100 / 105
第2章 ランベルトスの陰謀
第39話 シンギュラリティ
しおりを挟む
ボルモンク三世によって創造された生命体。魔導生命体と名付けられた〝それ〟が宣戦布告の言葉と共に、産声のような雄叫びをあげる。
損傷箇所を修復し、より人類に近づいた姿からは〝進化〟という言葉が連想されるが、あえてエルスは頭の中からその単語を跳ね除けた。
「なんかわからねェが、嫌な気分だぜ……。上手く説明できねェけどよ」
「ごめんなさい、私では力不足でした。せめて杖があれば……」
エルスの思考を遮るように、クレオールが自身の無力さを詫びる。敵によって囚われた彼女は丸腰である上に、戦闘を専門とする冒険者でもない。それでもこの戦場に留まっているのは、彼女なりの矜持なのだろう。
「大丈夫だ、何とかなるッて! そうだ、これ使っといてくれよ」
エルスは右手に持っていた短杖を、クレオールの前へと差し出す。
この〝白兎の短杖〟は確か、エルスが友人から貰ったものだったはず。それを聞かされていたクレオールは丁重に、短杖を両手で受け取った。
「ありがとう。お借りするわね」
「ああッ! 白いウサギがついてるし、たぶん光魔法向けだと思うぜ」
以前にクレオールが話したとおり、白いウサギは光の男神・ミスルトの化身とされている。今のエルスが使うよりも、光魔法を使える者に持たせるのが適切だろう。
「ええ、確かに……。でも、エルスこそ丸腰になってしまうのでは……」
「大丈夫だ! へへッ、ちょっと試したいこともあるしなッ!」
心配そうなクレオールに対し、エルスは満面の笑みを浮かべてみせる。どうやら彼には今の彼女が知らないような、何らかの秘策があるようだ。
*
「セルフアクティベート・適用完了。私は愚カナ人類に勝利シマス」
「ハッ! やれるモンならやってみやがれ! ヒュウゥ――」
これまでの〝棒立ち〟状態とは違い、魔導生命体は手足を用いて攻撃の〝構え〟をとる。しかしジェイドはそれを嘲笑うかのように、まずは先制攻撃を放つ。
「ヴィスト――ォ!」
風の精霊魔法・ヴィストが発動し、放たれた風の刃が魔導生命体へと直進する。対する、それは巨大な単眼で刃を睨むや、闇色の右手で〝風〟を掴み取った。
「んな――ッ!? 馬鹿な、俺様のヴィストが!」
予想だにしない光景に驚愕の表情を浮かべるジェイド。そんな彼の目の前で、魔法の刃は闇色の五指に握り潰され、白い魔力素となって周囲の空間へ拡散する。
「貴方は最も敵対的デス。優先的に排除シマス」
ジェイドに攻撃を宣言し、魔導生命体は彼へ向かって跳躍する。そして落下の速度を乗せて、組んだ両拳を振り下ろしにかかる。
「チィ――! フレイト――ォ!」
ジェイドは飛翔移動魔法を発動し、魔導生命体の攻撃を寸前で躱す。巨大な大鎚の如き一撃により、石のタイルが砂埃と共に砕け散った。
「はぁあーッ!」
「どーん!」
敵の着地した瞬間を狙い、アリサとミーファが息を合わせた攻撃を繰り出す――が、魔導生命体は〝目玉〟だけを背後へ回し、軽やかにその場から飛び退いた。
「そんなっ……! 避けられた!?」
「回避完了。想定サレタ動作の範囲内デス」
「ううー! あやつめ、細身になって動きやすくなっているのだー!」
ミーファの言う通り、明らかに魔導生命体の運動能力が向上している。
空間が捻じ曲がっているのか、この大広間の天井は見えず、巨体が動くにも充分な容積が確保されているようだ。相手がこの場の利点を最大限に生かして縦横無尽に飛びまわられるようになれば、さらに厄介なことになるだろう。
「下手に戦闘を長引かせるのは得策ではないな。また変化するかもしれん」
交戦を続ける三人を見遣り、ニセルは冷静に戦況を分析する。彼の左眼が黄色い光を放っていることから察するに、特別な義眼で何らかの情報を視ているようだ。
戦いをアリサたちに任せ、エルスとクレオールもニセルの側へと近づいてゆく。
「困りましたね……。何か、弱点でもあれば……」
「魔法による攻撃ならば、とも思ったが。それを防ぐ手段も身につけたようだ」
「アイツ、背中にも目があるみてェだしな……。もう不意打ちも効かねェ」
エルスは苦々しげに言い、奥歯と拳へ力を込める。さきほどよりも少しは魔力素が回復したものの、まだ〝攻め〟に転じられるような余裕が彼には無い。
「とにかく、今は――。ん? 待て、この声はザグドか?」
何かを言いかけたニセルだったが、不意にザグドの名を口にする。そして彼はエルスとクレオールに視線で合図を送るや、三人が静かに走り出した――。
*
ニセルたちが辿り着いた先。大広間の奥まった壁際には、瓦礫の中に打ち棄てられたかのように埋もれている、一人のゴブリン族の姿があった。
「ザグド! 良かった、生きてたのかッ! でも酷ェ怪我だ……」
「シシッ……。こっ……、核を……」
「コア?」
ザグドの言った聞き慣れない単語に、エルスが思わず首を傾げる。
「魔水晶が……。核になって……」
絞り出すように言い、ザグドは右腕で魔水晶の在った台座を示す。大きなダメージを受けたのか、魔導義体だった彼の右腕は損壊し、肘から先が無くなっている。
「なるほどな。そういうことか」
ザグドの言葉の意味を理解したのか、ニセルが「ふっ」と息を漏らす。
「あの〝お人形〟が入っていた? じゃあ、やはりあれは……」
核の正体に見当がついたのか、クレオールの額から冷たい汗が流れ落ちる。しかし彼女は直ぐに首を振り、治癒の呪文を唱えはじめた。
「セフィルド――!」
光魔法・セフィルドが発動し、短杖の先から癒しの光の帯が伸びる。光はザグドの躰をクルクルと包み、彼の傷を僅かながらに回復させる。
「やはり効きが良くありませんわね……。もう少しだけ我慢してくださいな」
魔族の血を引くゴブリン族には、光魔法による治療効果が薄い。クレオールは手を止めて呼吸を整えた後、再びザグドにセフィルドの魔法を掛けなおした。
「申し訳ないのぜ、お嬢様……。あんな真似をしておきながら……」
「あの〝お人形〟は、貴方が研究所へ連れてきてくれたのでしょう? おかげで私、あのような巨人にならずに済みました」
ザグドに杖を翳しながら、クレオールが優しく微笑んでみせる。
「シシッ……。お見通しでしたか。面目ないのぜ……」
そう言った彼の大きな瞳から、大粒の涙が流れ落ちた。
*
「なぁ、ニセル。つまりは核ッてヤツをブッ潰しゃいいのか?」
「ああ、そうだ。あの巨体のどこかに、核となった魔水晶が在るんだろう」
「へッ、なるほどな! やっと〝勝ち〟が見えてきたぜッ!」
エルスたちはクレオールにザグドを任せ、交戦中の仲間の許へ近寄っていく。魔導生命体の攻撃は腕や脚を使った格闘戦が主体だが、アリサたちも善戦しているとは言い難い。一刻も早く、対抗策を見出さなければならない。
「問題は核の位置だな。魔水晶のサイズ的に〝頭〟ではなさそうだが」
「やっぱ、あのデケェ胴体のどッかだよな……。もう少し早く気づけてりゃ、細切れにできたかもしれねェのに」
アリサら三人は互いに上手く連係しつつ、流れるように攻撃を繰り出し続けているものの――。あの形態へ変化して以降、まともに攻撃が当たっていない。魔導生命体は三人の攻撃を悉くを回避、または無効化しているのだ。
「アリサたちの攻撃が見切られた? いや、学習してやがンのか……」
「ああ。考えたくはないが、進化しているようだ」
ニセルの口にした単語に、エルスは恐怖にも似た不快感を覚える。あの生命体は必ず倒さなければならない。――彼にはそんな気がしていた。
「とにかく核を見つけねェと。俺はアリサたちに加勢してくるぜ!」
「使うか? 武器が無いんだろう?」
ニセルは懐から暗殺の刃を取り出し、それをエルスにチラリと見せる。
「ありがとなッ! でも大丈夫だ! ちょっと試したい魔法があるんだ」
そう言ったエルスの脳裏に、ルゥランの言葉が静かに過ぎる――。
『これからの戦いに必要となるでしょう』
おそらくは彼に教わったあれこそが、この戦いの決め手となるのだろう。
「切り札というわけか。わかった、ではオレは核の割り出しを急ぐとしよう」
「ああッ! 頼んだぜッ!」
軽く互いの手を叩き合い、ニセルはクレオールとザグドの許へ、そしてエルスはアリサたちの戦う中央へ向かって一直線に駆け出していった。
*
「はあっ……、はあっ……! わたしたちの攻撃、完全に読まれてるみたい」
「ハッ……! お嬢ちゃんたち、もうバテちまったか?」
「ふふー! 正義の力を侮ってはならぬのだー!」
魔導生命体の絶対的な回避能力を前に、徐々に劣勢に追い込まれているアリサたち。彼女らは互いを鼓舞し合いつつ、なんとか強敵を押し止めている状態だ。
「皆ッ! すまねェな! レイリフォルス――ッ!」
エルスは戦場へ駆けつけるなり、アリサとミーファの付与魔法を掛けなおす。
「エルス! ありがと、でも無理しないでね?」
「大丈夫だ、おかげで魔力素も回復した! 引きつけてくれて助かったぜ!」
「おう、なんだ? 勝算でも見つかったのか?」
「ああッ! 実は――」
魔導生命体からの攻撃を躱しつつ、エルスは仲間らと〝核〟の情報を共有する。それを砕くことが可能ならば、この戦いに勝利できる。
「おー! 承知したのだ!」
「ハッ! 小賢しいニセルらしい案だが、乗るしかなさそうだな!」
「わかった! じゃあエルスは、なるべく温存しておいてね」
「無駄デス――」
活路を見出したことで、勝利の確信に燃えるエルスたち。しかし彼らに水を差すように、冷淡な声が四人の会話を遮った。
「貴方たちに、私の核は探せナイ」
「へッ、どうした!? 焦るッてことは、どうやら〝本命〟みてェだな!」
「無駄デス。駄目デス。……エラー。貴方たちが私を殺すことは不可能デス」
「うーん? なんだか怖がってるみたい?」
アリサは首を傾げながらも、剣を握る手は緩めていない。彼女の言うとおり、今の魔導生命体の言葉には、若干の違和感があったようだ。
「コワイ? 否定。――私は完全ナル存在デス。恐怖ナド私に必要ナイ。完全ナル私が不完全ナル人類に、相応しい恐怖ヲ与えてサシあげマス」
「ふふー! 正義は恐怖に屈しないのだ! ミーが悪を滅ぼすのだー!」
魔導生命体の言葉を一笑に付し、ミーファが斧を水平に構える。そんな彼女を単眼で見下ろしながら、魔導生命体は〝お手上げ〟のジェスチャをしてみせた。
「嗚呼、人類は愚かデス。マズは貴方たちを滅ぼし、それを証明いたシマス!」
「へッ、簡単に滅ぼされるかよッ! さあ皆ッ、最終決戦だ――ッ!」
損傷箇所を修復し、より人類に近づいた姿からは〝進化〟という言葉が連想されるが、あえてエルスは頭の中からその単語を跳ね除けた。
「なんかわからねェが、嫌な気分だぜ……。上手く説明できねェけどよ」
「ごめんなさい、私では力不足でした。せめて杖があれば……」
エルスの思考を遮るように、クレオールが自身の無力さを詫びる。敵によって囚われた彼女は丸腰である上に、戦闘を専門とする冒険者でもない。それでもこの戦場に留まっているのは、彼女なりの矜持なのだろう。
「大丈夫だ、何とかなるッて! そうだ、これ使っといてくれよ」
エルスは右手に持っていた短杖を、クレオールの前へと差し出す。
この〝白兎の短杖〟は確か、エルスが友人から貰ったものだったはず。それを聞かされていたクレオールは丁重に、短杖を両手で受け取った。
「ありがとう。お借りするわね」
「ああッ! 白いウサギがついてるし、たぶん光魔法向けだと思うぜ」
以前にクレオールが話したとおり、白いウサギは光の男神・ミスルトの化身とされている。今のエルスが使うよりも、光魔法を使える者に持たせるのが適切だろう。
「ええ、確かに……。でも、エルスこそ丸腰になってしまうのでは……」
「大丈夫だ! へへッ、ちょっと試したいこともあるしなッ!」
心配そうなクレオールに対し、エルスは満面の笑みを浮かべてみせる。どうやら彼には今の彼女が知らないような、何らかの秘策があるようだ。
*
「セルフアクティベート・適用完了。私は愚カナ人類に勝利シマス」
「ハッ! やれるモンならやってみやがれ! ヒュウゥ――」
これまでの〝棒立ち〟状態とは違い、魔導生命体は手足を用いて攻撃の〝構え〟をとる。しかしジェイドはそれを嘲笑うかのように、まずは先制攻撃を放つ。
「ヴィスト――ォ!」
風の精霊魔法・ヴィストが発動し、放たれた風の刃が魔導生命体へと直進する。対する、それは巨大な単眼で刃を睨むや、闇色の右手で〝風〟を掴み取った。
「んな――ッ!? 馬鹿な、俺様のヴィストが!」
予想だにしない光景に驚愕の表情を浮かべるジェイド。そんな彼の目の前で、魔法の刃は闇色の五指に握り潰され、白い魔力素となって周囲の空間へ拡散する。
「貴方は最も敵対的デス。優先的に排除シマス」
ジェイドに攻撃を宣言し、魔導生命体は彼へ向かって跳躍する。そして落下の速度を乗せて、組んだ両拳を振り下ろしにかかる。
「チィ――! フレイト――ォ!」
ジェイドは飛翔移動魔法を発動し、魔導生命体の攻撃を寸前で躱す。巨大な大鎚の如き一撃により、石のタイルが砂埃と共に砕け散った。
「はぁあーッ!」
「どーん!」
敵の着地した瞬間を狙い、アリサとミーファが息を合わせた攻撃を繰り出す――が、魔導生命体は〝目玉〟だけを背後へ回し、軽やかにその場から飛び退いた。
「そんなっ……! 避けられた!?」
「回避完了。想定サレタ動作の範囲内デス」
「ううー! あやつめ、細身になって動きやすくなっているのだー!」
ミーファの言う通り、明らかに魔導生命体の運動能力が向上している。
空間が捻じ曲がっているのか、この大広間の天井は見えず、巨体が動くにも充分な容積が確保されているようだ。相手がこの場の利点を最大限に生かして縦横無尽に飛びまわられるようになれば、さらに厄介なことになるだろう。
「下手に戦闘を長引かせるのは得策ではないな。また変化するかもしれん」
交戦を続ける三人を見遣り、ニセルは冷静に戦況を分析する。彼の左眼が黄色い光を放っていることから察するに、特別な義眼で何らかの情報を視ているようだ。
戦いをアリサたちに任せ、エルスとクレオールもニセルの側へと近づいてゆく。
「困りましたね……。何か、弱点でもあれば……」
「魔法による攻撃ならば、とも思ったが。それを防ぐ手段も身につけたようだ」
「アイツ、背中にも目があるみてェだしな……。もう不意打ちも効かねェ」
エルスは苦々しげに言い、奥歯と拳へ力を込める。さきほどよりも少しは魔力素が回復したものの、まだ〝攻め〟に転じられるような余裕が彼には無い。
「とにかく、今は――。ん? 待て、この声はザグドか?」
何かを言いかけたニセルだったが、不意にザグドの名を口にする。そして彼はエルスとクレオールに視線で合図を送るや、三人が静かに走り出した――。
*
ニセルたちが辿り着いた先。大広間の奥まった壁際には、瓦礫の中に打ち棄てられたかのように埋もれている、一人のゴブリン族の姿があった。
「ザグド! 良かった、生きてたのかッ! でも酷ェ怪我だ……」
「シシッ……。こっ……、核を……」
「コア?」
ザグドの言った聞き慣れない単語に、エルスが思わず首を傾げる。
「魔水晶が……。核になって……」
絞り出すように言い、ザグドは右腕で魔水晶の在った台座を示す。大きなダメージを受けたのか、魔導義体だった彼の右腕は損壊し、肘から先が無くなっている。
「なるほどな。そういうことか」
ザグドの言葉の意味を理解したのか、ニセルが「ふっ」と息を漏らす。
「あの〝お人形〟が入っていた? じゃあ、やはりあれは……」
核の正体に見当がついたのか、クレオールの額から冷たい汗が流れ落ちる。しかし彼女は直ぐに首を振り、治癒の呪文を唱えはじめた。
「セフィルド――!」
光魔法・セフィルドが発動し、短杖の先から癒しの光の帯が伸びる。光はザグドの躰をクルクルと包み、彼の傷を僅かながらに回復させる。
「やはり効きが良くありませんわね……。もう少しだけ我慢してくださいな」
魔族の血を引くゴブリン族には、光魔法による治療効果が薄い。クレオールは手を止めて呼吸を整えた後、再びザグドにセフィルドの魔法を掛けなおした。
「申し訳ないのぜ、お嬢様……。あんな真似をしておきながら……」
「あの〝お人形〟は、貴方が研究所へ連れてきてくれたのでしょう? おかげで私、あのような巨人にならずに済みました」
ザグドに杖を翳しながら、クレオールが優しく微笑んでみせる。
「シシッ……。お見通しでしたか。面目ないのぜ……」
そう言った彼の大きな瞳から、大粒の涙が流れ落ちた。
*
「なぁ、ニセル。つまりは核ッてヤツをブッ潰しゃいいのか?」
「ああ、そうだ。あの巨体のどこかに、核となった魔水晶が在るんだろう」
「へッ、なるほどな! やっと〝勝ち〟が見えてきたぜッ!」
エルスたちはクレオールにザグドを任せ、交戦中の仲間の許へ近寄っていく。魔導生命体の攻撃は腕や脚を使った格闘戦が主体だが、アリサたちも善戦しているとは言い難い。一刻も早く、対抗策を見出さなければならない。
「問題は核の位置だな。魔水晶のサイズ的に〝頭〟ではなさそうだが」
「やっぱ、あのデケェ胴体のどッかだよな……。もう少し早く気づけてりゃ、細切れにできたかもしれねェのに」
アリサら三人は互いに上手く連係しつつ、流れるように攻撃を繰り出し続けているものの――。あの形態へ変化して以降、まともに攻撃が当たっていない。魔導生命体は三人の攻撃を悉くを回避、または無効化しているのだ。
「アリサたちの攻撃が見切られた? いや、学習してやがンのか……」
「ああ。考えたくはないが、進化しているようだ」
ニセルの口にした単語に、エルスは恐怖にも似た不快感を覚える。あの生命体は必ず倒さなければならない。――彼にはそんな気がしていた。
「とにかく核を見つけねェと。俺はアリサたちに加勢してくるぜ!」
「使うか? 武器が無いんだろう?」
ニセルは懐から暗殺の刃を取り出し、それをエルスにチラリと見せる。
「ありがとなッ! でも大丈夫だ! ちょっと試したい魔法があるんだ」
そう言ったエルスの脳裏に、ルゥランの言葉が静かに過ぎる――。
『これからの戦いに必要となるでしょう』
おそらくは彼に教わったあれこそが、この戦いの決め手となるのだろう。
「切り札というわけか。わかった、ではオレは核の割り出しを急ぐとしよう」
「ああッ! 頼んだぜッ!」
軽く互いの手を叩き合い、ニセルはクレオールとザグドの許へ、そしてエルスはアリサたちの戦う中央へ向かって一直線に駆け出していった。
*
「はあっ……、はあっ……! わたしたちの攻撃、完全に読まれてるみたい」
「ハッ……! お嬢ちゃんたち、もうバテちまったか?」
「ふふー! 正義の力を侮ってはならぬのだー!」
魔導生命体の絶対的な回避能力を前に、徐々に劣勢に追い込まれているアリサたち。彼女らは互いを鼓舞し合いつつ、なんとか強敵を押し止めている状態だ。
「皆ッ! すまねェな! レイリフォルス――ッ!」
エルスは戦場へ駆けつけるなり、アリサとミーファの付与魔法を掛けなおす。
「エルス! ありがと、でも無理しないでね?」
「大丈夫だ、おかげで魔力素も回復した! 引きつけてくれて助かったぜ!」
「おう、なんだ? 勝算でも見つかったのか?」
「ああッ! 実は――」
魔導生命体からの攻撃を躱しつつ、エルスは仲間らと〝核〟の情報を共有する。それを砕くことが可能ならば、この戦いに勝利できる。
「おー! 承知したのだ!」
「ハッ! 小賢しいニセルらしい案だが、乗るしかなさそうだな!」
「わかった! じゃあエルスは、なるべく温存しておいてね」
「無駄デス――」
活路を見出したことで、勝利の確信に燃えるエルスたち。しかし彼らに水を差すように、冷淡な声が四人の会話を遮った。
「貴方たちに、私の核は探せナイ」
「へッ、どうした!? 焦るッてことは、どうやら〝本命〟みてェだな!」
「無駄デス。駄目デス。……エラー。貴方たちが私を殺すことは不可能デス」
「うーん? なんだか怖がってるみたい?」
アリサは首を傾げながらも、剣を握る手は緩めていない。彼女の言うとおり、今の魔導生命体の言葉には、若干の違和感があったようだ。
「コワイ? 否定。――私は完全ナル存在デス。恐怖ナド私に必要ナイ。完全ナル私が不完全ナル人類に、相応しい恐怖ヲ与えてサシあげマス」
「ふふー! 正義は恐怖に屈しないのだ! ミーが悪を滅ぼすのだー!」
魔導生命体の言葉を一笑に付し、ミーファが斧を水平に構える。そんな彼女を単眼で見下ろしながら、魔導生命体は〝お手上げ〟のジェスチャをしてみせた。
「嗚呼、人類は愚かデス。マズは貴方たちを滅ぼし、それを証明いたシマス!」
「へッ、簡単に滅ぼされるかよッ! さあ皆ッ、最終決戦だ――ッ!」
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる