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【6】 スミレ・ガーデン シーズンオフ 父の様子がおかしい
① 大人の男になっていく
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元からある森の木々から秋の実りがちらほら見え始める。赤いナナカマドの実に、紫のヤマブドウの実。時々エゾリスがちょこんと現れて、森の中を走り回る姿も見えた。
ガーデンは、背丈があるダリアが盛り。艶やかな大輪の花に、小さなマム(西洋菊)が緑や黄色、桃色と愛らしい彩りを映す。
優大が夏休み中に企画した『贅沢卵のチェリークラフティ』も大好評で販売を終えた。北海道の仁木町特産のサクランボを贅沢にのせたプティング風の焼き菓子は、またSNS映えが良かったようで、女性たちが撮影したものを見たという来客が次々とやってきた。
優大が作り出す焼き菓子が販売されるたびに、あの茶道の先生もご夫妻で訪ねてくれる常連様になった。来店するたびに、ガーデンの花をSNSにアップしてくれ紹介してくれる。ますます連鎖するように来客が増える。
『あでやかなダリアと、かわいいマムが溢れるガーデンは、秋色に染まってきました』
インフルエンサーである先生が紹介する影響力は凄かった。それに続けとばかりに、来客する女性たちがスミレ・ガーデンカフェの紹介を競ってくれる。
ダリアの花が終わる頃、ガーデンは少しずつ枯葉などが増え、寂しくなってくる。
だが、注目のお店とか注目のガーデンとして、道内の雑誌から、首都圏の雑誌の撮影も増えてきた。徐々にその知名度があがり、道外観光客もちらほらと訪れるように。
父がスミレ・ガーデンカフェを開店して、ついに最高の集客数を九月に達成した。そのまま、今年のガーデンはシーズンオフのクローズを迎えようとしている。
その頃に、ついに雑なスタッフルームだった食材倉庫が、優大専用のベーカリー厨房へと改装も完了した。オーブンも搬入し、優大はそこで毎日の食事パンと焼き菓子の生産を開始する。
そして、厨房からすぐの扉を開けた住居スペース一階にある、いちばん手前の近い一室が、優大専用の部屋になった。そこを寝られるようにと、彼専用のベッドを父と選んで布団に毛布にファブリックを揃えてあげると、彼も感激してくれた。
そこで仮眠をしたり、焼き菓子の勉強をしたり、寝泊まりすることもあれば、気が向けば実家に帰ったりと、自由に行き来をして仕事に励むようになった。
そろそろ庭も冬支度。枯れた草花をかき集め、雪に耐え忍ぶよう雪囲いの補強をしてあげたり、春に咲く花の準備を積雪までに終えなくてはならない。北国の秋はあっという間。十月の中頃になると、朝方は白い息が出る。夏に軽装だったガーデン作業スタイルの上に、ダウンジャケットを羽織るようになる。まだ薄明るい遅い夜明け、舞は二階の自室から出て、庭仕事へ向かう。
一階の廊下から、カフェホールへ繋がる扉を開けると、すぐそこがベーカリー厨房だった。そこからかもう明かりが漏れている。
「おはよう」
「おう、おはよう」
成形を終えたパンを並べ、オーブンに入れようとしているところだった。
「冷えてきたな。身体冷やすなよ。首にもマフラーかストールを巻いて行けよ」
「巻いたよ、ほら。優大君がうるさいから」
「おまえが少し前に咳をして体調を崩したからだろ。季節の変わり目なんだから気をつけろと言ってんだよ」
「わかってます。ちゃんとします」
今年初めて出したストールを改めて首で締め直し、優大に見せる。
最近はちょっと口うるさい兄貴に変わってきた。でも、舞ももういちいち嫌な顔はしない。
「これ、包んでおいたからよ。納屋で食べな。これはホットティーな。アールグレーだ」
これも近頃の彼が舞のためにしてくれることだった。朝一番に焼いたパンや焼き菓子を包んで、舞愛用のマグボトルに暖かい飲み物を準備してくれる。スープだったり、紅茶だったり、コーヒーだったり。時にはホットワインが朝から入っていて驚いたこともある。
「いただきます。今日はなにかな」
「カボチャのシフォンケーキな。次の度外視企画でやるんだ。士別や和寒とかこのあたりはカボチャの産地だからな。先輩の卵と特産カボチャでやる。オーナーに出す前だから試食してくれ」
「またまた美味しそう! チェリーのクラフティもすんごく美味しかったもの。もう絶対にこれも間違いないよ。楽しみ。いただきます!」
思わず『うふふ』という声を漏らして、舞は遠慮なくもらっていく。
『行ってきます』と厨房を出て行く。すぐ目の前のガーデンへと出る裏口のドアを開けようとして、まだ暗い店とホールキッチンと通路のそこで、舞は優大へと振り返る。
夜明けの薄暗さの中、そこだけ明かりがついているベーカリー厨房。白いコックコートの男がオーブンを開ける。高温の赤い熱が優大の顔を映している。そこへ焼こうとしているパンを並べた鉄板を押し込もうとしている。真剣な男の横顔とひたむきな眼差しを舞は見つめる。
いつのまにか彼の短い髪は伸び、茶色だった髪も黒色になった。そこにやんちゃで血気盛んなだけだったヤンキー君はもういない。職人という、ひとつの仕事に情熱を傾ける大人の男がいる。優大は、そんな男に変わっていた。
ガーデンは、背丈があるダリアが盛り。艶やかな大輪の花に、小さなマム(西洋菊)が緑や黄色、桃色と愛らしい彩りを映す。
優大が夏休み中に企画した『贅沢卵のチェリークラフティ』も大好評で販売を終えた。北海道の仁木町特産のサクランボを贅沢にのせたプティング風の焼き菓子は、またSNS映えが良かったようで、女性たちが撮影したものを見たという来客が次々とやってきた。
優大が作り出す焼き菓子が販売されるたびに、あの茶道の先生もご夫妻で訪ねてくれる常連様になった。来店するたびに、ガーデンの花をSNSにアップしてくれ紹介してくれる。ますます連鎖するように来客が増える。
『あでやかなダリアと、かわいいマムが溢れるガーデンは、秋色に染まってきました』
インフルエンサーである先生が紹介する影響力は凄かった。それに続けとばかりに、来客する女性たちがスミレ・ガーデンカフェの紹介を競ってくれる。
ダリアの花が終わる頃、ガーデンは少しずつ枯葉などが増え、寂しくなってくる。
だが、注目のお店とか注目のガーデンとして、道内の雑誌から、首都圏の雑誌の撮影も増えてきた。徐々にその知名度があがり、道外観光客もちらほらと訪れるように。
父がスミレ・ガーデンカフェを開店して、ついに最高の集客数を九月に達成した。そのまま、今年のガーデンはシーズンオフのクローズを迎えようとしている。
その頃に、ついに雑なスタッフルームだった食材倉庫が、優大専用のベーカリー厨房へと改装も完了した。オーブンも搬入し、優大はそこで毎日の食事パンと焼き菓子の生産を開始する。
そして、厨房からすぐの扉を開けた住居スペース一階にある、いちばん手前の近い一室が、優大専用の部屋になった。そこを寝られるようにと、彼専用のベッドを父と選んで布団に毛布にファブリックを揃えてあげると、彼も感激してくれた。
そこで仮眠をしたり、焼き菓子の勉強をしたり、寝泊まりすることもあれば、気が向けば実家に帰ったりと、自由に行き来をして仕事に励むようになった。
そろそろ庭も冬支度。枯れた草花をかき集め、雪に耐え忍ぶよう雪囲いの補強をしてあげたり、春に咲く花の準備を積雪までに終えなくてはならない。北国の秋はあっという間。十月の中頃になると、朝方は白い息が出る。夏に軽装だったガーデン作業スタイルの上に、ダウンジャケットを羽織るようになる。まだ薄明るい遅い夜明け、舞は二階の自室から出て、庭仕事へ向かう。
一階の廊下から、カフェホールへ繋がる扉を開けると、すぐそこがベーカリー厨房だった。そこからかもう明かりが漏れている。
「おはよう」
「おう、おはよう」
成形を終えたパンを並べ、オーブンに入れようとしているところだった。
「冷えてきたな。身体冷やすなよ。首にもマフラーかストールを巻いて行けよ」
「巻いたよ、ほら。優大君がうるさいから」
「おまえが少し前に咳をして体調を崩したからだろ。季節の変わり目なんだから気をつけろと言ってんだよ」
「わかってます。ちゃんとします」
今年初めて出したストールを改めて首で締め直し、優大に見せる。
最近はちょっと口うるさい兄貴に変わってきた。でも、舞ももういちいち嫌な顔はしない。
「これ、包んでおいたからよ。納屋で食べな。これはホットティーな。アールグレーだ」
これも近頃の彼が舞のためにしてくれることだった。朝一番に焼いたパンや焼き菓子を包んで、舞愛用のマグボトルに暖かい飲み物を準備してくれる。スープだったり、紅茶だったり、コーヒーだったり。時にはホットワインが朝から入っていて驚いたこともある。
「いただきます。今日はなにかな」
「カボチャのシフォンケーキな。次の度外視企画でやるんだ。士別や和寒とかこのあたりはカボチャの産地だからな。先輩の卵と特産カボチャでやる。オーナーに出す前だから試食してくれ」
「またまた美味しそう! チェリーのクラフティもすんごく美味しかったもの。もう絶対にこれも間違いないよ。楽しみ。いただきます!」
思わず『うふふ』という声を漏らして、舞は遠慮なくもらっていく。
『行ってきます』と厨房を出て行く。すぐ目の前のガーデンへと出る裏口のドアを開けようとして、まだ暗い店とホールキッチンと通路のそこで、舞は優大へと振り返る。
夜明けの薄暗さの中、そこだけ明かりがついているベーカリー厨房。白いコックコートの男がオーブンを開ける。高温の赤い熱が優大の顔を映している。そこへ焼こうとしているパンを並べた鉄板を押し込もうとしている。真剣な男の横顔とひたむきな眼差しを舞は見つめる。
いつのまにか彼の短い髪は伸び、茶色だった髪も黒色になった。そこにやんちゃで血気盛んなだけだったヤンキー君はもういない。職人という、ひとつの仕事に情熱を傾ける大人の男がいる。優大は、そんな男に変わっていた。
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