前略、僕は君を救えたか

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生と死と14

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 僕達はそれから一緒に昼食を作って食べて、家の片付けを手伝ったり、また縁側で話をしたり、【何でもない】を楽しんだ。


 帰って来た美鳥さんと夕飯を共にして、昔と変わらない檜のお風呂に入って、僕は服を父さんに借りて、桜は美鳥さんに借りてた。あの重たい鞄に服は入ってないってじゃあ何持って来たんだよお前。
 一応、美鳥さんに僕等は邪魔してないか聞いたら、父さんは日常のまま穏やかに過ごしたいと所望していたみたいで、私が仕事を休んで付きっきりになるのを嫌がっていたから、僕等がいて助かると言ってくれた。

 次の日は、父さんと車で観光地まで出かけた。楽しいのにふと、病気を思い出して悲しくなったりして、変な感じだった。直に肘を引っ張られて、

「お兄ちゃん声がたまに暗い、もっと素直に今を楽しもうよ」
「わかってる」
「お父さんはね、諦めてるんじゃないの、受け入れてるんだよ」
「それもわかってる」

 受け入れてるのは父さんを見ればわかる。治療がなくなって、もういいやって自暴自棄になってる顔じゃない、間近に迫る死を受け入れて、残りの時間で僕等に色々教えてくれてる。
 桜も同じ、そして強い、ある日突然目の前の世界が消えた、桜は一生の障害を受け入れなければならなかった。

 何も悪くないのに、自分のせいじゃないのに、理不尽を受け入れなければならなかったんだ、父さんもそうだ。桜と父さんの間には僕にはない特別な感情で繋がっていると思う。
 桜はこっちに来てからずっと笑ってる、彼女は僕と違って思った事をハッキリ口にするし、顔にも態度にも出すから、今が本当に楽しいのだろう。僕も孝行しないといけないのに上手くできてるか不安だ。

 海にも行った。白浜のビーチで波も穏やかで、自然が作り出す海のグラデーションは美しくずっと見ていられた。どこまでもスカイブルーの透明感、水平線、遠くに見える島、桜は目を閉じて波の音を聞いている。


「辛い事があると来てた」


 父さんは海を前に砂浜にどっかりあぐらをかいて海の向こう側を見てる。桜はその隣に座ってさらさらと砂を掬いながら言う。

「へえ、よく来てたの?」

 僕がその隣に立つと父さんは顎のひげを弄りながら。

「うん、毎週のように来てた。仕事帰りに来る日もあった」
「え? そんな辛いなら海見てないで辛いって言えばいいじゃん。海見てて解決すんの? 言いなよ。言ってくんなきゃわかんなくない?」
「そうだな」


 父さんは僕を見上げて、二人で苦笑いしてしまった。


「やっぱ血って繋がってんだな。この性格はお父様譲りでしたか」

 風が吹いて、父さんが寒そうな仕草をしたから、帰宅した。食卓にはもうご飯が並べられていて、美鳥さんは父さんの顔色を見て安心してた。後何回一緒に夕飯が食べられるのだろうって美鳥さんは考えたりするのかな。

 夜布団に入って、桜が聞いてきた。


「そろそろ帰る?」


「うん? そうだな……。美鳥さんと父さんの最後の時間と考えたら、そっとしておいてあげた方がいいよな。美鳥さんは僕等がいてくれて助かるなんて言ってたけど、本心ではどう思っているのかわからない」
「うん」
「それに、このままいて、もし警察が来たら迷惑になるし……」
「そうだね」

「そうだね…………っていうか、ハッキリ聞いてなかったけど、お前僕がらくがきしてたの知ってたの?」
「は? 逆に何で気が付かないと思うの? 隣部屋の兄が深夜コソコソ家を出て行って、帰って来たと思えばペンキ臭かったりスプレーの変な匂いしたりさ。それにPCにたくさん桜の絵保存してたでしょ」
「見たの?」
「見えないよ、聞いたの、画像読み上げてくれる音声アプリで」

「人の物を勝手に見ちゃいけないんだぞ」
「人ん家に勝手に絵描いちゃいけないんだよ」

「知ってる」
「私も知ってた」

 桜は布団から両手を伸ばして、手を握ったり開いたり、動きにくい指のストレッチをしてる、たまに痛いのか唇を噛んでる。目を細めながら桜は言う。


「テレビも見てないし、長崎でどれくらい話題になってるのかわからないけど突然連絡が取れなくなったお兄ちゃんを警察は絶対探してるはずだよね」
「だろうね、家に行ったら誰もいないし、余計に怪しまれてるだろうな」

 二人で頷いて、明日にはここを出ようと決めた。まだ行くあてはないけど、というか、僕の胸中はしこりになっていた父さんと話せた事でスッキリして、もう逃げるの止めようと思っていた。

 早朝に僕だけ家を出て警察に行くのも一つの選択だ。
 でも気がかりなのが桜で、ここに置いていくのは二人に迷惑がかかるだろうし、家には母さんもいないし、一人にするのが心配なのだ。

 まあとりあえず、今日は寝て明日また考えよう。
 翌日、今度こそ僕は早く起きて、畑に出た。もちろん桜は起きていたし、美鳥さんもそして父さんも、起きていた。

 一緒に畑で野菜を収穫した。父さんはやっぱり昔を覚えてて、あの時よりもっとうまいトマトだよって長年かけて研究した農家顔負けのトマトを食べさせてくれた。

 朝食を食べながら、今日東京に戻ろうと思う、と話そうとしたのに、美鳥さんに明日お祭り皆で行かない? と誘われてしまって困った。
 父さんも乗り気だし、桜は僕に任せると言わんばかりに黙々とご飯を食べてる。ちょっと話題を逸らそうとテレビを見た。

 音が小さくて気が付かなかったが、トップのニュースは池袋の火事でもない、ましてやらくがきの話題でもない。芸能人の不倫、アイドルの脱退、汚職、詐欺、公務員の痴漢、そんなよく見るニュースじゃなかった。思わずテーブルに置いてあったリモコンで、音量を十以上あげた。










【シリアで邦人女性拘束、過激派組織反抗声明】






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