パウパウは今日も元気

松川 鷹羽

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33.パウパウのキラキラとお友達 19

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 土下座までして許しを乞うたハイエルフへ、四才児の答えは、まさかの「や」。
「ぶはっ」
グーリシェダが吹き出した。
両手で口を押えて笑うのをこらえているのを見て、ミっちゃんは内心、腹立たしく思う。

「ミっちゃん、どうして意地悪なのか、教えてくれないも」
四才児の成長が目まぐるしい。

「……ちゃんと言う。私は、私の膝の上でパウパウにご飯を食べて欲しかった、です」
「ぼく、ご飯、一人で食べたかった。ハヤツのお兄ちゃんだから」
「うん。そうだね、パウパウの気持ちを無視した私が悪い」
 パウパウの成長を受け止めていなかった自分が悪い。
身体も心も少しずつ大きくなっているのに気が付いて、いや、どこかで認めたくなかったのかもしれないと、ハイエルフは思う。

「ミっちゃん、ハヤツのこと捨てる、言った」
「砂漠に帰すって言ったんだよ」
「でも、ミっちゃん、ハヤツ生きられないって言ってた、そんなハヤツ帰すって、死んじゃうんだよ」

新緑色の瞳は真っすぐにハイエルフを射貫く。

パウパウの後ろで、腹を抑えマアガの箱の上にうずくまるグーリシェダばぁちゃんは無視しよう。
(笑いたければ、笑えよっ!)
「……ハヤツに…砂漠オオネコホ・シャルバフェレに嫉妬…しました」

パウパウの後ろのグーリシェダがヒクヒクと痙攣している。
「しっと…なに?」
知らない言葉が出てきてパウパウが首をかしげる。

「えぇっと…パウパウがハヤツのことを一番だと思ったら、イヤだなと……思いました」
(これ、新手の拷問か⁉)
己の仄暗はずかしい気持ちを言語化して、説明する。
しかも、に!
しかも嫉妬の対象は
……どんな拷問よりキツイ。

グーリシェダが過呼吸を起こしたかのようにヒィヒィしている。

「…ヤキモチ?」
パウパウが呟く。
「焼餅を焼くって、知ってた?」
「ん~、分かんない。でも、そんなの?」
「……うん。ハヤツに嫉妬してた。ごめんね、私、大人なのに」

 パウパウはミっちゃんに、また一歩近付いた。
「ぼくの、一番はず~っとミっちゃんだよ?ハヤツは仔ネコで弟」
その言葉に思わず微笑んで
「うん。ありがとうパウパウ。ね、あと私、どこが意地悪イヤだった?」

 ミっちゃんは上体を起こしてパウパウに向けて手を伸ばした。
それこそ、仔猫が怯えないようにそうっと。
「ミッちゃんハヤツのかぁさまに、大事にするって言った。ウソついたらダメでしょ」
「うん。嘘ついたらダメだね、後でハヤツにも謝るよ」

 パウパウは手を伸ばして、ミっちゃんの手を取る。
ミっちゃんは膝立ちになってパウパウを、そっと腕の中に包み込んだ。
「パウパウ、嫌いなんて言わせて、ごめんね」

「ぼくもキライになるって言ったから、ごめんなさい」

─────────────────────────────────────
 グーリシェダは笑いすぎて死ぬ処だった。
今も腹筋が痛い。

 見た目は一部の隙も無いのに情緒ガバガバの孫と、その孫より下手をしたらシッカリしている四才児。
この二人の何とも初々しい仲直り。

 それは良かったのだが、発端はだ。
グーリシェダとしては孫の情緒の発達に不安が残る幕引きである。

「さて、では本来の予定じゃな、マール達のところへ戻ろうか」
仲違なかたがいなど無かったように、いつもと同じにミっちゃんの腕に納まっているパウパウを見て声を掛ける。
「なあに?」
「お出かけ前にね、パウパウに御守りを付けるんだよ」
「ふぅん」
 パウパウは事あるごとに、ミっちゃんやガルデンに言われて魔導具に触ったり、色々な護符を付けさせられたりしている。
だから、今日も似たようなことをするのだと思っているのだろう。

 雑貨屋の居間に帰って、ミっちゃんが元の状態に戻したソファーにパウパウは座らされた。

「これがね、パウパウの新しい御守りだよ」
小さな細長い箱を開けて、見せてもらったのは奇麗な飾りだった。

「わぁ、キラキラ!ミっちゃんの目の色に似てるねぇ」
「これをな、パウ坊のここに付ける」
グーリシェダが額の真ん中あたりを指差した。
「これ7つ有るよ」
箱を覗き込んで数えたパウパウに
「ちょっとずつ、様子を見ながら増やしていくからね。今日は1つだよ」
ミっちゃんが答えに、パウパウは少し考えた。

「ねぇミっちゃん。御守りキラキラしてるから、カラスサブロ欲しがるかも」
「え…、うん。サブロ達には言い聞かせておきます」
妙に丁寧な言葉でミッチャンが答え、それを見てグーリシェダがニヤニヤ笑った。

「んじゃ、まず魔力量の確認な。いいかパウ坊」
「うん」
 いつもおこなっている事なので、パウパウも慣れたものだ。
今度はソファーに横になり、まずはガルデンが首に掛けている護符の色の変化を確認する。

「お?あまり増えてないな。いい感じだぞパウ」
なんだか嬉しそうに言うので、パウパウも嬉しい。

「じゃ、今度はこれを握ってね」
 ミッちゃんが棒みたいのを渡してくるので、いつものように握る。
グー姉(ねぇ)様が、機械の向こうで何かを見て
「ふむ。やはり、あまり増えていないの」
「うん、これなら、このまま装着できるわね」
覗き込んだマールちゃんが笑う。

 なんだか、皆がホッとしたようなので、パウパウも嬉しい。
「では、パウパウ。御守りを付けるからの」
 
 グーリシェダは魔力の動きを見ることが出来る。その目で人の魔臓腑の位置も把握が可能だ。
ズレることなくパウパウの魔臓腑の上に魔導具の設置が出来るだろう。
「ふむ、ここじゃな」
小さなピンセットで魔導具をつまみ上げる。

「パウパウ、ちょっとだけ動かないでね」
ミっちゃんに言われて、反射的にパウパウは息を止めた。
「ふふふ、息は止めずとも良いがの。よしパウ坊、起きてみよ」

 言われてソファーから起き上がったパウパウは、オデコの辺りを触れてみる。
「変な感じがしたりしないかい?」
触ったら、そこに御守りが有るのは分かるが、普通にしていたら全然気にならない。
パウパウは首を振って
「だいじょぶ。つけてないみたい」
「鏡、見てみる?パウちゃん、すごく可愛いよ」
笑いながらもマールジェドは魔力視を使って、幼子の魔導具の稼動を確認する。

 マールちゃんが収納から出した奇麗な手鏡を渡してくれたので、覗き込むとオデコの真ん中に青紫色の石が付いていた。
「お~」
「おぅ、カッコよくなったじゃないか、パウ坊、お守り、ちゃんと動いてるな」
ガルデン大匠たいしょうもエルダードワーフの目で、魔導具が正常に動いているのを確認する。

「うん、大丈夫そうだね。それ取れないから、普通に顔を洗ったりして平気だからね」
「うむ、似合っておるな、よかったの」
パウパウの魔力の流れと魔導具の動きを見たグーリシェダが頷いた。

「よしっ、じゃあパウちゃんは、お出掛けの仕度しようか」
マールちゃんが言ったので思い出した。

「お出かけ!」
ミっちゃんを思わず見ると、にこにこしている。
「叔父上、上の衣装箱に用意されていると思いますので、お願いします」
「よし、じゃあパウちゃん。可愛くしてあげるよ」
「ぼく、カッコイイのがいい」
パウパウの手を引いて上に行くのを三人が見送る。


「さて、朝から、すまぬがウネビ家の話をしていいかの」
グーリシェダが、先ほどまでの笑顔を消してウルジェドを見た。
「私はいいけど、ガルデンは?」
「あ~、さっきなぁマールにざっくりと聞いた」
 苦虫を嚙み潰した顔で不機嫌そうにガルデンが言う。
小さな子供を一族で育てるドワーフ族にしたら、ウネビの家人の行いは不快だろう。

「見るか?マールの魔道具が送ってきた映像じゃ、…ちと不愉快かもしれんが」
 テーブルにが乗せられた。
昨日の赤いハサミの小さい蟹ではない。
オレンジ色でガッシリした、全身に固い毛が細かく生えた蟹だ。

「こちらの蟹は受信用でな、あちらから送られた画像を投影でき記録も残せる。これは昨日のウネビの家じゃ」
「また妙に高性能」
「この形を選ぶセンスが分からねぇ」
ウルジェドとガルデンのうめきを無視して、投影が始まる。

 毛ガニがハサミをカシッと開いた。
ハサミの付け根から光が出て、映像を結ぶ。
「……そこは目からじゃ、ないのか」
「天才のやるこたぁ、分からねぇ」

 壁に映し出されたのはウネビ家の兄弟の部屋だ。

ウルジェドがパウパウを連れ出した後だろうか、当主のガイアスが次男のテレスと寝台に座り話している。
「叔父上が忍ばせていたのですか」
「家には蜘蛛型、庭には沢蟹じゃと」

『……が病気だと、聞いていただろう?』
口を尖らせて不機嫌な顔でうつむいているテレスにガイアスは話しかけている。
『うん。治らない病気だから、
ヒュっとガイアスが息を飲んだ音が流れてくる。

『……いつごろ、そんな話をしたんだ』
『んー俺が、パウパウくらいのときかなぁ。たまに今も聞くよ。どうせ治らないのにエルフもドワーフも無駄働きだって」
『あのな、あのなテレス、違うんだ。パウパウは治る。治るようにウルジェドさんも、ガルデンさんも、みんな頑張ってくれてるんだよ、だから……』
両手で息子の肩を掴み、自分の方を向かせたガイアスの懸命な言葉に
『ふぅん』
テレスは、あまり興味なさそうに答えている。

『でもさ~父様?今は帝都だけどアーサーにぃ様も居るし、俺もエレーラも居るし、あいつ、居なくたってよくない?』
『は?』
『あいつが助かっても死んでも、どっちでもいいじゃん』

『そ…れは、お母さんが言っていたのか』
信じられない物を見たようなガイアスの顔が、歪みながら言葉を紡ぐ。

『うん。母様も言ってたよ。って』
弟の生死を、ケロリとした顔で片付けた次男を、呆然と見る当主ガイアス。
ここで映像は終わった。


誰も言葉を出せなかった。
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