16 / 178
16.パウパウのキラキラとお友達 2
しおりを挟む弟子たちに「片付け終わったら、今日は上がれ」と声を掛けたガルデンは上階の私室にハイエルフ達を招いた。
「なにもないが、まぁ、入れ。」
ガルデンの頭の上をパっと飛び立ったチュンスケが、壁に掛かった巣箱に入っていった。
随分、大切にされているとウルジェドは少し嬉しい。
ガルデン大匠の手による巣箱だ。住み心地は良いだろう。
ウルジェドはガルデンの私室を不躾に見回す。
寄木細工でモザイク模様の床、四角い陶器のタイルを張り合わせた床、なんの変哲もない板を張り合わせたように見える床は、離れて目をやるとグラデーションを描いている。
小さな色石でモザイク画が描かれた部分。鈍く光る巻貝が石から顔を出している床や、植物を編んだマット状の物を嵌め込んだ部分もある。
何分割かにした部屋の床、それぞれが様々な素材や技術で作られていた。
ところどころに塗料や釉のツボが置いてあるのは実験用だろうか。
持ち手の付いた道具箱が側らに置かれている。
壁に備えつけられた無垢材の、がっしりした棚には、過去の設計図や資料らしき物が無造作に積まれている。入りきらなかった分は床に直置きだ。
その壁もテラコッタタイルが貼ってあったり、キラキラした砂が入った塗料が漆喰風に塗られていたり、ウルジェドが知らない見事な青色のタイルが細かく貼られていたり。
窓も色ガラスや様々な模様の摺りガラスが嵌め込んである。
「これは面白いな。部屋中が試作品か!」ウルジェドが弾んだ声を上げた。
「そういえば、お前を入れたのは初めてか。新しい技術やら、素材やら知ったら試したくなるんでな。まぁ趣味だ」
「はは。モジャーフらしい。いい趣味だ」
この部屋、全部がガルデンの玩具箱だ。
部屋の奥の一角に古い大きな一枚板のテーブルと椅子が置いてあった。
それぞれの椅子には、様々な素材のクッションが置いてある。
これもガルデンの試作品なのだろう。
「座れや。話を聞こう」
目線で促すと、マールジェドが緊張気味に空間魔法から取り出した金属の小箱を机の上に置いた。
「説明を先に」ウルジェドが人差し指をマールジェド叔父の眉間に置く。
ふっと息を吐いたマールジェドが
「まったく、実の叔父に沈黙の縛りなん…「余計なことは言わないように、いい加減、怒るよ」
掃除、片付け嫌いのウルジェドは、叔父のせいで掃除をさせられて不機嫌だった。
少々、顔色を悪くしたマール叔父は、椅子に座りなおしてガルデンを見て、一礼すると
「先ほどの謝罪は改めて後程、させていただきます。
まず、魔導具についての説明をいたします。
が、なぜ我らハイエルフがこのような物を作る技術を持っているか、また、それに至った経緯については、詳しく語ることは出来ないことをお許しください。」
ウルジェドが開いた金属の小箱を、ガルデンは覗き込んだ。
「触れても?」頷いてマールジェドが設計図を出す。
「どうぞ、こちらが設計図です」
「グーリシェダばぁちゃんが立案、マール叔父が作成した」
設計図面を確認しながらガルデンが
「素材はなんだ」
「周りのミル打ち部分が”賢者の金”で、中央の石が、俗に云う”神獣の欠片”ですわ」
ガルデンは内心、唸った。
恐ろしいほどの精緻さで打たれた金の粒。互いに触れることなく等間隔で並ぶそれは子蜘蛛の目ほど小さい。
そのツブの一つ一つに回復や魔力制御、防御などの魔法が掛けられている。
眩暈がするほど細かいそれらの魔法付与が繋がり、レースで編んだ模様のように中央の宝石へ集まっているのが、魔力視の力を使うと見えてくる。
真ん中の小さな楕円形の石は、擦り傷ひとつ見えない青紫色のカボションカットで、色抜けもない。
これなら、石の力を完全に発動させられるだろう。見事な研磨だ。
しかも、素材は伝説級の代物。
ただの装飾品としても、魔導具としても国宝級。とんでもない技術の塊。
「パウ坊の魔力が溢れて体を傷つける前に、ある程度をここに集めて肉体の強化と魔臓腑の回復、成長促進に回すのか」
設計図を一つ一つと確認して
「怖いモン、作ったなアンタ」これ一つで城が建つ。
言われたマール叔父は、そこに賞賛の響きを感じ取り、頬を染めて一礼した。
「……魔獣を強制的に強化させるため、他の魔石を喰わせる外法があったと聞いた事がある。
で、魔獣の魔石と人族の魔臓腑が同じだという説は、以前からあった。だが、検証が出来ねぇ噂話みたいなモンだ。……にも関わらず、あんたらは、これが、効果のあるモノだと知っている…と、つまりこれは…」
箱に戻した7つの小さな装飾品にしか見えない魔導具を、ガルデンは見つめた。
「これは、そのような外法ではありません。あくまでも使用するのはパウパウ本人の魔力です」
人に魔獣の魔石を食べさせるわけではない。
媒体として使うだけだとマールは言う。
「狂王の夢か…」
二人は何も答えない。
極上の人形みたいな表情でガルデンを見るだけだ。
これだからハイエルフは怖い。
どれだけの歴史が、その体に染み込んでいるやら想像もつかない。
ガルデンはバリバリと髪をかきむしり
「で、治験はあるのか?設計図を見るに技術的に破綻してないにせよ、子供の命がかかってるんだ。ないなら使えねぇぞ」
「ございます。その、さすがに子供は無理でしたけど…六人に協力をしていただきました」マールジェドが別な資料をガルデンに渡した。
殆どの発症した子供は生きられないからな…の言葉をガルデンは飲み込んで資料を見た。
わざわざ帝国の同盟国とすら言えないほどの辺境地域の小国で、魔力過多で打ち捨てられていた平民──実質的には奴隷──を保護して、このレベルではないにせよ劣化版の魔導具で二年間の実験。
だいたい魔力過多の症状が出た人族が、六人も居たことが驚きだ。
しかも表に出ている研究者は、人族で町の魔法医師ときた。
「ハイエルフ、こえぇ」
こいつら、やるとなったらトコトンだ。
あの子供を守ると決めてから、一族上げて動いていたという事だろう。そう考えると、ハイエルフの誓約が、どれ程に重いかが想像できて、ガルデンは苦しくすら思える。
「魔力過多症の人間自体が少ないから、試した数は少ないが6人全員、効果があった事は確認した」
「ちゃんと協力の謝礼として、奴…ンン解放しましたし、生活の援助もいたしましてよ」
帝国は奴隷制度を否定しているため、マールジェドは言葉を濁したつもりだ。
予後の症状を確認するための契約までして、このところの健康状態まで把握している。
至れり尽くせりだとガルデンは笑った。
「わかった。ただ、いきなりの全装着は流石に予測ができん。様子を見ながら1つか2つだな」
魔臓腑への外的手段による強化。
その昔、神話の時代。
ハイエルフの王が人族に行ったという様々な実験。
そこから波及した知識や技術だと知ったなら、今の時代の人族は眉をしかめるだろうか。
「ま、詳しく聞くことはしねぇが、表にゃ出せねぇ話だな」
「だから、町医者の道楽ってことだ。パウパウが助かれば、それでいい」暗黒歴史、黒歴史と、手をヒラヒラさせ、ウルジェドはヘラリと笑う。
あぁ、こいつぁ覚悟を決めたってことだとガルデンは悟った。
「ま、プルワースにゃ気の毒だがな。おぃササ耳、腹ぁ減らねぇか」
「それは、何か食わせろの言い間違いだ」ウルジェドが喉声で笑う。
「おぅよ。あっと、マール殿だったな、多分、下にドーライグが残っているからよ、悪いが呼んできてくれや。あと、酒を持ってきてくれると有難い」
大人しく座ってはいたが、物珍しそうにキョロキョロと大きな青い目を輝かせて、部屋を見回していたマール叔父はガルデンに声をかけられ
「はいっ!」嬉し気に何故か頬を染め、いそいそと下に降りていく。
その姿を見送り、ガルデンはウルジェドの方を見て、
「あのよ…ホント久しぶりに、魔導具で負けたと思ったわ」
勝ち負けじゃぁねぇんだけどなあ…と呟いてガルデンは苦笑した。
ウルジェドはテーブルに叔父の好きな料理を出す。
これだけではガルデン達には足りないだろうからと、他も出しながら、
「…マールジェド叔父上、本当にガルデンに会えるのが楽しみで嬉しくて、いっぱいいっぱいだったみたいでな」
「まぁ、すんげぇ驚いたけどよ」
「今日の服装、あれ、ウチの第三礼装。尊敬、敬愛する人に会うとき用なんだわ」
しかも賢者用。残念ながらハイエルフ以外には伝わらないが。
「あ~そうか、うん……あ~なんだハイエルフってぇのは、やっぱ面倒な決まりがあんのな」
「まぁねぇ、第八準礼装まであるけど、誰に対して着る服なんだろうなぁ」
そのうえ、神殿正装とかあって、もう覚えられないとウルジェドが笑っているところで、マール叔父とドーライグが酒瓶を抱えて入ってきた。
25
あなたにおすすめの小説
魔王を倒した勇者の凱旋に、親友の俺だけが行かなかった理由
スノウマン(ユッキー)
BL
スラム育ちの二人は、スキルを得た事で魔王討伐に旅立つ勇者と彼の帰還を待つだけのただの親友となる。
勇者と親友の無自覚両片想いのじれったい恋愛の物語。
王子様から逃げられない!
一寸光陰
BL
目を覚ますとBLゲームの主人公になっていた恭弥。この世界が受け入れられず、何とかして元の世界に戻りたいと考えるようになる。ゲームをクリアすれば元の世界に戻れるのでは…?そう思い立つが、思わぬ障壁が立ち塞がる。
クズ王子から婚約を盾に迫られ全力で逃げたら、その先には別な婚約の罠が待っていました?
gacchi(がっち)
恋愛
隣国からの留学生のリアージュは、お婆様から婚約者を探すように言われていた。リアージュとしては義妹のいない平和な学園で静かに勉強したかっただけ。それなのに、「おとなしく可愛がられるなら婚約してやろう」って…そんな王子はお断り!なんとか逃げた先で出会ったのは、ものすごい美形の公爵令息で。「俺が守ってやろうか?」1年間の婚約期間で結婚するかどうか決めることになっちゃった?恋愛初心者な令嬢と愛に飢えた令息のあまり隠しもしない攻防。
悪役令嬢と同じ名前だけど、僕は男です。
みあき
BL
名前はティータイムがテーマ。主人公と婚約者の王子がいちゃいちゃする話。
男女共に子どもを産める世界です。容姿についての描写は敢えてしていません。
メインカプが男性同士のためBLジャンルに設定していますが、周辺は異性のカプも多いです。
奇数話が主人公視点、偶数話が婚約者の王子視点です。
pixivでは既に最終回まで投稿しています。
お姉様優先な我が家は、このままでは破産です
編端みどり
恋愛
我が家では、なんでも姉が優先。 経費を全て公開しないといけない国で良かったわ。なんとか体裁を保てる予算をわたくしにも回して貰える。
だけどお姉様、どうしてそんな地雷男を選ぶんですか?! 結婚前から愛人ですって?!
愛人の予算もうちが出すのよ?! わかってる?! このままでは更にわたくしの予算は減ってしまうわ。そもそも愛人5人いる男と同居なんて無理!
姉の結婚までにこの家から逃げたい!
相談した親友にセッティングされた辺境伯とのお見合いは、理想の殿方との出会いだった。
うちの魔王様が過保護すぎる
秋山龍央
BL
主人公・折本修司(オリモトシュウジ)は転生恩恵女神様ガチャにはずれて異世界に転生して早々、つんでいた。
「異世界で言葉が分かるようにしてくれ」と頼んだところ、相手の言葉は分かるが自分は異世界の言葉は喋れない状態となり、
「平和な国に転生したい」と頼んだところ、平和で治安のいい国に転生をすることはできたものの、そこは人間のいない魔族だけの国だったのである。
困っていた主人公の元に、異世界の"魔王"である紅の髪と角を持つ男があらわれて――
「まさか――そっくりだとは思ってたけれど、お前、本当にシュウなのか?」
異世界転生魔王様×異世界転生主人公
幼馴染年下攻めだけど年上攻めです
記憶喪失の私はギルマス(強面)に拾われました【バレンタインSS投下】
かのこkanoko
恋愛
記憶喪失の私が強面のギルドマスターに拾われました。
名前も年齢も住んでた町も覚えてません。
ただ、ギルマスは何だか私のストライクゾーンな気がするんですが。
プロット無しで始める異世界ゆるゆるラブコメになる予定の話です。
小説家になろう様にも公開してます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる