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第2章 ランベルトスの陰謀
第38話 誰がための決戦か
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「敵性存在、増加確認。排除シマス」
闇色をした一つ眼の巨人。創造主により魔導生命体と名づけられたそれは腕を振り上げ、抑揚のない〝言葉〟を発する。
「皆ッ、気をつけろ! やる気だぜッ!」
「エルス、目立たないように気をつけてねっ!」
念動波による攻撃を警戒し、アリサが彼に注意を促す。攻撃が体内の魔力素に大きく依存する性質上、エルスは特に大きなダメージを受けてしまう。
「ああッ! 援護は任せてくれッ!」
「ふふー! いざとなったら、ミーの後ろに隠れるのだ!」
「おうッ、ありがとなッ!」
エルスは隣に立つクレオールに目配せをし、彼女と小さく頷きあう。
短杖こそ持っているが――剣を失ったエルスと、攫われた身ゆえに丸腰であるクレオール。二人は後衛へまわるべく、アリサたちの後方へと就いた。
「あの目玉野郎の親玉というわけか! おい、ニセル! 足手まといになるなよ!?」
「ふっ、任せておけ。左腕まで喰われんようにな?」
「ハッ! 盗賊が何度も奪われてたまるかよ!――ヴィストォ!」
旧友と軽口を叩き合い、ジェイドが風の魔法を放つ。風の刃は魔導生命体の右腕を斬り落とし、大広間の壁に当たって炸裂する。
「攻撃ヲ確認。優先排除シマス」
魔導生命体はジェイドへ単眼を向け、残った左腕を振り下ろす。間合いには遠く及ばないものの、それは槍のように伸び、彼の元へと鋭く迫る。
「ハッ! そう来るだろうよ!」
ジェイドは軽いステップで刺突を躱し、追撃の風の魔法で闇を斬り払う。さらに攻撃の隙をつき、ニセルが目玉――すなわち巨人の頭へ向け、クロスボウで狙い撃つ。
しかし矢は闇色の瘤を素通りし、小さな硬い音を鳴らしたのみだ。
「攻撃ヲ確認。脅威ゼロ。問題ナシ」
挑発とも報告とも判らぬ言葉を発し、魔導生命体は目玉を背後へと向ける。そして目玉ニセルを一瞥し、すぐに視線をジェイドに戻した。
「ハッハッハ! お前は相手にもされていないようだぞ?」
「そのようだな。――矢の落下音がした。武器が呑まれることはなさそうだ」
「あっ。じゃあ、直接攻撃しても平気そう?」
「おそらくは。だが、何を仕掛けてくるかわからん」
以前に相対した〝降魔の杖〟とは性質が違っている可能性がある。ニセルの言葉にアリサとミーファは顔を見合わせ、互いに小さく頷いた。
*
「ふっふー! 攻撃が効くなら、こっちのものなのだ! どーん!」
「わたしもッ! はあぁ――ッ!」
聳え立つ闇色の脚へ向けて、ミーファが斧を振り下ろす。柄から分離し、飛翔する斧頭刃を追うようにアリサが疾り、二つの刃が交差する形で斬りつける。
「えっ? 手ごたえが無い?」
異変に気づいたアリサは僅かに硬直するも、すぐに背後にステップをする。直後、巨大な踏みつけによって、彼女が居た地点の床が大きく円形に抉られた。
「アリサッ! 大丈夫か!?」
「うんっ! でも、わたしの攻撃はすり抜けちゃうみたい」
「わかった! それならッ!」
エルスは短杖をアリサに翳し、彼女に向けて魔法を放つ。
「レイリフォルス――ッ!」
炎の精霊魔法・レイリフォルスが発動し、アリサの剣が炎の魔法剣と化した。さらにエルスは呪文を唱え、今度はミーファへ魔法を掛ける。
「ミーファには土魔法だ! レイリゴラム――ッ!」
「おー! 助かるのだ、ご主人様! ではアリサ、共にゆくのだー!」
「うんっ!」
金色の魔力を帯びた斧を水平に構え、ミーファは身体を高速回転させはじめる。同時に炎の剣を携えたアリサも、脚へ向かって突撃する。
「警戒。被害、予測。――演算終了。迎撃ガ必要デス」
感情のない言葉を発し、魔導生命体が体勢を整える。腕があった部分からは闇で形作られた触手が生えており、その数本をアリサへ伸ばしてきた。
「もー、気持ち悪いッ!」
不規則な軌道で迫る触手の群れを斬り払い、アリサは真っ直ぐに走る。すると不意に床を突き破って現れた触手が、彼女に対して穂先を向ける。
「あっ……!」
「ハッ! ヴィストォ――!」
しかし間一髪。ジェイドが放った風の魔法が、触手の群れを斬り飛ばす。そんな彼はアリサに対し、親指で敵をさしながら、ニヤリと口元を上げてみせた。
「ありがとっ、ジェイドさん! やぁあぁーッ!」
アリサは気合いを吐き、闇色の右脚を炎を帯びた剣で薙ぐ。すると今度は確かな手ごたえと共に、闇の大木が水平方向に切断された。
「こっちはミーがもらったのだー! どーん!」
金色の光を身に纏い、独楽のように回転しながらミーファが左脚へ体当たりを仕掛ける。金の旋風に深々と抉られ、左脚の下半分が無惨に吹き散らされてゆく。
「おおッ! 二人とも、よくやったぜッ!」
エルスは巨人を見上げながら拳を握り、歓喜の声を叫げる。
しかし両脚を失ったにも関わらず、魔導生命体はユラユラと空中に浮遊しているようにも見える。――そして、次の瞬間。それがアリサらへ向かって倒れ込む。
「危ねェ! 逃げろ二人とも!」
「ご主人様、アリサを頼むのだ!」
ミーファが唱えている呪文に気づき、エルスも咄嗟に呪文を唱える。
「リカレクト――ッ!」
闇の巨体が彼女らに覆い被さる直前、土の精霊魔法・リカレクトによる結界がアリサを護る。しかし頭上の〝闇〟からは幾本もの触手が伸び、少女たちを包囲した。
「アイツ、自分の躰で檻をッ……!」
触手は周囲のみならず、内部の二人へ向けても伸ばされている。それらを武器で斬り払うも、尚も彼女らを取り込むかのように、頭上から巨体が圧し寄せてくる。
「ハッ! 俺様を忘れてもらっては困るな! ヴィストォ――!」
「ふっ――。今だ二人とも! 走れ!」
ジェイドの風魔法に続き、ニセルのクロスボウが触手の檻に風穴を開ける。ジェイドが付与魔法を掛けたのか、ニセルの矢にも風の魔力が込められているようだ。
「危うく〝悪の触手〟の餌食にされるところだったのだ。礼を言うのだ!」
「ありがと、みんな!」
闇の檻から抜け出した二人は礼を述べ、手にした得物を構えなおす。巨大な目玉は依然として、品定めするかのように彼女らを見つめている。
*
「今度は私も!――エンギル!」
魔導生命体の隙をつき、クレオールが光魔法を解き放つ。敵の周囲に鋭利な光輪が出現し、闇の塊に深く食い込んでゆく。
しかし光は何事もなく闇の中へと吸い込まれ、周囲に甲高い音を響かせた――。
「あっ……。これ……、って……?」
愕然とした表情を浮かべるクレオールをよそに、魔導生命体は特に反応を示さない。どうやら光の魔法は相手に対し、何の効果もなかったようだ。
「チッ……。効くのは〝精霊魔法〟だけッてことか……」
エルスは唇を噛みしめながら敵を睨み、続いてクレオールを一瞥する。彼女は依然として青ざめた表情のまま、呆然と立ち尽くしていた。
「クレオール? 大丈夫か?」
「えっ……? ええ、大丈夫ですわ……。それよりも、エルスこそ顔色が……」
「ああ、俺は問題ねェ。ちょっと魔力を使いすぎちまっただけさ」
立て続けに魔法を放ったためか、エルスの額には脂汗が滲み、足元もふらついている。彼は気合いを入れなおすかのように、改めて魔導生命体を睨みつけた。
「対抗レベル上昇。破損部位ヲ修復シマス」
闇の塊は胴体部分を伸ばし、二股に分かれた下半分を〝脚〟として再構成する。さらに細い触手を束ねた〝腕〟の先端部分には、五本の〝指〟が形成されている。
頭部こそ〝瘤に埋もれた巨大な単眼〟のままだが、そのバランスの整った姿は最初の状態よりも、どことなく人類に近い。
「ぐッ……! 仕切り直しッてことかッ……!」
「でも、さっきより小さいね。ちょっとは効いてるのかも」
「ハッ、上等よ! 跡形が無くなるまで斬り刻んでやるまでだ!」
エルスたちは互いの顔を見遣り、互いの意志を確認する。やがて魔導生命体も真っ直ぐに立ち上がり、大きく目玉を見開いた。
「修復完了。ソレデハ、戦闘ヲ再開イタシマショウ」
「へッ、望むところだッ! みんなッ、いくぜ――ッ!」
闇色をした一つ眼の巨人。創造主により魔導生命体と名づけられたそれは腕を振り上げ、抑揚のない〝言葉〟を発する。
「皆ッ、気をつけろ! やる気だぜッ!」
「エルス、目立たないように気をつけてねっ!」
念動波による攻撃を警戒し、アリサが彼に注意を促す。攻撃が体内の魔力素に大きく依存する性質上、エルスは特に大きなダメージを受けてしまう。
「ああッ! 援護は任せてくれッ!」
「ふふー! いざとなったら、ミーの後ろに隠れるのだ!」
「おうッ、ありがとなッ!」
エルスは隣に立つクレオールに目配せをし、彼女と小さく頷きあう。
短杖こそ持っているが――剣を失ったエルスと、攫われた身ゆえに丸腰であるクレオール。二人は後衛へまわるべく、アリサたちの後方へと就いた。
「あの目玉野郎の親玉というわけか! おい、ニセル! 足手まといになるなよ!?」
「ふっ、任せておけ。左腕まで喰われんようにな?」
「ハッ! 盗賊が何度も奪われてたまるかよ!――ヴィストォ!」
旧友と軽口を叩き合い、ジェイドが風の魔法を放つ。風の刃は魔導生命体の右腕を斬り落とし、大広間の壁に当たって炸裂する。
「攻撃ヲ確認。優先排除シマス」
魔導生命体はジェイドへ単眼を向け、残った左腕を振り下ろす。間合いには遠く及ばないものの、それは槍のように伸び、彼の元へと鋭く迫る。
「ハッ! そう来るだろうよ!」
ジェイドは軽いステップで刺突を躱し、追撃の風の魔法で闇を斬り払う。さらに攻撃の隙をつき、ニセルが目玉――すなわち巨人の頭へ向け、クロスボウで狙い撃つ。
しかし矢は闇色の瘤を素通りし、小さな硬い音を鳴らしたのみだ。
「攻撃ヲ確認。脅威ゼロ。問題ナシ」
挑発とも報告とも判らぬ言葉を発し、魔導生命体は目玉を背後へと向ける。そして目玉ニセルを一瞥し、すぐに視線をジェイドに戻した。
「ハッハッハ! お前は相手にもされていないようだぞ?」
「そのようだな。――矢の落下音がした。武器が呑まれることはなさそうだ」
「あっ。じゃあ、直接攻撃しても平気そう?」
「おそらくは。だが、何を仕掛けてくるかわからん」
以前に相対した〝降魔の杖〟とは性質が違っている可能性がある。ニセルの言葉にアリサとミーファは顔を見合わせ、互いに小さく頷いた。
*
「ふっふー! 攻撃が効くなら、こっちのものなのだ! どーん!」
「わたしもッ! はあぁ――ッ!」
聳え立つ闇色の脚へ向けて、ミーファが斧を振り下ろす。柄から分離し、飛翔する斧頭刃を追うようにアリサが疾り、二つの刃が交差する形で斬りつける。
「えっ? 手ごたえが無い?」
異変に気づいたアリサは僅かに硬直するも、すぐに背後にステップをする。直後、巨大な踏みつけによって、彼女が居た地点の床が大きく円形に抉られた。
「アリサッ! 大丈夫か!?」
「うんっ! でも、わたしの攻撃はすり抜けちゃうみたい」
「わかった! それならッ!」
エルスは短杖をアリサに翳し、彼女に向けて魔法を放つ。
「レイリフォルス――ッ!」
炎の精霊魔法・レイリフォルスが発動し、アリサの剣が炎の魔法剣と化した。さらにエルスは呪文を唱え、今度はミーファへ魔法を掛ける。
「ミーファには土魔法だ! レイリゴラム――ッ!」
「おー! 助かるのだ、ご主人様! ではアリサ、共にゆくのだー!」
「うんっ!」
金色の魔力を帯びた斧を水平に構え、ミーファは身体を高速回転させはじめる。同時に炎の剣を携えたアリサも、脚へ向かって突撃する。
「警戒。被害、予測。――演算終了。迎撃ガ必要デス」
感情のない言葉を発し、魔導生命体が体勢を整える。腕があった部分からは闇で形作られた触手が生えており、その数本をアリサへ伸ばしてきた。
「もー、気持ち悪いッ!」
不規則な軌道で迫る触手の群れを斬り払い、アリサは真っ直ぐに走る。すると不意に床を突き破って現れた触手が、彼女に対して穂先を向ける。
「あっ……!」
「ハッ! ヴィストォ――!」
しかし間一髪。ジェイドが放った風の魔法が、触手の群れを斬り飛ばす。そんな彼はアリサに対し、親指で敵をさしながら、ニヤリと口元を上げてみせた。
「ありがとっ、ジェイドさん! やぁあぁーッ!」
アリサは気合いを吐き、闇色の右脚を炎を帯びた剣で薙ぐ。すると今度は確かな手ごたえと共に、闇の大木が水平方向に切断された。
「こっちはミーがもらったのだー! どーん!」
金色の光を身に纏い、独楽のように回転しながらミーファが左脚へ体当たりを仕掛ける。金の旋風に深々と抉られ、左脚の下半分が無惨に吹き散らされてゆく。
「おおッ! 二人とも、よくやったぜッ!」
エルスは巨人を見上げながら拳を握り、歓喜の声を叫げる。
しかし両脚を失ったにも関わらず、魔導生命体はユラユラと空中に浮遊しているようにも見える。――そして、次の瞬間。それがアリサらへ向かって倒れ込む。
「危ねェ! 逃げろ二人とも!」
「ご主人様、アリサを頼むのだ!」
ミーファが唱えている呪文に気づき、エルスも咄嗟に呪文を唱える。
「リカレクト――ッ!」
闇の巨体が彼女らに覆い被さる直前、土の精霊魔法・リカレクトによる結界がアリサを護る。しかし頭上の〝闇〟からは幾本もの触手が伸び、少女たちを包囲した。
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触手は周囲のみならず、内部の二人へ向けても伸ばされている。それらを武器で斬り払うも、尚も彼女らを取り込むかのように、頭上から巨体が圧し寄せてくる。
「ハッ! 俺様を忘れてもらっては困るな! ヴィストォ――!」
「ふっ――。今だ二人とも! 走れ!」
ジェイドの風魔法に続き、ニセルのクロスボウが触手の檻に風穴を開ける。ジェイドが付与魔法を掛けたのか、ニセルの矢にも風の魔力が込められているようだ。
「危うく〝悪の触手〟の餌食にされるところだったのだ。礼を言うのだ!」
「ありがと、みんな!」
闇の檻から抜け出した二人は礼を述べ、手にした得物を構えなおす。巨大な目玉は依然として、品定めするかのように彼女らを見つめている。
*
「今度は私も!――エンギル!」
魔導生命体の隙をつき、クレオールが光魔法を解き放つ。敵の周囲に鋭利な光輪が出現し、闇の塊に深く食い込んでゆく。
しかし光は何事もなく闇の中へと吸い込まれ、周囲に甲高い音を響かせた――。
「あっ……。これ……、って……?」
愕然とした表情を浮かべるクレオールをよそに、魔導生命体は特に反応を示さない。どうやら光の魔法は相手に対し、何の効果もなかったようだ。
「チッ……。効くのは〝精霊魔法〟だけッてことか……」
エルスは唇を噛みしめながら敵を睨み、続いてクレオールを一瞥する。彼女は依然として青ざめた表情のまま、呆然と立ち尽くしていた。
「クレオール? 大丈夫か?」
「えっ……? ええ、大丈夫ですわ……。それよりも、エルスこそ顔色が……」
「ああ、俺は問題ねェ。ちょっと魔力を使いすぎちまっただけさ」
立て続けに魔法を放ったためか、エルスの額には脂汗が滲み、足元もふらついている。彼は気合いを入れなおすかのように、改めて魔導生命体を睨みつけた。
「対抗レベル上昇。破損部位ヲ修復シマス」
闇の塊は胴体部分を伸ばし、二股に分かれた下半分を〝脚〟として再構成する。さらに細い触手を束ねた〝腕〟の先端部分には、五本の〝指〟が形成されている。
頭部こそ〝瘤に埋もれた巨大な単眼〟のままだが、そのバランスの整った姿は最初の状態よりも、どことなく人類に近い。
「ぐッ……! 仕切り直しッてことかッ……!」
「でも、さっきより小さいね。ちょっとは効いてるのかも」
「ハッ、上等よ! 跡形が無くなるまで斬り刻んでやるまでだ!」
エルスたちは互いの顔を見遣り、互いの意志を確認する。やがて魔導生命体も真っ直ぐに立ち上がり、大きく目玉を見開いた。
「修復完了。ソレデハ、戦闘ヲ再開イタシマショウ」
「へッ、望むところだッ! みんなッ、いくぜ――ッ!」
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