もう一度、私に恋させて!

かわた

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09:カスタマイズ聖☆剣

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住宅街から離れているところに、市の図書館がある。
そのあたりから魔の気配がしており、実際近づくと例の生臭いような獣のような香りがした。
図書館はとっくに閉館してはいるが、窓から明かりが漏れているから中に人がいるだろう。
それを確認すると屋上へと目を走らせる。

茶褐色の建物の屋上にはなにか大きな生き物がうごめいて
希樹の口の端がゆるゆると無意識に上がり、目尻が下がる。

「セフィラ様、程度は?」
「ええ、潜伏期間短めで孵化したてというところでしょう。
貴女様の敵ではございません。
―――さあ、武器をお出しください。」

セフィラは大きな生き物をちらりと観察したあと希樹に優しく微笑みかける。

それに希樹は頷くとまるで剣を鞘から出すように手を横にスライドさせた。
青色の光の粒が空中から集まり、剣を象る。
柄を握ると光が収まり、金をあしらった青と白を基調とした清廉な印象を抱く長剣だ。

セフィラが持ってきてくれた剣は希樹のもので勇者の証だ。
実態のない、持ち主によって形を変える剣――聖剣だ。

「ああ、これを忘れていました。」

聖剣を手に早速駆け出そうとする希樹にセフィラが静止の声をあげた。
振り向くと、セフィラはなにかを希樹の顔に押し付ける。
それを手にとってみてみると、ぐりぐりとした目の大きい張り子犬に似たお面だった。
口元のωの箇所で形は途切れ口元は素肌が出る形になっている。
犬の模様は黒の柴犬のような白黒で目元は紅がさしてあり愛嬌がある。
それをしげしげと眺めているとセフィラのふっと笑う声が聞こえた。

「顔をみられてはまずいのでは?
この面は被っている者の本質を分かりづらくする魔法をかけましたので
声をだしても貴女だと気づくことはありません。」

楽しそうな無邪気な声でセフィラはいいつつ同じような狐面をつける。
希樹はそれに困ったように微笑みながら面を顔にあてがい、紐を結んだ。


◇◆◇


屋上へと行くために助走をつけて強く地面を蹴り
魔に近づく間に剣をひと振り空振りした。


すると輝く剣が、細かい金の装飾がついているマスケットに似ている長細い銃へと変わった。

希樹の『聖剣』はカスタマイズ済みである。
これをカスタマイズといっていいのかわからない、バグらせているという方が正しいのだろう。

前提として聖剣は『剣』と名乗ってはいるが使用者の使い勝手に合わせて形を変える。
初代勇者が剣を好んで使っていたから『聖剣』と名前がついただけで
魔術に秀でている者は杖として魔法だけで、魔を退治したものもいるらしい。

(それにしても銃か……)

「銃ですか、ハズレ、ですね。
勇者様、後方は私にお任せください。」

セフィラは後ろからゆったりと声をかけると
希樹はなにも言わずに、小さくうなづいた。


『聖剣』は使う人間の大事な思い出(記憶)が多ければ多いほど威力が強くなる。

だから年を取った勇者の方が戦いは有利で、当時物心がついたばかりの希樹では聖剣の威力がとても弱かった。
最初は剣で戦っていたが、ある一定のレベルに達した魔には効かなくなってしまったのだ。
ほとほと困り果てた時、その時滞在していた先のドワーフの賢者がある解決策を出してくれた。

その方法をとれば今より威力は倍以上になる
だが剣は一定時間経つと違う武器へと変わり
しかも武器はランダムでなんの武器になるかもわからず、一度改造すれば元には戻らない。

かなりリスキーな案だったが、当時希樹たちは藁をも掴む思いだったのでその提案を受けた。
まず安定した策を練れない。そこが痛手であったし何度もそれで苦労をした。
それに最初は使い方の分からない武器が出るたびに碌に戦えなかった。

覚えることが多すぎたけれど、なんとか武器を使いこなして
今ではどのタイミングでどの武器が選ばれるかも、わかっている。
使い慣れてしまっている希樹ににとっては勝手はそう悪くない。

屋上のフチへ、とんっと飛び乗るとスカートがふわっと浮いた。そしてまっすぐと魔を確認した。

肌色より生々しいピンク色をしている肉塊とそれを覆い尽くす黒い靄だ。
大きさは人の倍くらいあってなかなか大きい。

辺り一帯が生臭い嫌な匂いがして、とても懐かしい気分になった。
このくらいの匂いならばこの身体の持ち主もさほど記憶も喰われてはいないだろう。

希樹は集中するため小さく口ずさみ、脳内でシミュレーションする。
元の身体の持ち主が愚鈍なのか魔が悪いのか、相手はこちらに気づく様子もない。
試し打ちとばかりに軽い気持ちで魔へと銃を向けると、引き金を引いた。

爆音とはじけるような衝撃に希樹の身体も後ろへと下がり、制服のスカートが大きく揺れる。
銃口からは光の粒と白煙が空へと上がっていく、まるで星になっているようで美しい。


銃関連の武器は威力が強力で非力な希樹にも使いやすそうだと思われがちだが、実は違う。
実際はかなりの衝撃が身体にくるため、とても負担が掛かりすぎる上に、細かい標準を合わせるのに向かない。
今も肩に銃を固定して射撃したから肩に痣ができているし、手も少し皮がむけてしまっている。
こんなに体がもろいことは予想外だったのか希樹は焦る表情で手を見つめた。

「派手に飛びましたね。
身体が戻った所為でしょう、使い勝手が違う分気を付けてください」

セフィラが朗らかな声で回復の魔法をかけてくれた。
魔法で手と肩の痣が綺麗に直る。

確かに身体の年齢がいきなり10年も戻ったのだ、使い勝手が違うに決まっている。
だけれど筋力がない分、体が軽いのでこれはこれで使い勝手が良いとは思う。
少し、気分が良くなってステップを踏む要領で軽くジャンプする。

ピンク色の肉塊からおびただしい量の赤黒い血が流れ、おぞましい叫び声をあげた後
肩で息をするようにおかしな動きをしてゆっくりとこちらを向いた。
さすがに愚鈍な魔も今の一撃で自分を狙う者に気づいたらしく
こちらへと思い身体を揺らし、大きく足を踏み出してこちらに近づいている。
右足を大きくあげて

その足が地面に着く前に、

一瞬の間に後ろに回り込み、バトンを回すように軽やかに銃の持ち手を逆に持ち変え
魔力をためて思い切って魔の頭を強打した。

その瞬間

衝撃音と鈍いような液体を殴ったような気持ち悪い音が出て
頭の大部分と身体の一部がプリンのようにぐちゃりと飛散する。


(別に銃なら弾を撃たなければいけないというわけでもない。
音も衝撃もすごいのだから別方法で戦うのがスマートでしょ。)


つけていた仮面を少しずれたので直す。
なにかねっとりとしたモノがついていたので軽く袖で拭った。

ピンク色の肉塊から光の球が溢れ、徐々に人の姿を取り戻していく。
安らかに寝ている人物は真面目そうなおじさんだった。

「ふぅ、」

こうして人の姿を取り戻した時が希樹が一番ほっとする瞬間だ。

いつも誰かを殺さなかったと実感できるからだ。
中々戻らないときは焦るからやめてほしいと希樹は心の中で思った。

「さすが勇者様3分もかかりませんでしたね」

セフィラが胸ポケットに入っていた懐中時計をみながら希樹へと近づく。

それはそうだ。あの世界の魔、すべてを希樹達は殲滅をしたのだ。
町一帯がやられてしまって大群で現れることもあったので
弱い魔を多く倒すことにも慣れたものだ。

「魔はこれだけですか?」

問いかけるとセフィラ様は渋い顔を浮かべた。

「いえ…数はまだいるでしょう。
まだ孵化していないだけで多く…」

「…そう」

嫌な予感がして、気を紛らわせるように希樹はおじさんのほっぺたをつついた。
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