もう一度、私に恋させて!

かわた

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閑話01:とある異世界の少年の回想

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神都で400年ぶりに勇者を召喚し、魔の殲滅の旅に出たという。
村に来た商人や旅人が嬉しそうに大きな声で話すのですぐに広まった。

魔という謎のモンスターが世界を蔓延って1年。
俺の住んでいる場所が新都から近いが山の中にある集落だからあまりピンッと来ない。
けれどこの1年で格段に旅人は少なくなったし、俺たちも気軽に村からは出れなくなったのは感じていた。

魔の脅威に便乗して別の国では簒奪が起こったという話も聞いたし
勇者信仰の神殿は毎日救いを求めて人が殺到しているという話しも耳に届いた。

でもどれも田舎に届くのは噂程度でその時はふーんという感想しか抱かなかった。


俺が初めて勇者様をみたのはそれから半年後。
住んでいる村に勇者一行が滞在したときのことだ。
都会のような煌びやかさもない山の中の小さい集落にも勇者様は赴いているようで
少しの荷物と仲間を引き連れて、いや引き連れられてと言ったほうが正しいか。

それも仲間のメンバーが派手だからだ。
美男美女の集まりをみて村の女性男性達は盛り上がり、肝心の勇者様を見逃しているようだ。
俺はその様子に少し呆れつつ今や時の人となっている勇者様に目を向ける。

初めてみた勇者様は噂とは違い、外見は普通の子供であった。
黒髪黒目に象牙色の肌、子供特有の可愛らしい丸っこい頬は少し赤みがさしている。
細かい貴金属の装飾がついた装備をまとっている小さい身体をみた。
どこをとっても小さくて、すぐに折れてしまいそうだと思う。

「なんだありゃあ、赤ん坊の人形かなんかか?」

「こらっ滅多なこというんじゃないよ。勇者様だぞ」

小さい声で聞こえた声に周りは少しくすくすと笑う。
確かにそういわれてもおかしくないほど彼女は俺たちに比べると小さく幼くみえたから。

そんなことを知らない勇者様は周りに合わせて頷く
勇者様の隣にいた白魔導士の女性がそっと彼女の耳に手を当てなにかを伝える。
勇者はそれにくすぐったそうに微笑んだ。
小さな野の花が咲いたような無邪気な笑みで、表情まで子供らしく周りが毒気を抜けるのを感じた。


勇者様達は村の外れの遺跡に住む魔を退治にきた。
明日の朝すぐに退治へ向かって昼過ぎにはもうこの村を出てしまうとのことだ。
だから今日の夜は宴を開く予定だったけれどそれは断られてしまったらしい。

村のみんなはそれを残念がっていたが俺は少しほっとしていた。
彼らは王城や大きな街のもてなしになれているであろう
対してこんな田舎ではたいしたもてなしもできないので恥ずかしさがある。

そんなことを思いながら月明かりが明るい夜道を歩く。
今日は勇者様がくる直前釣りに行っていたため、道具を置いてきてしまったからだ。
だが川は家からあるいて数分、しかも足場もあまり悪くないため夜でも安心して行ける。

なにかすすり泣く声が聞こえ、背筋がぞぞぞ、と凍える。

そういえばこの変は治安はいいが怪談話がある場所でもあった。
恐怖半分興味半分ですすり泣いているところへと近寄る

「勇者、様?」

暗がりの隅っこの石に蹲って座っているのは遠くても勇者様だと分かる。
立っていてもあんなにも細くて小さかった彼女がもっと小さく弱々しく見えた。
ふらふらと誘われるように近寄ろうとするとすぐに誰かが彼女に近寄ったのがわかった。

「お探しいたしました。
…夜は冷えます、御身をご自愛ください。」

まるで月の化身のような美丈夫が膝をついて彼女に手を差し伸べた。
腰まである銀色の髪の毛はまるでシルクのように滑らかで、月にあたってきらきらと輝いている。
勇者様もこんな美しい男に膝をつかれては頬を染めるだろう、と俺は思った。

「一人に、して…ください。」

彼女は怪訝そうな顔で唇を噛み締めた。
意外な反応にきょとんと目を丸くしてその様子を見つめる。

「ヴェルデが御心を案じ泣いております…どうか我が君…」

男は彼女にそう懇願し、黙る。
勇者様はその言葉に反応し、ゆっくりと顔を上げた。

「…魔を倒したところで糾弾されるいわれはございません。
あの方もきちんと生きていたでしょう?」

冷たそうな外見とは裏腹に宥めるような声色はとても柔らかい
彼女はその言葉を聞いてさらに泣き始めた。

「わたっ、わ、私が、な、なんであんなこと、いわれなきゃ、い、いけないの?
あんなに、痛い思いをして、なんで、なんで…?」

怒りが途中で困惑したように語尾が弱々しく変わった。
しゃくりあげながら叫ぶ勇者に彼は痛ましいものをみる表情を浮かべた。
そしてゆっくりと彼女を包んだ。

「お気になさらないでください…とは申しません。
ですが、斯様な言葉は貴女様に掛けられるものではありませんでした。
本当は気にすることなど、何一つないのです」
「…も、もうやだよ…つらい、つらいよ…」

そして小さく彼は懺悔するように『申し訳ありません』といった。
勇者様はそのまま顔を上げずしゃくりあげていた。

俺がずっと描いていた勇者様というのは、綺麗でなんでもできるまさに『英雄』だった。
だけれど勇者様は普通の女の子なんじゃないのか?
俺たちが勝手に祭り上げているだけで。

それに気が付いて俺は道具のことも忘れて、ぼんやりしたまま家へと帰った。


勇者様は昨日のことがなかったかのように少し紅い目元を化粧で隠して笑っていた。
魔を退治する時に怪我をしたのだろうか、綺麗な装備には赤い血が少し着いている。
怪我は魔法で治る、だけれど傷は痛かっただろう。

『さすが勇者様!』と人々は言うけれど、まるで彼女を勇者にするための、呪いのようだった。
彼女は手足も小さくて、誰かが守っていけなきゃいけないただの女の子なのに。

その数年後、俺はまた勇者様に会うのだ。
次は彼女を守る仲間として
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