総務の袴田君が実は肉食だった話聞く!?

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ミーティング

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 やだ! 何て疎いんだってば私!
 そうだよね、佐々木さんが本社に移ってそのまま課長不在な訳ないよね、後任は後日って話出てたし。

 掲示板の前はざわついてたけど皆驚いてないし、はいこれまた私だけ気付かなかったパターン。

 だよね、そりゃ成績トップの桐生さんが課長になるよね、いやそれだけが理由じゃないのもわかってる。



「ああそうだ、尾台さん先週の佐々木さんの飲み会の時にいなかったから言えなかったんだけど」
「はい」

 事務の子がおはようって隣に立って、背伸びして辞令見ながら言う。

「今週、桐生さんの昇進祝いの飲み会あるんだけど来ますよね?」
「え? また飲み会? 開きすぎじゃないですか!」
「何何~? 尾台さんお酒好きでしょ? それに課長になったら仕事立て込んでろくに時間も取れなくなるから、この辞令見て皆で気分盛り上がったままパァ~っと!」
「パァ~っと……?」

 両手上げてこっち向かれてハイタッチしなきゃいけない雰囲気だぞコレ。

「はい、えったんおはよ。何のタッチ?」
「あら、久瀬さんおはよ。桐生課長の昇進祝い盛り上げましょうねって気合いのハイタッチよ」

 私の代わりに後ろからタッチしてくれたのは、めぐちゃんだった。

「めぐちゃんおは…………髪切ったんだ! 可愛い~!!」

 茶色のボブを金髪のベリーショートにしためぐちゃんはいつにも増して可愛かった。
 ややや! 私には絶対真似できない髪型だな、ベリーショートのめぐちゃん骨格美しすぎ!

「っていうか、うちの会社そんな髪色ありなんだ、生まれて一度もした事ない」
「私バイトだしね」
「実質、佐々木さんも今週から向こうだし忙しくなるね! 尾台さん無理しないでねって助けてもらってるのはこっちだけど尾台さんが倒れたらやってけないです」
「やだ、そんなの気にしないで」

 佐々木さんって単語に私がびくってしちゃったけど、めぐちゃんは笑顔のまま、私にもできる事あったら疲れない程度にパシッて下さいねーって言う。

 後から来た社員やバイトの子に髪の毛凄いねって話し掛けられて、めぐちゃんはそのまま部屋に入っていった。


 飲み会……前回出てないし、今回出ないなんて選択肢あるんだろうか。
 いやあれか、お酒飲まなきゃいいだけの話よね、それか一杯で止める……? 止めるとか……? できるのか?
 でも袴田君とちゃんと反省して次に生かすって約束しちゃったし、次の日? は熱海行くし私やれば出来る子!



 あ、そうだ! じゃあ最後の桐生さんへのお礼はお祝いにしようかな。
 自販機の飲み物はこないだので全滅だって分かったからコンビニに行こう。




 そんでコンビニ着いたけど、いざ来てみたらこれは…………逆に種類がありすぎて困る事件発生!!
 缶なのかペットボトルなのかパックなのか……いやこれ買ったとして昇進祝いですって渡すの?

 やだ、プレゼント選ぶの苦手って分かってたのにぃ! 袴田君袴田君!! って今日は本社って書いてあったな。
 仕方ないから、

「す……すみません、このお店で一番高い商品ってなんですか」

 ってなけなしの質問を品出ししている店員さんにしてみたら、これっすね、とコシヒカリ五キロ、三千二百八十円を渡されてしまった。 
 お、重いよ……。
 これはちょっと今日渡されても困ると思ったからそっと返しておく。
 化粧品を除くなら、後はお酒じゃないっすかねって言われて、ほうお酒! 桐生さん好きだったよな。
 酒類のコーナー来て、イヤ待って朝から制服着たOLが酒コーナーで品定めってどんな目で見られてるんだろう、あれかな震えながらキーボードを叩いていた手が一口飲めばシャキッとみたいな?

 ずらっと並んだ酒瓶前に睨めっこしてたら、店員さんは高いのだったら、あっちの冷蔵庫にワイン入ってますし……ああ、後は養命酒が高いっすよ。
 って教えてくれた……養命酒かワインね。

 やっと選択肢が狭まって、二択なら私もいける気がします!!







「あらら~えったんいないと思ってたらコンビニ行ってたんだ。珍しいね、何買ったの? は? ワインと養命酒??」
「う、うん……相談乗ってくれたらどっちかめぐちゃんにあげる」
「どっちもいらんし」

 微妙な顔されちゃったんだけど、だって決められなかったから!


 斯々然々話したら、

「ああ……あのいつもコソコソ飲み物渡してたヤツね? 最後に何あげるか迷ったからとりあえず高いもの買ってきたって?」
「そうそう」
「えっちゃんはさ~マジなんも分かってないねぇ高い物あげればいいってもんじゃないでしょ」
「そんなの分かってるけど! 百円より大きな気持ち伝えるには」
「お金じゃなくて言葉でしょ」
「ヒッ! そ、そうでした……」
「コンビニの中で一番高いものどうぞ! って渡されても…………まあえっちゃんからなら何貰っても嬉しいだろうけど」

 めぐちゃんは養命酒の裏の効能見ながら続けた。

「とりあえず、この養命酒は一日三回服用だし良薬口に苦しで不味いから止めとけば? 飲んだ事あるけどすっごい甘くて薬草の味」
「そっか……」
「えっちゃんっぽい贈り物ではあるし、体考えてくれてるって感じするけど飲めなかったら意味ないからね。まだワインのが実用性ありそうよ、桐生さんたまに飲んでるし」
「じゃあめぐちゃんに養命酒あげちゃう体温めてね大好きだよ」
「ありがと、大事に飲むね」
「ああ! それと……」
「ん?」
「それと、あの佐々木さんにもプレゼント……最終日に渡したいと思うんだけど……何がいいかな」
「ほー……そうだなぁ」

 めぐちゃんは綺麗な指先で養命酒の箱を叩きながら笑った。

「チョコ、とか……うん、チョコがいいんじゃないかな好きだったよ」
「そっか」

 昔から……っと小さな声で付け足して長い睫毛の目を伏せた。

 始業のチャイムが鳴って、優男って感じの佐々木さんと対極的な体育会系の桐生さんが一緒に現れた。
 今日も桐生さんは爽やかで白い歯が眩しくて、皆に課長課長っていじられて笑って返していた。






 先週同様、朝礼後に全体ミーティングが入った。
 私がコンビニ行ってる間に他の子が準備してくれてたってすみません。



「フライング挨拶になってしまいますが、この度、課長に任命されました桐生です。これもひとえに皆様の日頃からのご支援の賜物と、心より感謝申し上げます。それで…………課長職に就くにあたり、始めに言っておきたいのは課長なったからと言って、僕が偉くなった訳ではありません。ただ、皆をマネジメントする役職に就いただけです。思った通りの成果がでなかった時、その責任は僕にあります、個人の動きを把握できず能力を引き出せなかった僕の力不足です。前任の佐々木さんは幅広いリーダーシップでチームの信頼を勝ちえていました。今の僕には遠く及びませんが、少しずつ前課長に近づけるよう努力を惜しまず精進していく覚悟です。皆のモチベーションが維持できるよう、明るく楽しい職場を意識していきたいと思ってます。初めての課長職で皆には迷惑をかけてしまうと思いますが、チーム一丸となって今まで以上の結果を出すべく、取り組んでいきましょう。どうぞお力添えの程、宜しくお願い致します」

 普段の軽快な口調と真剣な眼差しで会議室の面々を見渡しながら怖めず臆せずと挨拶をする桐生さんはいつの間にか課長の顔だった。
 頭を下げたらもちろん拍手が起こって隣で聞いていた佐々木さんも頷いて泣くそぶりしながら拍手して、嘘つきって桐生さんが肘で突いて皆笑った。

 凄いなぁ……佐々木さんもだけどあんな長い挨拶文を何も読まずに言えちゃうの。
 しかも、変に固い敬語じゃなくて自分の言葉で話して、でもきちんと畏まる所は畏まって。
 私には一生真似できない、格好いいな……女の子キャッキャしてる。

 ミーティングが終わって、帰り道……なんだかデスクの下に置いてあるコンビニで買ったワインなんて渡すの恥ずかしく思えてきた。
 だって何の思い入れもないワインだよ。

 どうしたのコレ? って聞かれてコンビニで買いました! は…………やっぱりないよなぁって……。

 何となく、自販機の前まで来てしまってお金を入れてボタンを押した。


 温かいミルクティーが出てきて、ああ……これだって思った。



 私が初めてもらって体の芯から温まって涙が出るほど勇気を貰ったミルクティー……。


 なんだ、これで良かったんだ、こっち渡そ。

 持って帰ってきて席に座った所で、頭をポンッと軽いもので叩かれた。
 見上げたら桐生さんがプリント丸めてポンポン叩いてくるんだけど、

「何ですか」
「尾台どうしたの? お前だけだよアクションプランの提出してないの」
「ええっ?!! あ、あ、あ……そっか……そうでした」

 目標立てる度、眼鏡の人が産休って言ってたの思い出してわぁああ! ってなって後回しにして忘れてた……こんなの初めて! あり得ない!

「何か悩み事でもあんの? とりあえず午後ミーティングするぞ、先週までだったんだから今日中に提出」
「はい! 申し訳ありません、承知しました」

 直ぐにスケジュールを確認して、午後に空いていた三階のミーティングルームを確保した。
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