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私
しおりを挟むなぜ急にそんなご褒美を!!
瞬きしまくって一応ケットで体を隠したら辰巳さんは私の書いた絵を手に取って嬉しそうにしていた。
これを絵に出来る子がいるなんて最高って紙にキスしながら言う。
「驚愕の結末に感動するよ、ぜひ最後まで読んで感想を聞かせてね」
「あの……それより……お仕事あったのに遊んでてごめんなさい」
「怒ってないってば、実は昨日の段階で寧々ちゃんはいけないと判断して、夜には袴田君に連絡してたんだ。埋め合わせするから君の所の部下に頼めないかって、そしたら新井君だったかな? 彼女と別れてしまって、それを祝うと二人は飲みに行って連絡が取れない、この分だと明日は潰れてるだろうからうちのは使えないって断られてしまってね。で、よくよく話聞いたら袴田君の仕事って設備点検の立ち合いで午前中までだったから、じゃあ一緒に行かないかって誘ったんだ」
「……………」
「袴田カップルで行っていいよって言ったんだけど、うちと一緒で土曜日の尾台ちゃんはあんまり動けないみたいで」
「うぐ」
い、い、い、い、意味が分からない死んじゃう。
いや、意味分かりすぎ死んじゃう!!!
ええ??? いやいやいや、ああああぁあぁ待って待って待って!!! 皆落ち着こう?! じゃなかった落ち着こう私!
辰巳さんはコートを脱いでベッドに上がってきてオフホワイトのセーターに黒いパンツが良く似合っていた。
「だから袴田君と行ってきました」
「て、手手手手……繋いで?(汗汗汗汗汗汗汗汗汗)」
「まさか、仲が良くても手を繋がないカップルっているでしょう、でもまあ明らかに仕込み! みたいなのは主催者側にも悪いからどうするって話してたんだけど、何てことない席についてイベントが始まったら袴田君が僕の肩に頭預けて寝てましたよ」
「ヒグッ!!!」
「昨夜、家に女スパイが忍び込んだとかで朝まで取り調べしてて一睡もしてないんですって、僕は朝から色々彼女の体を調べさせてもらったけれどね。で、おかげで仲良しカップルだよ、邪魔そうだったから眼鏡外してあげたりなんかして」
「?!!!!!!!」
「正直失礼だろって殴りたくなるレベルの爆睡でしたよ、でも周りはキャッキャしてたかな。その後トークタイムになったら袴田君は目を覚まして、男優の蕩けるエッチ講座には頷いたりするもんだから、逆に寝て欲しかったくらいですよ。小声でへえ今夜やってみようとか言うし指で動作を真似るし、ほら辰巳さんこうだってって見せてくるし、僕らに異様な視線が集中してました」
「そ、そうですか……(漏漏漏漏漏漏)」
「それで……」
辰巳さんは真っ黒な中身の見えない袋をベッドに置いた。
「何ですか?」
「こっちも驚きのラスト、僕と袴田君がベストカップルに選ばれてしまってね、ありえないでしょ? その賞品がローション一年分だったんだよね、一か月二本で計二十四本、仕方ないから二人で分けて帰ってきました」
「ローション……?」
袋の中には大きなサイズのローションボトルがたくさん入ってて。
「もちろん、寧々ちゃんの体が整ってから使おうね?」
「ぁう……」
たっぷり満たされたボトルにもうお腹きゅんってなってしまった。
でもご飯食べてお風呂の後の二日目の夜は抱っこだけって口をすっぱくして言われて涙目だった。
さっきした癖にいっぱい抱き付いて我慢した、だって明日は服とか色々買い物に行かなきゃいけなかったし。
それで日曜日、車でお台場のショッピングモールに行った。
初めての私のデート!
彼氏とゲームセンター行くの夢だったんだ、買い物の合間に休憩ってカフェに寄るなんてこれ現実か!
夜はしっとりレインボーブリッジを眺めながらソファ掛けのボックス席で鉄板焼のディナーって明日死なないかな平気か脈取っておこう。
しかも車に戻ったらお花くれて指輪のプレゼントって……ええもうなんかええ……もうこのまま土に還ってしまうのでは……!!!
指輪は辰巳さんとお揃いの金色のシグネットリンングだった、同じ右手の小指にはめてくれて、きらきら綺麗。
辰巳さんはおばあちゃんから貰ったものだって家紋が入ってて私のも同じものが刻印されていた指輪って重いんだ。
生まれて初めての指輪、結婚指輪は一緒に買いに行く約束。
「付 き 合 え よッ!!」
尾台さん越しにアルバイトの久瀬さんに喝を入れられて私達は目をぎゅって瞑った。
うん、なぜか隣の尾台さんもひぃって目を伏せてる。
「【私辰巳さんと結婚する事にしました。金曜日から一緒に住んでます】って意味わかんないから! 何で先週付き合ってるの突かれて涙目になってた喪女が週明けたら結婚なの?! 付き合えよ!!! まずそれからだろ!」
なぜか年下の意見にすみませんって頭下げてるし尾台さんはデジャブ! って顔手で覆ってる。
「何なの? 君らは処女を喪失したら結婚しないといけない呪いにでもかかってるのか?!!!」
「お?」
そしたら尾台さんが反応してぽんって手の平に拳を突いた。
「そうか! あれは呪いのアイテムだったのか! ティーバッグ! だから装備外れないし袴田君のペースに…………!」
そして私も気付いてしまう。
「ああ! なるほど、下着……私も辰巳さんに下着を貰ってからあれよあれよと……!!!」
二人でこれだったのか! と手握って震えてたら久瀬さんの手刀が尾台さんの頭にだけ振り降ろされた。
「寧々たんは着させられたんだろうけど、お前は自らの意思で着てるんだろーが!」
「しゅ、しゅきな人の笑顔が見たいって普通だと思いましゅ!!」
「…………わ、私もそれは同感でしゅ」
動揺して二人で噛みまくりながら、いつもなら黙ってるけど、尾台さんの頭撫でておいた。
「いい年して、初めての人と結婚したいとかバカじゃな………………あれ……? いやそれ普通だった! 別に悪い事じゃなかった! うん、できるならしとけしとけ! 盛大にしとけ!! おめでとう!」
と急に久瀬さんは拍手で納得してくれて、尾台さんはわーいってしてるけど、尾台さんあのローション使ったのかな。
「ちなみに、男性とお付き合いするの初めてだから質問なんですが、彼女の用を足す姿を見てくる彼氏って普通」
「じゃねぇぞ! 見た事ある? お父さんがお母さんのトイレ一緒に入ってくとこ」
久瀬さんに即答されてなるほど! と思ったけど尾台さんは顎ポリポリかきながら口むずむずさせて瞬きしてる。
「尾台さん?」
「いやーほら、私は酔っ払うとフラフラすること多々だから、しょっちゅう袴田君におしっこ! って連れてってもらってパンツ脱がせてもらうし拭いてもらってるなって思っ」
「この人の話参考にならないから聞かない方がいいよ」
ちょっとコンビニに用事があった帰り、まさかの幼馴染コンビとエレベーターが一緒で心臓止まるかと思った。
が、何人か乗ってたので息を殺して空気になるの術。
「ハイジよ……このオレ様が大江戸温泉物語を奢ってやったんだから次はすげーの期待してるからな」
「っつか、なんで僕達あんなとこにいたんだろうな、飲んで目が覚めたら温泉って頭おかしくね」
「色々さっぱりしたかったんだろ? 涙とかさ、まあ吐かなくて良かったよな。それよりわかってるか? オレの誕生日を」
「え? 翔君ってこの世に誕生してたの?」
「してるだろ?! お前の家の隣に引っ越してきたあの日を忘れたか?」
「君のママが今起きた沖田です~とか意味不明なギャグを第一声に出会いの舞! とか踊りだして真夏を凍り付かせた4歳の昼下がり!」
「止めてくれよオレが恥ずかしいだろ! いいか! この世の中心である偉大なるオレ様の誕生日はルノワールと同じなんだよ。毎年教えてやってんだからいい加減覚えろ!」
「へえ、そうなんだ」
「23回目だぞ脳筋! 何でいつも初耳ッ! みたいな顔してんだよオレはお前の誕生日覚えてやってんのにさ」
「それは僕の誕生日が1月1日だからだろ」
「世界中がめでたい日にお前のせいで母ちゃん地獄だったな可哀想に、息を吸うだけで人を不幸にする男め、生まれなくて良かったのに」
「あれな、正月の度に難産自慢すんのいい加減止めてほしいよ、知らねぇよ急に逆子になったとかな」
「やっぱ出てきたくなかったんじゃねぇかよ意地張りやがって」
「で? ダージマハールなんだっけ」
「それ二丁目のカレー屋だろ、お前偏差値2かよハゲ丸」
「ああ、えっと銀座喫茶……」
「それはルノワールだから! って、あ! いや、ルノアールだな、引っ掛けてくんじゃねぇよ蛆虫が殺すぞ」
扉が開いて今日も翔君は意味わっかんねぇーって首傾げる新井さんの背中を沖田さんがどついて二人は先に降りて行った。
口に手をあてて、今日は良いことありそうって
やってたら、同じ動作してる人と目が合って頷いてしまった。
そしてそっかやっぱり新井さん別れちゃったんだ、彼女……これは私なりのエールを送らないと!!
お誕生日にお二人のハッピーロマンスを描いて傷を癒してもらおう!
よし! ってしたらお尻で携帯が鳴った、携帯には顔見知りしか登録されてないはずだから…………。
「わあ……」
メッセージに添付された写真を見て思わず声が漏れた。
お兄ちゃんからきたエコー写真、小さな命に胸が高鳴った。
ある日のお昼休みだ、私と辰巳さんが仲良くおにぎりを食べていたら総務の袴田君が来た。
「お食事中失礼します」
「ん? どうしたの袴田君」
私は頭を下げて視線だけ袴田君に送る。
袴田君は眼鏡を直すと私達を至極嫌そうな目で見下しながら口を開いた。
「単刀直入に言います。苦情がきていますので、お昼の時間に部長席で特定の女性社員を膝に乗せて休憩を取るの止めてもらえませんか」
「苦情って? 誰が?」
「お答えできません、むしろ今俺が不快です」
「でも袴田君見てよ」
辰巳さんはぴったり胸にくっついていた私の体を少し離して言う。
「挿れてませんよ」
「当たり前です」
ピシャリと言われて困ったねって辰巳さんは首を傾げた。
「午後のモチベーションを保つため休憩中は時間の許す限り体も心も癒したかったのにねぇ? Angel」
その通りと思ってたら、
「ほら、八雲さん降りましょう服務規律を違反しています」
と袴田君に降ろされそうになって、いつもなら小さな声で「分かりました」か「すみません」って言ってただろうけど、そんな私でいいのかって自分に問い掛けた。
本当にそれでいいのか寧々! 私はちゃんと自分の人生を歩んで行くって決めたんじゃないのか寧々!!!
ここで言わないと、一生私は自分の意見も言えず辰巳さんの陰で隠れて生きる事になってしまう!!
えいッ!! って初めての反抗だ。
手を払われた袴田君は、お? と引いて私を見てきてこ、怖い! 怖いけど!! 一言、一言でいいから何か言葉を! ビシッと決まる何かを!!
眼鏡に手を添えてキリッと精一杯袴田君を睨んで言った。
「俗物がッ! 私と神様の時間を邪魔するな!!」
「あ、寧々ちゃんそれはちょっと……」
「ほう」
これにない言葉を放ったつもりだったけど、普通に考えてここ会社だし、可笑しいの私達だし、どうしよう死んじゃうたしゅけて神様。
袴田君はゆらぁってどうやったのか真っ黒な影を揺らした後眼鏡を直してレンズの奥の灰色を濃くさせた。
「辰巳さん、俺前に宗教活動は控えて下さいと言いましたよね? 何ですかこの状況は洗脳ですか?」
「違いますぅ!! 洗脳ではないです! 辰巳さんは本物の神様です! 袴田君も話を聞いたらわかりますよ! 神様の言葉は何でも心に沁みてたちゅんぐぐ」
「ごめん寧々ちゃん、話ややこしくなるからちょっとお口にチャックしようね」
「場所を弁えろと言ってるんですよ分かります? ここですんなって言ってるだけでしょう」
うん、その後も色々あったけど謝罪が当然でした。
初めて辰巳さんと作った料理はシチューだった。
少し落ち着いてからのが美味しいよって火を止めてこたつに入る辰巳さんの膝の間に潜り込む。
ピンクの画用紙にピンセットでハートを1枚1枚形成し直して、完成したら今度はこれをしおりにするんだ。
こないだ辰巳さんのタトゥーを彫るのついて行った、おしゃれなフォントのNが矢になってハートを貫いた。
いつの間にか一人でご飯が炊けるようになった、洗濯物の干し方を教えてもらった掃除は上手だと褒めてもらえた。
ピーラーはまだ怖い、不揃いだけど野菜くらいなら切れるよ、盛り付けは得意、味付けは今一、辰巳さんの体を洗うの大好き。
何だって楽しい辰巳さんといられるなら幸せ。
刻まれたハートは元通りになってもつるんと綺麗なハートにはならないけれど、美しい心の形だ。
他人になんて私達は壊されない。
「I treasure you」
辰巳さんが読んでくれて、胸がじわじわ悶えて焼けてくる。
見上げて顔に手を伸ばした、綺麗な翡翠の目に整った唇が何も言わなくもキスしてくれた。
「愛しい私の宝物……」
「僕の全ては君のものだよ愛してる」
愛、以上の言葉があれば使いたいくらいだったけど、該当する言葉を知らないからいっぱいキスをした。
ご飯を食べる息をする、失敗する笑う、感情が滾る。
当たり前の毎日が嬉しい、幸せ。
「おはよう、私の眼鏡ちゃん!」
明るい笑顔に優しく肩を叩かれて、眼鏡を直して真っ直ぐ彼女を見上げた。
背筋を伸ばして恥ずかしいけど頑張って笑ってみる。
「おはようございます、尾台さん」
私は今日も生きていく。
終。
最後までありがとうございました。
感想頂けると漏らします。
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