24 / 66
【4】 スミレ・ガーデンカフェ絶好調 精霊とか信じる?
⑥ 男がいるだろ!!!(優大激怒)
しおりを挟む黄色やオレンジの小花が溢れる真夏日、大繁殖をするカモミールを摘んでいると、また背後に優美な笑みのカラク様が訪れた。
「そうなんですか。優大君もここに住むことになったのですね」
「いえ、住むのではなくて、自由に使える彼のお部屋を用意しただけです。実家に帰りたいときにはいつでも、疲れてここに居たいときもそのままでということで」
「住むとは違うのですね……」
「彼の部屋のそばに、彼専用の新しいオーブンを入れる調理場を作ることになったんです。朝早いこともあるので、その部屋で休んでもらったり仮眠してもらったり休憩してもらったりです。元々ペンションだったので、余っている部屋があるんですよ」
青い空に雲が流れ、丘からの風がまっすぐにガーデンに吹き込んでくる。今日もそこで、夏の日差しの中なのに、涼やかな顔つきのカラク様が、首をかしげてなにかを考えているようだった。
「そういえば、彼女も昔はこの家にもたくさんの客が来ていたのよ、と言っていたような」
「カラク様がオレンジティーをご馳走になった女性の方って、ペンションを経営されていたご夫妻の奥様だったんじゃないですか」
「だと、思います? 僕ではなくて、彼女から話しかけてきたんですよ」
え、そうなの――と舞はぎょっとする。舞の場合は、声を掛けられて振り向いたら彼がいたから、自分から見つけたわけではないので、彼女から見えていたというのは驚きだった。
「最初からカラク様が見えていたということなんですか」
「そうですね。手招きされて、その時、オレンジティーをご馳走になったのですよ。彼女も美味しいものをたくさん作ってくれました」
「ほんっとうに、カラク様は食いしん坊なお兄様だったんですね」
「大好きです。花とお茶とお菓子が欲しくて来ていますから」
そんな真顔ではっきりいう麗しい顔の男性がおかしくて、舞もクスクス笑っていた。
カモミールを摘み終え、土の手入れをする道具を入れている籐かごを手に立ち上がる。そよ風の中、メドウの牧草的な小花のガーデンを歩き始めると、カラク様もついてくる。そのまま森の木立が並ぶ側に作ったローズサークルへ向かう。
「ですが、その彼女がいつの間にか、この家から居なくなってしまいました」
おそらく、認知症が進んで施設に入れることになった――という頃なのだろう。
もしかして。舞はふと思いつく。本当はカラク様が見えていること、認知症になって家族に話してしまっていたのではないだろうか? それまでは誰にも言わず、奥様とカラク様だけの密やかなお茶の時間だったはずなのに。奥様は話してしまうようになったから、家族に認知症のせいと言われて……。
「カラク様は、その奥様とお別れが言えなかったんですね」
「そうですね。彼女が僕に気がつかなくなる日が増え、それでも彼女がいるのを確かめるように出向いていましたが、いつの間にかいなくなっていました」
彼が舞のところに現れるようになってから、そろそろ三ヶ月。まだこうして、知り合ったばかりのご近所のお兄様がちょくちょく訪ねてくる感覚で会えているけれど、こんな不可思議な現象はいつまで続くのだろうか。
舞も、なにかの、病気……? 会えるのは嬉しいのに、いまの自分の状態がとても不安になることもある。それでも静かにそばにいてくれる、優しく話しかけてくれるその人が来ると、舞は嬉しいし癒やされてる。できればこのまでいいとさえ……。
「夏の盛りになると、強い色の花が盛りになるんですねー」
森の手前から振り返ると、さらに広くメドウのガーデンが見渡せる。デザインをしたとはいえ、無造作に見えるように植えた花々たち中で、盛夏に目立つのはビビッドで大きめの花。とても目立ちたがり屋で元気な花に見えるが、彩りに活躍してくれる。
最近は白いシャツの姿がお気に入りのようなカラク様。白が爽やかに似合うのは、品の良い佇まいのおかげなのだろう。いったい、いつの時代を生きていた人なのかわからないが、おそらく現代の男性を見て気に入っているものを『自分の服装』にしている気がしている。
そうして舞の側で静かに黙って、スミレ・ガーデンカフェとガーデンの向こうに二つ三つ重なっている緑の丘を仰いでいる。今日も白い羊たちがちょこちょこと走り回っているのが見える。丘から降りてくる風が麓にあるガーデンの花々をざっと揺らす。それを今日も彼は幸せそうに目を細めて見つめている。
なんとなく、口調から、現代のものにいちいち驚いたりする感覚から、古めかしい雰囲気を感じる彼だけれど、黙っていると美麗な大人の男性がそっと風を堪能しているようにしか見えない。
でも今日は、久しぶりにゆっくり話せていると、舞はほっとしている。
この人が静かに何も言わず、ただただそこにいてくれるだけでも。ただただ舞の話を聞いてくれるだけでも、他愛もない受け答えをしてくれるのも。
おおらかで、彼はどこか寛大で、でも不確かなものだった。
「新しいオーブンはいつくるのですか」
「再来月です。スタッフルームにしていた物置部屋をベーカリーの調理場に改装して、最後にオーブンが入るそうです」
「たのしみですね。優大君が焼くお菓子は極上ですから」
この言葉、優大が聞いたら、また泣いちゃうんだろうなと舞は笑いたくなってきたし、架空のお客様として伝えてみようかなという気持ちになっていた。
そんな柔らかな気持ちになって、店内を飾るためのバラをひとつふたつ、花鋏で切り落としていたのに。
「誰かそこにいるのか! 誰と喋っているんだ!」
怒鳴る男の声に、舞は赤いバラ片手に驚きドキリと硬直する。
いつもの白いコックコート姿の優大が、もの凄い形相でガーデンの片隅で仕事をしている舞へと踏み込んできた。いや、正確にはカラク様とお喋りをしている場に踏み込んで、だ。
「少し前から思っていたんだよ。おまえ、誰かとこそこそ喋っているだろ。庭にいる仕事中に、片手間に、誰かに電話して、密会するみたいに話しているだろ!」
さらに舞は、驚きおののいた。私とカラク様だけのお喋りを感じ取っている人間がいたということに! しかし、舞のその反応は優大にとっては『確信』となったのだろう。舞が嫌っていたそのまま、彼特有の三白眼の鋭い目つきで、眉間に皺を深く刻んで舞を睨み倒している。
「おまえ、俺に正スタッフを易々譲ったのはそういうことだったのかよ!」
「え、な、なんのことよ?」
腹立たしさを握った拳に込めているのか震わせて、優大は思わぬ事を叫んだ。
「おまえ、本当は男がいるんだろ! 父ちゃんにも言えない紹介していない男! 父ちゃんのために田舎に着いてきて、父ちゃんの気が済むまで手伝う気があるのも一時だけだとたかがくくっていて、それまで男を待たせているんだろ! そのうちに札幌に帰って、その男のところに戻るつもりなんだろ! そんな軽い気持ちなら、いまから俺が、おまえ以上の職人を見つけて、俺とオーナーでこのカフェとガーデンを守る! 中途半端なヤツはさっさと札幌に帰っちまえ!!」
唖然とした。いや、舞も既に頭に血が上って、花鋏を握っている手が震えていた。
1
あなたにおすすめの小説
遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。
沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。
すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。
だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。
イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。
変わり果てた現実を前に、
夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。
深い後悔と悲しみに苛まれながら、
失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。
しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。
贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。
そして、母の心を知っていく子供たち。
イネスが求める愛とは、
そして、幸せとは――。
転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました
桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。
言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。
しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。
──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。
その一行が、彼の目に留まった。
「この文字を書いたのは、あなたですか?」
美しく、完璧で、どこか現実離れした男。
日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。
最初はただの好奇心だと思っていた。
けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。
彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。
毎日19時に更新予定です。
ネグレクトされていた四歳の末娘は、前世の経理知識で実家の横領を見抜き追放されました。これからはもふもふ聖獣と美食巡りの旅に出ます。
旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
アークライト子爵家の四歳の末娘リリアは、家族から存在しないものとして扱われていた。食事は厨房の残飯、衣服は兄姉のお下がりを更に継ぎ接ぎしたもの。冷たい床で眠る日々の中、彼女は高熱を出したことをきっかけに前世の記憶を取り戻す。
前世の彼女は、ブラック企業で過労死した経理担当のOLだった。
ある日、父の書斎に忍び込んだリリアは、ずさんな管理の家計簿を発見する。前世の知識でそれを読み解くと、父による悪質な横領と、家の財産がすでに破綻寸前であることが判明した。
「この家は、もうすぐ潰れます」
家族会議の場で、リリアはたった四歳とは思えぬ明瞭な口調で破産の事実を突きつける。激昂した父に「疫病神め!」と罵られ家を追い出されたリリアだったが、それは彼女の望むところだった。
手切れ金代わりの銅貨数枚を握りしめ、自由を手に入れたリリア。これからは誰にも縛られず、前世で夢見た美味しいものをたくさん食べる生活を目指す。
龍王の番〜双子の運命の分かれ道・人生が狂った者たちの結末〜
クラゲ散歩
ファンタジー
ある小さな村に、双子の女の子が生まれた。
生まれて間もない時に、いきなり家に誰かが入ってきた。高貴なオーラを身にまとった、龍国の王ザナが側近二人を連れ現れた。
母親の横で、お湯に入りスヤスヤと眠っている子に「この娘は、私の○○の番だ。名をアリサと名付けよ。
そして18歳になったら、私の妻として迎えよう。それまでは、不自由のないようにこちらで準備をする。」と言い残し去って行った。
それから〜18年後
約束通り。贈られてきた豪華な花嫁衣装に身を包み。
アリサと両親は、龍の背中に乗りこみ。
いざ〜龍国へ出発した。
あれれ?アリサと両親だけだと数が合わないよね??
確か双子だったよね?
もう一人の女の子は〜どうしたのよ〜!
物語に登場する人物達の視点です。
里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます
結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります>
政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・?
※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
完結 シシルナ島物語 少年薬師ノルド/ 荷運び人ノルド 蠱惑の魔剣
織部
ファンタジー
ノルドは、古き風の島、正式名称シシルナ・アエリア・エルダで育った。母セラと二人きりで暮らし。
背は低く猫背で、隻眼で、両手は動くものの、左腕は上がらず、左足もほとんど動かない、生まれつき障害を抱えていた。
母セラもまた、頭に毒薬を浴びたような痣がある。彼女はスカーフで頭を覆い、人目を避けてひっそりと暮らしていた。
セラ親子がシシルナ島に渡ってきたのは、ノルドがわずか2歳の時だった。
彼の中で最も古い記憶。船のデッキで、母セラに抱かれながら、この新たな島がゆっくりと近づいてくるのを見つめた瞬間だ。
セラの腕の中で、ぽつりと一言、彼がつぶやく。
「セラ、ウミ」
「ええ、そうよ。海」
ノルドの成長譚と冒険譚の物語が開幕します!
カクヨム様 小説家になろう様でも掲載しております。
あまりさんののっぴきならない事情
菱沼あゆ
キャラ文芸
強引に見合い結婚させられそうになって家出し、憧れのカフェでバイトを始めた、あまり。
充実した日々を送っていた彼女の前に、驚くような美形の客、犬塚海里《いぬづか かいり》が現れた。
「何故、こんなところに居る? 南条あまり」
「……嫌な人と結婚させられそうになって、家を出たからです」
「それ、俺だろ」
そーですね……。
カフェ店員となったお嬢様、あまりと常連客となった元見合い相手、海里の日常。
芙蓉は後宮で花開く
速見 沙弥
キャラ文芸
下級貴族の親をもつ5人姉弟の長女 蓮花《リェンファ》。
借金返済で苦しむ家計を助けるために後宮へと働きに出る。忙しくも穏やかな暮らしの中、出会ったのは翡翠の色の目をした青年。さらに思いもよらぬ思惑に巻き込まれてゆくーーー
カクヨムでも連載しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる