パウパウは今日も元気

松川 鷹羽

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116.ミッちゃんのレトケレス探し12

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「……ウルジェドの転移は、規格外だと思うぞ」フッバーに言われたミッちゃんは、平パンホブスを千切る手を止める。
 今はダンジョンから戻って来て、皆で遅い昼食をいつもの厨房で取っていた。

「そうか?」
「お前、さっきダンジョンの中から直接、屋敷まで飛んだよな。んな転移、聞いたことも無いぞ」
 高価な転移のスクロールをダンジョン内で使ったとしても、飛べるのはダンジョン一階まで。たちの悪いダンジョンならば下手をしたら発動しないか、飛べても一つ上の階までという場合さえある。
 それがピタリと外の世界。屋敷の玄関に、人型魔道具2機も一緒に飛んで戻って来た。

 そう説明されて、ハイエルフは
「それは、安上がりにすんで良かったな。うん、便利だ」と、ケロッと言い切ったので、フッバーは吐息をついた。

 一方で子供達は興奮冷めやらぬといった様子で、きゃあきゃあと話をしている。
「はぁ~、すンごかったなぁ…あの大亀が出てきたとき、俺、ヒュンってなったわ」
「ひゅん?」パウパウが首を傾げる。
「ダグラス、下品!」
 マルトフが注意をしてから、話を続ける。
「もっと、魔法も攻撃も上手くならないと、俺たちでダンジョンなんて夢の夢だよなぁ」

「……でも、ほんと、色々とすごかったねぇ」
 フィリは奇麗な顔を薄っすらと赤くさせて、何を思い出しているのか。
 小さい声で「魔道具…」と呟いているのは、やはり根っから錬金や魔道具が好きなのだろう。

「フッバーさん、カッコよかった!ピューって飛んだ」
「おぉ!あの魔道具と風の合わせ技、すっごかったなっ」

「おぃ、お前ら、さっさと食ってしまえよ。これからギルドでタマゴとカーカルデの解体だかんな」
「あぁ、そうだったね。最後の流れまでやろうか」
 ただの見学の予定が、面倒見の良いフッバーのお陰で、ダンジョン研修にすっかり様変わりしてしまっている。

「そうだ!あのマントディアカマキリの鎌さ、あれ、売れるかな?それともナイフにする?」
「でもさ俺らん処、海の依頼が多いからよ、ナイフは山の素材より海の素材の方が良くねぇか?」

 ウルジェドがパンパンと手を叩いて、子供達の注意を促した。
「はいはい、だから御飯を済ませようか」
「はぁ~い」

「学舎の先生かよ」と、フッバーが笑う。
「フッバーは学舎へ行ったのか?」
「おう、ダグシナの領都で二年間だけな。貧乏だったから荷運びとか冒険者で生活費を稼ぎながらよ」
 学費と寮費は無料だが、それ以外の金は工面する必要がある。

「それで、何でもこなせるのか、大したものだな」
「よせよ、褒めても何にも出ないぞ。出るのは精々、カーカルデのタマゴくらいだ」
「残念。それ私の収納の中だから、出せんぞ」

 昼食の後、ギルドの裏手にある訓練場まで転移で飛んで、そこから建物に入る。
 祭り見物を兼ねた外部からの者が流れて来ているのを警戒して、フィリは耳を隠す様に布でシェブロンターバンを巻いている。
 領主のベネ様は大丈夫と言ってくれたが、やはり怖い物は怖いのだ。

 今日も冒険者ギルド(兼漁業ギルド)は閑散としていた。

 他所から来たらしい冒険者と思わしき者が3人、依頼の掲示板を見ているが、陸での活動に慣れている者には難しい依頼ばかりだからか、眉をひそめていた。

【金真珠5個】
【水牙鼠20匹】
【海牛の角2本】などなど
 どれもが船や潜水能力が必要な依頼ばかりだ。

「いらっしゃいませ。フッバーさん、サリレの皆さん」
 職員は、そう言った後パウパウとミッちゃんには会釈をした。
「買取と解体を依頼したいんだが、奥の解体場所に直でいいか?」
「はい、どうぞ」
「それと、ギルマスが在席しているなら、話をしたいので解体場所に御足労いただけると有難い」
 ミッちゃんが付け加える。
「はい、おりますので、後程、解体場に伺います」

 カーカルデの生息地はダンジョンだ。
 表向きはダンジョンの無い、プタフォタンのカウンターに出せる物ではないし、買い取りのカウンターに出せる大きさでもない。
「ほら、こっちだぞ」
 フッバーに促されてサリレの三人は緊張した面持ちでカウンター横の通路を進んでいく。
「大物や大量の場合は、解体所に直接出すことが多い。それか裏口からだな」

 解体所といっても、想像していたような嫌な臭いなどは無い。
 パウパウはきょろきょろと辺りを見回した。
 漁港の倉庫のように石床の倉庫。
 作業用の大きな机が幾つか置いてあり、天上に渡されたはりには大きなフックが下がっている。
 臭いがしないのは、何かの術が掛けられているのかもしれないが、パウパウには分からなかった。

 中では暇そうなオッチャンが二人。
 一人は水場で牛刀みたいな刃物を研いでいて、もう一人は他の道具をピカピカに磨いている最中だった。

「お~い。頼むわ」
「おぅ、フッバー、何サ取って来たンヨ」
「くっだらねぇモンなら、コトワッカンナ」
 言葉はぶっきら棒だが、二人とも笑っている。

「はっはっは、ディッソもルテオも驚くぞぉ」
 フッバーはニヤニヤしながら答えた。
「何よ?コッチャ暇シテ仕方ねぇんだわ」「勿体つけてネェで出せヤ」

「おう、フッバーにウルジェド。子供らと勢ぞろいだな。どうした?」
 ギルドマスターのカウダ=タンニナが、入って来て声をかけた。
「買取と解体をお願いしたいんだわ」
 フッバーの言葉にギルマスは首を傾げた。
「ウルジェド、頼む」

 その言葉でミッちゃんは作業用のテーブルの上にカーカルデを、そのまま出した。
 ドスっという音と共に、丸太にしがみついた状態の魔虫が現れる。
 ハイエルフの剣は刺さったままだ。
「うぉい!なんじゃこりゃ」「これ、か…カーカルデじゃねぇか」

「……行ってきたのか」ギルマスがミッちゃんを見て尋ねた。
「子供達とな、これは皆で討伐した」
 サリレの三人が、得意気にギルマスを見上げる。
「…皆で?」
 パウパウも頷く。
 四人の子供がウンウンと首を縦にする様に、解体のオッチャン達は吹き出した。
 ギルマスも思わずニヤニヤ顔になる。

「すんげぇな!ンマイのもかよ。こりゃテェシタモンだ」
 解体係のオッチャンが、カーカルデを見渡して言う。
「……しかし、何でコレ。棒鱈ストッカに抱き着いてるんだ」
「それと、タマゴの買取りを願いたい」
 不思議そうなギルマスを遮ってハイエルフが声を掛ける。
 パウパウを不機嫌にはしたくないので!

「採って来たのか!そりゃ助かる」ギルマスが嬉しそうに言った。
 どうやら祭り目当ての貴族が来るため、珍しい食材を商業ギルドから依頼されていたらしい。

「なんせ、プタフォタンで、魚の水揚げがサッパリだからよ。他の村から海産物は持ってくるとしてもなぁ」
 と、言う事で色を付けてタマゴは買い取ってくれるそうだ。

「おい、コレ、バラシテいいのか?」
 オッチャン達がウキウキとした顔で尋ねてきたので、フッバーは子供達に解体を見せて欲しいと頼んだ。
「おねがいします!」
 子供達のキラキラした目にオッチャン達が、「おぉよ、まかしとけや」と、ちょっと嬉しそうに答えた。

 ミッちゃんは体液が吹き出さないように剣をゆっくりと抜いて行く。
「中には体液が素材になる魔物も居るからな。あと、毒持ちも居るから。こういった時も慎重にだ」
 フッバーが説明をするのに、子供たちが真剣に頷く。

「こりゃデッケェなぁ」
「俺はぁ、カーカルデは初めてダァ」
「オリャ、あれだ。領都でヤッテッカラ。ま、カニみてぇなモンだわ」
 話しをしながらもオッチャン達の手際は迷いが無い。

 太い前足の関節に刃を入れ、付け根にも刃を入れて疑似餌ルアーから素材となる前足を外した。
 メシリッと音がした。

「カーカルデの前足は硬いからな。上物のやじりに使われたりする。あと、上腕部の肉は、まぁ……高級食材だ」ギルマスも講義に加わって子供達に説明をしてくれた。

「高級食材」
 子供達は、ちょっとなぁ…という顔をした。
「あとは、香線だな。ほら、いい匂いがしていただろう?あれを出す器官は高値だな」
「オスだけだがなぁ」ミッちゃんの説明にフッバーが補足する。

 オッチャン達は疑似餌ルアーから引きはがしたカーカルデを、よいせっ!と引っくり返した。 
 魔虫の腹側が上になる。

 うん。ここまで大きいと、かなり気持ち悪いな、と思ったのはパウパウだけではないようで「うへぇ」と、誰かが呟いた。

「さて、次は魔石を取るぞ」
 オッチャンが子供達を見て言いながら魔虫の体の真ん中よりズレた場所に刃を入れていく。

「不思議とな、どの魔虫も足の付け根に近い場所に魔石があるんだ」
 ギルマスが説明をしてくれた。

「あれ?角ウサギとかは体の真ん中あたりって本にあったけど」マルトフが尋ねる。
「おぉ、魔虫と魔獣では場所が違ッてンのサァ」
 そう言いながら薄手の手袋をして、オッチャンが穿ほじって、体液まみれの魔石を合計で6個、取りだした。
「おぉ、こりゃ良い大きさだな」
「良かったベヤ。おめぇらたっけぇぞぉ」

 最後に香線器官を取り出して、解体作業は終了だ。

「あとはギルマス、カーカルデのタマゴだ。116個あるぞ。全部、買い取って貰えるか?」
「助かる。全部、買い取らせてもらおう、そうだな、清算はここで行った方がいいか」
「おぅ、サリレも居るからな。ここでお願いしたい」
「分かった。今、計算してくるから待っていろ」
 カーカルデのタマゴと聞いた解体係のディッソとルテオは大鋸屑オガクズのような緩衝材を敷いた木の箱を出していく。
 そこにミッちゃんが収納から出したタマゴを入れていく。


 カーカルデの香線の残り香がしている中で、子供達は、また感想を話し合っている。
「ねぇ、オッチャン?このカーカルデの残りは、どうするの?」
「おぅ、こいつはなぁ、細かくして漁の撒き餌にすんのよ」
「そうなんだぁ…」
 流石は兼業ギルドである。

「あ!そうだパウパウ。僕らのマントディアカマキリの鎌どうしよう?」
「ありゃ、祭り終わってからでイイベヤ」
「そうだね。パウパウ、もう少しの間、預かっておいてくれる?」
「いいよ!」

 ミッちゃんがカーカルデのタマゴを9箱半に詰め終わったとき、ギルマスが戻って来た。

「確かにカーカルデのタマゴだ。良品だな。これが代金となる。これが内訳書だ」
「おぃ、サリレ。ちゃんと買取りの内訳を確認するんだぞ」
 フッバー先生の講義も大詰めである。

「いいか、計算が間違えている場合や、取り違えられているときもあるから、しっかりと確認するんだぞ」
「げぇ~計算かぁ…」
 ダグラスがゲンナリと言った声を出した。
「なに言ってるんだよ。当たり前だろダグ」
「そうそう」
 フッバーから内訳書を受け取った三人は、それを見て一瞬、息を止めた。

「なぁに?どしたの?」
 パウパウがフィリの腕に手を掛けて内訳書を覗き込み、同じように息を吞んだ。

「え。え…受け取り金額…金貨190枚?」
 金貨3枚あれば平均的な四人家族で不足なく生活が出来るのだ。
 それが、金貨190枚。
 5年以上、生活できる計算である。

「あぁ、結構、タマゴと前足に良い値が付いたね…香線は定価だなぁ」
「そうだな。有難いわ、んじゃ、人数の等分でいいか?」
 事も無げに言うフッバーに子供たちが首を振った。

「いやいやダメだよ!フッバーさん!」
「俺ら、連れて行ってもらって、教えてもらっただけ、ソンダケダベサ!」
「うん。ぼくら、丸太を引っ張っただけだもの!貰えないよ!」
 自分達が講習料を払う方だと、子供達が必死で断るのを見たギルマスが、提案をした。

「ならば、サリレのパーティ金として金貨10枚を、ギルドの預かり金とするのはどうだ?防具なり武器なりを、そこから後で買えばいいだろう」
「そうだな。金を持ち歩くよりは安全か」

 残りの金については、フッバーに半分を押し付けられて、ミッちゃんは仕方なく受け取った。
 受け取らなければパウパウに渡すと言われたのである。

「ウルジェド、俺だって、あれだけ面倒みてもらって、無償ってわけには行かねぇよ」
「私は何もしていないが?」
「はっ、そうかよ。まぁ…気を遣わせたな、すまなかった」
「……そうか」
 ミッちゃんは柔らかく微笑んだ。

 子供達を送って行くというフッバー、サリレの三人とギルドで解散をする。
 さて、では帰ろうとミッちゃんがパウパウと手を繋いだ時、ギルマスが声を掛けてきた。

「すまん、ウルジェド、少し執務室で話がしたいのだがな」
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