8月のサバイバー~ヘンゼル&グレーテルのお留守番チャレンジ~

壱邑なお

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【番外編】ほしこよい 後編⠀

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「付き合いませんっ――!」
 一瞬固まった後で、きっぱりと否定した立花大雅たいが
 
「そう、なの?」
「『今は部活、バレー部に集中したいから』って、いつも通り断った」
「そっか――立花くん、『「次期正セッターの座」を、他の部員と争ってる』って言ってたよね?」
「うん!」
 高木咲花はなの明るい声に、ほっと笑いながら大きくうなずく。
 
「高木さんは、家庭科部だよね?
 俺のせいで部活行くの、遅くなってごめん! 後やっとくから、先に行って?」
 申し訳なさそうな言葉に、
「大丈夫! 今日は顧問の先生がいないから、休みなんだ」
 ニッコリ返したけど――さっきの『いつも通り』って言葉が、『告白され慣れてます』って感じで、ちょっとカチンと来たから。
 
「立花くんは、きょうもモテモテでした」
 わざとはっきりつぶやきながら、学級日誌にシャーペンを走らせる。
「ちょ、高木さんっ! 今のまさか――『今日の出来事』に、書かないよね!?」
「んー、どーしよっかな?」
 にんまり笑いながら、幼馴染の慌てた顔に向かって、日誌をばっと開いて見せた。

「『理科の授業、『星の動き』が楽しかったです。今夜は「星今宵」。星空が見えるといいですね』……『ほしこよい』? って、何?」
 日誌を読み上げた大雅が、少し傾げた首の後ろに右手を当てて尋ねる。
「『七夕』の別名。キレイな言葉でしょ? おばあちゃんに教えてもらったんだ!」
 『首痛いポース』に見惚れながら、ちょっと得意気に、咲花は答えた。

「あっ、今日は7月7日かぁ……」
『今気が付いた』と日誌の日付を見下ろす、ファッション雑誌に載っていそうな横顔に、
「そうだ! 今夜うちの商店街で、『七夕まつり』があるんだよ?」
 ワクワクと、高木玩具店の孫娘は告げた。
 
「へぇ――お祭りって、屋台とか?」
「屋台も出るし、各店舗が目玉商品を、お手頃価格で提供するし!」
「なるほど?」
「それにウチの店では、おばあちゃんとわたしが、浴衣で接客します!」
 ばーんっ!と、指2本を立てた右手を上げて発表した、『七夕まつりの目玉』。
 
「なるほ――ゆか、た……?」
 黒板をキレイに消した後、教室中の机と椅子を揃えながら、気の無い返事を返していた、大雅の動きがピタリと止まり。
 ぎぎっと壊れたロボットの様に、ぎこちなく振り向いた。

「そうだよ! めっちゃレアな『おばあちゃんの浴衣姿』、立花くんも見たいよねっ!?」
『よっしゃ、食いついた!』と、目をキラーンと輝かせた咲花が、ここぞとばかりに言葉を重ねて。
「いや、ばあちゃんのは特に……」
「杏ちゃんもお母さんと、一時帰国してるお父さんと一緒に来るって言ってたし! それにあれやるよ、『ルービックキューブ大会』!」
 ぼそぼそと否定する、大雅の声をかき消すように、びしりと宣言した。

「ほほう――それは、『前回王者』の俺に対する挑戦状かな?」
 くいっと、かけていないメガネを押し上げる仕草をした大雅の、ダークブルーの瞳がキラリと輝く。
「そぉ! 10秒03!  王者キングの記録に、つどえ挑戦者!大会』。
もちろん――キングも出るでしょ?」
「出ましょう……!」
 闘志丸出しで拳を握る姿に、『可愛いなぁ……』と、咲花はこっそり口角を上げた。

 きっと、月野先輩は知らない。

 一見クールな立花くんが、負けず嫌いで、ちょっと天然なところを。
 家族思いで、特に妹の杏ちゃんに弱いところ。
 それから――うちのおばあちゃんが、大好きなところも。
 
「いつか、おばあちゃんに勝てるといいな」
 こっそりささやいたら、
「ん? 何か言った、高木さん?」
 明るく透ける茶色の髪を揺らしながら、きょとんと首を傾げる。

「ううん。今夜は晴れるといいなって!」
「――だね?」
 天の川を待ちわびるように、顔を見合わせて笑う、高木玩具店の乙姫と天然彦星。

 2人が『両片思い』に気付くのは、まだ少し先のお話。



 
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