パウパウは今日も元気

松川 鷹羽

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66.パウパウの夏とタガメ探し 4

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  グーリシェダは、ただの薬師としてリヨスアルヴァ国へ行くという子供の思いつきに成るほど、と思った。
 
 だが、それで入国するとなるとガルデン大匠たいしょうが嫌な思いをするかもしれない。
 少しでも不愉快な思いをさせないためには、ハイエルフの友人であるという肩書が必要だ。
 あれこれと悩むハイエルフ達にガルデンが声をかける。
「あ~、あのよ、連れて行ってもらう俺が言うのもなんだが、リヨスアルヴァの貴族も王族も、ハイエルフの正装なんざ見たことないんだろ?第何正装だろうが、分からねぇと俺は思うぜ」
「あ……」

 はたと動きが止まった三人を見て、ガルデンが照れ臭そうに笑う。
「俺のために悩ませたのなら、申し訳ない」
「いや、ワシも仕来しきたりに囚われておったわ。ガルデン殿とパウ坊に感謝せねば」
 微笑んでグーリシェダは、パウパウを見た。
 訳が分からないため首を傾げるパウパウに笑みを深くする。
「なに、年を取ると考えが硬くなっていかんという事じゃよ」

「じゃぁ、第六正装でよくない?私、あれ好きなのよ」
「叔父上、あれは観閲式用ですよ、いくさに行くわけじゃないんだから」
「あのエルフに会うなら戦みたいなもんでしょ」

 パンパンと手を叩いてグーリシェダが二人の話を止めた。
「別に王族に会うつもりもない、薬師ギルドでキノコを渡して、それで依頼は終わりじゃ。第七準装の略装としよう。魔道人形からくりに手伝って貰え」
「プッ…第七準の略装って、それ普段着じゃない」

「マールよ、ガルデン殿の装いの準備はあるな?ウルジェド、パウパウの服は魔道人形からくりに整えてもらえ、では、後程な」
 そう話すとグーリシェダはトンッとつま先で床を蹴って転移をした。

「おい、マール。俺の服ってなんだ?」
 尋ねるガルデンの腕をとって、マールジェドが嬉しそうに転移をしていった。

「さて、パウパウもお着替えだよ」
「ぼくも?」
 田んぼを見たり、池をガサガサする予定だから汚れても大丈夫な恰好がいいんだけど…、と思っているうちに転移で、どこかの部屋に移動した。

「ここ、どこ?」
 来たことがない窓のない部屋だった。
 白い壁に腰高の位置で落ち着いた飴色の板壁が貼ってある。

 家具はと言えば壁際に並んだ赤褐色のチェストと、同じ色のテーブルと椅子、姿見用の大きな鏡があるだけだ。
 一面だけが、全面チェストと同じ色で、尾の長い鳥と、蔦と花々が彫刻してあった。
 床には暖かな色合いのオレンジを主にした絨毯が敷いてある。

「衣装合わせに使う部屋だね」
 ミッちゃんがそう言って、礼をとったままで待っている2体の魔道人形からくりに話しかけた。
「第七準の略装で頼むよ。パウパウはここで着替えてね」
 ミッちゃんはそう言うと魔道人形からくり1体を連れて、隣の部屋へと移動した。
 もう1体の魔道人形からくりが、きびきびと動き出す。

「リヨスアルヴァは暑い国ですので、こちらがよろしいかと」
 用意してくれた服をテーブルに広げてくれた。

 膝上の丈で絹麻の短袴は、黒染めで両脇に青紫色の蔦模様の刺繍が入っている。
 裾が長めのシャツは同じ素材だが、光の当たり方で柔らかい金色が混じるクリーム色。
 小さな立て襟でバロンタガログのように胸にも縦に蔦の刺繍が入っていた。

「ローブよりも涼しいかと思いまして、袖無しの打裂羽織に認識阻害を施してございます」
 薄手の白の打裂羽織には白い鳥の刺繍。
 短い靴下にメッシュレザーのバレーシューズ。
「ありがと。軽くて、涼しい」
 魔道人形からくりさんにお礼を言っていると、ノックと共にミッちゃんが入って来た。

 パウパウの着ているのと同じ形のシャツには尾の長い鳥が刺繍されている。
 腰には新緑色のサッシュを巻いて、黒の乗馬用ズボンに革の長靴。
 袖なしの打裂羽織は白で同色で鳥の模様が刺繍されている。
 珍しく腰には青紫色の太刀緒でこしらえの見事な太刀をいていた。
 羽織の割りから太刀の鞘が出ている。

「ミッちゃん、カッコイイねっ!」
「パウパウは…」
 ミッちゃんは魔道人形からくりに声を掛ける。

「……少し可愛すぎないか?膝が出ているし」
「認識阻害がしてありますので、支障はございませんかと」
「そうか…だが」
「では御髪おぐしを青紫のリボンで纏めては如何でしょう」

 何かよく分からないうちに、パウパウは髪の毛をミッちゃんの瞳の色のリボンで纏められた。
 ミッちゃんに付いていた魔道人形からくりが小さな箱を持ってきて、ミッちゃんに開いて見せた。
 中を確認して、ミッちゃんは小さな飾りを取り出してパウパウの小さな耳に触れる。
「なぁに?」
「ちょっと、じっとしていて」
 パウパウの耳の上を少し引っ張るようにして何かを取り付ける。

「…んっ…ミッちゃん、なぁに?」
「イヤーカフ。うちの子っていう標だね」
 さわさわとパウパウの耳を指でなぞり、もう一つも同じように付けていく。

「ミッちゃん、くすぐったい」
 肩をすくめて笑いそうになるのを我慢していると、ミッちゃんが、ポンと肩を叩いた。
「うん、どうだい?」
「はい、大変に愛らしゅうございます」
 聞かれた魔道人形からくりが答え、もう1体がカラカラと姿見を持ってくる。

 鏡を覗き込むと横に並んだミッちゃんと同じような装いだ。
「ミッちゃんとお揃い!」
「あぁ、そうだ。私も髪を黒のリボンで纏めようか」
 ミッちゃんが後ろに立った魔道人形からくりが作業しやすいように椅子に座り、髪を纏めてもらっている間、パウパウは耳の飾りを見つめていた。
 銀色の飾りは、翼の意匠と、もう一つは蔦の意匠だ。
 ミッちゃんが片耳に付けている物に似ていて、パウパウは嬉しくなる。

「これでよし、さあ行こうか」
「うん」
 ミッちゃんと手を繋いで廊下に出た。
「あれ?転移しないの?」
「あぁ、あの厨房、この家だからね」
「あ、そうなんだ!」
 奇麗な飴色の階段を降りて玄関ホールに行くと、既にグーリシェダとマールジェドが待っていた。
 そして、あと一人。

「…だれ?」

 薄手の白い丸首のコルディに黒の乗馬ズボン。華やかな青いシュールコーには、銀糸で蜂が刺繍されている。
 シュールコーを止める腰の革ベルトは白で、何故か金色のムカデが描かれている。
 奇麗に整えられた黒髪は艶めいて波打ち、シュールコーと同じ青いリボンで纏められていた。
 頭の上にはスズメが、かしこまって乗っている。
 
 一言でいえば偉丈夫だ。
 頭の上にスズメが鎮座していても、間違いなく偉丈夫。
 分厚い体躯で立派な髭を蓄えた精悍な男が、マールジェドの隣に立っていた。

「こ、こんなのガルデンおじちゃんじゃないっ!」

 パウパウは、目を見開いた。
 (ぼく、なにも言っていない⁉)

「お前が言うなササ耳!」
「やだぁ!モジャーフじゃない、ガルデンは嫌だぁ!」
「ウルジェド、ふざけないで!ガルデンは何だってカッコイイのっ!」

 わぁわぁと言い合っている三人をよそに、パウパウはグーリシェダに近寄った。
「グーねぇ様。待たせて、ごめんなさい」
「おぉ、可愛くしてもらったのパウ坊。なにも待っておらんよ」
 グーリシェダは、パウパウの両耳を見て、リボンを見て、おやおやと笑った。

 ミッちゃんがガルデンをモジャモジャにしようとするのを、マールジェドが羽交い絞めで止めている。
なんだか、とても楽しそうだ。

「ねぇ、ガルデンおじちゃんって、思ったより若いんだね」
「おや、知らなかったのかい?まぁ、いつもは作業服で、身なりを気にしない職人ゆえの」
「ぼく、ガルデンお兄ちゃんって、呼んだ方がいいと思う?」
「……いや、お兄ちゃんという年齢ではないから、今までどおりで、よかろうよ」
「……うん…ねぇ、アレ、いつまで続くのかなぁ」

 結局、三人の悪ふざけ──若干ガルデンは、とばっちりだが──は、グーリシェダがウルジェドをどやし付けるまで収まらなかった。
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