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17.パウパウのキラキラとお友達 3
しおりを挟む熱々の牡蠣フライにソースとマスタードを付けて齧りつき、中の熱さに「うぉっ」となりながら、アフアフホフホフと食っているエルダードワーフを、
マールジェド叔父上が蕩けるような眼差しで見ている。
海老のフライの尻尾まで、ガリガリと食って、タルタルソースを髭に垂らしているのを
「ガルデン様、御ヒゲが」と、そそとナフキンを手渡している。
「お、おう、すまんな」対するガルデンは、ちょっと困っている感じに見える。
なにこれ。
私は何を見ているのだろう?悪夢?
今、ウルジェドの目は死んでいる。
「い、いやぁ、ウルジェドさん、こ、この野菜がトロトロに煮溶けたシチューも、ローストビーフも絶品ですねぇ。あはははは」
ドーライグが妙な空気を換えようと、一生懸命に話す。
「あぁ!そうだろ?ドーライグくん。花扇貝の貝柱フライも沢山あるから、どんどん食べてくれ。あはははは」
空笑いしか出来ない自分がウルジェドは悔しい。
「まったくだウルジェド、相変わらず、おめぇの作るもんは美味いな」
やめろモジャーフ、こっちに入って来るな。叔父上がなんかヤバイ
「わ、私の作る物だってぇ」
危ない!マールジェド叔父上が収納空間から、なにか出そうとしている!
「叔父上、張り合わなくていいですから!」ウルジェドの制止、虚しく
ドンっとテーブルの開いたところに、マール叔父が大皿を置いた。
「皿…」
「模様が見事ですねぇ」
「大皿か、なかなか奇麗な絵付けじゃぁな…い…か」これ、魔道具かと、ガルデンが首を傾げる。
「召喚皿ですっ!」
マール叔父上は言うなり、大皿の模様を奇麗に染めた爪でなぞり始めた。
「このように…」
皿の模様が追いかけて光の線を描く。
「魔力を込めますと…」
フワっと一瞬、光ったと思ったら、大皿の上に湯気のたつ鳥の半身揚げが、食欲をそそる匂いと共に現れた。
「なにかしら食べられるモノが召喚されます!」マール叔父上は、頬をバラ色に染め自慢気にガルデンを見た。
「お、おぅ、すげぇな。いろいろ…」才能の使い方、間違ってるとガルデンは思った。
「…マールジェド叔父、この半身揚げは何処から来たものですか」ウルジェドが眉をひそめて尋ねる。
叔父上は、目を彷徨わせながら
「し、知りません」引きつった笑顔でウルジェドを見る。
「んな怪しいもの食べられるワケないだろう!これ窃盗だから!召喚という名の窃盗!返して謝ってきなさい!」
「う、ウルジェド、それがねぇ…」
人差し指を頬にあてて、ウルジェドを見るマール叔父上。
一見、美しいから尚更にイラっとさせる。そして、嫌な予感がした。
「一方通行みたいなのよ」
「お、叔父上の作るもんは本当に碌な物がない……」
この考えなしハイエルフのせいで、世界のどこかで夕食の一品が減って、今日泣く人が居る。
申し訳なさでウルジェドは顔を両手で覆った。
「だって、返還の魔法をかけると”何かしら怖いモノ”が出たりするのよ~」ヘラリと笑うマール叔父上。
さらっと告げる貴方が一番怖いと、三人は虚ろな目でエセ美女を見た。
魔導具話が尽きず、いつまでも話が弾んでいるガルデンとマール叔父上、”酔いつぶれ”ならぬ”食べつぶれ”てテーブルに突っ伏して眠るドーライグ。
夜も更けてきた。
ウルジェドはガルデンの本棚から拝借した魔導具術式の古書を閉じ、声を掛ける。
「叔父上、そろそろ帰りますよ」
「え、まだまだ話をしていたいんだけど…」
「明日また会えるから、ほら、私の家に帰るぞ」
「本当?明日、また、お会い出来ますか、ガルデン様」叔父上のテンションが高い。
「お、おぅ」ぐいぐい来られて、逆に引いているガルデン。
「では、明日は私のところに泊まって、明後日は朝からパウパウのウネビ家な」
なぜか、叔父上がピョンピョンしている。
「では。では、二日間もご一緒できるのですねっ!」
だから、遊びじゃないからなっ!
ウルジェドはマール叔父上の腕を掴んで立ち上がらせた。
「では、ガルデン、いろいろ騒がして悪かったな。お休み」
「あ、あの今日は本当に申し訳ございませんでした。でも、ガルデン様とお会いできて、本当に嬉しかったです」
「おぅ。俺もマール殿と話せて、改めて勉強させてもらったわ。有難うな」
ガルデンは髭面の口をカパリと開けて笑った。いつも心根の気持ちいい男だ。
「あ、あのですね……差し支えなければ、お嫌でなければ、その、ま、マールとお呼びくださいませんか」
マールジェド叔父は、モジモジと言った。帰るぞ。空気を読まない男め。
「おう、そうか。マールな。じゃ、俺も呼び捨てでガルデンで頼むわ」
そんな。いやいや。でも。いいから。やっぱり。いやいや。
……私は、いつ転移したらいいのだろうか。
蚊帳の外の気分で、ガルデンの部屋の天井を見上げる。
床や壁と同じで、木板の天井やトラバーチン模様の大理石、スタッコで処理されている所もある。
天井も試作品か。
凝り性なモジャーフだなぁ。
あっちはフラスコ画かな?深い紺碧の夜空に金箔と銀箔を使って星と二つの月が描かれている。
素晴らしい出来だ。
うちのハイエルフも凝り性だけど、モジャーフもだ。
どっちもどっちだなぁ。
「わぁい、お星さま奇麗~」少しパウパウの真似をして呟いてみる。
ガルデンとマール叔父を横目に、ウルジェドは暫し現実逃避をせざるを得なかった。
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