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手紙4
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表に出たら、窓ガラスは太陽の光を反射して輝いていた、花壇の花も色とりどり、生き生きとして瑞々しい、そういえば店の中だってワックス掛けてあったし、めっちゃ気合い入ってるな。
新品のチョークパステルに、綿棒、修正ペン、黒板。一つしかないテラス席に座ってコーヒーを飲みながら湯気の立つナポリタンを描いた。
絵を描くにあたって人は苦手だ、表情が上手く描けない。描けたと思っても意図してない感想を貰って、他人にはそう見えるのか、と悩んでしまう。
僕自身も、この瞳の奥には何が見えてるんだろうと、絵に問いかけてしまうから、中々表情も動きも決まらなくて筆が進まないんだ。
それに比べて、食べ物や草木、動物は僕の専門分野だ。自分が客観的に美味そうと思う物を描けばいいし、可愛い、格好いい、触れたい、撫でたい、頬ずりしたいと思う毛並みの動物、見たいと行きたい、ほっと気持ちを落ち着かせたいと感じるような草木や風景は共感を得やすい。
というか僕の気持ちが楽なのだ、人は描くなら何かしら相手に訴えないといけないけれど、田園風景や田舎の夕日に訴えるもんなんてないだろ、見た人が勝手に心の底にある記憶とリンクさせて受け入れてくれる、答えや訴えっていうのが存在しない。
だからそうだな、朝のニュースで見た承認欲求が強いっていうのは違和感あるな。
僕は何かを訴えて認めてほしくて描いてる訳じゃない、真っ暗道が寂しいから、ちょっと華やかにしたいだけだ。皆も桜が道に咲いてたら嬉しいだろ? しかもいつも満開だ。
やばいな捕まった時用に、犯罪を正当化して同情を引けるような動機を一つくらい考えておかないとな。
ナポリタンの麺を持ち上げるフォークを描いて手が止まる、柄は……どうしようかな、店を忠実に再現するならステンレスのままだけど、手をかかないなら映えも意識してお洒落な柄にすべきかな。
スマホを取り出して来店するアイドルを調べたら、好きな色はグリーンだった、でもイメージカラーはパープルって……どっちかに寄せとけよ。
もう面倒臭いから桜の好きなピンクでいいや。チョークを指先でなじませてハイライトのバランスをとる、綿棒で拭いて強弱をつけて後は文字色の調整だな。
集中していて、気付けばかれこれ1時間は経ってた、指がチョークの形に固まって痛む、5分休憩とタバコを取り出した。
自転車通勤なのに尻のポケットに入れるからソフトケースは潰れていた。一本出してジッポを開閉すればキンッと高い金属音が通りに響く。
今時タバコなんて……と偏見の目にはもう慣れた、けどなこれは立派なコミュニケーションツールなんだよ、むしろこのご時世だ、禁煙ブームの中喫煙を続ける僕らは喫煙所で謎の親近感で繋がっているんだ。
コミュ症の僕にとっては欠かせないアイテムだな、ちなみに父さんとの会話のきっかけになればと始めたタバコだった。
父さんと同じ銘柄、でも父さんはハードケース、「どうしてハードなの? ソフトの方が持ちやすくない?」っていつか会話に困った時にネタの一つにでもなるかなと思ったのに、立派なことよ、父さんはいつの間にか田舎でタバコを止めていた
あれほど母さんが止めろと言っても、僕らが臭いと言っても止めなかったのに、再婚相手に喫煙者は嫌いと言われてアッサリ止めた。
それなら僕も止めたらいいのに、悲しいかな気付いたときには体がニコチンに依存して、これ吸わないと体が休まった気がしない。
ジリジリ音がする位フィルターーを吸い上げて肺が煙を吸収していく、真っ白い息と鼻から抜ける香りが、脳を覚醒させる。
灰皿に灰を落として、タバコを咥えながら絵を微調整した、完成図を頭の中でイメージして……うん、このままいけば人を問わずにウケる看板が完成するな。
頷いて、少し悲しくなる、万人受けするっつーのはさ、言い換えれば個性もないって意味だよ。人を不快にさせない絵、特徴もない記憶にも残らない絵って意味だ。凄い下手でもない、かといって目を引く程上手くもない、並み、僕の人生もそんなもんだ。
僕がどうして絵を描き続けてるのかって、それは桔平の呪い…………はないとして、桜だな。
小さい時、間違えて桜の絵本を捨ててしまった、桜は泣いて泣いて、母さんが新しいのを買うって言ってもあれじゃなきゃ嫌だって泣き続けた。そんで僕は絵が得意だったから、その絵本を自作してみたんだ。
桜に1ページ目はどんなんだった? って聞きながら二人で作りあげた絵本は、今でも保管してあって、桜は完成した時凄い喜んでくれた。
誕生日プレゼントも僕手製の絵本を欲しがった、そして事故があって桜は二度と絵本を読めない体になった。
それでも僕は桜に絵本を描き続けている。だっていつか医学が発達して、ばーさんになった頃でもいい、視力が復活する画期的な方法が見つかるかもしれないだろ。バーチャルでも、何でも、この先の未来は分からないじゃないか。
それで、桜の目が見えるようになった時に僕が筆を捨てていたんじゃ可哀想だから。幸いにして、桔平と桜の事故があって僕は中学少し引きこもったから絵を描く時間がたくさんあった。
高校はいけなかったけど、その分絵画教室でバイトしながら高認取ったりそこまで悪い思い出はない。
今はここのバイトとイラストレーターで稼いでる、桜が怖がるから一人称は僕のまま、絵だってバイオレンスな物は描かない。
そうしたら僕はもう誰の為、何の為に生きてんだって話だけど、自分の為に自分のやりたい事だけを100%してる人間なんてこの世に存在しないだろ。
皆この作られた資本主義社会の中で愚痴はネットで囁いて時代に流されて生きてるじゃないか、そしてそのまま死ぬんだよ。野暮な話は止めておこう。
んでもって、はい! 完成!! 翔子さんがたまたま玄関マットの掃除に外に出て来て見せてみたら、大絶賛であった。
店に戻って、二人が改築した洋風の店内を見渡す、僕の出る幕0の掃除が行き届いたテーブルにイスに床、壁かけ時計もシャンデリアもピカピカだ、なので言われた通りに切れそうだった電球を取り替えておいた。
新品のチョークパステルに、綿棒、修正ペン、黒板。一つしかないテラス席に座ってコーヒーを飲みながら湯気の立つナポリタンを描いた。
絵を描くにあたって人は苦手だ、表情が上手く描けない。描けたと思っても意図してない感想を貰って、他人にはそう見えるのか、と悩んでしまう。
僕自身も、この瞳の奥には何が見えてるんだろうと、絵に問いかけてしまうから、中々表情も動きも決まらなくて筆が進まないんだ。
それに比べて、食べ物や草木、動物は僕の専門分野だ。自分が客観的に美味そうと思う物を描けばいいし、可愛い、格好いい、触れたい、撫でたい、頬ずりしたいと思う毛並みの動物、見たいと行きたい、ほっと気持ちを落ち着かせたいと感じるような草木や風景は共感を得やすい。
というか僕の気持ちが楽なのだ、人は描くなら何かしら相手に訴えないといけないけれど、田園風景や田舎の夕日に訴えるもんなんてないだろ、見た人が勝手に心の底にある記憶とリンクさせて受け入れてくれる、答えや訴えっていうのが存在しない。
だからそうだな、朝のニュースで見た承認欲求が強いっていうのは違和感あるな。
僕は何かを訴えて認めてほしくて描いてる訳じゃない、真っ暗道が寂しいから、ちょっと華やかにしたいだけだ。皆も桜が道に咲いてたら嬉しいだろ? しかもいつも満開だ。
やばいな捕まった時用に、犯罪を正当化して同情を引けるような動機を一つくらい考えておかないとな。
ナポリタンの麺を持ち上げるフォークを描いて手が止まる、柄は……どうしようかな、店を忠実に再現するならステンレスのままだけど、手をかかないなら映えも意識してお洒落な柄にすべきかな。
スマホを取り出して来店するアイドルを調べたら、好きな色はグリーンだった、でもイメージカラーはパープルって……どっちかに寄せとけよ。
もう面倒臭いから桜の好きなピンクでいいや。チョークを指先でなじませてハイライトのバランスをとる、綿棒で拭いて強弱をつけて後は文字色の調整だな。
集中していて、気付けばかれこれ1時間は経ってた、指がチョークの形に固まって痛む、5分休憩とタバコを取り出した。
自転車通勤なのに尻のポケットに入れるからソフトケースは潰れていた。一本出してジッポを開閉すればキンッと高い金属音が通りに響く。
今時タバコなんて……と偏見の目にはもう慣れた、けどなこれは立派なコミュニケーションツールなんだよ、むしろこのご時世だ、禁煙ブームの中喫煙を続ける僕らは喫煙所で謎の親近感で繋がっているんだ。
コミュ症の僕にとっては欠かせないアイテムだな、ちなみに父さんとの会話のきっかけになればと始めたタバコだった。
父さんと同じ銘柄、でも父さんはハードケース、「どうしてハードなの? ソフトの方が持ちやすくない?」っていつか会話に困った時にネタの一つにでもなるかなと思ったのに、立派なことよ、父さんはいつの間にか田舎でタバコを止めていた
あれほど母さんが止めろと言っても、僕らが臭いと言っても止めなかったのに、再婚相手に喫煙者は嫌いと言われてアッサリ止めた。
それなら僕も止めたらいいのに、悲しいかな気付いたときには体がニコチンに依存して、これ吸わないと体が休まった気がしない。
ジリジリ音がする位フィルターーを吸い上げて肺が煙を吸収していく、真っ白い息と鼻から抜ける香りが、脳を覚醒させる。
灰皿に灰を落として、タバコを咥えながら絵を微調整した、完成図を頭の中でイメージして……うん、このままいけば人を問わずにウケる看板が完成するな。
頷いて、少し悲しくなる、万人受けするっつーのはさ、言い換えれば個性もないって意味だよ。人を不快にさせない絵、特徴もない記憶にも残らない絵って意味だ。凄い下手でもない、かといって目を引く程上手くもない、並み、僕の人生もそんなもんだ。
僕がどうして絵を描き続けてるのかって、それは桔平の呪い…………はないとして、桜だな。
小さい時、間違えて桜の絵本を捨ててしまった、桜は泣いて泣いて、母さんが新しいのを買うって言ってもあれじゃなきゃ嫌だって泣き続けた。そんで僕は絵が得意だったから、その絵本を自作してみたんだ。
桜に1ページ目はどんなんだった? って聞きながら二人で作りあげた絵本は、今でも保管してあって、桜は完成した時凄い喜んでくれた。
誕生日プレゼントも僕手製の絵本を欲しがった、そして事故があって桜は二度と絵本を読めない体になった。
それでも僕は桜に絵本を描き続けている。だっていつか医学が発達して、ばーさんになった頃でもいい、視力が復活する画期的な方法が見つかるかもしれないだろ。バーチャルでも、何でも、この先の未来は分からないじゃないか。
それで、桜の目が見えるようになった時に僕が筆を捨てていたんじゃ可哀想だから。幸いにして、桔平と桜の事故があって僕は中学少し引きこもったから絵を描く時間がたくさんあった。
高校はいけなかったけど、その分絵画教室でバイトしながら高認取ったりそこまで悪い思い出はない。
今はここのバイトとイラストレーターで稼いでる、桜が怖がるから一人称は僕のまま、絵だってバイオレンスな物は描かない。
そうしたら僕はもう誰の為、何の為に生きてんだって話だけど、自分の為に自分のやりたい事だけを100%してる人間なんてこの世に存在しないだろ。
皆この作られた資本主義社会の中で愚痴はネットで囁いて時代に流されて生きてるじゃないか、そしてそのまま死ぬんだよ。野暮な話は止めておこう。
んでもって、はい! 完成!! 翔子さんがたまたま玄関マットの掃除に外に出て来て見せてみたら、大絶賛であった。
店に戻って、二人が改築した洋風の店内を見渡す、僕の出る幕0の掃除が行き届いたテーブルにイスに床、壁かけ時計もシャンデリアもピカピカだ、なので言われた通りに切れそうだった電球を取り替えておいた。
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