パウパウは今日も元気

松川 鷹羽

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49.パウパウのキラキラとお友達 35

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 雑貨屋に転移で帰ってきた二人をグーリシェダが出迎えた。
「グーねぇ様、ただいま!」
「お帰りパウ坊。身体がだるいとか、どこか痛いところは無いかの?」
「ん?ぼく、元気!」

 ニコニコと返事をしたパウパウを見てグーリシェダは笑った。
体内の魔力の流れを確認して、きちんと魔道具が働いているのを見たのだ。

「そうか、なら魔道人形からくりを呼ぶから着替えておいで」
 パチンと指を鳴らすと、壁の扉が開いて魔道人形からくりが居間に入ってくる。

「お帰りなさいませ。ウルジェド様、パウパウ様」
 奇麗な姿勢でお辞儀をして、パウパウに手を差し伸べる。
「上でお着替えをしましょう。パウパウ様」
「ただいま、からくりさん」
 嬉しそうに魔道人形からくりさんと手を繋いで三階に上がっていくのを見送ってグーリシェダは首をかしげた。

「じゃあ、いい時間だから店を閉めてくるよ」
 マントを収納し、浄化の魔法を自分に掛けたウルジェドが言う。
「いや、もう閉店をしておいた。雨が降ったので客足も遠のいたのでな」
 下に降りてマテルさん達にお願いに行こうとしたのをグーリシェダは止めた。

「さて、ウネビ家の事などはマールが戻ってからにしようか。そちらも中々に大変だったようだしの」
「あぁ、毒蛇殿の話は叔父上から聞いたか?」
「いや、温室が歪む騒ぎで、マールジェドとガルデン殿が仕事を任されそうだとは聞いた」

 ウルジェドは収納からティーポットを出して、薬草茶を煎れる。
 グーリシェダにも勧めて、自分もカップを手に取り、口にしてから
「その騒ぎで、人間が秘境と呼んでいる場所に行くことになってね。そこでトヒルと名乗る毒蛇に会ったんだ」
「……ほう?」

 ウルジェドは気配を探るように間を置いた。
 パウパウは、まだ降りてこないだろう。

「名付けたのは、
「…………」
「毒蛇殿はだったよ」

 チッとグーリシェダが小さく舌打ちをする。

「あ奴は古帝国ボドルータに呪われた亡者、我らが月に災いを成す者。霊廟の中が似合いじゃ。……そのトヒル殿には申し訳ないことをしたの」
 忌々し気にグーリシェダはカップの茶を口にした。

「あぁ、そうだ。古帝国ボドルータといえばパウパウの事なんだけど、あの子、よ」
 グーリシェダは飲みかけの薬草茶を盛大に噴き出した。

「うわ!ばぁちゃん、大丈夫か」
 グーリシェダがゲホゲホしながら、口を拭いたり、乾燥の魔法やら浄化の魔法やらを掛けたりとバタバタしていると、階段から声がしてパウパウが魔道人形からくりさんと降りて来た。

 着替えた部屋着は、着心地の良さそうな柔らかい生成り色の生地で、所々に鳥の意匠が刺繍されている。
 首元の小さなリボンは青紫で、ミッちゃんの瞳の色だ。
 足元も同じ色の布の室内履きだった。

「見てぇ~着替えた~!」
 両手を広げて、ハイエルフ二人に得意げな顔をする。
「パウパウ様は、ご自分で、お着替えをされました」
 魔道人形からくりさんが、流暢に報告してくれる。
「そうか、偉かったなパウ坊」
「からくりさんが手伝ってくれたから!ありがとね~」
 魔道人形からくりさんは、うやうやしくお辞儀をする。

「パウパウ、お風呂に行くかい?御飯が先がいいかい?」
「マールちゃんが帰ってから、ご飯食べる!」
「では、昨日の温泉でよいかの?違う処もあるが」
「魚のお風呂がいい!」

 ミッちゃんと一緒にゲルへの扉を抜けると、
「ハヤツ!マアガ~」
 砂漠オオネコホ・シャルバフェレが、狩りから戻ってきていた。

「ニ゛ィ~」
 足元にすり寄ってきた白い砂漠オオネコホ・シャルバフェレの幼獣を、しゃがみ込んでパウパウは撫でまわす。
「ミッちゃん。ハヤツ、ふわふわになってる!」
「ギャッ」「ミャア」「ミ゛~」と他の仔も寄ってきてくれて、パウパウはニッコニコだ。

 最後にマアガが、ミッちゃんとパウパウの間に、無理やり体を入れてきてパウパウの頭に自分の頭をスリスリさせる。
「ふふ、みんな可愛いなぁ。マアガ、ハヤツに優しくしてくれて、ありがとうね」
「ナ゛ァゴ」
 マアガに頬を摺り寄せて、パウパウからもスリスリして、ついでに首も背中も撫で撫でだ。

「ほら、パウパウ、お風呂に行くよ。マアガ、またね」
「うん、またね」
 名残惜しそうに振り返りながらパウパウは温泉に向かう。

「ミッちゃん……」
「マアガ達は砂漠の生き物だから、お風呂には入らないねぇ」
「そっかぁ」
ちょっと、しょんぼりしたパウパウを見て、ミッちゃんは”なにか風呂好きの生き物”を眷属にしようかなと、本気で考える。
 だが、水の生き物とか風呂場と思うと、あのとかとかとかを思い出してしまい、脳内風呂好き生物眷属計画は一瞬にして無かったことになった。
(はぁ、私、なに考えてるんだろ……)

今日も色々とありすぎて、疲れているのかもしれない。

 青みがかった木製の扉を抜けた脱衣所で、パウパウは服を脱ぐ。
「あ、パウパウ、先に護符を外そうね」
首から下げている護符をミッちゃんに外してもらって、頭から上衣を抜いた。
(護符の色、変わっていない。健康ってことだ、良かった)
ミッちゃんはホッとする。

「この服、脱ぎやすいね」
生地が柔らかいせいか、パウパウでもスルリと脱ぐことが出来た。
いいながら、パウパウが床に座ってズボンを脱ごうとするのを止めて、ミッちゃんが降ろしてくれる。

 いつの間にかミッちゃんは服を脱いでいて、髪を高い位置でくくり、腰にタオルを巻いた姿だ。
(お~ホソマッチョ)
パウパウは頭に湧いて出た言葉に蓋をする。

 ミッちゃんは、奇麗でカッコイイ。ガルデンはゴツくてカッコイイ。
(どっちの大人になろうかなぁ……)
そう思いながら自分を見たら、白くてぷにゃぷにゃ。
ちょっとパウパウは、がっかりした。

「はい。肩に手を乗せて、片足ずつ上げて」
ミッちゃんの滑らかな肌に手を付いて、片足を上げると、転ばないように背中に手を添えてズボンを抜き取ってくれた。

「よし、何だっけ?」
「スッポンポン!」
両手を上げて、パウパウが言う。
「そうそう、それも頭に浮かんだ言葉なのかい?」
「うん、そうなの」

差し出された左手を、きゅっと握ってパウパウは答える。
「なんだか、分からないけど裸んボに似合った言葉だねぇ」
ミッちゃんは喉声で笑う。
「うん。スッポンポン!」
「ふふ、スッポンポン」
繋いだ手をブンブンさせながら二人で浴室へ向かった。

 ミッちゃんは直接、手でパウパウの体を洗ってくれる。
石鹸水をふかふかに泡立てたのを、肌に乗せてクルクルと円を描くように洗ってくれる。

(ガルデンおじちゃんのタオルでゴシゴシも気持ちよかったけど、泡クルクルも気持ちがいいなぁ)

 パウパウのウネビ家では、毎日、入浴はしない。
使えるとはいえ魔法で水を貯めたり、湯を沸かすのは手間だし、疲れるらしいので、せいぜい清拭せいしきをする程度だ。

(毎日、お風呂。嬉しいなぁ)
小さな頃から、何故だかお風呂が大好きなパウパウは、これだけでも幸せだ。
(…コーキュースパ……)
頭に浮かんだ言葉に蓋をする。

「ミッちゃん、ぼくも洗ってあげる」
泡泡のままでパウパウはミッちゃんの背中に周り、桶の泡を手にした。

 ミッちゃんがしてくれたように、両手で泡をすくい上げて広い背中にそっと置くと、弾力のある泡を小さな手で、一所懸命にクルクルする。
エルダードワーフのガルデンがそばに居ると華奢に見えてしまい気づかないが、しなやかな筋肉のついた肉体だ。

「う~ん……そうだ!」
中々、泡が広がらないのに悩んだパウパウは、えいっとばかりにミッちゃんの背中に抱き着いた。
「あれ、どうしたの?」
「ぼくの泡泡、あげるの!」
「そっかぁ、ありがとうパウパウ。じゃあ流して、お風呂に入ろうか」
お湯の魔道具シャワーヘッドで泡を流して、魚の彫像が飾られた浴槽へ入る。

パウパウには深いところは危ないから、ミッちゃんの膝の上だ。
「あ、ねぇミッちゃん?裸を見せたらダメってガルデンおじちゃんが言ってなかった?」
「ん?パウパウは家族だから、いいんだよ」

「か…家族?」
パウパウは胸に寄りかかっていた顔を上げて、ミッちゃんを見た。

「そう。パウパウは、私の、私たちの大切な家族」

微笑んでハイエルフはパウパウの額の魔導具の少し上に口づけを落とした。

 パウパウは、そこに手を置く。
かぁさまが、キスしてくれたのは、いつだったろう……)
思えば、とぉさまが抱き上げてくれる事はあっても、こんなキスを貰う事は無くなっていた気がした。

「ん?どうしたのパウパウ」
ミッちゃんは微笑みながら首をかしげる。
「ぼく、ね……」
「うん」
「……ミッちゃん、も、一回」
ハイエルフは同じところにキスを落とす。
「も、一回」

何度も、何度も、幼子がくすくすと笑うまで。

「ふふ、逆上のぼせちゃうから上がろうね。髪の毛を洗おうか」
「うん!」
 髪の毛を洗ってもらい、ミッちゃんの髪の毛を洗うお手伝いで泡泡を作ったりして、何故だか体だけでなく胸の奥もポカポカになって、パウパウはお風呂から出た。
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