【R18】モブキャラ喪女を寵愛中

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忘れモノ

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 お見通しだった。
 巻き込みたくない、って気持ち。


 巻き込みたくない、それと嫌われたくない。



 小学生の時、友達が遊ぼうと家まで迎えに来てくれた。
 そしてその日お母さんは機嫌が悪かった、私が外に出ようと靴を履いてると勉強が終わるまでは遊びに行ってはダメだと言って、なぜかそこにいる友達まで道連れに私を部屋に閉じ込めた。
 結局日が暮れるまでお母さんの機嫌は直らなかった。

 友達に謝ってそれからうちの家に友達が来る事はなくなった、それが理由でその子には嫌われてしまった。






 辰巳さんの言葉は凄く胸に響いて、響きすぎて溶けてしまいそうだった、私が思っている以上に深い愛だった、だからこそ怖かった。

 一瞬あのまま何の連絡もせずに辰巳さんの家に行ってしまおうと思った。
 でもそんな事をして、もしお母さんが警察に届け出たりなんかしたら…………あることないことでっち上げて辰巳さんが捕まったりなんかしたら…………なんて何の容疑だよって話だけど。
 でもお母さんならやりかねなくてそんな迷惑をかけてまで、私は辰巳さんと一緒にいられるだろうか。

 何されるか分からないのに、それを庇うほどの魅力って私にあるのかな。
 自分の価値なんてわからないのに自信なんてつけられない。
 辰巳さんが大好きだから迷惑かけて嫌われたくない。
 でも一緒にいたい、どうしたらいいのかわからない、矛盾した気持ち。




 駅を出た、いつもの商店街を歩いた。
 どんな時も変わらず温かい笑顔で迎えてくれるお地蔵さんは今日も可愛い。

 魚屋さんの孫が泣いていた。
 薬屋さんは結構人が入ってる、肉屋さんは書き入れ時で、花屋さんは何か式典でもあるのか立派な胡蝶蘭を搬入している所だった。

 八百屋さんの前を通り掛かって、そうだ戻る時は閉まってるかもしれないから先に苺でも買っておこうと足を止めた。
 定期と携帯はポケットに入っていて定期入れの裏には【何かあった時のための五千円】を常時入れているのだ。
 が、常時何もなくて本日初めて使います!


「今日は何のお使い?」


 八百屋さんのおばさんがにっこり話しかけてくれた。
 八百屋さんには子供が二人いて私とお兄ちゃんの同級生だから顔馴染みなんだ。

「苺を2パック買いたくて……お土産用のちょっといいやつ」
「苺は表に出てるのが安いので……棚のがいいやつ、今出すね」
「ありがとうございます……ってうっそ! いい苺って1パック1700円もするの! しかも箱格好いい!!」
「これ栃木の新品種で今年の初物なのよ。化粧箱に入ってるからお土産にちょうどいいんじゃない? 2パックで3000円でいいよ」
「買います!」

 目の前まで持ってきてくれた高級そうな立派な箱には、ふわふわの綿の上に苺が置かれてて、どれも粒が大きくて真っ赤で艶があってキラキラ光って宝石みたいだった。
 苺の甘酸っぱい良い匂いが漂って、こんなの貰ったら誰だって笑顔になっちゃうな。

 お金を渡すとおばさんは、んんっと眉間を寄せて腰を伸ばしてからレジに向かった。

「どうしたの? 痛いんですか?」
「ん? まあ職業病だよね毎日重たい物持って漬物漬けて35年だよ」
「幸せですか」
「幸せ以外にないでしょう。お店も続けられて皆元気なんだから」

 はい、おつりの二千円って渡されて柔らかい手が温かかった。

「でもそうね、腰が曲がる前に孫を抱っこしたいかな」
「…………」
「だって私が元気なうちじゃないと小遣いあげられないでしょ? 後十年もしたら全部老人ホームに使っちゃうからね! 孫のおむつか私らのおむつかって」

 あははははっといつものように奥歯が見えるくらい豪快笑って肩を叩かれて首を横に振った。

「大丈夫です、野菜は体にいいんだからおばさんはずっと元気だし、お孫さんも直に抱っこできますよ」
「それが嫁ぐ先間違えちゃって私野菜嫌いなのよね~」

 おばさんはまた笑って私が角を曲がるまで手を振ってくれた。

 いつもの頭を下げた後の、また来ますは言わないでおいた、おいたけど、おばさんがそれに気が付いたかはわからない。
 商店街から一本入れば喧騒を離れて静かな住宅街だ。
 少しヒールのあるブーツが夜道にコツコツ響いている。

 心拍は平常だ、だって結末は決まっているから、今日私は家を出る、この先どうなるかわからなくても、もう私の役目は終わった気がするから、いやそんなモノ初めからなかったんだけど。



 例えばお母さんにメールで別れの言葉を送っても、書かされてるってまた都合のいいように取られるんだろう。
 もっと…………もっと昔に、お母さんが人の話を聞ける位の状態だったら辰巳さんを連れて説得しても良かったかもしれない。
 いや、そんな頃なんてあったのかな、ただ一つ分かるのはもう何を言ったって彼女には私の言葉が届かないという現実。

 子供の言葉で、他人の言葉で改心するくらいなら、こんな事になってないんだ。
 自分のお金で買ったものを部屋に置けないなんてそんな異常な家庭になってない。
 それでもやっぱり今度こそは……なんて期待してしまうけどね。

 でももう私の心は決まっているんだ、だから最後くらいは自分の言葉で別れたい。
 大事なモノを取りに来たのも本当だ。


 金曜日だからお父さんもお兄ちゃんも遅いと思う、多分家には母だけだ。

 家の門を開けて、玄関までの石畳を歩いたら外からカーテン越しにお母さんがキッチンで何かしているのが見えた。
 もう今日で使うのは最後だからとキーケースから家の鍵も自転車の鍵も外しておく、鍵を開けてポストに入れておいた。

 ドアノブに触れて迷った、ただいまって言おうか、どうしようか。
 でも、もうそんなのに悩まされるのも嫌で、私は忘れ物を取りに来ただけだとドアを引いた。

 何も言わずに靴を脱いだらお母さんの方から玄関を覗いてお帰りなさいと言ってきた。
 けれど、その声色が嫌な熱を含んでいたので私は返事をしなかった。

 そのまま黙って二階に上がって開けっ放しの部屋の前で立ち止まった。


 部屋を見渡して、離しそうになった苺の袋を握りしめて、肩から落ちそうになったショップの袋を抱え直す。
 そして空っぽのはずのお腹から色んなモノが上がってきて耐えて息を殺して深呼吸をした。
 過去にも一度経験があるからか、思ったよりも冷静にそれを受け止められた涙は出なかった。



 怒り? 悲しみ? 何だろうね、どうなっていたと思う? 部屋はね……何てことない、








 綺麗に片付けられていた。




 あの荒れていた部屋が今じゃ足元に何もない位に、そう何もない。









 もうそこには



 わざとらしく開いたクローゼットは服以外もぬけの殻になっていた。
 一生懸命集めた缶バッチもポスターもそこだけは綺麗に揃えてあった漫画も……そう私が書いてお兄ちゃんが製本してくれていた本だって一冊残らず消えていた。
 まるで家具付きの個室みたいに埃一つない部屋に無感情のまま私は一歩踏み入れた。
 ベットのシーツもカバーも一式替えられてあってご丁寧に床はワックスで磨かれていた。

 机の前にきて、震えたため息が出た、ここにきて勝手に涙が溢れた。




 机の上には忘れ物が捨てられずに破かれてバラ撒かれていた。




 過去にもこんな事があった、あれは中学生の時、志望校の模試でB判定を取ってしまった日。
 塾で結果を聞かれて答えると、帰宅した頃には娯楽に通ずる物は全て捨てられていた。
 まだ子供で自分で自制できないんだから、お母さんが捨ててあげたって、もうこれで勉強だけに集中できるでしょうだって……携帯も取り上げられた。

 でもそんなの……そんなの10年も前の話だ、もうこんなの捨てるからね、なんて幼児にする脅し文句だ。



 お母さんはいつまでこんなことを続けるんだろう。



 良かった下着……辰巳さんに預けてて、良かった洋服も昨日持って帰らなくて。

 忘れモノを手に収めてもうここには用はないと唇を噛んだら背後から、


「夜外に遊び歩く訳じゃないから、大目に見ていたけど。いい年して部屋にこもって漫画だアニメなんだとやってるから、まともに現実が見られなくなったのよ。同性愛だなんて本当に気持ち悪い、女は皆子供生んで育てるのが当然なのに何考えてるの。回りを見てみなさい皆してるでしょう、子供が生まれて幸せそうな顔してるじゃない。年取って焦ってからじゃ遅いのよ、してない人は結局社会不適合者だって影で笑われてるわ、私は人とは違うなんて意地張ってたら最後は孤独死よ。いつまでも幼稚な価値観だからあんな年上の外人を可笑しいと思う判断力もなくなったんでしょう。いつまでたっても独立しないで、もうお母さんだっていい年なんだからここまでしてあげられるのはこれが最後だと思ってちょうだいね」


 ね、もう会話なんて出来ないでしょう。
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