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お許し

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「あ? オレは認めねぇぞ、こんな胡散くせー眼鏡野郎」
「ちょっと、らい! 真っ直ぐ座りなさい! もう本当にごめんなさい、うちのアホ息子が生意気な口利いて、高校生だから反抗したい年頃みたいで」
「袴田さん、結婚するのは本当にうちの娘で間違いないですか? 絵夢は自慢の娘ですが……そのいささか身分が違うと言うか」
「優しくていい子ですけど、うちは中流家庭ですからそんな大企業の方と結婚なんて……」


 私の家族は袴田君を目の前にして、1名を除き萎縮しまくっていた。

 築27年3LDKのマンションのリビングに、袴田君と肩を寄せて座ってテーブルを挟んだ向こう側には両親とお姉ちゃんとらいちゃん。
 それぞれ複雑な顔をしていた。

 何せ、私がうちの会社に就職が決まった時もえええええ!!! ってなっていたんだ。
 でも次に、そのグループ会社だよって言うと、そ、そうだよねって落ち着いた。
 それが、まさかその親会社の……会長の孫と結婚とか、もはや私も意味が分からない。
 そうだな、冷静に考えたら意味わかんなくね、私ここんちの子だよ!!!

「そうだよ。袴田君! この結婚は可笑しいよ!」
「そうだそうだ可笑しい! 絵夢ちゃんはオレと結婚するんだ!!」
「ほら! またアンタはいつまでもそんな事言って! いい加減叔母離れしなさい!」

 らいちゃんはお姉ちゃんに頭を叩かれてそれでも、オレこいつ嫌い!! って犬歯出して威嚇してる。
 ロミオは袴田君のお膝の上で腹を出してうっとりしていた。(玄関対面5秒で、あら尾台さんにそっくり、おいでって抱っこして喉かいただけで手懐ける意味不明)

 袴田君はロミオのお腹を優しく撫でると頭を軽く下げて眼鏡を直した。




「本日は時間を作って頂いて本当にありがとうございます。私はずっと絵夢さんのご家族にお会いしたいと思っておりましたので、今こうして夢が叶って喜ばしい限りです」


 膝に置いていた手にすっと袴田君の手が伸びて指を絡めて握った。


「私は中学生の頃より絵夢さんのファンでした。初めて彼女に会った時の衝撃は忘れられません。純粋に絵夢さんに惹かれて心から絵夢さんを好きになりました。そして今でもその気持ちはあの日から変わっていません。私にとって絵夢さんは日本一のコスプレイヤーで心の支えでした。絵夢さんのブログの写真はお母様が撮影されたんですよね。私も趣味でカメラをやってまして、とても自然な絵夢さんの笑顔に心惹かれて惚れ込みました。そしてそれを撮影されたのがお母様だと知ってカメラの話をしてみたいと思っておりました。また絵夢さんはお父様に勧められた漫画のお話をよくされていて、読んでみたらとても面白く感動する作品ばかりでした。私の家庭はそういった娯楽に疎い所あったので一緒に漫画を読んでくれるような間柄が羨ましく微笑ましく、お父様と絵夢さんは私の理想の親子関係です。そして、私が一番惚れたコスチューム、お姉様が制作された一品なんですよね。どのレイヤーさんにも劣らない裁縫技術は目を見張るものがありました。あんなに完成度の高いものは他に見た事がないです。先日の現物を見せて貰ったのですが、繊細な刺繍に抜群のカラーリングセンスに生地の質感にあれ以上のラブリスの衣装は見た事がないです。絵夢さんは本当に大切にされてるのだなと胸が熱くなりました。そしてらいおんさんが叔母を超える想いを絵夢さんに抱いているのも知っています。ですが私もそれ以上に絵夢さんを想っているので納得されるまで何度でも話し合う覚悟です。そんな愛される絵夢さんですから会社でも上司からの信頼も厚く同僚、後輩からも慕われています。仕事にも真面目で実直、誠実で非の打ちどころがないです。とても素晴らしい方で私は心から、一人の人間としても絵夢さんを尊敬しています。それに比べたら私の方が未熟に感じるかもしれません、ですが精一杯絵夢さんを大切にするとここにお誓い致します」

 一息で言うと袴田君は私を見て頷いて家族を見渡した、肩が大きく動く深い呼吸の後。

















「命を懸けて幸せにしますので絵夢さんと結婚させて下さい」









 そう言って額が机につくくらい頭を下げた。







 手ぎゅぅってして、いっぱい瞬きしちゃってもしかしたら一番驚いていたのは私かもしれない。
 だって、家族には結婚したい人がいるから連れてくって言ったし、皆もそれなりの覚悟はあったと思う。
 いや、婚姻届けを書いた時点で私にだってそれ相応の気持ちはあったんだけれど。

 こんなテレビで見るような娘さんを私に下さい! みたいな事が自分に起こるなんて。
 袴田君は頭を下げたままで、何だか胸苦しくって涙が出そうだった。
 結婚するってこういう事なの。

「は、袴田さん! 別に僕達は結婚を反対してる訳じゃないんだよ!」
「オレは反対だけど」

 って慌ててお父さんが声を掛けたら、袴田君は顔を上げて眼鏡を直した。



「絵夢さんと結婚するお許しを頂けますか」



「もちろん、こちらこそ不束者の娘ですが宜しくお願いします」と頭を下げて証人の欄にお父さんは名前を書いてくれた。
 袴田君はじっと書類を見つめて赤い印が押されると安心したように私を見て笑った。
 そして、皆の前でキスしてきた。

 らいちゃんのチッて舌打ちが聞こえた。
 抱き寄せられて絶対幸せにするからねって言われて、嬉しくてちょっと泣いた、私も頑張らなきゃと思った。
 その後は私のアルバムをお父さんが見せたりお母さんがカメラ見せたり、お姉ちゃんがロミオ用のラブリスの服を見せてたり和気藹々と談笑して皆は袴田君を温かく受け入れてくれた。











 優しく見送られて家を出て、少し歩いた所で。




「尾台さあああああんんんん!!!!」
「ヒッ!! な、何どうしました?」

 何だかちょっと恥ずかしくて距離開けて歩いてたら詰められて抱き締められて袴田君は頭に顔擦り付けてきた。

「褒めて下さいよ、俺すっごいすっごい緊張してたのに頑張ったでしょ!!」
「え? 緊張してたの?!!」
「してたじゃないですか! お前なんかにうちの絵夢はやれん! とか言われたらどうしようっておしっこちびりそうでしたよ!」
「全然そんな風に見えなかったけど」
 はああ……って深呼吸して袴田君はセットしていた髪をわしゃわしゃ崩した、あん普段と違う感じで格好良かったのに勿体ない。






 挨拶に行ってもいいですか? の後、お母さんに電話して袴田君の事を話したら。

「ななななななな何それいつくるの?」ってめっちゃどもられて、お母さんが決めてよって言ったら、「2週間後! にしたら今日から2週間気になってご飯食べられなくなるから…………んじゃ、明日!!」って言われてしまった。

 電話を切って、袴田君がどうでした? って言うから明日来てだって言ったらああああああ明日?!! って同じような反応してたけど、自分が明日行ってもいいか、って言ってたんじゃん。

「いや、それはあれですよ! 今にでも行く覚悟はあるんダゾ! みたいなそんな気持ちを伝えたかったんです」
「じゃあ明日でいいですね」
「御意に」



 それで朝、私は実家に帰るだけなのであんまり緊張してなくて(らいちゃんに会うのはちょっと勇気いったけど)。
 そんな事より昨日の中学生設定の15歳の袴田君が性に貪欲すぎて何度もしつこく色んな事してくるから(お姉さん教えてください、女の人ってどうやったらイクんですか、この角度でもイクんですか、この体位でもイクんですか、あれ、首締められてイッちゃうんですか、等々)そのせいで重くなった下半身をストレッチしていた。
 あ、そうだ私ヨガでこんなポーズも出来るんですよって見て見て袴田君って呼んだら洗面所から出てきた袴田君は会社とは違うキリッとした身だしなみで、前髪を上げてて相変わらずスーツ格好良すぎて死んだ。


 桐箱に入ったお高めな洋菓子を買って、マンション目の前に来て、二人でよし行くぞ! ってしたんだけど……何だかすっごい駆け足でここまで来ちゃったなと思った。

 袴田君は恋人繋ぎの手を強く握って俺に任せて下さいね、笑っておでこにキスしてくれた。






 って超頼れる男って感じだったんだけど、実際はすっごい緊張してたのか!!
 それはそうだよね私だって袴田君のおじいちゃんに会うの今考えただけでも泡吹きそうだ。

「はぁあ、良かったです、認めてもらえて。あ、らいおんさんからは最後まで睨まれてましたけど俺は全く気にしてないんで」
「葛西さんの面談の時とどっちが緊張しました?」
「え? あれを緊張していたのは部下だけですよ俺は全く動じる理由がありませんでしたから緊張なんてしていませんでしたよ」
「そっか」

 やっぱり会長様の孫は気構えが違うな。

 袴田君の背中をポンポンしてあげてたら、ヤバイ尾台さん補給しないと干からびちゃうって人目も気にしないでちゅっちゅしてきて、恥ずかしすぎるんだけど頑張ったんだからご褒美って堪えてたら、ポケットで携帯が震えた。

 それは袴田君の携帯で、







「もしもし、じーちゃん? うん、平気だよ。…………分かってる異動の話ね。ああ、それさ直接話す時間ない? 会ってもらいたい人がいて…………うん、そう、結婚したい人がいるんだ」
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