【R18】黒猫彼女を溺愛中【著 CHIYONE】

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運命

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 物分かりがいい、と言われれば聞こえはいいかもしれない。
 でも自分の考えがないとも言える。

 なんでもっとこう考えないのとか、どうしてそんな行動を取ったのって皆私の事を見て色々思うんだろう。

 でもその答えは簡単で、私が無知で受け入れる以外の選択肢がなかったからだ。色々意見があるのは、色々な場面を経験しているから思うのであって、私にはその経験則がない。

 死ぬことへの漠然とした恐怖はあった、意識しなくても手を振り上げれば目を瞑って身を捩るし、怒鳴られれば耳を伏せる、キツイ言葉には涙が出る。
 私達の体はケガをしたら勝手に血が止まるように出来ていて、何も命令しなくても生きようと心臓が動く。

 どうしたら、痛くなく寒くなく生きていけるかな、って考える、でも生きる目標なんて考えてない、そんな知恵は私にはなかった、自分の存在価値とか理由を悟ろうとする時間も意味もなかった。

 ドロの言っていた事は全くその通りで、私が今ここで息をして生きている事実があっても、私が作った道ではなかったよ。
 行き場がなくて拾われて飼われて性欲に溺れて、家から出てはいけない、という言葉をなんの反論もなく受け入れた。

 悩みがあることは素晴らしいと思う、将来の事や恋愛や仕事や家族のこと。
 その人の手には悩めるものがたくさんあるんだ、解決すれば笑顔が増える、でもきっとその人は私を羨ましいって言うのだろう。悩みがないなんて羨ましいって、いやちょっと位はあるけどね。

 反抗できる環境にあって選択できる道があって思考する知識や経験があるから、それらができるって恵まれてるって思うけど、でもそのせいで死んでしまう人がいるのだから私が思ってるよりも、悩むってもっともっと難しい問題なんだ。

 ならば私が幸せかといえば、無知は不幸だというから、本当にこの世はよくわからない。
 考えても考えても答えが見つからない、本能だけで生きていた昔の猫の方が幸せだったかもしれない。


 人と接する機会がなさ過ぎて、正直タツミの呪いの話も上手く消化できなかった。
 どんな力なのか、どれ程の威力なのか、どの範囲まで及ぶのか、全く検討がつかなかった。
 例えば私には今10人が一瞬にして死んだとして、それがこの世界で凄い事なのか分からない、だって列車が空を飛ぶんだ、街一つ消してしまう魔法だってありそうじゃないか。

 大変だとは思う、でも何かと比較できないし、経験から導けるものがなくて、【今】を考える事しかできなかった、今幸せならそれでいいじゃんって。

 もっとタツミに怒っていいのかもしれない、どうして隠してたの? 何で言ってくれなかったの? 私の事信用してないの??

 そんな風に問い詰めてもいいのかもしれない、でもさ、そんな事よりも私はタツミと仲良くしてたいの、逃げてるのとはまた違う、もちろんタツミが苦しかったら寄り添うよ、でも私はね、言わなかったタツミを尊重したいの。

 売り物として生まれた私を愛だけで育ててくれた人を疑うなんて間違ってるよ。


「ネネ」
「言いたくないなら言わなくていいよ」
「うん、そう、このタツミは先祖代々受け継いでいる方の名前」
「うん、知ってる」

 お耳の中に親指が入ってきてゾワってするけど耳ごと潰されて顔を撫でられて気持ちいい。
 大きい手に頬を包まれて、ドキドキして体が近付く、綺麗な真っ白い胸板に吸い寄せられて抱き締めてもらう、私からもしがみ付く。
「ネネ可愛い大好き」
「ねえタツミ、私はあの丘で出会った瞬間を運命だと思ってるよ。でも偶然とは思ってないの」
「うん」
「何か理由があってタツミが現れて拾ってくれた、そして恋して好きになって愛が生まれて、これからもずっとずっと一緒にいたいって思う、同じ気持ちだって信じてる。だからその為に【タツミ】である事が必要だったのなら、私はそれで構わない。だって」
「うん」
 お胸から顔を離して、見上げれば眼鏡をしていないタツミの目はキラキラしてた。
「だって、自分の名前呼んでもらえないのって本人が一番辛いはずでしょう? ネネって名前、本当に嬉しかったの、呼ばれるだけで幸せ。だから我慢してるのはタツミの方だよね、辛かったら教えてね。たくさん名前呼ぶよ」
 分かってたけど上手く言えなくてモゴモゴさせればキスしてくれて、タツミの唇が僅かに震えていた。

「だから、私がこの家に来た時の第一声も名前だったらもっとタツミは喜んでくれたのかなって思うよ。でもね、あなたが返事をしてくれれば私はそれでいいんだ。それがどんな文字でも意味でも名前でも呼んで答えてくれたら、私はそれでいいの。だから本当の名前を調べたりもしない」
「ネネ」
「うん」
 タツミは私の濡れた唇を擦って言う。
「この世には、言霊がある。言葉そのものに力が宿る」
「言霊……」
「ネネを見て、一目で惚れた抱きしめてあげたいと思った、だから家に連れて帰った俺がそう決めた」
「うん」
「呪いは、俺に意志に関係なく暴れ、人を恨み祟り、怒りに任せて牙を向ける。それはね、ネネ……」
 またキスして、今度は少し舌が絡んだ、次の話を聞きたいけどタツミの気持ちが落ち着くまで待っていたら、唇が離れた。

「俺の名前にまで現れる、祖母は生まれた俺とドロに名前を付けた。そしてその名前を口にした瞬間に死んだ」
「そっか」
「俺の名前を口にした人間はこの世にいない」
「うん」
「言った人間は皆死んでるから」
「そう」
「不安がない、と言えば嘘になる。でも自分を受け入れるしかない中で、ネネとはそういう枠の外で繋がりたかった。何も話さなかった事への言い訳に聞こえるかもしれないけれど。この目を怖がらないこの世界を知らない子」
「少し難しくなってきた」
「そうか、ならネネが知りたい事だけ答える、名前も知りたいなら言う。ネネが呼ぶかどうかは別として」
「?」
 は? ってなって、エイって胸叩いて押し倒す、ぼふってフカフカなクッションにタツミが倒れて、お顔を両手で挟んでむちゅううってする。

「言われたら呼ぶに決まってるでしょ!!」
「そうだね、言っていい?」
「呼んでいい?」
「ダメ」
「なーにそれ!!」
 ムカツクから、今度は唇同士ででむちゅうううううってする、離してちょっと舐めた。
「正直、わからない。名前を呼んでどうなるか。生まれて直ぐ幽閉されて、この眼鏡を掛けてからは呪いの力が収まって表にも出られるようになった。その後に俺の名前を呼ぶ人っていないから」
「じゃあ皆タツミを何て呼んでるの?」
 首を傾げれば、ドアの横に掛かっている黒い団服を指差して、
「閣下」
「かっか?」
「団長閣下とか団長、閣下って呼ばれてる。名前自体は知られてるけど、実際呼ぶ人はいない」
「何それ、格好いい私も呼ばれたい!」
「ネネ閣下って?」
「うん、これか呼んでくれて構わぬよ」
「わかった、可愛いな。俺だけのネネ」
「呼んでないじゃん」
 笑って下から抱き締められて、キスして額が擦れる。
「あれ? あれれ? そっか……今思っただけど、タツミってこのままいけば皇帝になるの?」
「ん? ならない。豹は多産だし、血の順番よりも議会で推される皇帝候補がいるから、あえて俺がなる必要はない。今の代はたまたま皇帝陛下の子、つまりは俺が忌み子だっただけ、騎士団長は必ず忌み子が務める。大体はお飾りだし……直に死んでしまうけど。他国への牽制と呪いは健在だと、力を誇示する為。だから陣頭指揮をとるような団長は俺が初めて」
「そうなんだ、タツミが王様って格好良いと思ったのに」
 コロンと横に転がってタツミの大きな手を握る、顔まで持ってきてスリスリしてお鼻かいてくれたりして、楽しい。
「そんな器じゃないけど、もし俺が皇帝になったら、ネネは皇后だね」
「ほ?」
「呪われた皇帝と捨て猫の皇后」
「半日で衰退しそう」
「ねえネネ」
「にゃ?」
「俺も聞いてもいい?」
「うん」



「ドロに何言われた?」
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