パウパウは今日も元気

松川 鷹羽

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26.パウパウのキラキラとお友達 12

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 大きな食卓テーブルに、ミッちゃんが用意してくれた夜ご飯を、

 パウパウの好きなオレンジ色の豆のスープ。
半身に割ってグリルした大きな海老には、赤いソース。
 ミっちゃんが食べやすいように小さく切ってくれたのを口に入れる。
プリプリだ。
「ミっちゃん、エビおいしい」
「よかった。ほら、こっちの子羊のシチューも、ナスにつけて食べて」
「……うん。でも」

 パウパウはチラリとテーブルの一席を見る。
 主賓席に座る、グーねぇさまの向かい側。
まだ、ご挨拶はしていないけど、さっきのが座っている。
とても奇麗な人だけど、今はちょっと泣きそうな顔だ。

すごく気まずい。

その人の前には、お皿が一枚。
上に1つ。
飲み水もない。
 パウパウたちの前には海老や、シチュー、貝のピラフやサラダが有るのに。
ガルデンおじちゃんの前には、おつまみの小魚のフライとチーズも有るのに。

とても食べにくい。

「ミっちゃん……」パウパウは目で訴える。
「あぁ、うん……ねぇ」
ミっちゃんは珍しく、困った顔でガルデンを見る。
ガルデンは、グィっと火酒の杯をあおってから
「その、グーリシェダ様」
「ガルデン殿、目障りでしたらは下げさせますので」
「あ、いや、そうではなくてな……」
困った顔でガルデンは、手酌で火酒を注いだ。

「あ、あのね、グーねぇさま」
 お行儀が悪いかもしれないけどパウパウは、ミっちゃんに手伝ってもらい、うんしょと自分用の高い椅子から降りて、グーリシェダに近寄る。
「どうかしたかの?パウ坊」
「あのねぇ」とパウパウが指をさす。
あれ、とパウパウが指さした先にはマアガ親子とハヤツがいる。

 マアガが細かくした肉を、ハヤツも含めた仔供たちに食べさせていた。
「一緒に、ご飯、おいしいよ?」

 グーリシェダは、溜息をついてパウパウの頭を撫ぜた。
「パウ坊は、ほんに賢い……ウルシェド」
言われてミっちゃんは、奇麗な人の前にも料理を出す。
「マールジェド、パウパウに感謝するがいい。パウ坊、アレはマールジェド、グーねぇさまの一番下の息子じゃ」
マールジェドと呼ばれた人は立ち上がり、その場でペコリとお辞儀した。

 パウパウはトコトコ近づいて
「ぼく、パウパウ、です」とチョコリとお辞儀してご挨拶。
「ありがとう、パウちゃん。私はマールジェドです。よろしくね」
 
 あれ?思ったよりだと子供心にパウパウは思う。
先ほどののくだりが酷かったので、尚更いまは普通の人に見える。
「マ、マール…?ジェド…?」
「ふふ、マールちゃん、でいいよ」
 笑うマールは、とんでもなく美しく、幼いパウパウでも口を開けて見惚れてしまうほどだ。
「お姫さまみたい」
 フワっと緩くウェーブした銀色の髪と真っ青な瞳、前にミっちゃんが貸してくれた絵本のお姫様にそっくりだ。
 惚けて呟くと、
「パウパウ、ご飯がまだ、だよ」
後ろから抱き上げられてミっちゃんの腕の中に納まった。

 そのまま膝の上で、ミっちゃんに残りのご飯と、デザートのナツメを食べさせてもらう。
 干しナツメを酒に漬けて戻し、種を抜いてスパイスと混ぜたクリームチーズを詰めた物だ。
子供のパウパウの分は酒ではなくリンゴの果汁に漬けて戻してある。

モグモグとしながら、ふと(ホシガキ?)頭の中で浮かんだ言葉も反芻しているパウパウにグーリシェダが、

「食べ終わったら、パウ坊は湯あみじゃの。どうじゃ、グーねぇさまと入るかの?」
「何を言い出すかと思えば、パウパウは私と入りますよ。当然」
「あら、お近づきのしるしで、私と入りましょ?パウちゃん」
誰がパウパウを風呂に入れるかで、三人が何やら揉めだした。

「……あのよぅ、あんたら子供を風呂に入れたこと、あるのか?」
と、ガルデンが尋ねたら三人ともに目を泳がせ、それは、湯殿係が…と言う。

「……ぼく、知らない人はイヤだなぁ」
「んじゃ、俺と入るか!」
「「えっ」」と、何故かマールとミっちゃんが声を上げた。
「俺はちっこい弟達の面倒を昔っから見てたからな、風呂に入れるのぁ、お手のもんだぞ」
「うんっ!」

 ミっちゃんが案内してくれたお風呂は、ゲルの壁にグーリシェダが新たに作ってくれた別の扉を進んだ先にあった。
「ねぇミっちゃん、ここ、ドコ?」
「ん~、たぶん、グーリシェダばぁちゃんの別荘のどれか……だと思うよ」
「湯殿に続く廊下だけで、この魔道具かよ。すげぇな。もう、魔道具の中に住んでるんじゃないか?」
 
 パウパウが分からず、首を傾げてガルデンを見る。
「天井の灯りには温かい空気を循環させる術式、床は空気の浄化する陣が刻んであるな、あとは材質劣化防止か。ざっと見て読み取れるのは、そんなもんだが、じっくり見たら、きっと凄いぞ」
「パっと見て、それを見て取れるのも凄いと思うぞ。まぁ、歴史だけはあるから、色々と手が入っているんだよ。さあ、ここだ」
と、笑いながら連れてきてもらった湯殿で、ガルデンは画帳を置いてきたことを心底悔やんだ。

 
 三人が前に立つと、青みがかった木製の両引き戸がひとりでに開いた。
パウパウは「ジドードア」と思っただけだが、
 ガルデンはブツブツ「ブルースティンの柚木チーク?んなものが有るのかよ、いや塗料か?」と呟き、戸が閉まったら振り返って「感知魔法…この彫刻が陣の代わりって」と、ブツブツ言う。

 パウパウは子供なりに、ガルデンおじちゃん、こんなで、お風呂に入れるの?と、少し心配になった。
 
 入った部屋が脱衣所らしい。
 個人の脱衣場所としては十分すぎる広さだ。
パウパウの家の居間くらいは軽くある。

「たしか、この辺にタオルハヴルが…」と言いながら、ミっちゃんが手を当てると隠し扉になっている壁が開いた。

 仄白い石の壁には薄い青灰色の筋模様が不規則に入り、あちらこちらには赤や青に光る石が散らばっている。
「ミっちゃん、壁も床も奇麗な石だねぇ」見回したパウパウが言う。
「ここを作った人がね、石や鉱物が好きで、こうなったらしいよ」
「この、光ってんの紅玉と碧玉だろ…コルキア石、母岩のまま切り出してんのかよ」

 それが、エルフ族の贅沢なのか傲慢なのか、ガルデンには分からない。
ただ魔具の技師としては、勿体ない使い方だとは思う。

「変わった人だったんだろうねぇ…多分」
 
 床も壁材と同じコルキア石だが、青色部分が多く、白色が波のような模様を描いて海のようだ。
四隅の柱と奥側の戸は針水晶が金色に輝いて、辺りを照らす。
「防水、除湿、換気、温度調節、清浄、劣化防止…全部、装飾のふりしてやがる」
ガルデンは息を吐いて周りを見つめる。
この脱衣場所に、一月は籠っていられると思っていると

「パウパウ、脱いだ服はこの棚の、ここに入れておくと勝手に奇麗にしてくれるからね」
「うん!」

「おいササ耳、お前、なに脱いでる」
「私もパウパウと風呂に入るからな」
「いや、まて、お前らは肌を見せない…だから、脱ぐな!」
湯帷子ゆかたびらを着ていればいいだろ」
 仕方なくガルデンは背を向けて脱衣をし、腰に布を巻きつけた。

 パウパウは、えいやっと服と護符も脱ぎ棄てて
「スッカラカ~ン!」と元気に湧いた言葉を口にした。
そして、
「…なにか違う?」自分の言葉に何故かモヤッとした。
 
 首を傾げるパウパウをガルデンは、「なんだそれ」と笑いながら
「おう、ササ耳、もういいか」と声をかける。
「あぁ、いいぞ」
 ミっちゃんは、藍白の袖なしの着物を右前合わせで身に着けて、銀の髪を高い位置で一つにまとめている。これで風呂に入るらしい。

「ガルデンおじちゃん、すごぉい」
髪の毛や髭も黒くてモジャモジャだけど、腕とか胸とか足とかもモジャってる。
「ほんと、モジャーフだねっ!」
「んな嬉しそうな顔で言われてもなぁ。俺ら皆、こんな感じだぞ」
「カッコいい!キンコツリューリュー!スチールタワシ!」頭に湧いた言葉が溢れた。
「お、おぅ、なんか変な言葉があったけど、まぁ、ありがとよ」
ガルデンはポンっとパウパウの頭に手を置く。

 ミっちゃんはガルデンを不躾に上から下までジロジロと見て、
「本当にモジャーフだった」と呟いてから
「ほら、二人ともタオルハヴル」と手渡し、当然のようにパウパウと手を繋ぐ。
浴室に続く針水晶の両引き戸の前に進むと、やはりひとりでに戸は左右に開いた。

「……重量軽減を付けるくらいなら、こんなでかい水晶使うなや」
溜息をつくガルデンに、(防音と強化、耐衝撃も付いてるんだ、先祖が、なんかゴメン)と、ミっちゃんは心の中で謝罪した。

「ねぇ、ミっちゃん」湯殿の入り口を潜るパウパウが声をかける。
「なに?」
「頭の茶色いトリさん、一緒にお風呂はいるの?」
「え」
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