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第2章 ランベルトスの陰謀
第40話 生けとし存在たちの攻防戦
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圧倒的な回避能力を誇る魔導生命体に対し、攻めあぐねていたエルスたち。しかしザグドの助言もあり、ついに相手の弱点が〝核〟であることが判明した。
「愚かナル人類たちヨ! サア絶滅の時間デス!」
魔導生命体は攻撃の構えをとり、怒りと憎しみのこもった言葉を発する。その構え。その剥き出しの感情――。頭部が巨大な単眼であることと、全身が闇を纏った巨体であることを除けば、もはや人類と比しても遜色は無い。
「ハッ、大袈裟な奴だ! この世界に人類は、何人居ると思ってやがる!」
「みんなッ! 核は、あの寸胴のどこかにあるハズだッ!」
エルスは魔導生命体の太長い胴体部分を指さし仲間たちに呼びかける。それに呼応したアリサとミーファが、勇猛果敢に先陣を切ってゆく。
「いくよ、ミーファちゃんッ!」
「おー! いまこそ正義を示してやるのだー!」
魔導生命体の捨て身の〝檻〟攻撃を警戒し、主に頭や手足を狙っていた二人。しかし弱点が判明したことで、胴体へ攻撃を一点集中させる。
「アリサ、気をつけろ! また取り込もうとしてくるかもしれねェ!」
「うんっ! でも、逆にチャンスかも?」
「そう思ったけどよ、やっぱ危ねェ予感がするぜ!」
元が〝降魔の杖〟と同じ性質である以上、下手をすれば相手の仲間にされかねない。わざと敵の内部に飛び込むという戦法は、あまりにもリスクが大きいだろう。
「かしこまったのだ! 正攻法で、ボテっ腹に風穴を穿けてやるのだー!」
ミーファは垂直方向へ跳躍し、土の魔力を帯びた斧頭刃を投射する。しかし魔力素を纏った質量の塊は、魔導生命体のステップによって軽やかに躱された。
「ハッ! マヴィスト――ォ!」
敵の着地点を狙い、ジェイドが風の精霊魔法で追撃する。風の錐が左胸へ向かって直進するも、魔導生命体は上体を大きく反らすことで、風錐の威力を受け流す。
「そこッ! はあぁ――ッ!」
ジェイドが放った風の精霊魔法の風圧に乗り、高く飛びあがったアリサ。
アリサは燃え上がる剣を逆手に構え、死角となった下腹部を目がけて突き立てる――が、先に魔導生命体の膝蹴りが、先に彼女の小さな躰を捉えた。
「くうぅっ……!?」
炎の剣を手にしたまま、アリサは高速で宙を舞い、後方の壁へと激突する。
「アリサ!?」
攻撃の準備をしていたエルス。しかし彼は呪文の詠唱を中断し、慌ててアリサの許へと走る。連係は途切れてしまうことになるが、背に腹はかえられない。
*
「無駄デス。貴方たちの攻撃は通用シナイ」
哀れむような声で言いながら、魔導生命体が上体を起こす。それの腹から胸にかけて旋状の痕が残ってはいたものの、やがて跡形もなく元通りに修復される。
「ハッ! どうだかなぁ? 俺様には、しっかり効いてるように見えるぜ?」
「ふふー! また小さくなったのだ! 正義の眼は誤魔化せんのだー!」
「愚カナ……。馬鹿なこと言ウ――」
魔導生命体は長い左腕をゆっくりと動かし、自身の胸部に手を当てる。
確かに体積の低下を示すかのように、魔導生命体の円筒形だった胴体には、わずかな括れが生じている。無機質だった音声にも何時しか抑揚がついており、その声質の高さも相まって、どことなく〝女性〟に見えなくもない。
「認めナイ……。私は生存スル! 戦いに勝利スルのデス!」
勝利の宣言と共に、単眼が怪しげな光を発する。その直後、魔導生命体を中心として、全方位へ向けての巨大な念動波が放たれた。
「シシッ! お嬢様、危ないのぜ……!」
強力な攻撃を察知したザグドが、クレオールの前で両腕を広げる、小柄なゴブリン族の彼ではあるが、膝をついた彼女の〝盾〟となるには充分だ。
「あっ、ザグド! ぅくっ……!」
ザグドの無茶を制止すべく、クレオールが立ち上がろうとするも――。押し寄せる力の奔流に圧され、まったく動くことができない。
「グアッ! ガガアア――ッ!」
「こっ……、このままでは……」
耐えてこそはいるが、ザグドの傷は癒えてはおらず、右腕の魔導義体も失っている状態だ。この状況を打破すべく、クレオールは〝結界〟の呪文を詠唱する。
「マルベルド――!」
光魔法・マルベルドが発動し、光の結界がクレオールの周囲に展開される。光壁によって遮られ、二人は念動波による曝露から一時的に解放されることができた。
「ザグド、大丈夫ですか? 皆さまの様子は……」
クレオールが周囲の仲間へ目を向ける。程度の差こそあるものの、皆は一様に身を伏せながら、この謎の力に耐えているといった状況だ。
「私が……、なんとかしなくては……!」
クレオールは立ち上がり、右手で真っ直ぐに短杖を構える。
「せめて敵の注意だけでも……! エンギル――!」
光魔法によって生じた複数の光輪が、魔導生命体へ向かって飛ぶ。しかし光は闇の体内へと吸い込まれ、再び〝甲高い音〟を周囲一帯に響かせた。
「くっ! やはり――」
「その攻撃は無効デスよ。お姉サマ?」
「えっ……?」
目を見開いたクレオールの顔を、魔導生命体の青い単眼が見つめている。
「クレオール! 逃げるのだ!」
危機を察したミーファが叫び、闇色の脚に自慢の斧を振り下ろす。しかし、魔力を奪われた斧刃は〝闇〟をすり抜け、硬い石床を砕いたのみだ。
その直後、魔導生命体の瞳からクレオールへ向けて、矢のような光線が放たれた。
「お嬢様ァ! ウォォォ――ッ!」
光がクレオールを貫く刹那。ふらりと立ち上がったザグドが渾身の体当たりを実行し、彼女を射線上から突き飛ばした。
「あっ……! ザグド!」
石の床に膝をつき、クレオールが光へ顔を向ける。強烈な閃光とザグドの悲鳴。彼女は固く目を瞑じたまま、ただただ祈ることしかできない。
そして光が治まった後。クレオールの視界に最初に飛び込んできた光景は、さきほどの光線によって右腕と右脚を灼かれ、頽れたザグドの姿だった。
*
「エルス! 大丈夫?」
アリサに抱き起こされながら、エルスが薄らと目を開ける。
「イテテ……。クソッ、また念動波を喰らッちまった……」
「ごめんね、わたしが失敗したせいで……」
連係攻撃に失敗し、魔導生命体の反撃を受けてしまったアリサであったが、幸いにも彼女に目立った負傷はないようだ。そんなアリサは治癒魔法を発動し、倒れたままのエルスに手をかざしている。
「ありがとな……。みんなは無事か?」
「うん。でも、さっきすごい光がクレオールさんの方に……」
「なッ、なんだって!?」
瓦礫の中から身を起こし、エルスが大広間の右側へと視線を遣る。そちらではクレオールとニセルが足元を見つめ、何かを話しているようだ。
「よかった……。クレオールは大丈夫そうだぜ……」
再びアリサに礼を言い、エルスが自力で立ち上がる。彼女の治療の甲斐あって、目立った外傷は癒えたものの――。体内にもダメージを負ってしまったのか、口や耳などからの出血も見られ、時おり脇腹を押さえている。
魔導生命体の周囲では、ミーファとジェイドが応戦を続けている。しかし、さきほどの念動波によってダメージを受けたのか、二人の動きも鈍りはじめていた。
「ミーファたちに加勢するぜ。アリサ、いけるか?」
「うん、大丈夫。行こっ!」
言いながらアリサは剣を抜き、再び前線に立つべく戦場へと走る。そんな彼女の勇ましい背中を、エルスも急いで追いかけた。
*
「ザグド……。私のせいで……」
ザグドは魔導義体の左腕に加え、生身の右腕と右脚をも失ったことで、紫色の血溜まりの中に横たわっている。彼の前に跪き、クレオールは目頭を押さえた。
「クレオール。いまは放っておけ。敵を倒すことだけを考えるんだ」
「ニセルさま、そんな――!」
冷徹に言い放つニセルに対し、クレオールが抗議の眼差しを向ける。しかし彼の表情を認めるや、彼女は続く言葉を呑み込んだ。この場に居る全員の中でザグドと最も絆が深いのは、他ならぬニセルなのだ。
「こちらも長くは保ちそうにない。早く核を見つけなければ」
「核といえば……。あの、ニセルさまは〝耳〟がよろしいのですよね?」
「ああ。特別製だからな」
魔導生命体の正体はともかく、核の位置には心当たりがある。クレオールは少しの逡巡をみせた後、ニセルに真剣な眼差しを向けた。
「それでは私が光魔法を放った際の、〝音〟が鳴った位置などは?」
「あの〝甲高い音〟か? それなら大体は特定できるが」
首を傾げるニセルに対し、クレオールが自身の考察を述べはじめた。そんな彼女の言葉を聞き終え、ニセルが自身の顎に指を当てる。
「ふっ。なるほどな。可能性は高い――。いや、それで間違いないだろう」
「どうにか敵に気づかれずに、エルスたちへ伝えないと……」
「わかった。オレが伝えよう。まだ〝切り札〟が残っていてね」
ニヤリと口元を上げながら、ニセルが左手の指を自身の額へと押し当てる。そして彼は固く目を瞑じ、じっと意識を集中させはじめた。
*
「もう終了しまショウ。貴方たちに勝利はアリマセン」
「ハッ! 随分とお喋りになったモンだな!」
魔導生命体の攻撃は激しさを増し、体術の隙を埋めるかのように細い光線が発射される。ジェイドはそれらを躱し続けてはいるものの、いくらかは被弾してしまったらしく、彼にも流血が目立ちはじめていた。
「ジェイド! ミーファ!」
「ご主人さま! アリサ! 無事でよかったのだ!」
駆けつけてきたエルスの声に、ミーファが嬉しそうな声を上げる。続いて魔導生命体が青色の単眼を、ぐるりとエルスの方へと向けた。
「群れたところで無意味デス。敗北を受け入れナサイ」
「へッ、負けられるかよッ! まだ最終決戦は始まったばかりだぜッ!」
エルスは不敵な笑みを浮かべながら、巨大な目玉を指さしてみせる。そんな大見得とは裏腹に、彼の額からは冷たい汗が絶え間なく流れ落ちている。
すると、その途端――。
エルスの頭の中に、突然〝声〟が響きはじめた。
《エルス。みんな。聞こえるか? 弱点の位置が判明したぞ》
「愚かナル人類たちヨ! サア絶滅の時間デス!」
魔導生命体は攻撃の構えをとり、怒りと憎しみのこもった言葉を発する。その構え。その剥き出しの感情――。頭部が巨大な単眼であることと、全身が闇を纏った巨体であることを除けば、もはや人類と比しても遜色は無い。
「ハッ、大袈裟な奴だ! この世界に人類は、何人居ると思ってやがる!」
「みんなッ! 核は、あの寸胴のどこかにあるハズだッ!」
エルスは魔導生命体の太長い胴体部分を指さし仲間たちに呼びかける。それに呼応したアリサとミーファが、勇猛果敢に先陣を切ってゆく。
「いくよ、ミーファちゃんッ!」
「おー! いまこそ正義を示してやるのだー!」
魔導生命体の捨て身の〝檻〟攻撃を警戒し、主に頭や手足を狙っていた二人。しかし弱点が判明したことで、胴体へ攻撃を一点集中させる。
「アリサ、気をつけろ! また取り込もうとしてくるかもしれねェ!」
「うんっ! でも、逆にチャンスかも?」
「そう思ったけどよ、やっぱ危ねェ予感がするぜ!」
元が〝降魔の杖〟と同じ性質である以上、下手をすれば相手の仲間にされかねない。わざと敵の内部に飛び込むという戦法は、あまりにもリスクが大きいだろう。
「かしこまったのだ! 正攻法で、ボテっ腹に風穴を穿けてやるのだー!」
ミーファは垂直方向へ跳躍し、土の魔力を帯びた斧頭刃を投射する。しかし魔力素を纏った質量の塊は、魔導生命体のステップによって軽やかに躱された。
「ハッ! マヴィスト――ォ!」
敵の着地点を狙い、ジェイドが風の精霊魔法で追撃する。風の錐が左胸へ向かって直進するも、魔導生命体は上体を大きく反らすことで、風錐の威力を受け流す。
「そこッ! はあぁ――ッ!」
ジェイドが放った風の精霊魔法の風圧に乗り、高く飛びあがったアリサ。
アリサは燃え上がる剣を逆手に構え、死角となった下腹部を目がけて突き立てる――が、先に魔導生命体の膝蹴りが、先に彼女の小さな躰を捉えた。
「くうぅっ……!?」
炎の剣を手にしたまま、アリサは高速で宙を舞い、後方の壁へと激突する。
「アリサ!?」
攻撃の準備をしていたエルス。しかし彼は呪文の詠唱を中断し、慌ててアリサの許へと走る。連係は途切れてしまうことになるが、背に腹はかえられない。
*
「無駄デス。貴方たちの攻撃は通用シナイ」
哀れむような声で言いながら、魔導生命体が上体を起こす。それの腹から胸にかけて旋状の痕が残ってはいたものの、やがて跡形もなく元通りに修復される。
「ハッ! どうだかなぁ? 俺様には、しっかり効いてるように見えるぜ?」
「ふふー! また小さくなったのだ! 正義の眼は誤魔化せんのだー!」
「愚カナ……。馬鹿なこと言ウ――」
魔導生命体は長い左腕をゆっくりと動かし、自身の胸部に手を当てる。
確かに体積の低下を示すかのように、魔導生命体の円筒形だった胴体には、わずかな括れが生じている。無機質だった音声にも何時しか抑揚がついており、その声質の高さも相まって、どことなく〝女性〟に見えなくもない。
「認めナイ……。私は生存スル! 戦いに勝利スルのデス!」
勝利の宣言と共に、単眼が怪しげな光を発する。その直後、魔導生命体を中心として、全方位へ向けての巨大な念動波が放たれた。
「シシッ! お嬢様、危ないのぜ……!」
強力な攻撃を察知したザグドが、クレオールの前で両腕を広げる、小柄なゴブリン族の彼ではあるが、膝をついた彼女の〝盾〟となるには充分だ。
「あっ、ザグド! ぅくっ……!」
ザグドの無茶を制止すべく、クレオールが立ち上がろうとするも――。押し寄せる力の奔流に圧され、まったく動くことができない。
「グアッ! ガガアア――ッ!」
「こっ……、このままでは……」
耐えてこそはいるが、ザグドの傷は癒えてはおらず、右腕の魔導義体も失っている状態だ。この状況を打破すべく、クレオールは〝結界〟の呪文を詠唱する。
「マルベルド――!」
光魔法・マルベルドが発動し、光の結界がクレオールの周囲に展開される。光壁によって遮られ、二人は念動波による曝露から一時的に解放されることができた。
「ザグド、大丈夫ですか? 皆さまの様子は……」
クレオールが周囲の仲間へ目を向ける。程度の差こそあるものの、皆は一様に身を伏せながら、この謎の力に耐えているといった状況だ。
「私が……、なんとかしなくては……!」
クレオールは立ち上がり、右手で真っ直ぐに短杖を構える。
「せめて敵の注意だけでも……! エンギル――!」
光魔法によって生じた複数の光輪が、魔導生命体へ向かって飛ぶ。しかし光は闇の体内へと吸い込まれ、再び〝甲高い音〟を周囲一帯に響かせた。
「くっ! やはり――」
「その攻撃は無効デスよ。お姉サマ?」
「えっ……?」
目を見開いたクレオールの顔を、魔導生命体の青い単眼が見つめている。
「クレオール! 逃げるのだ!」
危機を察したミーファが叫び、闇色の脚に自慢の斧を振り下ろす。しかし、魔力を奪われた斧刃は〝闇〟をすり抜け、硬い石床を砕いたのみだ。
その直後、魔導生命体の瞳からクレオールへ向けて、矢のような光線が放たれた。
「お嬢様ァ! ウォォォ――ッ!」
光がクレオールを貫く刹那。ふらりと立ち上がったザグドが渾身の体当たりを実行し、彼女を射線上から突き飛ばした。
「あっ……! ザグド!」
石の床に膝をつき、クレオールが光へ顔を向ける。強烈な閃光とザグドの悲鳴。彼女は固く目を瞑じたまま、ただただ祈ることしかできない。
そして光が治まった後。クレオールの視界に最初に飛び込んできた光景は、さきほどの光線によって右腕と右脚を灼かれ、頽れたザグドの姿だった。
*
「エルス! 大丈夫?」
アリサに抱き起こされながら、エルスが薄らと目を開ける。
「イテテ……。クソッ、また念動波を喰らッちまった……」
「ごめんね、わたしが失敗したせいで……」
連係攻撃に失敗し、魔導生命体の反撃を受けてしまったアリサであったが、幸いにも彼女に目立った負傷はないようだ。そんなアリサは治癒魔法を発動し、倒れたままのエルスに手をかざしている。
「ありがとな……。みんなは無事か?」
「うん。でも、さっきすごい光がクレオールさんの方に……」
「なッ、なんだって!?」
瓦礫の中から身を起こし、エルスが大広間の右側へと視線を遣る。そちらではクレオールとニセルが足元を見つめ、何かを話しているようだ。
「よかった……。クレオールは大丈夫そうだぜ……」
再びアリサに礼を言い、エルスが自力で立ち上がる。彼女の治療の甲斐あって、目立った外傷は癒えたものの――。体内にもダメージを負ってしまったのか、口や耳などからの出血も見られ、時おり脇腹を押さえている。
魔導生命体の周囲では、ミーファとジェイドが応戦を続けている。しかし、さきほどの念動波によってダメージを受けたのか、二人の動きも鈍りはじめていた。
「ミーファたちに加勢するぜ。アリサ、いけるか?」
「うん、大丈夫。行こっ!」
言いながらアリサは剣を抜き、再び前線に立つべく戦場へと走る。そんな彼女の勇ましい背中を、エルスも急いで追いかけた。
*
「ザグド……。私のせいで……」
ザグドは魔導義体の左腕に加え、生身の右腕と右脚をも失ったことで、紫色の血溜まりの中に横たわっている。彼の前に跪き、クレオールは目頭を押さえた。
「クレオール。いまは放っておけ。敵を倒すことだけを考えるんだ」
「ニセルさま、そんな――!」
冷徹に言い放つニセルに対し、クレオールが抗議の眼差しを向ける。しかし彼の表情を認めるや、彼女は続く言葉を呑み込んだ。この場に居る全員の中でザグドと最も絆が深いのは、他ならぬニセルなのだ。
「こちらも長くは保ちそうにない。早く核を見つけなければ」
「核といえば……。あの、ニセルさまは〝耳〟がよろしいのですよね?」
「ああ。特別製だからな」
魔導生命体の正体はともかく、核の位置には心当たりがある。クレオールは少しの逡巡をみせた後、ニセルに真剣な眼差しを向けた。
「それでは私が光魔法を放った際の、〝音〟が鳴った位置などは?」
「あの〝甲高い音〟か? それなら大体は特定できるが」
首を傾げるニセルに対し、クレオールが自身の考察を述べはじめた。そんな彼女の言葉を聞き終え、ニセルが自身の顎に指を当てる。
「ふっ。なるほどな。可能性は高い――。いや、それで間違いないだろう」
「どうにか敵に気づかれずに、エルスたちへ伝えないと……」
「わかった。オレが伝えよう。まだ〝切り札〟が残っていてね」
ニヤリと口元を上げながら、ニセルが左手の指を自身の額へと押し当てる。そして彼は固く目を瞑じ、じっと意識を集中させはじめた。
*
「もう終了しまショウ。貴方たちに勝利はアリマセン」
「ハッ! 随分とお喋りになったモンだな!」
魔導生命体の攻撃は激しさを増し、体術の隙を埋めるかのように細い光線が発射される。ジェイドはそれらを躱し続けてはいるものの、いくらかは被弾してしまったらしく、彼にも流血が目立ちはじめていた。
「ジェイド! ミーファ!」
「ご主人さま! アリサ! 無事でよかったのだ!」
駆けつけてきたエルスの声に、ミーファが嬉しそうな声を上げる。続いて魔導生命体が青色の単眼を、ぐるりとエルスの方へと向けた。
「群れたところで無意味デス。敗北を受け入れナサイ」
「へッ、負けられるかよッ! まだ最終決戦は始まったばかりだぜッ!」
エルスは不敵な笑みを浮かべながら、巨大な目玉を指さしてみせる。そんな大見得とは裏腹に、彼の額からは冷たい汗が絶え間なく流れ落ちている。
すると、その途端――。
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