフォークの丘の羊毛工房で生産されている毛糸のアパレル商品や、奥様の手作りサークルのドライフラワーや、ワックス・サシェもだいぶ売れるようになって、そこは舞と父が接客することが多い。
「舞さん――、レジを」
優大も忙しそうにしているが、お客様の前では『舞さん』と呼ぶので、舞は密かに笑いを堪えている。
「舞さん、ワックス・サシェについて、」
調子が狂いそうになるが、優大はいたく真剣だった。
そして彼がパン職人として生き生きと生産し販売している姿は、もう一人前の職人だった。
お客様の誰もが彼をプロのパン職人と思って、商品を期待して購入していく。
実際にガトーショコラは評判で、お客様から『度外視ショコラ』とかSNSで名付けているぐらいだった。
『キャリアがあるオーナーさんの経営のセオリーを無視して、若手のパン職人さんが、予算度外視テイスト重視で作ったというオレンジ・ガトーショコラ。本当においしい! これ続けてほしい!』
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