【R18】モブキャラ喪女を寵愛中

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寧々ちゃんまだまだ寵愛中

辰巳寧々

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 人は急に変われるものじゃないけれど、自分次第で必ず未来は変えられる。

 そんな当たり前で誰でもできる事を今までの私は、それですら漫画の主人公でもない限り無理だと決めつけていた。

 他人からしたら、何でもない事だ。
 でも、私にとってこのお盆に乗せた二つのお茶を笑顔で出せるだけでも大きな進歩なんだ。
 だってついこないだまで、お茶出しなんて私の仕事じゃないと思っていた。

 あれは五分前の出来事、久瀬さんと尾台さんが仕事の話をしていると内線が鳴った。
 久瀬さんは尾台さんに資料の説明をしながら電話を取って、尾台さんは忙しそうに他の仕事もしながら、久瀬さんに返事をしてた。
 いつもながらの二人のマルチタスクに眩暈がしそうだったけど、口を挟まないで見ていたら、久瀬さんが受話器を肩に挟みながら「有沢さん、四階の会議室Bに来客です」と手を挙げた。
 有沢さんも電話対応中だったから視線と親指で返事をして、久瀬さんはまた尾台さんとの話に戻る。
 前だったら、私には関係ないじゃないけど、こういう時って居たたまれなかった。
 けど、今の私は作成中の素材を保存して、席を立ちながら言えるんだ。

「私がお茶出して来ますから、お二人はお仕事の続きを」

 って泣きそうになりながらじゃなく、むしろ気分転換ぐらいな気持ちで。
 出した帰りに、二人にもお茶作って持っていけば、ありがとうって喜んでもらえて嬉しい。

 お客さんの確認をして、名刺のコピーをチェック。似顔絵付きで色々書いてあったけど、この人覚えてる。有沢さんと同い年で仲が良くてアニメが好きだったんだよね。ネクタイがアニメ柄だった、うん、話しやすい人だった。
 って給湯室でお茶を用意しながら、顔を思い出していた。

 お茶をお盆に乗せて四階、会議室のドアを三回ノックして隙間から顔を見れば、うんそうそう、この人この人大丈夫だよって自分に言い聞かせて、頑張って挨拶。もちろんネクタイのチェックも忘れずに。
 胸より下の位置でお盆を持って、お茶に息がかからないように右側から手を伸ばす。
「お久しぶりです、今日もネクタイ素敵ですね」
「ん?」
「こないだはポケモンでしたよね?」
 今日のネクタイは比較的アニメ柄を全面に出してなかったけど、お客さんは嬉しそうにネクタイを引っ張って裏地のチッピングを見せてくれた。
「それがこっちにいるんですよ」
「ええ! そんな所に美少女が!!」
「いいでしょ? 自分だけのものって感じがして、今俺の中で密かに流行っているんだよね」
 裏地にはアイドルアニメのキャラクターが描かれてて、表向きシックな感じだったのでそのギャップがいいなってワクワクしてしまった。
 辰巳さんのネクタイにも裏地に仕掛けつけたいな、なんて眺めていたら、お客さんが私を見て首を傾げた。

「あれ? 確か……君、こないだ八雲って……」
「ああ」
 私の首から下がった【辰巳 寧々】のネームプレートを読み上げた所で有沢さんが入って来た。
「すみません、お待たせして。おう! 寧々ちゃんありがとう」
「いえいえ」
 肩を叩かれて、有沢さんはそのまま私の胸元を指差して言う。
「そうなんですよ。八雲さんこないだうちの部長と入籍しましてね、只今新婚中です」
 と軽く拍手すれば、お客さんも一緒に拍手してくれたけど第一声はおめでとうじゃなかった。
「わーマジッスか。僕八雲さんいいなって思ってたんだけど残念だなー」
「そうそう、だからこないだ食事断ったんすよ。八雲さんも一緒に……なんて言ってて、でも彼氏がうちの部長だったので」
「あーそっかそっか、それで……いやいや、変な気使わせてすみません末永くお幸せに」
「ありがとうございます」

 てな感じで、商談とは思えない二人のやりとりなんだけど、有沢さんって誰とでも直ぐ仲良くなるから、あまり驚かない。
 いや、私を食事に……って話は驚いたけど、物好きもいるんだなって会釈して部屋を出た。


 席に戻って二人にもお茶を出して一息、美味しいお弁当を食べて午後、上手く業務を熟して就業時間だ。

 着替えに更衣室に入ろうと思ったら先にドアが開いたから一歩引いて出る人を待った。
 中の声からしてこれは経理の子達だと察知、もう一歩避けたら出て来た一人目の子と視線が合う。
 お疲れ様ですって頭を下げてすれ違ったらドアを閉める間際横目で私を見ながら言った。

「あんな子いたっけ?」
「んー? 営業部の眼鏡人に似てない?」
「え? あんな綺麗じゃなかったよ。どこの人だろ」
 だって、それが何を意味すのかわからないけど、昔とは違う反応なのは確かだった。







 ただ、変わらないものだってある。


 そう、勘違いしないでほしい。人も物も感情も、変わるのだけが素晴らしい訳じゃない。
 素晴らしい物は何年経っても色褪せないんだ。

 だから、私は死ぬまでBがLするのを愛でる人間でありたい! この気持ちは褪せる色ではないのだ! と自分に言い聞かせながら、今日も今日とて、帰宅してこたつで漫画を描いていた。
 描いていたら、令和も変わらずイケメンご主人様がお風呂場からやって来た。

「そろそろお風呂が沸けますよ」
「はい、じゃあ今日はここまでにし……? あれ?」
「なあに?」

 変わらずイケメンだけど、何かさっきとちょっと違くて。

「髪……短くなってないですか?」
「yes、少し襟足を切りました」
「やっぱり」
「僕の髪はウィッグには適さないって言われたからね。たまに切らないと邪魔で」
「綺麗なのにもったいないなあ」
「そう?」
 辰巳さんが距離を狭めてきてドキってして目逸らしちゃう。

 ドキってしてしまうのは、いつまでたっても変わらない。
 長い指が優しく頭を撫でてきた。
「寧々ちゃんの髪の方が綺麗だよ。本当に綺麗すぎて皆気になっちゃうからそろそろ切ってもいい?」
「?」
「15センチは伸びてるから規定の長さはクリアしてるよ。僕がちゃんと揃えてあげるから切らせて」
「今? お風呂場で?」
「どこでもいいよ、最近寧々ちゃん一段と可愛くなってきたから僕心配なんだよね」
「でも……」
「でも?」
「赤ちゃんが生まれたら、お宮参りにお着物着て……その時に髪の毛アレンジしてもらいたいんです……前回の振袖の時は髪短かったでしょう?」
「なら31センチ以上の髪を寄付しましょうね」
 辰巳さんは毛先にキスしながらウィンクしてくれた。
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