お世話になっております、わたくし創生の女神と申します!

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5、大輝 虎太郎2

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 帰路は覚えていない、それで放心状態で家に着いて驚いたのはラインに連投される、真奈美さんからの謝罪のメッセージだった。
 てっきりプロポーズされるのだとばかり思っていたから、少し言い過ぎた、謝りたい、冷静になったら私もおかしかった、と。

 どうしたらいいのだろう、彼女の本性を目の当たりにして、正直気持ちは冷めていた。
 返信しないでいたら、今日のデートのあそこが面白かった、アレが美味しかった、今度はそこに行きたいって何かを取繕うようにメッセージがきて、それも返せずにいたら。


「明日、一緒にランチでもどう?」


 前までならどこのお店に行こうって近場のレストランを調べてたけど、今の僕にはそれは恐怖でしかない、だって美味しいって笑っている裏で、何でこんな所に連れてくるのって思われるかもしれないじゃないか、だってさっき僕は私の好みを分かってないって言われたばかりだ。


「ごめんなさい」

 としか返せなかった。
 連投されてたメッセージがピタリと止んで、ホッとしたのも束の間、今度は何度も着信が入る。
 取らずに画面を見ていたら、電話に出て、とメッセージ。そして、
 電話、メッセージ、電話電話、メッセージ、電話電話電話、メッセージメッセージ……が2時間と続いて、ついに電話に出て、のメッセージが変わった。






「真剣に付き合うって言った癖に」




 眼鏡を押し込む、苦しくなる。そのセリフは言った。確かに僕が言った。
 僕の部署まできてくれて、クリーニング代を出すと言うから、拒否していたら、じゃあランチ奢らせて下さいって言われて、カフェに誘われた。
 年上女性の優しい会話のエスコートにドキドキして、テンパって言わなくてもいいのに身の上話の延長線上で、誰とも付き合った事がないと話したら、「じゃあ私とちょこっとお付き合いしてみる?」なんて、笑ってい言うから「いえいえ、真剣にお付き合いさせて下さい」って答えた。

 そう、言ったよ。僕が真剣に付き合うって頭を下げたんだ、男ばかりの部署でこんな機会ないって真奈美さんが女神に見えた。
 でも初めて迎える誕生日に指輪を買う勇気はなかった。僕はまだ25歳で結婚を意識していなかった、35歳になる彼女の本意が僕には分からなかった。


 それでもまあ、僕も落ち着いてきたら、一度くらいのケンカで……と思える位にはなっていた、だってこの先他の誰かと結婚? 付き合うとして全くケンカのない間柄なんてありえないんだろうし、彼女が言う様に我慢を重ねてきただけだけの関係だったのなら、別れるにしてもきちんと謝ろう思った。



 のだけど、僕等は言葉もなく別れる事になる。


 翌日、いつものように会社に出勤した。真奈美さんとのランチの約束はしていない。何かあった場合に午後の仕事に支障をきたす恐れがあったから、会うとしたら退社後と思っていた。
 そうしたら、隣の同僚が聞いたきたんだ「それでそれで? 昨日の彼女との誕生日ディナーはどうだったの?」

って呑気に、誤魔化す必要もないから、

「それが……ちょっと色々あって」

と苦笑いすれば、驚いたような、けど少し嬉しそうに目を光らせて。

「何々?! プロポーズ断られちゃったの?」
「え? プロポーズ? いやそれは……ちょっと」
 してない、とは言えず……いや言って良かったのか? ずれた眼鏡を直して言葉を濁していたら、同僚はおっかーしーなあって腕を組んだ、この男の彼女は真奈美さんの友達で…………間を置いた後、色々話してくれた。

「いやあね? 彼女が真奈美が今度プロポーズされるかもって喜んでたって言うからてっきり誕生日にされるとばかり思ってたんだよ。だから断るとかないよなあって」
「ああ、そうなんだ」

 僕は凄い鈍感なのかな、そうなんだ真奈美さんは皆に話してたんだ。それじゃあ今日左の薬指に指輪をしていなかったら、さぞかし会社で苦しい思いをするだろな、やっぱり謝らなきゃって思っていたら、続けて同僚は変な事を言った。

「んで、断られた理由はなんだよ。だって真奈美さん喜んでたぞ? 若い彼氏に玉の輿って! ああ! そうだよそうだよ! このこの眼鏡の下に金持ちボンボン隠しやがって~、お前父親資産家なんだろ? 母親は老舗和菓子店の女将で兄ちゃんは敏腕弁護士だっけ? え? じゃあお前ゆくゆくは和菓子店継ぐの?」
「い、いや……妹が……って、え? 何でその話知ってるの?」
「ん? 真奈美が言ってたって彼女が」
「…………」

 それを聞いて全身粟立って、感じた事のない気持ち悪さというか吐き気みたいな、胸を締め付けられる変な気分だった。
 だって僕は自分の家族の話を一度もしていない。
 そう、一番結婚を意識しなかった理由は双方家族の話や挨拶にも行っていなかったからだ。

 誰しも、付き合う時は真剣だろ、中学生だってどうせ私達別れるけど付き合う? なんて言わない、皆うちらの愛一生☆ って真面目に思って交際してる。

 だから、僕もそういう感じだった、真剣に付き合ってた真面目に、でも結婚は意識してなかった。それは深入りしてなかったから、順序ってあるじゃないか。

 それで、何で真奈美さんは僕の家族を知っているのだろう、父親から貰ったスーツが高額な物だったから? 少しお金がある家庭には見えたかもしれない、でもそんな母親や兄の職業まで……。
 いてもたってもいられずに、真奈美さんにメッセージを入れた。

「僕の家の事知ってるの?」

 既読がついて直に、

「だって、私だって若くないんだから、ちゃんとしてる人と付き合いたくて」


 YESかNOで応えない、核心突かない答えを理解するのに、大分かかった。

 短い文章を何度か読み返して、震えたため息がでた。

 そうか、初めから君はそういう目で僕を見ていたのか……椅子にもたれ掛かって蛍光灯を見つめて髪をかき上げた。

 彼女がいつ僕の家を調べたのかは知らない。
 彼女から僕の好きな所を聞いた事がない、そういう会話は照れくれ臭くてした事がなかった。
 君は一体僕のどこが好きだったのだろう。

 虚しい気持ちになった。

【結婚するんだからと我慢してきたのに】


 昨日泣きながら叫んだ彼女を思い出して、君は誰と、結婚したかったんだろうと真奈美さんの泣き顔が脳裏を過って僕まで泣きそうになってしまった。



「ねえ、ランチどうする?」



 真奈美さんからメッセージがきた。


「ごめんなさい」


 やっぱりそれしか返せなかった。
 そしてそれ以後、真奈美さんはからの返信は途絶えた。

 そして三か月の後の僕の誕生日に真奈美さんは金融関係に努めている男性と結婚した。
 なんと付き合って半年という、スピード婚だった。
 なんだ、真剣に真面目に付き合っていたのは、僕だけだったんだ。僕は真奈美さんが好きだった。

 そんな僕だけど、もう彼女を幸せにはできないから、彼女の幸福を祈っておこうと思っていたのに、やっぱり気になる奴がいたんだ。

 僕との交際期間とダブってるって、卑しく詮索してくる奴がいた、僕はもう彼女に関わらないでおこうと、わからないで通したけど、彼女は僕との交際期間の後半はもう耐え難い事が多々あってそれを相談していだの、まあそれは二股を自分で認めているとようなものだけど、結局は涙ながらに語られる僕の愚行のに対して周りは同情的で僕に非難の目が向けられた。

 あんな人が良さそうなのに……てな感じで、彼女が僕を何て言ってたかなんて、もう聞く気もない。
 僕はそんな中で仕事していくのもアホらしくなって、会社を辞めた。

 社員間というか家族、みたいのを大事にする会社だったから、今結婚して家庭がある分彼女の方がいい分も通るし、上司に呼び出されて生活面をもう少し見直してくれって言われて、この上司は彼女になに言われたんだろうと思うと、もう全てが面倒臭く感じられたのだ。

 もちろん僕の方の肩を持ってくれる同僚も上司もいたよ、唯一救われたのはそこだ、そして彼女が言う様に優秀な弁護士の兄が僕の異変に気が付いてくれて、事の顛末を話をすると、お前が出勤困難な程落ち込んでいるのなら、診断書を取って来い、法で決着がつくと味方になってくれて、そこら辺で吹っ切れた。

 やろうと思えばどうにでもなるというなら、もういいやって自分の中で終わりにした。彼女が好きだった、これだけは本当だったから、もう彼女の邪魔をするのは止めようって身を引いた、戦う必要なんてない。


 それで、少しぶらぶらしてた、でもやっぱりそういうのが生に合わないんだろう、何をしても楽しくなくて……な時に偶然父に連れられて行った、行きつけの鰻屋さんで学校の理事長をしている友人に会ったのだ。

 世間話して、じゃあうちで働くか、なんてトントンと話が進んでな冒頭に戻る訳だ、長く面倒臭く、苦しかっただろう! でも誰にもこんな所まで話したことなかったから聞いて欲しかったんだ、許してくれ。


 んで、気付いたら、職員室まで歩いて来ていた。
 僕の学校は中高一貫校で、職員室は二つ、常勤と非常勤で分かれている。ちなみに教師全員男だし男子校なので、そういう所ももう女で悩む事ないしいいなって決め手になった。一人用務員に女性がいるらしいが理事長の婚約者だそうなのでノーカンだ。


 回想に自分でも胸が苦しくなってまた重いため息が出た、椅子に座ってこないだの小テストの採点でもして気分を紛らわせよと思ったら、ズキンッ!!!!

 と股間に鈍い痛みを感じたのだ。

 あ? 何だ股間? 股? へ?


 ばれない程度に触って、勃ってはない、おいなんだ? 真奈美さん思い出して勃ったことなんて一度もない訳で……なんて考えていると、またズキンって……。



 痛ッってつい声が漏れそうになって少し椅子を引いて、痛みのある辺りを見たら…………。





 ええ、え、え、え? あ? あああ? 嘘なに、ちょっとえ? 



 僕の股間光ってんだけど、嘘待って、股間? 光る? 何それ。

 見なかった事にしよ!! って机に臍つけて、嫌でも痛い痛い痛い痛い!!

 なんてしてたら、目の前に電話が鳴って、苦し紛れに取ってみた。









「はいお電話ありがとうございます。明命学園です」















「お世話になっております、わたくし創生の女神と申します!」









 切った。
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