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閑話休題
しおりを挟む「俺、事前に言ったよな? お前は絶対やらかすからトリプルチェックぐらいしろって」
「っ、すみません……」
「すみませんじゃねェんだよ。もういい、どっか行け。この件は俺が片付けとく。……誠意はこれからの行動で示せ」
部下のやらかした盛大な盛大なミスに目頭を押さえ、ハニーのことを思い出してなんとか正気を取り保つ。
「はぁ……」
この世の人間が全部ハニーだったらいいのに。
ハニーだったらどんなミスをしても許せる自信がある。ハニーは生きてるだけで感謝すべき存在だから。
ハニーに想いを馳せていると、ノックもせずに誰かが部屋へと入ってくる。上司でもノックしてくるのに、部下のはずのとある男はノックをしない。大学から同じ学科で、同じゼミの同僚のクソ男。
「何言ったの? 泣いてたよ」
「うるさい」
「言うことは間違ってなくても、言い方がいちいち怖いんだよ。お嫁さんに対してもこんなに冷たいんですかー?」
「一連の流れで嫁が何か関係あったか????」
「怖ッ。マジで結婚生活が想像できない……なあ、お嫁さんに会いに行ってもいい?」
「死にたいなら」
「いま、一階にいるらしいけど」
「なッ」
その一言で、なんでだと頭をぐるぐると回転させて、あらゆる最悪の事態も想像しながら、ジャケットを羽織り、急いでロビーに向かう。その時には付いてきているクソ男の事すらどうでも良くなっていた。
ロビーに立つと、キラキラと輝く場所がひとつあって、すぐにハニーがそこにいると分かった。
「マジでいた……。どうした? ココで何してるの?」
「お弁当、忘れてたから届けに来ちゃいました」
「マジ……? ホントにごめん。届けてくれてありがとう。コレ無いと生きていけないのに」
「相変わらず大げさですね」
太陽よりも眩しい笑顔をハニーは俺に見返りもなく真っ直ぐに向けてくれる。ヤバイ、サプライズで出会うハニー可愛すぎる。キスしまくりたい。絶対キスだけじゃ終わんないけど。なんで会社でセックスってしちゃダメなんだっけ。
抱きしめたい気持ちをぐっっっと堪えていると、隣からハニーに向かって一本の手が伸びる。
「こんにちは!彼の親友です!お世話になってます~!」
「あ、お世話になってます」
「ずっと奥さんに会いたかったんですけど、なかなか会わせてくれなくて~…しくしく…」
「いまも不本意だが?」
肩を掴んで、クソ野郎をハニーから無理やり引き離して距離を取らせる。それから再びハニーの側に戻って俺は"ダーリン"としての笑顔をハニーに向ける。
「美味しいものでも食べて帰って。ちゃんとタクシー使ってね」
「はーい。お仕事頑張ってください~!」
ひらひらと控えめながらもしっかりと手を振ってくれるハニーの様子はさながら天使のようで、この瞬間の写真をそのままルーブル美術館に展示できるんじゃないかとすら思った。誰にも見せたくないので、当然そんなことはしないが。
「めっちゃ可愛かったな~……スゲー美人なのに小動物みたいな可愛さもあって……なんかふわふわしてた……ていうか、お前デレデレじゃん!」
「あんなに可愛いハニーを見てデレない方が無理だろ」
「え、『ハニー』って呼んでるの? 意外~!」
「……死ね」
クソ野郎にハニーの可愛さが知られてしまったことだけが心残りだが、無事に昼食でもハニーの手料理が食べられるということだけ──午後からは昼食の美味しさと、家に帰ったらハニーがいるということを考えて生き長らえている──を心の拠り所として、残っている仕事を片付けていった。
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