前略、僕は君を救えたか

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君。8

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 人の致死率は生まれた瞬間100%だ。僕もいつか死ぬ為に息をしている。お前はこんなとこで死ぬ為に生きてたのか、そんな命ってあるか、この世には神も仏もいないんだな。

 収拾のつかなくなった現場に全校集会は終了することになった。また後日、日を改めるだとかなんとかあまり細かい事は覚えていない。
 体育館からは生徒が次々と退出して行った、僕は父さんに支えられながら体育館に設置された大きな時計をぼんやりと眺めていた。

 その後、最後に桔平に会った僕は家で事情聴取をされた、スーツで来たからその人達が警察官だとは思わなかった。
 しかも生徒に付き添いたいと中山も一緒で、何にも言えなかった。

「兵藤君、無理しなくていいんだからね」 

 中山のわざとらしい位に温厚な声のトーン、それとは裏腹に瞳は一切、優しさを感じない冷淡な目だった。僕も殺されたらどうしようって思ってしまった、変な事考えてる、頭が混乱してる。父さんが隣にいるの、言葉が詰まる。
 泣いたら、取り乱したら、頭おかしくなってるで片付けられそうで、でも今は無性に泣きたくて、何も考えられなくて。

「あの日は烏丸君と揉めてたようだけど、先生が解決したよね?」

 中山は僕が答える間もなく勝手に話を進め同意を求めてくる。
 桔平の今までの学績や生活態度を勝手に話せば、警察はそれはもう聞いたって答えてた。
 要するに、桔平はいい子だったし学校にいじめや非はないと、個人的な自損事故だったとそう言いたかったんだろう。
 これは、今になって冷静に分析できてから分かる事で当時もなんとなくは分かっていながらも僕は、
「違う…違う」
 と言いながらまた泣く事しかできなかった。

 ソレをまた、中山にいいようにとられ子供だし直ぐには死を受け入れられないんだ、とか、しまいには可哀想だからこれ以上の尋問は止めてくれ、私の大事な生徒だ、と吐き気がするような言葉が並んだ。きっとクラスの皆も同じような感じで答えてしまったんだと思う。

 この期に及んで保身だよ、この後も中山がクラスを担当するんだろうし、殺されたらどうしようって、変な恐怖心が芽生えてた。
 でもここが、桔平を助ける最後のチャンスだったんだ。それなのに、また何もできないで終わらせてしまった、死んだ理由なんて言えなかった。死んだ、理由なんて……だって今でも僕は君の死を受け入れられないのだから。


 僕は最低だ。


 僕はこの世でたった一人の将来を誓った親友をただの事故死だったと、見殺しにしたんだ。
 そして、桔平のお母さんも事故だと認めた。

 お葬式で近所のおばちゃんがあの時、あの時と悔しそうに泣いてるのを避けるようにしていたのは印象的だった。僕は、呆然と見ていた。
 その空間を……。それこそ、他人事なんだけど他人とかじゃなくて、お通夜だ葬式だって全く実感がわかなかったから。

 だって、桔平のお母さん変な話するんだよ。
 出棺前の挨拶で昔から桔平は有名な学者さんかお医者さんになりたいと言ってたって。

 じゃぁこの棺に入ってるのは桔平じゃないかもって覗き込んだ、僕の知っている桔平は未来の直木賞作家なのに。

 お前、誰だよ、何でこんな所で死んでるんだよ、僕の友達の名前使って同じ顔してさ冗談キツすぎだよって思ったけど、やっぱり棺に入っているのは桔平だった。遺影の写真から声がしたんだ。


「ほら、梧! 記念に写真撮ってくれるって、ポーズ決めようよ!」


 その写真は運動会のリレーで一等撮った時カメラマンが撮ってくれた写真じゃないか。
 僕が一番気に入っていた写真、家に帰れば机に置いてあるよ。きっと世界に2枚しかないんだ、だってその笑顔の横に僕が写ってる、僕と桔平しか写ってない写真なんだから。

 クソ、何だよ、何で笑ってるんだよ、こんな時も。でもさ、お前なら言うのかな?
 僕が「力になれなくて、ごめん」って言ったら――、
「いいよいいよ! 気にしないで」って。だけど、僕は知ってるよ、その顔は本当に笑った顔じゃなくて困った時の苦笑いなんだろ? バカ。








 あぁ、ちょっとした回想がこんな暗い話で申し訳ない。
 いやいや、なんでこんな昔の事を思い出したかと言うと、最近いじめ問題で子供の自殺が頻繁にメディアに取り上げられてて嫌でも目に入るだろ? ツイッターに動画あげたりYouTubeで実況したりさ。
 実は桔平もいじめがあったんじゃないのかって、一時期騒がれていたんだ。小さい町だし直ぐに噂は広がったよ。

 それで、桔平は結局どうなったかって、僕達も暗黙の了解で話題に上げなくなったし、故意に触れることもなくなって真相は闇の中だったんだけどニュースでたまたま見たんだ、その年の小学生の自殺者数を。

 北区は0人だった。

 前後の年も0人だった。やっぱり桔平は事故死のままで生涯を終えていた。
 そんで、あの坂登ったらさ、あの時の気持ちが沸々と蘇ってきたんだよ。だから話してみた。
 まぁそんなこんなで、気付けば目的地に到着だ。

 ひっそりと静まり返った民家の暗闇、味気のないブロックの壁、自転車を降りスタンドを立てると深呼吸をした、これで一度、頭の中をリセットするのだ。

 タバコに火を付けて、冷たい空気と一緒に肺がタールを吸収する、瞬時に視界が冴えてきた。

「よし……始めるか…」

 背骨をコキッと鳴らしてリュックサックから懐中電灯を取り出した、照らし出された目の前のブロックは薄汚れてヒビだらけだった。

 と言うわけで、今から刑法第四十章 第二百六十一条を犯したいと思う。
 まぁ簡単に言うと、「落書き」ってやつだ。


 迷いはない、描くものは決まってる。ピンクのカラースプレーを取り出して瞳を閉じれば、君と見たかった満開の桜が瞼の裏に浮かび上がった。

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