時の扉を開けて~初恋をこじらせたイケメン令嬢&早とちり令息の時間旅行~

壱邑なお

文字の大きさ
1 / 23

しおりを挟む
「それでは発表します。『黄金のグリフィン賞』、本年度の栄えある受賞者は……5年生、メイベル・ハートリー!」
 イグニス王国北部にある、王立ヘイミッシュ魔法学園。
 その在校生——13歳から18歳までの、国内でも選りすぐりの魔力を持つ生徒——約30名がひしめく講堂の壇上で。
 魔法印章で封じられた羊皮紙を、ぱさりと広げた学園長が、そこに金色で輝く名前を、高らかに読み上げた。

 会場中から沸き起こる、どよめきと拍手と喝采の中。
「やった……!」
 背の高い黒髪の女子生徒メイベルが、琥珀こはく色の目を見開き、両手をぐっと握りしめる。
「おめでとー、ベルッ!」
 隣から金髪の美少女、親友のステラが笑顔で抱き付いて来た。

『黄金のグリフィン』とは、その年1年間の、魔法学や一般教養の成績のみならず。
 スポーツや課外活動、寮生活における優秀さや貢献度を採点し、全校生徒による投票をて。
 学年度末に最高得点を獲得した生徒、ただ1名に与えられる、名誉ある称号。
 今までは最上級生の6年生が、当然のように独占していたが、今年は違う。

「ぃやっほー!」
「やったな、ハートリー!」
「メイベルお姉様ー!」
「さすがですっ!」
 口々に、同級生や下級生たちが盛り上がる影で。
「何で5年生が? 誰がどぉ見たって、今年の受賞はパーシーだろ!?」
「ハートリーって、公爵令嬢か? どーせお父様が、口出ししたんじゃね?」
「うーわっ、権力えぐっ!」
 くすぶった暖炉の熾火おきびのように、こそこそと。
 6年生男子の間から、イヤな笑い交じりの、負け犬の遠吠えがき起こった。

「ちょ、何ですって!」
「酷い言いがかりだぞっ!」
「メイベルお姉様がそんな事、するワケないでしょ!?」
 メラッと怒りを着火された下級生たちが、口々に反撃を始めたとき。
 へらへら笑って言い返そうとした、負け犬たちの頭に、ゴンゴンゴンッ!
 次々とゲンコツが落とされた。
「痛っ!」
「何すんだよ、パーシー!」
「お前ら、まだ式典の最中だぞ。静かにしろ!」
 がっしりとこぶしを握り、低く厳しい声でいさめたのは、長身の銀髪男子。

「マジで痛ぇんだけど!」
「俺らはなぁ、お前のために抗議してるんだぞ!」
 ぶーぶーと、不平をもらす男子たちに。
「『俺のため』じゃなくて、どうせ『賭けに負けた腹いせ』だろ?」
 引き締まった腕を組み、整った顔に苦笑を浮かべる、最上級生の監督生『パーシー』ことパーシヴァル・キャリントン。

「それは去年の話! 俺ら今年は『誰が受賞するかの賭け』抜きで、おまえを応援してたんだぞ!」
「ったく、相変わらず『早とちり』だな!」
 まるでベテラン騎士のような、落ち着いた見た目を裏切って。
 ついぱぱっと、早合点する癖がある監督生。
 得意技の『早とちり』をかましたパーシーに、同級生たちはここぞとばかり、呆れた声を上げる。
「そっか、賭け抜きで……そいつは嬉しい。ありがとな!」

 照れたように、銀色の前髪をかきあげて、藍色の目を細め。
 早とちり監督生が見せた、にっかり人好きのする笑顔。
「うっ……」
「パーシーお前」
「ほんっと、ずりぃぞ——その顔」
 一気に毒気を抜かれた、男子たちのつぶやきに、
「『ずるい』? 何がだ?」
 不思議そうに首を傾げた監督生が、ふと5年生達の方に、いだ海のような瞳を向けた。

「パーシー……」
 うっかり笑顔に見とれてたら、目と目がかっちり合ってしまった。
 椅子から立ち上がりかけた姿勢のまま、まるで石化魔法をかけられたように、かちんっと固まるメイベル。
「出たっ——『笑顔で周りを殺す男』!  相変わらず、人タラシレベルがえっぐいわ、ベルの『元カレ』!」
 からかい口調でにんまりと、隣からステラがささやく。

「元カレじゃないってば!」
「そっか、『元カレ未満』だっけ?」
「未満って……もぉ、その話はいいからっ! じゃあ、行ってくるね」
 早口で親友の言葉をさえぎって、パーシーの視線を振り切るように、メイベルは足早に壇上に向かった。
しおりを挟む
感想 16

あなたにおすすめの小説

誰でもイイけど、お前は無いわw

猫枕
恋愛
ラウラ25歳。真面目に勉強や仕事に取り組んでいたら、いつの間にか嫁き遅れになっていた。 同い年の幼馴染みランディーとは昔から犬猿の仲なのだが、ランディーの母に拝み倒されて見合いをすることに。 見合いの場でランディーは予想通りの失礼な発言を連発した挙げ句、 「結婚相手に夢なんて持ってないけど、いくら誰でも良いったってオマエは無いわww」 と言われてしまう。

【完結】姉は聖女? ええ、でも私は白魔導士なので支援するぐらいしか取り柄がありません。

猫屋敷 むぎ
ファンタジー
誰もが憧れる勇者と最強の騎士が恋したのは聖女。それは私ではなく、姉でした。 復活した魔王に侯爵領を奪われ没落した私たち姉妹。そして、誰からも愛される姉アリシアは神の祝福を受け聖女となり、私セレナは支援魔法しか取り柄のない白魔導士のまま。 やがてヴァルミエール国王の王命により結成された勇者パーティは、 勇者、騎士、聖女、エルフの弓使い――そして“おまけ”の私。 過去の恋、未来の恋、政略婚に揺れ動く姉を見つめながら、ようやく私の役割を自覚し始めた頃――。 魔王城へと北上する魔王討伐軍と共に歩む勇者パーティは、 四人の魔将との邂逅、秘められた真実、そしてそれぞれの試練を迎え――。 輝く三人の恋と友情を“すぐ隣で見つめるだけ”の「聖女の妹」でしかなかった私。 けれど魔王討伐の旅路の中で、“仲間を支えるとは何か”に気付き、 やがて――“本当の自分”を見つけていく――。 そんな、ちょっぴり切ない恋と友情と姉妹愛、そして私の成長の物語です。 ※本作の章構成:  第一章:アカデミー&聖女覚醒編  第二章:勇者パーティ結成&魔王討伐軍北上編  第三章:帰郷&魔将・魔王決戦編 ※「小説家になろう」にも掲載(異世界転生・恋愛12位) ※ アルファポリス完結ファンタジー8位。応援ありがとうございます。

【完結】仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが

ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。 定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──

悪役令嬢、記憶をなくして辺境でカフェを開きます〜お忍びで通ってくる元婚約者の王子様、私はあなたのことなど知りません〜

咲月ねむと
恋愛
王子の婚約者だった公爵令嬢セレスティーナは、断罪イベントの最中、興奮のあまり階段から転げ落ち、頭を打ってしまう。目覚めた彼女は、なんと「悪役令嬢として生きてきた数年間」の記憶をすっぽりと失い、動物を愛する心優しくおっとりした本来の性格に戻っていた。 もはや王宮に居場所はないと、自ら婚約破棄を申し出て辺境の領地へ。そこで動物たちに異常に好かれる体質を活かし、もふもふの聖獣たちが集まるカフェを開店し、穏やかな日々を送り始める。 一方、セレスティーナの豹変ぶりが気になって仕方ない元婚約者の王子・アルフレッドは、身分を隠してお忍びでカフェを訪れる。別人になったかのような彼女に戸惑いながらも、次第に本当の彼女に惹かれていくが、セレスティーナは彼のことを全く覚えておらず…? ※これはかなり人を選ぶ作品です。 感想欄にもある通り、私自身も再度読み返してみて、皆様のおっしゃる通りもう少しプロットをしっかりしてればと。 それでも大丈夫って方は、ぜひ。

婚約破棄ブームに乗ってみた結果、婚約者様が本性を現しました

ラム猫
恋愛
『最新のトレンドは、婚約破棄!  フィアンセに婚約破棄を提示して、相手の反応で本心を知ってみましょう。これにより、仲が深まったと答えたカップルは大勢います!  ※結果がどうなろうと、我々は責任を負いません』  ……という特設ページを親友から見せられたエレアノールは、なかなか距離の縮まらない婚約者が自分のことをどう思っているのかを知るためにも、この流行に乗ってみることにした。  彼が他の女性と仲良くしているところを目撃した今、彼と婚約破棄して身を引くのが正しいのかもしれないと、そう思いながら。  しかし実際に婚約破棄を提示してみると、彼は豹変して……!? ※『小説家になろう』様、『カクヨム』様にも投稿しています

逃げたい悪役令嬢と、逃がさない王子

ねむたん
恋愛
セレスティーナ・エヴァンジェリンは今日も王宮の廊下を静かに歩きながら、ちらりと視線を横に流した。白いドレスを揺らし、愛らしく微笑むアリシア・ローゼンベルクの姿を目にするたび、彼女の胸はわずかに弾む。 (その調子よ、アリシア。もっと頑張って! あなたがしっかり王子を誘惑してくれれば、私は自由になれるのだから!) 期待に満ちた瞳で、影からこっそり彼女の奮闘を見守る。今日こそレオナルトがアリシアの魅力に落ちるかもしれない——いや、落ちてほしい。

【完結】ひとつだけ、ご褒美いただけますか?――没落令嬢、氷の王子にお願いしたら溺愛されました。

猫屋敷 むぎ
恋愛
没落伯爵家の娘の私、ノエル・カスティーユにとっては少し眩しすぎる学院の舞踏会で―― 私の願いは一瞬にして踏みにじられました。 母が苦労して買ってくれた唯一の白いドレスは赤ワインに染められ、 婚約者ジルベールは私を見下ろしてこう言ったのです。 「君は、僕に恥をかかせたいのかい?」 まさか――あの優しい彼が? そんなはずはない。そう信じていた私に、現実は冷たく突きつけられました。 子爵令嬢カトリーヌの冷笑と取り巻きの嘲笑。 でも、私には、味方など誰もいませんでした。 ただ一人、“氷の王子”カスパル殿下だけが。 白いハンカチを差し出し――その瞬間、止まっていた時間が静かに動き出したのです。 「……ひとつだけ、ご褒美いただけますか?」 やがて、勇気を振り絞って願った、小さな言葉。 それは、水底に沈んでいた私の人生をすくい上げ、 冷たい王子の心をそっと溶かしていく――最初の奇跡でした。 没落令嬢ノエルと、孤独な氷の王子カスパル。 これは、そんなじれじれなふたりが“本当の幸せを掴むまで”のお話です。 ※全10話+番外編・約2.5万字の短編。一気読みもどうぞ ※わんこが繋ぐ恋物語です ※因果応報ざまぁ。最後は甘く、後味スッキリ

バッドエンド予定の悪役令嬢が溺愛ルートを選んでみたら、お兄様に愛されすぎて脇役から主役になりました

美咲アリス
恋愛
目が覚めたら公爵令嬢だった!?貴族に生まれ変わったのはいいけれど、美形兄に殺されるバッドエンドの悪役令嬢なんて絶対困る!!死にたくないなら冷酷非道な兄のヴィクトルと仲良くしなきゃいけないのにヴィクトルは氷のように冷たい男で⋯⋯。「どうしたらいいの?」果たして私の運命は?

処理中です...