ミストリアンクエスト

幸崎 亮

文字の大きさ
65 / 105
第2章 ランベルトスの陰謀

第4話 正義の賞金稼ぎ・ミーファ

しおりを挟む
 ミーファと名乗った、メイド姿の賞金稼ぎ。
 彼女はツインテールの金髪をパサリと払い、不敵な笑みを浮かべる。

 「うーん……。やっぱ気が引けるよなぁ……」

 剣を構えながら、エルスは仲間たちへ目をる。
 すでにアリサとニセルは、ジニアをかばうように街道脇へ移動していた。
 彼らも武器を構えてはいるが、やはり攻撃するのは躊躇ためらっているようだ。

 エルスの視線に気づき、ニセルは小さく頷いてみせる。
 こっちは任せろ――と、いう意味のようだ。

 「よそ見してると危ないのだ!――それっ、どーんっ!」

 ミーファは高くちょうやくし、空中で斧を振り下ろす――!
 まだこちらとは距離があり、斧の間合いには遠すぎる。

 「エルス! けてっ!」

 アリサが叫ぶ!――と、同時に斧の先端部分が外れ、巨大な刃が飛来した!
 エルスはとっに右に飛び退き、間一髪でてっかいかわす――!

 「うおおッ!? あッ、危ねェー!」
 「ちょっと! 見た目にまどわされちゃ、真っ二つにされるわよ!」

 飛んできた斧頭部アクスヘッドからは細い鎖が伸びており――
 ミーファが柄を軽く引くと、元の形態へと戻っていった。

 さきほどの一撃で街道の敷石は無残に砕け、えぐれた地面があらわになっている。

 「ふっふっふー! 悪人にしては、いい動きなのだ!」

 「……すげェ怪力だな……ッ! アリサ以上かもしれねェぞ……」
 「もー。わたし怪力じゃないもんっ」

 冷静に突っ込むアリサだが、視線はミーファから外していない。
 彼女が得体の知れない武器を使う以上、一瞬たりとも油断もできない。


 「あんなモン、ずっと避けきれる自信はねェぞ?――ここは攻めるしかッ!」

 エルスは覚悟を決め、ミーファの元へはしる!
 まだ彼女は、斧を構えたまま微動だにしない。

 剣の間合いに入り――同時にエルスは刃を振り下ろす!
 だが、ミーファは斧をくるりと回転させただけで、難なく攻撃を受け流した!

 「ふふー! そんな弱い力、ミーには通じないのだ!」

 「へッ! それなら、これでどうだッ!」
 ――エルスは左の拳を突き上げ、唱えていた魔法を解き放つ!

 「ヴィスト――ッ!」

 風の精霊魔法・ヴィストが発動し、ミーファの足元から小型の竜巻が発生した!
 竜巻は巨大な斧ごと、ミーファのからだを空中へと吹き上げる!

 「わわっ! 急に魔法は卑怯なのだー!」
 「おまえだってヘンテコな武器使ってるし、お互い様だッ!」

 エルスは彼女の落下点に素早く移動し、迎撃の構えをとる――!

 「前に跳べ!――エルス!」
 「お?……おうッ!」

 ニセルの指示に従い、エルスは受身を取りつつ前方へ飛び込む!――直後、大きな破砕音と共に、彼のいた地点が砂煙に包まれた!

 砂煙の中からは次第に――街道に深々と突き立った斧と、柄の上で腕組みをしているミーファの姿が現れる――!

 「なんて奴だッ、あの体勢から攻撃してきやがったのかよッ……」
 「ふっふっふー! 正義の賞金稼ぎは、悪い奴なんかに負けないのだ!」

 ミーファは斧から飛び降りるとそれを引き抜き、再びエルスに向かって構えをとる!

 一対一で戦うのが彼女の流儀なのか――
 幸い、仲間たちの方へ攻撃を仕掛けるつもりは無いらしい。


 「ヘタな攻撃じゃ駄目だ……。動きを止めねェと……」
 「無駄なのだ! ミーの正義は誰にもめられないのだー!」

 「……よしッ。アレを試すかッ!」
 「もう卑怯な手は通用しないのだ! とりゃーっ!」

 ミーファは斧を水平に構え、自らの身体をグルグルと回転させはじめた!――その遠心力を利用し、エルスへ向けて高速で襲いかかる!

 「うわッと! フレイト――ッ!」

 風の精霊魔法・フレイトが発動し、エルスを風の結界が包み込む!
 ――そして結界の反動を利用し、彼は高く跳び上がった!

 「避けても無駄なのだ! まだまだ行くのだー!」

 「へッ! 追いつかれてたまるかッ!」
 ――さらなる追撃を、エルスは高速移動で難なくかわす!

 フレイトは本来、長距離を移動するための魔法だ。
 エルスは過去の経験から、それを戦闘に応用したようだ。

 「ジェイドには感謝しねェとなッ!――おおっと!」
 「このー! 逃げてばっかりで卑怯なのだ!」

 「――ッと! そんなモンに当たったら、死んじまうだろッ!」

 とはいえ、逃げ続けていてもらちがあかない。
 どうにか状況を打開すべく、エルスは次の呪文を唱える。

 ミーファも回転をピタリと止め、斧を構えなおす。
 相変わらず自信たっぷりな笑みを浮かべているが、彼女の額にもうっすらと汗がにじんでいる――。


 「……ふふー! そろそろ降参するのだ!」
 「んッ? 降参すりゃ、話を聞いてくれンのか?」
 「駄目なのだ!――悪人は、正義の斧で成敗するのだ!」

 「じゃあ負けンのと一緒じゃねェか! フラミト――ッ!」

 水の精霊魔法・フラミトが発動し、ミーファの足元に粘性の水溜まりが出現した! 
 水溜りから伸びた水色の触手が彼女を絡めとり、動きを封じる!

 「うひゃ! うっ、動きにくいのだー……!」
 「ヘッ、どうだッ! 今度はこっちの番だッ!」

 エルスは間合いを詰め、剣を振り下ろす! ミーファは斧で攻撃を弾くが、どんそくの魔法で明らかに動きがにぶっている!

 「どうするッ!? 降参するなら、今の内だぜッ!」
 「わっ、悪い奴に、まっ、負けないのだー!」

 「チッ……!――もう仕方ねェ!」

 この戦闘は不本意ではあるが、ミーファは手加減しながら勝てる相手ではない。

 エルスは歯を食いしばり、水平に剣を振る――!
 だが、刃が彼女の胴をぐ寸前!――ミーファが魔力を解放した!

 「カレクトぉ――!」

 土の精霊魔法・カレクトが発動し、ミーファをこんじきの結界が包み込む! 守護の結界にはばまれ、エルスの一撃は硬質な音と共に弾かれてしまった!

 それと同時に――ミーファに絡みついていた水の触手も、跡形もなく消滅した!

 「ぐッ……! 土で消しやがったッ!?」

 精霊魔法には、それぞれ優位性が存在する。
 水には土が。土には風の魔法が有効だ。

 「ふっふっふー! ミーを甘く見ないほうがいいのだ!」

 水のいましめから解放されたミーファは軽やかにステップし、大技を繰り出すべく、大きく間合いを取った――!


 「さー! 正義の裁きを受けるのだ! レイゴラぁム――!」

 土の精霊魔法・レイゴラムが発動し、巨大な斧が黄金こがねいろの輝きを放ちはじめた!

 「げッ!? 魔法剣まで使いやがるのかよッ!」
 「エルス!――使ってっ!」

 危機を悟ったアリサは、持っていた剣をエルスのそばとうてきする!
 魔法剣に特化した武器・エレムシュヴェルトだ。

 エルスは自らのものを納め、地面に突き立った剣を抜き放つ――!

 「サンキュー、アリサ!――よしッ、来るなら来やがれッ!」
 「ふっふー、いい度胸なのだ! よーい、ずっどーんっ!」

 ミーファは斧を構えて跳躍し、空中で回転しながらこちらへ迫る――!

 対するエルスは剣に手をかざし、呪文を唱える。
 彼の銀髪と瞳がかすかに緑色に輝く!

 「魔法剣ッ! レイヴィスト――ッ!」

 風の精霊魔法・レイヴィストが発動し、エルスの剣に風の魔力が宿った!

 「とりゃー! 正義は勝つのだー!」
 「へッ! 負けてたまるかよ――ッ!」

 襲来した金色の旋風を――エルスは風の刃と、左手に集中させた風の結界で受け止める! 身体能力では不利だが、魔力においてはエルスの方が圧倒的に有利だ!

 少しずつ風が土を削り取るように――
 ミーファの斧に掛かっていた魔法も、徐々に消滅しはじめる――!

 「うおぉぉおー! 戦闘終了ォ――!」

 エルスは気合いと共に攻撃を押し返し、くるりと一回転しながら剣を振りぬく!
 斧で斬撃は防いだものの――魔法剣による衝撃で弾き飛ばされたミーファは、激しく大地に叩きつけられてしまった!

 「ぎゃうぅー!……ううっ、負けたの……だっ……」

 あおけに倒れたまま、ミーファは街道で目を回す。
 負けを認めたためか、巨大な斧も跡形もなく消えてしまった。

 エルスも魔法を解除し、大きく深呼吸をする――。

 「はぁ……はぁ……。 ふぅぅ……! なんとか勝てたぜ――ッ!」
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

処理中です...