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おしまいの後
桐生君と尾台ちゃん1
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社会人になってからを省いて、人生で一番頑張った時期なんてのを聞かれても全く思い浮かばない。
勉強もそこそこ、運動もそこそこ、熱中する趣味もないし、これって指針はないけど、何せ顔もそこそこだったから男女問わず友人、環境に苦労することはなかった。
楽しいのも好きだし騒ぐのも好きだし、男も女も来る者は拒まず去る者は名前すら覚えずって感じで流されながら、淡々と生きてきた。
あれは俺が大学三年生の時だ。
もう授業の出席日数がやべぇなって久しぶりに出た授業、遅刻したのもあって講堂は満席で、ゲッ落としたって思ってたら、体格のいい茶髪の男と目が合って隣の椅子の荷物をどけてくれたのだ。
どうもって頭を下げたら。
「ちょうど、出席とってる所」
って名簿渡されて、一つ前の名前は桐生 陸と綴られていた、続けて俺も有沢 大和って書いて次に回す。
まあそれっきり会話はない、授業が終わって荷物を持ってもう一度どうも、と頭を下げたら。
「実は僕、去年この授業落として崖っぷちなんだけど、今年も今日が初めてでノートかなんかない?」
「いえ……」
「そっか」
会話終了、そのまま俺は外に出て、まあこれっきりだな。
だって見た目が違いすぎるから、仲良くなれそうにない。
明らかスポーツの推薦できました感あるソイツとひょろくて小さいチャラついた俺。
仕方ないだろ、この童顔に声変わりを忘れた声が女子共に受けてるんだ。
中性的で可愛いとか、女の子みたいとか言って勝手に俺の中身まで、そういうもんだと勘違いして、少し恋愛相談に乗ればヤれるので、そっち系に磨きがかかっちゃって見た目が男から離れてしまっている。
桐生とは相容れない感じだ。
それで、翌週。
なんともまあ、また桐生と席が隣だった、もう欠席の後がないから早めに行ったら奴はいた。
俺を見て、あ、みたいな顔するから仕方なく隣の席に座った。
「これ、今までの授業のノート、去年のだけど友達から貰っといた、いる?」
「え? マジ」
「僕もうコピーしたからあげるよ、友達もいらないみたいだから」
「ども」
で出席簿が回ってきて名前書いて、桐生に渡したら、奴は口を開けて俺を見た。
「大和? え? 君、男なの?!」
「は? ああ、そうだけど」
「へえ……」
それは……その反応はなんかアレ……思わず笑いがこみ上げて、口を手で覆ったけどダメだった。
「何、お前俺が女だと思ってたの?」
「う」
「ごめんごめん、あ! 男だからノート返してとか言っちゃう?」
「言わないよ」
何か可愛くて、ああ、きっと先輩なんだけど面白しろくて顔を近付けたら逸らしちゃうし、そんな桐生君が可笑しくて授業は毎回隣の席で受けることにした。
三年の後期から始まるゼミも行きたいとこもなかったし何となく桐生君と同じ。
ふと感じた、ない物ねだりってあるんだなって……。
いつも見ないようにして生きてきたんだよ、俺は俺でいいって思ってたんだ。
俺が俺を否定したら始まらないだろ? だから可愛い俺でいいじゃんって。
皆もそれがいいって言うし。
でもな、やっぱり、俺だって男らしくなりたかったんだって桐生君を見て思った。
だって格好いいじゃん、女の子守れそうな体。
俺にはない筋肉と骨格と、努力で培う人脈と。
面倒見が良くて明るくてさ、生まれて初めて憧れの先輩みたいなのが出来た。
そう、俺はさ皆が好きって言う俺を演じてるだけなんだな、皆に嫌われない俺。
自分にまで嘘ついて格好悪いな、でも、もう治んないよ。
俺にはきっとこの生き方しかないと思う、素直な自分になる方がきっと苦しい。
それでね、誘われて行ったアメフトの試合、桐生君はマジで格好良かった。
クォーターバックってアメフトの花形ポジション。
要はオフェンスの司令塔だ、パスを投げたり、時には自分でボールを持って走ったり、オフェンスはクォーターバックを中心に展開していく。卓越したリーダーシップにディフェンスを的確に読む頭脳、桐生君の一瞬の判断で試合が左右されるんだ。
ああ……きっと尾台ちゃんも桐生君のこの姿見たら惚れただろうにな。
ある日のゼミの飲み会で、彼女その3とメールしてたら、そういうの僕は良くないと思う! なんてキッショいこと言ってきたから桐生君は彼女いないのって聞いた、そしたら。
「好きな人はいるよ」
って、誰って聞いたら部活のマネージャー、そして彼氏(先輩)がいるって。
「何でそんなの好きになるんだよ」
「知らないよ。でも、いい子なんだよ一生懸命で優しくて可愛くて、好きな人って言われたら今の所その子しか頭に思い浮かばないかな」
「でもヤれないんでしょ?」
「それが全てじゃないだろ」
「ふーん? 意味不明」
その後その恋がどうなったか聞かずに桐生君は卒業してしまった。
それで、俺は就職もダリーしこのままグダグダ生きていこうかなって寝っ転がってた頃に桐生君から、やることないなら、うちの会社にこないかって誘われたんだ。
離職率ヤバくて人いなくてさ、とりあえずバイトからでもいいって、僕じゃ開けない窓口お前ならイケそう、だそうだ。
そんで、やりたいもんもないし、そのまま入社した会社、まあまあ桐生君が言う通り、気分を害す雰囲気作り出すジジババ共が権力振るってのさばってて、うげぇっと思った。
でもそこはそれ、色んな川に流され長いものはにはクルクルで、その上、中々の顔面偏差値誇っちゃってる俺は幅利かせてるババーに太鼓を持って取り入ることに成功、そしたら危害もなくて思いの他、居心地は悪くなかった。
いびられてる子に優しくしたらそっこーヤレちゃうし、んで面倒臭くなる前に辞めちゃうしね。
一応、手付ける前に桐生君にあの子イケそうだよって言うけど、桐生君は見向きもしなくて変わってるよな。
そんでズルズル二年経って仕事も居場所も確立してきて、でも別にこれといって仕事が楽しくもないから、いつでも辞めるくらいの気持ちで働いてた頃に尾台ちゃんはやってきた。
正直、その頃営業部は死んでたね、横領や不作為パワハラで桐生君は週末に飲んでは最後にはどうにかしたいって爪を噛んでたよ、俺は何とも思わなかったけど、っでそんな中に明らかに今までとは違う子が入ってきたんだ。
【尾台 絵夢です笑顔の笑むで頑張ります!】
主役を思わせる背景の花に、俺は言葉が出なかった、きっと皆も同じだったと思う、そしてお局やその取り巻きが一番嫌いなタイプだろうなとも思った。
桐生君はどうだろうと思っていたら。
「大和」
「ん? 何」
「ああ、有沢」
「だから何」
「可愛いね、尾台さん……」
「え」
それは何年ぶりに聞いた桐生君の異性を意識する言葉だった。
そんでもって、やだよ……あえてここでときめかなくてもいいじゃないかって思うけど、俺も可愛いって思っちゃったし、ヤリてーって思ったけど、それは先輩の手前口には出さなかった。
っつか、久々の桐生君のあの言葉だ、俺は応援してやるべきだろ。
しかしながら、相変わらず桐生君はありえない程奥手だった。
昔、言ったんだよ、そんなに好きなら寝取っちゃえばって、そしたら乾いた笑いの後、桐生君は言った。
「でもそれってさー全てを裏切るじゃん? 尊敬してる先輩を裏切って、彼女もそれで落ちるなら性に負けたって僕が慕っていた誠実を失う、何より僕が本当に好きなんだって本心を裏切るだろ。そんな手段、手に入れたって絶対上手くいかない」
初めから彼女を性で落とせる前提って桐生君、エッチにそんな自信あんの?! って疑問は置いておいて。
まあもう本人がそういうなら、それ以上はないもんで、それでも尾台ちゃんモテるから、気抜かしたら変な奴に絡まれるし、守ってやるのに必死だった。
気になって仕方ない癖に見てないふりして、すげー見てるし。尾台ちゃんも桐生君見てるし、陰でコソコソなんかやってし、さっさと告れよ。
ああ、もうそんで俺は桐生君の為だって安易に近づいていたのが悪かったんだ。
ほんとに可愛いんだもん、俺のスケジュール全部把握してんの、疲れたぁーって外から帰って来たら。
「お疲れ様です、後は私がやっておきますよ」
って俺の席にコーヒー持って来て、広げたおしぼりまで出してくれんの、好きになるからやめてぇ!!
そんなのにさ、やっぱり好きだからか勝手にちょっかい出しに行っちゃうんだよな、尾台ちゃんが高い所の資料取れなくて俺が取るよってやって、身長変わらないから取れないっていうのが俺達のお決まりのパターン、台を使って結局尾台ちゃんが取る。
たまに桐生君が取ってくれちゃって笑顔になる二人を見れば、ずきっときて、切ない気持ちは嘘の笑顔で引っ込めた。
桐生君さ、飲みもん渡すばっかで何も言わないから、俺がおちゃらけて尾台ちゃんの気持ちが少しでも和らぐならって思ったけど、あれは失敗だったな。もっと彼女が好きになる、無謀な好きが重なっていくばっかりだ。
俺は何がしたいんだって思ったけど、案外桐生君も分かってるもんで、「有沢は尾台が好きなの?」って直球に聞かれた日には固まったよ。
俺を見て桐生君は、「そうだよな、お前最近遊んでないもんな。そっかーあの有沢を本気にさせちゃうのか尾台って。でもわかるよ可愛くていい子…………うん、絶対助けるからお前も協力してくれよな」
「ええっと……でも」
「どうしたんだよ、お前が尾台好きなのと僕達との関係は別だろ?」
声なく頷いて、着々と進められる準備と俺の焦り。
これが終わったら尾台ちゃん桐生君と付き合うのかなって、俺は陰でコソコソ動いていただけで、こんな仕事いつ辞めてもいいって言ってた癖に、桐生君みたいに命張ってまでの行動を起こす度胸はないよ。
正直元カノとか、桐生君知らないだけで、その頃も相手見付けちゃ適当にヤッてたし……尾台ちゃん手ー出せないから、ああ最低、でも俺から連絡した試しはないけど、来る者拒まないんだって言ったろ。
そんでさ総務ができちゃったんだよ。
しかも、トップはいけ好かない眼鏡だった。
あの司令塔だった、僕達の最後の砦だった桐生君が一歩引いた、俺には分かった。
広いフィールドで、桐生君はボールを持ったまま支持も忘れ立っていた、その先には袴田君がいた。
勉強もそこそこ、運動もそこそこ、熱中する趣味もないし、これって指針はないけど、何せ顔もそこそこだったから男女問わず友人、環境に苦労することはなかった。
楽しいのも好きだし騒ぐのも好きだし、男も女も来る者は拒まず去る者は名前すら覚えずって感じで流されながら、淡々と生きてきた。
あれは俺が大学三年生の時だ。
もう授業の出席日数がやべぇなって久しぶりに出た授業、遅刻したのもあって講堂は満席で、ゲッ落としたって思ってたら、体格のいい茶髪の男と目が合って隣の椅子の荷物をどけてくれたのだ。
どうもって頭を下げたら。
「ちょうど、出席とってる所」
って名簿渡されて、一つ前の名前は桐生 陸と綴られていた、続けて俺も有沢 大和って書いて次に回す。
まあそれっきり会話はない、授業が終わって荷物を持ってもう一度どうも、と頭を下げたら。
「実は僕、去年この授業落として崖っぷちなんだけど、今年も今日が初めてでノートかなんかない?」
「いえ……」
「そっか」
会話終了、そのまま俺は外に出て、まあこれっきりだな。
だって見た目が違いすぎるから、仲良くなれそうにない。
明らかスポーツの推薦できました感あるソイツとひょろくて小さいチャラついた俺。
仕方ないだろ、この童顔に声変わりを忘れた声が女子共に受けてるんだ。
中性的で可愛いとか、女の子みたいとか言って勝手に俺の中身まで、そういうもんだと勘違いして、少し恋愛相談に乗ればヤれるので、そっち系に磨きがかかっちゃって見た目が男から離れてしまっている。
桐生とは相容れない感じだ。
それで、翌週。
なんともまあ、また桐生と席が隣だった、もう欠席の後がないから早めに行ったら奴はいた。
俺を見て、あ、みたいな顔するから仕方なく隣の席に座った。
「これ、今までの授業のノート、去年のだけど友達から貰っといた、いる?」
「え? マジ」
「僕もうコピーしたからあげるよ、友達もいらないみたいだから」
「ども」
で出席簿が回ってきて名前書いて、桐生に渡したら、奴は口を開けて俺を見た。
「大和? え? 君、男なの?!」
「は? ああ、そうだけど」
「へえ……」
それは……その反応はなんかアレ……思わず笑いがこみ上げて、口を手で覆ったけどダメだった。
「何、お前俺が女だと思ってたの?」
「う」
「ごめんごめん、あ! 男だからノート返してとか言っちゃう?」
「言わないよ」
何か可愛くて、ああ、きっと先輩なんだけど面白しろくて顔を近付けたら逸らしちゃうし、そんな桐生君が可笑しくて授業は毎回隣の席で受けることにした。
三年の後期から始まるゼミも行きたいとこもなかったし何となく桐生君と同じ。
ふと感じた、ない物ねだりってあるんだなって……。
いつも見ないようにして生きてきたんだよ、俺は俺でいいって思ってたんだ。
俺が俺を否定したら始まらないだろ? だから可愛い俺でいいじゃんって。
皆もそれがいいって言うし。
でもな、やっぱり、俺だって男らしくなりたかったんだって桐生君を見て思った。
だって格好いいじゃん、女の子守れそうな体。
俺にはない筋肉と骨格と、努力で培う人脈と。
面倒見が良くて明るくてさ、生まれて初めて憧れの先輩みたいなのが出来た。
そう、俺はさ皆が好きって言う俺を演じてるだけなんだな、皆に嫌われない俺。
自分にまで嘘ついて格好悪いな、でも、もう治んないよ。
俺にはきっとこの生き方しかないと思う、素直な自分になる方がきっと苦しい。
それでね、誘われて行ったアメフトの試合、桐生君はマジで格好良かった。
クォーターバックってアメフトの花形ポジション。
要はオフェンスの司令塔だ、パスを投げたり、時には自分でボールを持って走ったり、オフェンスはクォーターバックを中心に展開していく。卓越したリーダーシップにディフェンスを的確に読む頭脳、桐生君の一瞬の判断で試合が左右されるんだ。
ああ……きっと尾台ちゃんも桐生君のこの姿見たら惚れただろうにな。
ある日のゼミの飲み会で、彼女その3とメールしてたら、そういうの僕は良くないと思う! なんてキッショいこと言ってきたから桐生君は彼女いないのって聞いた、そしたら。
「好きな人はいるよ」
って、誰って聞いたら部活のマネージャー、そして彼氏(先輩)がいるって。
「何でそんなの好きになるんだよ」
「知らないよ。でも、いい子なんだよ一生懸命で優しくて可愛くて、好きな人って言われたら今の所その子しか頭に思い浮かばないかな」
「でもヤれないんでしょ?」
「それが全てじゃないだろ」
「ふーん? 意味不明」
その後その恋がどうなったか聞かずに桐生君は卒業してしまった。
それで、俺は就職もダリーしこのままグダグダ生きていこうかなって寝っ転がってた頃に桐生君から、やることないなら、うちの会社にこないかって誘われたんだ。
離職率ヤバくて人いなくてさ、とりあえずバイトからでもいいって、僕じゃ開けない窓口お前ならイケそう、だそうだ。
そんで、やりたいもんもないし、そのまま入社した会社、まあまあ桐生君が言う通り、気分を害す雰囲気作り出すジジババ共が権力振るってのさばってて、うげぇっと思った。
でもそこはそれ、色んな川に流され長いものはにはクルクルで、その上、中々の顔面偏差値誇っちゃってる俺は幅利かせてるババーに太鼓を持って取り入ることに成功、そしたら危害もなくて思いの他、居心地は悪くなかった。
いびられてる子に優しくしたらそっこーヤレちゃうし、んで面倒臭くなる前に辞めちゃうしね。
一応、手付ける前に桐生君にあの子イケそうだよって言うけど、桐生君は見向きもしなくて変わってるよな。
そんでズルズル二年経って仕事も居場所も確立してきて、でも別にこれといって仕事が楽しくもないから、いつでも辞めるくらいの気持ちで働いてた頃に尾台ちゃんはやってきた。
正直、その頃営業部は死んでたね、横領や不作為パワハラで桐生君は週末に飲んでは最後にはどうにかしたいって爪を噛んでたよ、俺は何とも思わなかったけど、っでそんな中に明らかに今までとは違う子が入ってきたんだ。
【尾台 絵夢です笑顔の笑むで頑張ります!】
主役を思わせる背景の花に、俺は言葉が出なかった、きっと皆も同じだったと思う、そしてお局やその取り巻きが一番嫌いなタイプだろうなとも思った。
桐生君はどうだろうと思っていたら。
「大和」
「ん? 何」
「ああ、有沢」
「だから何」
「可愛いね、尾台さん……」
「え」
それは何年ぶりに聞いた桐生君の異性を意識する言葉だった。
そんでもって、やだよ……あえてここでときめかなくてもいいじゃないかって思うけど、俺も可愛いって思っちゃったし、ヤリてーって思ったけど、それは先輩の手前口には出さなかった。
っつか、久々の桐生君のあの言葉だ、俺は応援してやるべきだろ。
しかしながら、相変わらず桐生君はありえない程奥手だった。
昔、言ったんだよ、そんなに好きなら寝取っちゃえばって、そしたら乾いた笑いの後、桐生君は言った。
「でもそれってさー全てを裏切るじゃん? 尊敬してる先輩を裏切って、彼女もそれで落ちるなら性に負けたって僕が慕っていた誠実を失う、何より僕が本当に好きなんだって本心を裏切るだろ。そんな手段、手に入れたって絶対上手くいかない」
初めから彼女を性で落とせる前提って桐生君、エッチにそんな自信あんの?! って疑問は置いておいて。
まあもう本人がそういうなら、それ以上はないもんで、それでも尾台ちゃんモテるから、気抜かしたら変な奴に絡まれるし、守ってやるのに必死だった。
気になって仕方ない癖に見てないふりして、すげー見てるし。尾台ちゃんも桐生君見てるし、陰でコソコソなんかやってし、さっさと告れよ。
ああ、もうそんで俺は桐生君の為だって安易に近づいていたのが悪かったんだ。
ほんとに可愛いんだもん、俺のスケジュール全部把握してんの、疲れたぁーって外から帰って来たら。
「お疲れ様です、後は私がやっておきますよ」
って俺の席にコーヒー持って来て、広げたおしぼりまで出してくれんの、好きになるからやめてぇ!!
そんなのにさ、やっぱり好きだからか勝手にちょっかい出しに行っちゃうんだよな、尾台ちゃんが高い所の資料取れなくて俺が取るよってやって、身長変わらないから取れないっていうのが俺達のお決まりのパターン、台を使って結局尾台ちゃんが取る。
たまに桐生君が取ってくれちゃって笑顔になる二人を見れば、ずきっときて、切ない気持ちは嘘の笑顔で引っ込めた。
桐生君さ、飲みもん渡すばっかで何も言わないから、俺がおちゃらけて尾台ちゃんの気持ちが少しでも和らぐならって思ったけど、あれは失敗だったな。もっと彼女が好きになる、無謀な好きが重なっていくばっかりだ。
俺は何がしたいんだって思ったけど、案外桐生君も分かってるもんで、「有沢は尾台が好きなの?」って直球に聞かれた日には固まったよ。
俺を見て桐生君は、「そうだよな、お前最近遊んでないもんな。そっかーあの有沢を本気にさせちゃうのか尾台って。でもわかるよ可愛くていい子…………うん、絶対助けるからお前も協力してくれよな」
「ええっと……でも」
「どうしたんだよ、お前が尾台好きなのと僕達との関係は別だろ?」
声なく頷いて、着々と進められる準備と俺の焦り。
これが終わったら尾台ちゃん桐生君と付き合うのかなって、俺は陰でコソコソ動いていただけで、こんな仕事いつ辞めてもいいって言ってた癖に、桐生君みたいに命張ってまでの行動を起こす度胸はないよ。
正直元カノとか、桐生君知らないだけで、その頃も相手見付けちゃ適当にヤッてたし……尾台ちゃん手ー出せないから、ああ最低、でも俺から連絡した試しはないけど、来る者拒まないんだって言ったろ。
そんでさ総務ができちゃったんだよ。
しかも、トップはいけ好かない眼鏡だった。
あの司令塔だった、僕達の最後の砦だった桐生君が一歩引いた、俺には分かった。
広いフィールドで、桐生君はボールを持ったまま支持も忘れ立っていた、その先には袴田君がいた。
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