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第2章 ランベルトスの陰謀
第41話 揺蕩いし命の弥終に
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襲いかかる闇の手足と、降り注ぐ光の雨。
魔導生命体の猛攻を躱しながら、エルスは仲間たちへと視線を遣る。
《まだ間に合わせの機能でね。一方的に話させてもらうぞ》
頭の中に響く声。それは紛れもなくニセルのものだ。皆の元へも届いているのか、仲間たちは一様に耳や頭を気にしている。
《いいか? おそらく核は、ヤツの下腹部にある》
意味を理解できなかったのか、首を傾げるエルスに対し、アリサが自身の子宮のあたりを指してみせた。エルスは気恥ずかしそう頭を掻き、彼女に対して礼を述べる。
「えー、つまりだなッ……。そこをブッた斬ればいいってことかッ!」
「そういえば、さっきわたしが狙ったのもそこだったね。かなり警戒してたのかも」
「ナニを喚いてイルノ? 貴方たちは、ここで終了する運命デス!」
これまでの〝降魔の杖〟とは違い、魔導生命体には知能がある。相手に作戦を気取られぬよう、エルスは道化を演じながら、ニセルからの指示を待つ。
「チッ! まだやられてたまるかよッ!」
《ヤツの足を止めてくれ。オレが〝切り札〟で、ヤツの上半身を吹き飛ばす》
「絶対に止めてやるッ!」
エルスは大声を上げながら、敵に対して突撃を繰り返す。
《最後はエルス、お前さんが決めろ。ヤツに躰に斬り込むんだ》
魔導生命体から距離を取り、エルスは親指を立ててみせた。
*
「ふっ、どうにか伝わったようだ」
「すごい……。私にも聞こえましたわ!」
クレオールは感激した様子でニセルの顔を見上げ――そして、絶句した。彼の左眼や左耳からは真っ赤な血が流れ出し、わずかに焦げ臭さも感じる。
「試作段階らしくてね。まっ、これくらい問題ないさ」
「あっ……。せめて治療を――」
呪文を唱えようとしたクレオールを、ニセルが右手を挙げて制止する。
「いや、これはドミナしか直せない。さて、オレも向かうとしよう」
「わかりました……。必ず、生きて帰りましょう……!」
クレオールの言葉に大きく頷き、ニセルは敵の背後へと近づいた。
「ハッ! 俺様にもなぁ……、とっておきの切り札があるんだよ!」
「ふっふー! ミーが足止めしてやるのだー!」
「愚カナ。貴方たちの勝率は、常に0パーセントデス」
ジェイドは攻撃を躱しながら、エルスへ目配せをする。
それに気づいた彼は小さく頷き、二人に合図を返す。
「アリサ。あとで俺を、思いっきり放り投げてくれ!」
「えっ? うん、わかった!」
「よーし、いくぜ。――今度こそ最終決戦だッ!」
このエルスからの掛け声によって、仲間たちが一斉に作戦を開始する。
「ミーたちの正義を思い知るのだー! ずっどーん!」
まずはミーファが飛びあがり、魔導生命体の足元を目掛けて斧を振り下ろす。分離した斧頭刃が闇色の足をすり抜け、盛大に床石を砕く。
「そぉりゃー! 正義の大地に沈むがいいのだー!」
ミーファは巨大な魚を釣り上げるかの如く手元の柄を振り回し、相手の足元を抉り取ってゆく。たまらず体勢を崩し、魔導生命体の両足が深く地面へと沈み込む。
「さあ! 我が右腕に秘められし力を見よ! レイヴィスト――ォ!」
ジェイドは魔導義体と化した自身の右腕に対し、直接〝風の魔法剣〟を付与したようだ。硬質な金属で造られた腕が、風の魔力を纏う。
さらには彼の右手首から先が、高速で回転をしはじめた。
「おー! それはまさに〝ドラムダ式掘削槍〟なのだー!」
「喰らいやがれ! 必殺のォ……! 穿孔の右手ォ――!」
ジェイドは全身に風の結界を纏い、魔導生命体へ向かって飛翔する。相手は右腕で彼を振り払おうとするも、襲いくる旋風によって、右腕は無残にも引き千切られた。
「馬鹿ナッ! こんなふざけタ……!」
「どおおォりゃあっ――! よォーっし! 今だ、相棒!」
魔導生命体の右腕から右肩までを吹き散らし、ジェイドが敵から距離を取る。すでに敵の背後では、ニセルが真っ直ぐに自身の左腕を構えていた。
「魔導砲――!」
ニセルの声に反応し、左の掌から凄まじい閃光が発射された。魔導砲の光は魔導生命体の光線にも引けをとらず、それの左半身が一瞬にして蒸発する。
しかし、同時に多大なる負荷によって、ニセルの左腕も爆発を起こす――。
「今だッ! 頼むぜアリサ!」
「いッ、けえぇえ――ッ!」
アリサはエルスの身体を軽々と担ぎ上げ、魔導生命体へ向かって投げ飛ばした。高速で空中を舞いながら、エルスは切り札となる〝闇の呪文〟を唱える。
「ゼルデバルド――ッ!」
闇魔法・ゼルデバルドが発動し、エルスの右手に暗黒の剣が出現した。周囲の瘴気を吸収したのか、今回のそれは大型剣ほどの実体で形成されている。
エルスは剣を両手で構え、体内に隠された核までの道を斬り拓いてゆく。
「これかッ……!? ついに見つけたぞッ! これで戦闘終――」
暗闇の中に沈む、見覚えのある巨大な魔水晶。その内部、闇に突き立った〝十字架〟の根元には、青く小さな二つの目玉が浮かんでいる。
「私は、まだ……!」
闇の汚泥の中に浮かぶ、小さな〝口〟のようなもの。さらには小さな手までも闇から生え伸び、エルスを拒絶するかのように、必死に両手を振っている。
「なんだ……? なんなんだ、こいつは……」
暗黒の剣を振り上げたまま、エルスの動きが硬直する。彼の両目は見開かれ、顎からは汗の粒が滴り落ちてゆく。
「エルス――ッ!」
闇の外側から、アリサの声が響いてくる。
エルスが頭上へ目を遣ると、彼を包み込むかのように、闇が出口を塞ぎはじめていた。慌てて足元へ視線を戻すと、小さな口がニタリと歪み、笑みの形を成している。
仲間たちが繋いでくれた勝機。
迷えばエルスが敗者となる。
「チクショウッ! 戦闘ォ! 終了――ッ!」
エルスは意を決し、暗黒の剣を足元へと突き立てた。魔水晶は脆くも砕け、闇に浮かんだ新たなる生命は、より強き闇によって急激な攪拌を開始する。
「私はっ! ただ生き――! グャアアア――!」
大広間に轟く断末魔――。
それは造られし生命の弥終であり、最期の産声となった。
やがて魔導生命体の巨体は完全に消滅し、エルスは砕けた床石へと降り立った。
*
「エルス! 大丈夫……?」
「ああ、なんとかなッ! みんなのおかげで、どうにか勝てたぜッ!」
「おー! ついに正義が勝利したのだ!」
ミーファが高らかに勝鬨をあげるや、仲間たちからも喜びの声が溢れだす。
「ハッハッハ! 見事だったぞ、エルス!」
「うんっ! ちょっとびっくりしたけどねぇ」
「ああッ、悪ィ! ニセルたちは?」
エルスは周囲の様子を確認する。すると広間の右手側に、ニセルとクレオールの姿が見えた。二人は合図をしたのを見遣り、一同もそちらへと移動する。
「その腕は……。さっきのスゲェ〝光〟のせいか?」
「ああ。――まっ、直せば問題ないさ。それより、見事だったぞ。エルス」
「ありがとうございます、エルス。……あれを、倒していただいて……」
微笑むクレオールではあるが、どことなく表情が引きつって見える。
そんなクレオールの肩を、エルスが優しくポンポンと叩く。彼には彼女の表情の意味を、なんとなく理解することができたのだろう。
「あっ。ザグドさん……?」
アリサは二人の足元に横たわっているゴブリンの姿に気づく。ボロボロになった彼の胴体には、もはや頭と左脚しか残っていない。
「彼は……。この私を庇って……」
「まだ息はある。しかし、もう間に合わんだろう。いっそ楽に――」
「まッ! 待ってくれニセル!」
エルスは慌てて声を荒げ、おもむろにザグドを抱え上げる。
「急いで帰ろう! 仲間……、なんだよな……? ニセル」
「エルス。……ああ、そうだな。ありがとう」
右手に握りしめていた〝刃〟を仕舞い、ニセルが静かに微笑んでみせる。エルスはそんな彼に、抱えていたザグドの躰を託した。
「おいエルス! こいつを使え!」
ジェイドが放り投げてきた指輪を、エルスが左手で掴み取る。どうやら、この指輪には〝風の精霊石〟が嵌め込まれているようだ。
「俺様は研究所の探索を続ける! 盗賊が手ぶらでは帰れんからな!」
「ジェイド! わかった、ありがとなッ!」
ジェイドは親指を立て、ニヤリと口元を上げてみせる。続いて彼は〝移動魔法〟を発動し、通路の奥へと消えていった。
そしてエルスはザグドを連れ帰るため、急いで仲間たちを周囲に集める。
「アリサ、クレオール! ザグドに治療を頼む! それじゃ行くぜ!」
「わかった!」
「はい!」
エルスは指輪を握りしめ、魔力素を増幅させる言葉を唱える。さらに〝運搬魔法〟の呪文を詠唱するや、彼の銀髪と瞳が緑色の光を放ちはじめた。
「風の力よ、此処に顕現せよッ! マフレイト――ッ!」
風の精霊魔法・マフレイトが発動し、風の結界がエルスたちを包み込む。床から僅かに浮遊した結界は広間を抜けて出口を飛び出し、高速で移動しはじめた。
「シシッ……。皆さま、申し訳ねえのぜ……」
ニセルに抱えられながら、ザグドが弱々しげに薄目を開ける。彼の生命維持のため、アリサとクレオールが懸命に治癒魔法を掛け続けている。
「もう少しだけ耐えてくれよ! すぐにドミナさんの所へ連れてくからさッ!」
「ふふー! ご主人さまに、ミーの魔力素もプレゼントするのだー!」
不安定な結界の中、ミーファが軽々と跳躍し、エルスの前面に抱きついた。
「うおッ! 危ねェ……! あれ? でも本当に、制御が楽になった気がするぜ」
術の安定を確信し、エルスはさらに出力を上げ、移動の速度を上昇させる。やがて反り上がった地平線の先に、ランベルトスの街並みが見えてきた。
魔導生命体の猛攻を躱しながら、エルスは仲間たちへと視線を遣る。
《まだ間に合わせの機能でね。一方的に話させてもらうぞ》
頭の中に響く声。それは紛れもなくニセルのものだ。皆の元へも届いているのか、仲間たちは一様に耳や頭を気にしている。
《いいか? おそらく核は、ヤツの下腹部にある》
意味を理解できなかったのか、首を傾げるエルスに対し、アリサが自身の子宮のあたりを指してみせた。エルスは気恥ずかしそう頭を掻き、彼女に対して礼を述べる。
「えー、つまりだなッ……。そこをブッた斬ればいいってことかッ!」
「そういえば、さっきわたしが狙ったのもそこだったね。かなり警戒してたのかも」
「ナニを喚いてイルノ? 貴方たちは、ここで終了する運命デス!」
これまでの〝降魔の杖〟とは違い、魔導生命体には知能がある。相手に作戦を気取られぬよう、エルスは道化を演じながら、ニセルからの指示を待つ。
「チッ! まだやられてたまるかよッ!」
《ヤツの足を止めてくれ。オレが〝切り札〟で、ヤツの上半身を吹き飛ばす》
「絶対に止めてやるッ!」
エルスは大声を上げながら、敵に対して突撃を繰り返す。
《最後はエルス、お前さんが決めろ。ヤツに躰に斬り込むんだ》
魔導生命体から距離を取り、エルスは親指を立ててみせた。
*
「ふっ、どうにか伝わったようだ」
「すごい……。私にも聞こえましたわ!」
クレオールは感激した様子でニセルの顔を見上げ――そして、絶句した。彼の左眼や左耳からは真っ赤な血が流れ出し、わずかに焦げ臭さも感じる。
「試作段階らしくてね。まっ、これくらい問題ないさ」
「あっ……。せめて治療を――」
呪文を唱えようとしたクレオールを、ニセルが右手を挙げて制止する。
「いや、これはドミナしか直せない。さて、オレも向かうとしよう」
「わかりました……。必ず、生きて帰りましょう……!」
クレオールの言葉に大きく頷き、ニセルは敵の背後へと近づいた。
「ハッ! 俺様にもなぁ……、とっておきの切り札があるんだよ!」
「ふっふー! ミーが足止めしてやるのだー!」
「愚カナ。貴方たちの勝率は、常に0パーセントデス」
ジェイドは攻撃を躱しながら、エルスへ目配せをする。
それに気づいた彼は小さく頷き、二人に合図を返す。
「アリサ。あとで俺を、思いっきり放り投げてくれ!」
「えっ? うん、わかった!」
「よーし、いくぜ。――今度こそ最終決戦だッ!」
このエルスからの掛け声によって、仲間たちが一斉に作戦を開始する。
「ミーたちの正義を思い知るのだー! ずっどーん!」
まずはミーファが飛びあがり、魔導生命体の足元を目掛けて斧を振り下ろす。分離した斧頭刃が闇色の足をすり抜け、盛大に床石を砕く。
「そぉりゃー! 正義の大地に沈むがいいのだー!」
ミーファは巨大な魚を釣り上げるかの如く手元の柄を振り回し、相手の足元を抉り取ってゆく。たまらず体勢を崩し、魔導生命体の両足が深く地面へと沈み込む。
「さあ! 我が右腕に秘められし力を見よ! レイヴィスト――ォ!」
ジェイドは魔導義体と化した自身の右腕に対し、直接〝風の魔法剣〟を付与したようだ。硬質な金属で造られた腕が、風の魔力を纏う。
さらには彼の右手首から先が、高速で回転をしはじめた。
「おー! それはまさに〝ドラムダ式掘削槍〟なのだー!」
「喰らいやがれ! 必殺のォ……! 穿孔の右手ォ――!」
ジェイドは全身に風の結界を纏い、魔導生命体へ向かって飛翔する。相手は右腕で彼を振り払おうとするも、襲いくる旋風によって、右腕は無残にも引き千切られた。
「馬鹿ナッ! こんなふざけタ……!」
「どおおォりゃあっ――! よォーっし! 今だ、相棒!」
魔導生命体の右腕から右肩までを吹き散らし、ジェイドが敵から距離を取る。すでに敵の背後では、ニセルが真っ直ぐに自身の左腕を構えていた。
「魔導砲――!」
ニセルの声に反応し、左の掌から凄まじい閃光が発射された。魔導砲の光は魔導生命体の光線にも引けをとらず、それの左半身が一瞬にして蒸発する。
しかし、同時に多大なる負荷によって、ニセルの左腕も爆発を起こす――。
「今だッ! 頼むぜアリサ!」
「いッ、けえぇえ――ッ!」
アリサはエルスの身体を軽々と担ぎ上げ、魔導生命体へ向かって投げ飛ばした。高速で空中を舞いながら、エルスは切り札となる〝闇の呪文〟を唱える。
「ゼルデバルド――ッ!」
闇魔法・ゼルデバルドが発動し、エルスの右手に暗黒の剣が出現した。周囲の瘴気を吸収したのか、今回のそれは大型剣ほどの実体で形成されている。
エルスは剣を両手で構え、体内に隠された核までの道を斬り拓いてゆく。
「これかッ……!? ついに見つけたぞッ! これで戦闘終――」
暗闇の中に沈む、見覚えのある巨大な魔水晶。その内部、闇に突き立った〝十字架〟の根元には、青く小さな二つの目玉が浮かんでいる。
「私は、まだ……!」
闇の汚泥の中に浮かぶ、小さな〝口〟のようなもの。さらには小さな手までも闇から生え伸び、エルスを拒絶するかのように、必死に両手を振っている。
「なんだ……? なんなんだ、こいつは……」
暗黒の剣を振り上げたまま、エルスの動きが硬直する。彼の両目は見開かれ、顎からは汗の粒が滴り落ちてゆく。
「エルス――ッ!」
闇の外側から、アリサの声が響いてくる。
エルスが頭上へ目を遣ると、彼を包み込むかのように、闇が出口を塞ぎはじめていた。慌てて足元へ視線を戻すと、小さな口がニタリと歪み、笑みの形を成している。
仲間たちが繋いでくれた勝機。
迷えばエルスが敗者となる。
「チクショウッ! 戦闘ォ! 終了――ッ!」
エルスは意を決し、暗黒の剣を足元へと突き立てた。魔水晶は脆くも砕け、闇に浮かんだ新たなる生命は、より強き闇によって急激な攪拌を開始する。
「私はっ! ただ生き――! グャアアア――!」
大広間に轟く断末魔――。
それは造られし生命の弥終であり、最期の産声となった。
やがて魔導生命体の巨体は完全に消滅し、エルスは砕けた床石へと降り立った。
*
「エルス! 大丈夫……?」
「ああ、なんとかなッ! みんなのおかげで、どうにか勝てたぜッ!」
「おー! ついに正義が勝利したのだ!」
ミーファが高らかに勝鬨をあげるや、仲間たちからも喜びの声が溢れだす。
「ハッハッハ! 見事だったぞ、エルス!」
「うんっ! ちょっとびっくりしたけどねぇ」
「ああッ、悪ィ! ニセルたちは?」
エルスは周囲の様子を確認する。すると広間の右手側に、ニセルとクレオールの姿が見えた。二人は合図をしたのを見遣り、一同もそちらへと移動する。
「その腕は……。さっきのスゲェ〝光〟のせいか?」
「ああ。――まっ、直せば問題ないさ。それより、見事だったぞ。エルス」
「ありがとうございます、エルス。……あれを、倒していただいて……」
微笑むクレオールではあるが、どことなく表情が引きつって見える。
そんなクレオールの肩を、エルスが優しくポンポンと叩く。彼には彼女の表情の意味を、なんとなく理解することができたのだろう。
「あっ。ザグドさん……?」
アリサは二人の足元に横たわっているゴブリンの姿に気づく。ボロボロになった彼の胴体には、もはや頭と左脚しか残っていない。
「彼は……。この私を庇って……」
「まだ息はある。しかし、もう間に合わんだろう。いっそ楽に――」
「まッ! 待ってくれニセル!」
エルスは慌てて声を荒げ、おもむろにザグドを抱え上げる。
「急いで帰ろう! 仲間……、なんだよな……? ニセル」
「エルス。……ああ、そうだな。ありがとう」
右手に握りしめていた〝刃〟を仕舞い、ニセルが静かに微笑んでみせる。エルスはそんな彼に、抱えていたザグドの躰を託した。
「おいエルス! こいつを使え!」
ジェイドが放り投げてきた指輪を、エルスが左手で掴み取る。どうやら、この指輪には〝風の精霊石〟が嵌め込まれているようだ。
「俺様は研究所の探索を続ける! 盗賊が手ぶらでは帰れんからな!」
「ジェイド! わかった、ありがとなッ!」
ジェイドは親指を立て、ニヤリと口元を上げてみせる。続いて彼は〝移動魔法〟を発動し、通路の奥へと消えていった。
そしてエルスはザグドを連れ帰るため、急いで仲間たちを周囲に集める。
「アリサ、クレオール! ザグドに治療を頼む! それじゃ行くぜ!」
「わかった!」
「はい!」
エルスは指輪を握りしめ、魔力素を増幅させる言葉を唱える。さらに〝運搬魔法〟の呪文を詠唱するや、彼の銀髪と瞳が緑色の光を放ちはじめた。
「風の力よ、此処に顕現せよッ! マフレイト――ッ!」
風の精霊魔法・マフレイトが発動し、風の結界がエルスたちを包み込む。床から僅かに浮遊した結界は広間を抜けて出口を飛び出し、高速で移動しはじめた。
「シシッ……。皆さま、申し訳ねえのぜ……」
ニセルに抱えられながら、ザグドが弱々しげに薄目を開ける。彼の生命維持のため、アリサとクレオールが懸命に治癒魔法を掛け続けている。
「もう少しだけ耐えてくれよ! すぐにドミナさんの所へ連れてくからさッ!」
「ふふー! ご主人さまに、ミーの魔力素もプレゼントするのだー!」
不安定な結界の中、ミーファが軽々と跳躍し、エルスの前面に抱きついた。
「うおッ! 危ねェ……! あれ? でも本当に、制御が楽になった気がするぜ」
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