パウパウは今日も元気

松川 鷹羽

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115.ミッちゃんのレトケレス探し11

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「ミッちゃん、ぼくの|棒鱈ストッカぁぁ!」

 ここは、討伐達成の喜びを互いに噛み締めたりするべき状況ではないだろか…ハイエルフは…うん。本当は、スゴイ!とか、カッコイイとか言われたかったので、少しだけ寂しい。

 だが、何の気なしに、やってしまった茶色のカーカルデを見降して、
「ごめん。パウパウ、つい、やっちゃった」
 大きな茶色のカーカルデは、未だにウゴウゴとしている。
 まるで標本になったようだが、剣を抜いたら体液が垂れてくるだろう。
 沁みついた習慣って怖い。

 確かにフィリが防水、防汚の符を貼ってはくれた。
 とはいえ、魔虫が貼り付いてしまっている状態になっては、流石に食べたくないだろう。

「ひっどぉい!網元とオッチャン達がくれたのにぃ」
 ここまでパウパウが怒るのは珍しい。
「ほんと、ごめんなさい。あとで、網元と漁師さん達にお詫びします。あと、パウパウに棒鱈ストッカ買ってきます」
「うぅぅ…」
 パウパウは、ぷぅっと頬っぺたを膨らませて、上目づかいにミッちゃんを睨んでいるつもりである。
 ここで笑ったら、もっと怒るだろうから賢いハイエルフは黙っておいた。


「お~い。それより、タマゴ採るぞ!」
 フッバーが声を掛けてくれて、一旦は納める。
 魔道騎士ナーターラァ1機を念のためカーカルデの所に残して、フッバーの元に向かった。

「おぅ、お前ら、大したもんだ、やったな!」
 フッバーが子供たちを褒めながら、拳を出した。
 パウパウもサリレの三人が嬉しそうに、拳を合わせたので、真似をして拳を出してフッバーの拳とあわせる。
 なんだか、嬉しくて、照れ臭い。

「だが、依頼は終わってないからな。こういう時こそ気を引き締めて、残りの仕事もするんだぞ」
「はいっ!」
 サリレの子供たちもパウパウも、元気よく返事をする。
 新人研修、再開である。

「さて、次はタマゴを、どうやって採るかだ。皆は、どうするのがいいと思う?」
 フッバー先生は子供たちに問いかける。

 と、一人が手を上げた。
「は~い、先生。転移すればいいと思いまぁす」
「ウルジェド君に聞いてません。普通のヒトは転移できません」

「はいっ先生!じゃあ、浮遊すればいいと思います!」
「口調を変えるな。てか、お前は黙れ」

「…さて、こういうハイエルフでない、俺たちは、どうやってあそこまで行くかだ」
「泳いでいく!」
 ダグラスが答えた。

「でもさ、ここダンジョンの湖だろ。怖い魔物だって出るかもしれないよ」
「それに、深さも分からないところじゃ、怖いよ!なぁパウパウ」
「うん…」
 カーカルデがタマゴを産んだ木は、岸からおおよそ20m程の場所にある。
 泳ぐなりして、あそこまで行けたとして、どうやって採取して、どうやって戻るのだろう。

 流石に分からず、黙り込んだ子供達にフッバーは
「どうした?降参か」
「まって、まって、今、考えてるから!」マルトフが粘る。
「あ~、どうやって行くかと、採るかと、帰り方ァ!」
「何人でやるかってぇのも、あるよねぇ」

「ねぇ、フッバーさんは一人で、あれを採れる?」と、パウパウが尋ねた。
「おぅ、俺の場合か?そうだな。俺は魔道具と魔法で、あの枝まで行くな」

「魔道具!」「魔法!」
 おぉ~と、感心したような声がサリレの面々から上がった。

「採ってからの戻りは……まぁ、ここの場合は木が生えていないから泳ぎになるがなぁ」

 じゃあ、やっぱり命がけじゃないか…と、パウパウは遠い目をした。
「フッバーさんは収納ポーチがあるけれど、持ってなかったら、タマゴを袋に入れて泳いで戻って来るの?」
「あぁ、それなら収穫袋を頭の上に乗せてだなぁ」

 それは古式泳法か、何かかな?
 武者水練みたいにたたんだ着物を頭に括りつけて、頭をピクとも動かさずに泳ぐフッバーが頭に浮かんだパウパウだ。

「じゃあ、僕らみたいな複数なら…」フィリが考えを続けて言う。
「一人が採取して、岸にいる人に投げて渡すとか…かなぁ」
「でもさ、水の中に何か居た時のために、一人は護衛に付きたいし、一人で100個のタマゴを投げるのも大変だよ」

 また子供達は考え込んだ。
「ねぇ、フッバーさん。どうやって魔道具であの木まで行くの?」
「ん?あぁ、そうだなぁ。やってみるか?」
 腰に付けた収納ポーチからフッバーは何かを取り出して、左手首に取り付けた。

「籠手?」それをフィリが興味深そうに見る。
「これでも魔道具でな。だが反動が酷くて下手を打つと骨に来るぞ」

 子供達に離れてもらいフッバーは、左手を目標の水面から出ている木の枝に定める。

 バシュッと鈍い音を立てて細いワイヤーが飛び出した。
 届いたワイヤーの先端が湖上の木の枝に絡みついた瞬間にクンッと自動的に巻き上げが始まるようだ。

 フッバーは、その時に巻き上げの衝撃に添うように、風魔法で前に飛んだ。
「おぉっ!かっけぇぇ!」
 ダグラスが歓声を上げる。

 自分の風をまとわせたフッバーは魔道具から出たワイヤーが巻き上がるのに任せて、そのまま木の枝に貼り付いた。
 子供達は拍手喝采である。

 (あれ、タイミングがずれていたら衝撃で肩を脱臼くらいしそうだ…やっぱり冒険者って体力勝負なんだなぁ)とパウパウは思う。
「はえ~、すっげぇなぁ!フッバーさん、飛んだぜ…」
「うん。カッコよかったねっ」
「でも、あそこから、どうやってカーカルデのタマゴを採るんだろうね」

 器用に片手でフッバーは収納ポーチから短剣を取り出し、ワイヤーを操作して、少しずつズルズルと下のタマゴの方へと降り始めた。
 そして、カーカルデの卵塊がある場所まで来ると、短剣を木に刺して腰のポーチを引っかけた後、もう一本、短剣を出して口に咥えてから、躊躇すること無く湖水に、ゆっくりと浸かった。
 
 木に予備の短剣を、いつでも対処できる場所に刺してから、後は、カーカルデのタマゴを1つ採ってポーチに入れ始めた。
「すっげぇなぁ、フッバーさん手早いヤ」
「でも、やっぱり一人だと危ないよねぇ」
「うん。誰か警戒をする仲間が必要だよなぁ」
 機械的にタマゴを採取しつづけるフッバーの姿を見ている新人冒険者の三人。
 彼らにとっては、色々と考える機会となっているようだった。

 そんなとき、フッバーが大声をあげた。
「お~い!マルトフ!取れよ」
 そう言って、ブンっとタマゴを1つ放り投げた。
「わぁっ!」マルトフは風を使って飛ばされてきたカーカルデのタマゴを1つキャッチする。

「上手いぞ!つぎ、フィリなっ」
「あ、わっわっ」
 ちょっとオタオタしながら、フィリもタマゴを両手で捕まえる。

「よっし、ダグ!」
 ブンッと大きく飛んできたタマゴを、ダグラスは器用に、かなり飛び上がって受け取ってから両足で着地する。身体強化を使ったようだ。

「最後パウパウ!」
「えっ!ぼく?」
 フッバーが風属性の魔力で、フンワリと放物線を描くように投げてくれたタマゴをパウパウは受け止めようとして
「わ、わ、わ…」
 両手を上げて、懸命に上を見ながら下がるが、ボール遊びをしたことがない子供だ。
 奇麗にキャッチできるわけがない。
 目測も怪しい。

 と、
 フワっとタマゴは変に軌道を変えながら、パウパウの上げている両手の中に納まった。

「はい。上手に取れたねぇ、パウパウ」
「あれ?ミッちゃん?」
 とすん、とハイエルフにぶつかって、パウパウは自分の後ろにミッちゃんが立っているのに気が付いた。

 今、さっきまで水辺でフッバーの事を、じっと見ていたはずだ。
「ん?どうしたのパウパウ」
 パウパウを支えるように立つミッちゃんが、見下ろして聞く。

「あのね、フッバーさん、湖に入れているね」
「……そうだねぇ、湖は大丈夫みたいだねぇ」
「このまま、海もだいじょぶになったら、いいねぇ」
「そうだねぇ…さて」
 ミッちゃんは、ナイナイ袋にタマゴを仕舞うようにパウパウに言った後、水辺まで歩いて行くとフッバーに向かって、かなり大きな声をあげた。

「おーいフッバー、泳いで戻るかぁ?」
「おぉ~!」
 フッバーも怒鳴るように言った後で、腕を上に上げて手をヒラヒラと回す。
【上方の警戒を】だ。
 ミッちゃんは、それを受けて手を真っすぐに上げて了解を示した。

 フッバーは全部のタマゴを収納ポーチに入れて短剣を1本仕舞い、ポーチを肩から斜めに掛けると、もう一本の短剣をポーチのベルトに付いている鞘走りホルスターに納めた。
 最後に左手で籠手型魔道具から出ているワイヤーを、力を入れて2回グッグッと引くとワイヤーがシャーっと収納されていく。

 使いこなせていなければ、ワイヤーが当たって怪我をしそうだ。
 
 その後、フッバーはパニックになることもなく、いたって普通に達者な泳ぎで岸へと戻って来て、パウパウは心底ホッとした。

「おぅ、俺たち普通のヒトだと、あんな感じで採取するぞ」
 フッバーは水の魔法で着ている物の水分を飛ばしながら言う。
 錬金符の防水が効いていない肩口から頭は水が滴っていたからだ。

「いや、その癖の強い魔道具を使えるだけでも、普通のヒトとは思えないけどねぇ。で、フッバー先生。カーカルデの解体もするか?」
「いや、ウルジェドの収納に入れてもらえるか?あのまま持って行こう。で、冒険者ギルドで買い取りのされ方を見せて終わりかな?お前たちの分も一緒に売ってやる」

「え?これ、貰っていいんですか?」子供達が驚いて手の中のタマゴを見る。
「当たり前だ。お前達は、ちゃんと参加したんだからな」
「あぁ、そうだね。報酬の分配の仕方なんかは、後から私の屋敷でやったほうがいいだろう」

 とりあえず、カーカルデの標本をミッちゃんの収納空間に仕舞ってから、屋敷まで転移をした。
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