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寧々ちゃん来客対応中
しおりを挟む朝の光が眩しかった窓の外は雲もなく快晴だ、体調も良くなってて体が軽い。
携帯には辰巳さんから体を気遣うメッセージが着ていた。
下の階に行けばいつもと変わらない日常だった。
お父さんが熱帯魚に餌をあげててお母さんは私とお兄ちゃんのご飯をよそっていた。
あんな事があったのに何も変わらないのが逆に不自然に感じたけど、お母さんは辰巳さんについて全く触れてこなかった。
“でも寧々は”
遮られたあの言葉の後には何が続くはずだったんだろう、でも何も言わないって事は…………もしかしたら。
電車の中で辰巳さんに会えるかなっていつもの電車か聞いたら今日は取引先に直行なんだって、何だ……ギリギリ間に合ったって駆け込んだのに。
電車が揺れてガラス窓に映る私は気持ち明るくなってる気がする。
朝、前髪を少し切ったんだ辰巳さん気が付くかな……なんて……そっかお付き合いする人ができると、こんな気持になったりこういうやり取りするんだ……ん? っていうか、そうなのか! 私今彼氏がいるのか!!
いいのかよ、大丈夫か! え? 何かどうしようそういう人間に自分がなれるなんて、奇跡って起こるんだ、神様っていたんだ!
会社に着いて、う、うわぁあ何だか急に今までやってたアダルトなお仕事が恥ずかしくなってきたよ。
そしたら、
「おっはよ、私の可愛い眼鏡ちゃん!」
ポンと肩を叩かれて見上げた先の尾台さんは今日も綺麗。
「ぁ、、ぁのぉはょぅござぃます」
「んふふー体調はもういいんですか? ってゆうかあれれれれ! 笑顔キュートと思ったけど雰囲気変わったね? ね? 何だ? 何だ何だ?」
尾台さんは私から離れて手を輪にして双眼鏡! ってしながら目細めて見てくる。
「まず姿勢が綺麗になりましたよね八雲さん」
そしたら久瀬さんが出勤してきて、私の顔を覗き込んできた。
「あららーポイントメイクなんてしちゃってぇ……ふぅん? いい感じに変われたじゃないですか、どうですか石橋を渡った感想は」
「??」
耳の側で小さな声で、
「ハイブリットのちんちんきもちかった?」
「!!!!!!!!!!」
何故か耳にちゅってされてひぃえええええええ!
めっちゃ耳ごしごししたら久瀬さんはにんまりしてる。
「え? 何? 何の内緒話したの?! 気になる!!」
「言ったら内緒話じゃないじゃん」
「でも寧々ちゃんのあんな反応見た事ないもん! 気になるぅ!」
「ん? だからぁ八雲さんは恋して綺麗になったねって言ったの」
「ふぅぉぉおおお! 素晴らしい」
尾台さんは拍手してくれて、嬉しいような……現実かよくわからない様な不思議な気持ちだ。
「んんん? ってゆうかあれ? 寧々ちゃんってこんなおっぱい大きかったけ? あれ? あれれれれ? 恋すると急にこんなお胸になるの? 私ならなかったよ!! 何で! ずるい!」
あれ? あれ? え、本物! ふかふか!! って尾台さん触ってくる。
「あ、ちょっと止めて下さい。えっと……以前の下着はあまり合ってなくて……」
「じゃあ元から?!! ええええ!! やだぁ! 巨乳に挟まれて肩身が狭いー!!」
「貧乳先ぱ……あ、間違えた尾台先輩声大きいですよ」
「どんな間違え方だよ!!」
それで午前中、尾台さんが離席してる所に桐生さんが来た。
「あ、尾台いないんだ。なら久瀬さんさ、ミーティングルームにお客さん通してあるからお茶出してもらっていい?」
書類読みながら指示する桐生さんを棒の飴を舐めたままの久瀬さんは嫌そうな顔で見上げる。
「えー嫌ですぅ。今日前髪イケてないんで人前に出る仕事全部パス」
「!!」
「久瀬さん……それはさ、君はアルバイトだけどそんなの関係なく、うちが雇用した立派な社員なんだからそういう態度は」
「うっわ桐生さん昔なら、そんな事ないよ久瀬さんは可愛いよって言ってくれたのに課長様になって性格変わりましたね。ってゆーかそのえったんの代わりにお茶出すの、ドア開けた瞬間私見てお客さんががっかりするからメンタル削られてやなんですよ。こっちだって出したくて出した茶じゃないっつーの! 桐生さんが出せばいーじゃん。そういうお茶は女の子が出さないといけないみたいな古い体質キッショ」
「今日も久瀬さんは可愛いよ」
「今更遅いしぃ」
「あ、あの……」
いつもならこんな会話に口挟まない、何だかんだで渋々久瀬さんや他の人が行くんだけど。
「私……もしよかったらあの……もう一度やり方教えて貰ってもいいですか」
「ん? 寧々ちゃん無理しなくていんだよ」
「いえ、だって……私だけやらない方が可笑しかったんです」
人前にでる仕事は怖い、だから事務を選んだんだ。
まさか来客対応があるなんて思わなくて、でもやらなくちゃいけなくて緊張した手で初めて出したお茶……見事に溢してしまって頭真っ白になっちゃって、泣いちゃって、その時にいた女上司に凄い怒られた。
いっぱい謝って、もう二度とお茶には触らないでと皆の前で言い放たれた。
そうだ私は、あの日のごめんなさいをごめんなさいのままにしている。
怖くない、怖くない私にだってやればできる、このままじゃいけない変わらなくちゃと思いつつ、でもやっぱり怖い、そしたら。
「ほぅ、もちろん教えますよ! じゃあ給湯室行きましょ寧々たん☆」
「はい頑張ります」
「そっかじゃあ宜しくね、寧々ちゃん」
久瀬さんが手を引いてくれて良かった。
後一言桐生さんに無理しないでって言われたら頷いてた。
久瀬さんにドアの向こう側で応援されながら出したお茶は超緊張したけど、上手く出せた、お客さんも笑ってくれた。
部屋から出てきて久瀬さんが上手上手ってタッチしてくれて嬉しくて顔赤くなってるこんな事で泣きそうって新入社員かよ私。
でも嬉しくて辰巳さんに報告しとく。
「お茶が出せました」
【That's great! ;)))))】
こんな小さな事なのに何だか自信のついた午前だった。
そしてお昼、地下にある社員食堂に私は優子さんとつくしちゃんに呼び出されていた。
地下にあるのも相まって古かったしメニューもしょぼくて昔は不人気だった社食だけど総務ができてからリニューアルして、内装もオシャレになったし品数も見違える程増えた。
本日の日替わりから、レギュラーメニュー、レディースメニュー、丼、カレーに麺類……パン屋さんも入ってるしカフェも併設されてる、優柔不断な私はいつも悩んでしまうんだ。
「寧々ちゃん一番高いの頼んでいいからね!」
と優子さんが言って。
一番高いのはミックスフライ目玉焼きハンバーグ定食なんだけど、絶対完食できないから。
「台湾風温玉そぼろ丼下さい」
結局何時ものを頼む。
席に着くなり優子さんはごめんねっと袋を私に差し出してきて、袋の中には私の書いた漫画と……。
「わあ、これ……!」
私が好きな絵師さんの画集が入ってた、買おうか迷ってた本。
優子さんは手を合わせて言う。
「ごめんね、寧々ちゃん! うちの息子に見られそうになって慌ててひっこめたら……」
「いいですよいいですよ、良かったですね息子さんの目にいかがわしい本が映らなくて」
「素晴らしい本なんだけどね? でも保育園に迎えに行った時に「ママ毎日ちんちん出てる本読んでる」とか言うもんだから徹底的に隠さないと! 本当にごめんね!!」
手に取った漫画は表紙と初めの何ページかが破れていた、ちょうど表紙の二人を切り裂くみたいに破れてて…………早く直してあげるからね。
「大丈夫ですよこんな事で神様と牙君の愛は消えませんから!」
笑って見せたら、優子さんはほっとしたように頷いて、次いで優子さんの隣に座っていたつくしちゃんが。
「私もごめんなさい!!!」
って可愛いくラッピングされたクッキーと一緒に頭を下げてきた。
つくしちゃんのごめんなさいも事前に聞いている、一緒に行こうって約束してた同人のイベントに行けなくなってしまったのだ。
「楽しみで楽しみでついカレンダーや手帳にハート書きまくってたら彼氏殿に見つかってしまってそういうのNGな人だから行ったらダメって……はぁあああああ」
「そんな彼氏別れてしまいなさいよ」
「ゲームキャラにクリそつなんですもん~飽きらた秒で別れまっす! 本当にごめんなさい寧々氏ぃ! 私から誘ったイベントだったのにぃ」
「いいですよ、基本ぼっち行動なので欲しいのあったら言ってね、それより食べていいですかクッキー」
「もちろんもちろん!」
つくしちゃんの家はお菓子屋さんで、くれるお菓子の中でもこのたくさんナッツの入ったクッキーが一番好きなんだ。
「やっぱり美味しい……」
胸にじんときて画集を握りしめた、本を破かれたのも約束をキャンセルされたのも、いつの間にか笑って許せる程には私は大人になっていた。
むしろ、こんな私のために本を買ったりこんな美味しいクッキーくれて……ァリガトウゴザイマスって小さな声で言っておいた二人は笑っていたから聞こえていたの? かな。
それでご飯も食べ終わってお話ししてたら、やっぱり二人共私の印象が変わったと言う。
ブラを変えたんだよってその店員さんの神業の話をしていたら、二人は私を見て、あっと驚いた。
いや、正確には私の後ろを見て瞬きを繰り返していた。
何? って思ったらふわっと辰巳さんの匂い。
「いっぱい食べたかい? エンジェル」
「?」
見上げれば額にむにゅって温かいのが当たった。
こんなたくさん人がいる社員食堂で喪女の額にキスですよ。
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