パウパウは今日も元気

松川 鷹羽

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39.パウパウのキラキラとお友達 25

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「もう目を開けてもいいよ」
パウパウは始めに、一瞬で空気の匂いが変わった事に気づいた。
つぎに体に纏わりつくような湿度。
最後が音になったのは、ミッちゃんが包むようにして、幼子の片耳を胸につけていたからだろう。

 言われたとおりに目を開いて見回したパウパウの目には、人が歩く道などは無さそうな森林があった。

「ミッちゃん、すっご~く遠くに来た?」
 さっきまで居た植物園のギンちゃんの所に似ているが違う。

もっと重くて濃いような何かが空気に含まれている感じがする。

「そうだね、さっきの所よりも、ずっとずっと南だよ。その着物ふくだから、暑さは大丈夫だと思うけど……ところでパウパウ。具合は悪くないかな?気持ち悪いとかは?」
ミッちゃんに聞かれて、パウパウはしばらく考える。
「ん~、だいじょぶ。なんかねぇよ?」
「ん?らくちん?なのかい?」
らくちん、という言葉が分からないミっちゃんは戸惑う。

「お守り付けたらね~、頭とか足とか……ん~分かんないけど、になった!」
「そ、そっかぁ。お守りが効いたのかな。よかったねぇ」
何故、楽にが付いたのかは謎だが、とりあえず、楽になったという事らしいと推察してホッとする。

(皆、きっと喜ぶだろうなぁ。グーリシェダばぁちゃん、泣くかもしれない)

ミッちゃんも、胸にこみ上げてくる物を感じながらパウパウに笑いかけた。

「じゃ、ギンちゃんの友達を探そうか。パウパウは知ってるんだよね?」
「うん!お花なの」
「え?」
「お花!」
「……は、な?」
 ミッちゃんは思案した。
この森林で花を探すのは結構な手間がかかりそうだ。

 てっきり、同じような樹木か、せいぜい何かの動物だと勝手に思い込んでいたのだ。
砂漠オオネコホ・シャルバフェレであるまいに、花が呼んで、出てくる筈もない。
歩いてきたら、それはそれでギンちゃんの二の舞いになりそうで怖い。

「ギンちゃんがね。きっと、いま咲いてるって」
「そっかぁ。花かぁ。ギンちゃんが教えてくれたの?」
「うん。大きいの、グルグルでぇ、あとね、美味しいのが成るから虫とか鳥さんとかが食べにくるんだって」
「へぇー、そうなんだねぇ」
(まったく分からんのだが……)

「……鳥さん、居ないねぇ」
ミッちゃんは途方に暮れながらも、とりあえず、ギンちゃんが生えていた場所を目指すことにした。

 ミッちゃんが転移して来た場所ここは、かなり大きな倒木の上だ。
他の樹々を巻き込んで倒れたのか、ここだけが開けて陽が入り、明るい道のようになっている。

 随分と苔むしていて、あちらこちらから小さな葉を沢山つけた草や、蜥蜴の舌を集めたような葉が生えていた。
蓋の付いた水瓶がぶら下がっているような植物もある。
どれも見たことが無いパウパウは、辺りをキョロキョロと見渡して楽しそうだ。

「……おかしいな」


「ねぇ、ミッちゃん。ぼく歩きたい」
 物理結界も、グーリシェダの加護もある。パウパウを抱き下ろして、ミっちゃんの左手と繋ぐ。
「ここだけ真っすぐだねぇ」
「これ、倒れた木だよ」
「え!おっきいねぇ、ぼく道だと思ってた」

 そう教えてもらって辺りを見れば、確かにへし折れた木や斜めにかしいだ木がある。
木肌から奇麗な花や、白や青の蝶みたいな花が、ぶら下がって咲いていたり、コケや草が生えていて他の植物の温床となっている。

「ギンちゃん、こんな所に住んでたんだぁ」
「この先、少し行った所がポッカリと開けていてね、そこに生えていたんだよ」
「そこなら、きっと、お友達いるね」

 所々に生えている、鳥の嘴のような形の赤い花や、トカゲの尻尾が集まったような草を珍しそうに見ていたパウパウがふと立ち止まる。
 
 周りの薄暗い木々の間をじぃっと見て、
「ミッちゃん、みんな見てるねぇ」
「そうだね、パウパウよく気が付いたね」

 森は異様に静かだった。
動いているのは、まるで自分達だけのように、他の生き物は息をひそめているのが感じられる。
(前は、もっと生き物の息吹があった…おっさん達以外にも)
いや、学長達は息吹ではなく、五月蠅いだけだったかと思いなおす。

 やがて、倒木の先端部分、枝葉が大きく切り取られた所へ辿たどり着く。
元々が大木だ、枝といっても大人が一人で抱えられない程の太さがある。

 学長達を連れて来た時に、ミッちゃんが切り落としたり、切り開いて道を作ったのだ。
ちゃんと、足場と滑り降りられるようにしてあった。
 時間が経っているので、あちこちから草が生えたり花のようなものが出ているが。
(下りられないだの、怖いだのと大騒ぎしていたな)

 あのとき、ミッちゃんは躊躇ためらわずに、彼らを蹴落けりおとした。
 だいたい、ちょっとした滑り台みたいな物なのに、いい大人が怖い事あるかと思ったのである。
おっさんの悲鳴が森林に響いて、魔獣が来ないかとヒヤヒヤしたのを思い出した。

 そんな場所を今日はパウパウを抱き上げて飛び降りる。

「きゃぁ!」
 楽しそうに首にしがみついて、キャッキャと笑う幼子を見てハイエルフも笑う。
フワリと灰色のローブが風を孕み、一つに纏めた髪の毛が遅れて舞い上がる。
パウパウの帯の後ろも新緑のシダの様に、フワフワと揺れた。

「ミッちゃん!ミッちゃん!もーいっかい」
「あはは、ほら、今はギンちゃんの友達を探そうね」
「え~」
「さぁ、この先……
 木立の先、薄暗くなった場所へ進もうと、張り出した根の上を飛び越えようとした時、ハイエルフは何かを感じた。

今まで大人しく隠れていた生き物の気配。

、これは

「ミッちゃん、ぼく歩く」
パウパウが先を見ながら言う。
「駄目だ」
「ん~……だいじょぶ、よ?」
 何故だかパウパウはミッちゃんの腕の中でも器用に、たもとからナイナイ袋を取り出した。
袋を開けて、出したのは木の枝だ。
「ジャジャーン!」
「じゃじゃぁん?」

 パウパウが自信たっぷりに、かかげて見せたのは木の枝だ。
以前キタノリスから貰ったという木の枝かと思ったが、よく見たら違う。

 灰色と緑色の混じった不思議な色合いで、枝先には白い葉が付いている。
林冠が閉じかけている薄暗さの中でも、ほのかに白く輝く、それは、

ギンちゃんの枝だ。

「うーん、困ったなぁ、パウパウ、その枝じゃ勝てないと思うよ」
なにせ、なのだ。

「ん?ちがうよ、これはね、ご挨拶なの」
ご挨拶は、ちゃんと立ってすると言い張る幼子の言葉に首をかしげながら、ミッちゃんは”魔法防御”もパウパウに追加したうえで根の上へ降ろす。
(物理、魔法、加護、とりあえず大丈夫だろうが最悪のときは転移で逃げよう)

 パウパウの右手を繋いで、幼子にコッソリ軽い”飛翔”を掛けて、大きな根を跳び越えさせたり、時には持ち上げて一緒に飛び降りたりしながら、ギンちゃんが生えていた場所へと進む。
 (以前のおっさん達のときは、面倒だったので全員拘束をかけて、短距離転移したなぁ)

 わずかに出ている土は踏むとブワブワな感触が気持ち悪いので、パウパウを抱えて跳び越える。
防御系の術を重ね掛けしているし、着ている物にも様々な付与が付いているので、汚れるわけではないが気分の問題だ。

「大丈夫?辛かったら、抱っこしようか?」
「だいじょぶ。がんばる」
四才児、根性も体力もある。

 やがて、ようやく明るい光が木々の間にうかがい見えた先。

円くポッカリと開いた空間の真ん中に
(あれか……)
ハイエルフは息を呑む。
(居る)

 静かに収納空間から抜き身の剣を出す。
 警戒をして、パウパウを庇いながら、少しだけ近づいた。
陽光がそそぐ、以前はギンちゃんが生えていた場所に居たのは、トグロを巻く蛇だ。

 三角の頭に金色の眼、毛羽立つような逆鱗さかうろこに見える全身は群青色で、背中に連なる黒い菱形模様のフチは金に近い黄色の警告色。
不思議なのは、その横に小さな白い蜘蛛が寄り添っていることだ。

(金級……いや、下手をしたら、白金級か)
ミっちゃんは口の渇きを覚える。

すぃっと滑らかな動きで毒蛇が鎌首をもたげた。

(……恐ろしいほど強い)
パウパウを守りつつ戦うとなると、少々苦戦するかもしれないと思った矢先、

「こんにちは!ぼくパウパウです」
ギンちゃんの木の枝を振り振りしながら、となりの四才児が大変に良い御挨拶をしてくれた。
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