パウパウは今日も元気

松川 鷹羽

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152.パウパウと大漁祈願祭5

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 後の祭りって言葉があったなぁ……ふと前世の知識を思い出してパウパウは遠い目をした。
 パウパウの隣にはサリレの子供達が居る。
 逆隣りにはハイエルフが正座させられているのが、シュールだ。
 燭台に灯る橙色の蝋燭1本だけが僅かな明かりで照らす、板張りの床に全員で正座をさせられている。
 蝋燭は蜜蝋なのだろうか、微かに甘い香りが漂っている。
 魔道灯でない、消え物のこれは、もしかしたら高級品なのかもしれない。

 ……そんなことより足が痛い。
 今の世に生まれてから初めての正座だ。

 こんな事になるなら、ダグ兄の与太話に乗るんじゃなかったと、パウパウは御座所船を決める競争が終わってからの事を思い出していた。

 ──────────────────────────────────────
 御座所船が決まり、港の先端からハイエルフの魔法で網元達が使っている倉庫に転移をしたベネ様達は、その後、歓喜に沸くプタフォタンの人々を領主として祝福し、表討伐船の乗員一人、一人に声を掛けて技と栄誉を称えた。
 それらが終わると、徐々に町の広場へと勝利の興奮で酔っぱらったみたいな見物人が流れて行く。

「これから広場で御籤みくじの祝い品の抽選があるからさぁ」
 人が流れて行くのを船留杭ボラードに座って眺めていたパウパウに、マルトフが教えてくれた。
「まぁ、ここに居ても、もう別に何も無いからねぇ」
 神事が終わった港は、出店があるでない、ただの船が休む場所に戻ったのだ。

 船神事を終えた漁師のオッチャン達は、酒を一杯だけパっと引っかけると、夫々それぞれの船の片付けに戻って行く。
 その時に、表討伐船の操舵場の御座ミクラへ挨拶をしていくのを忘れない。

「ねぇ、ダグ兄?あの御座ミクラって、船に置いておくの?悪い人に取られない?」
「大丈夫なんサ~、アンナァ昔、御座ミクラを盗んで金に換えようとした奴が居たんだと。そいつは祭り見物サ来た、余所者だったんだけンどな」
 真顔で話を始めたダグラスの声に、コクコクと頷いてパウパウも真剣に聞く。

「誰も居ネくなった船サ乗り込んで、御座ミクラサ手ぇ出したんだとよ」
 ダグラスは、ここで話を切って、パウパウやマルトフ、フィリの顔を見回した。なかなかの話芸だ。

「……次の日、御座所船の脇の海に男が浮かんでたんダト。慌てて漁師のオッチャン達が引き上げたんだケンドモ、モ、息が細くてナ。ナシテか、両手が男はオシメェに『姫神さまが……』ってェ言葉サ残して死んだんだとサ」

「あ~、なんか、何回かそういった事があったって聞いた事があるよ、ぼく」
「へぇ~。そうなのフィリ兄?」
「あ、僕も聞いたことがある」
「まぁ、そンデ、御座ミクラサ取ルナンテェ事ヲ考えるヤツは居なくなったッテェ話サ」
 人々が去って行く騒めきが聞こえている筈なのに、自分達の周りだけ人の気配が薄い気がしたパウパウは、ブルリと身を震わせた。

 そんなパウパウを見たダグラスが悪い顔をして囁いたのだ。
「……アノヨ、コレ秘密だぜ。って知ってッカ?」と。

 子供達はそこに、何かの秘密の匂いを嗅ぎつけた。
 秘密!秘密基地だとか、秘密の技とか、なんだって秘密が付けばカッコイイのだ。
 しかも、ダグラスが言ったのは夜参りである。
 夜!
 ワクワクしない子供が居たら、それは帝都の学府で研究対象になるだろう。

「何それ?僕、初耳なんだけど」マルトフも思わず声を潜めてダグラスに尋ねた。
 フィリも息を殺してコクコクと頷く。
「アノヨ……さっきオッチャン達が話してンのコッソリ聞いたんだけンドヨゥ……」

 ダグラスが話すことを纏めると、こうだった。

 勝船になった討伐船の船員は深夜、町の社に御参りをするのが習わしなのだという。
 それは、他の人に見られてはいけない【夜参り】と言う神事らしい。
「やしろ?」パウパウは首を傾げた。
 どこかで聞いたような気もするけれど、何だっけそれ?という気持ちである。

「あれ?パウパウのトコには、社って無いの?」不思議そうにフィリが尋ねた。
「ぼくねぇ、お家のお庭から出たこと無かったの」
 あぁ~!成程と、それを聞いたサリレの子供達は納得をした。自分達のような平民の子ではなく、お金の有る家の子や貴族の子達などは小さい頃は敷地から出さないという話を聞いた事があるからだ。
 それならば、どうして今、親元でなくてハイエルフと一緒に漁師町に居るのだろうと不思議には思ったが、今度はマルトフが話を続けた。
 マルトフなりに気を使ったのだろう。

「へぇ、そうか。社ってさぁ、神様に御祈りする場所なんだよ」
「かみさま?えっと…ジンジャ?キョーカイ?」
「ジンジャキョーカィってェのは知らネェけンどよぉ、色々な神様が居ッカラさ、みんな同じトコで、御祈りスンダワ」

 ん?っと前世の知識に邪魔をされたパウパウは首を傾げて考えた。
 前の世界では各々おのおのの信仰対象ごとに祈るための宗教施設があったと思う。
 自分達の信じる神が正しいと争いや、長くからの恨みによる国や民族どおしの戦争さえあったはずだ。
 そんな宗教の印象しかないパウパウには、色々な神様が居るから同じ処で祈ると言ったダグラスの言葉がピンと来ない。

「えっと、色々な神様が同じ場所に居たら喧嘩しないの?」
「え~?神様が何で喧嘩するのさぁ~」
 ケラケラと笑ってフィリが答えた。
 あ、これは……根底から世界の見方が違うかも?パウパウの中の前世の記憶が、警鐘を鳴らす。

「あ、でもさ。僕らの町みたいに海神様とか三女神様を信じる人が多い所と、領都とかでは全然、違うみたいだよ。社の雰囲気って」
「へぇ、見たいなぁ、ぼく」
「お。じゃあ、これから行ってミッカ?」

 けれども、どうやら社は町を抜けた先に在るという。
 それだとパウパウの住んでいる丘の上の屋敷と、丁度、真逆の場所となる。
「ぼく、ミッちゃんに聞いて来る!」
 パウパウが倉庫で領主や網元達と、何やらを話しているハイエルフの元へと駆けだそうとした所に、マールジェドがポンっと転移で戻って来た。
 何故か一人だ。

「おかえりなさい、マールちゃん……フッバーさんとパティオル先生は?」
「ただいま~!二人は別の用事よ。ウルジェドは?」
「そこで、オッチャン達とお話してるの、ねぇ、マールちゃん。社って行った事ある?」
 そういえば、ハイエルフのマールちゃん達の神様って何なんだろう?ふと、そんな事を思いつきながらパウパウは尋ねた。
「ないわね。どうしたの?」
 パウパウは真剣な顔でマールジェドをおいでおいでと手招いて、自分の目線にしゃがんだマールジェドの尖った耳元に口を寄せて、小さな手で覆うと「あのねぇヒミツだよ……」とコショコショ話を始めた。

 怪訝そうだったマールジェドの顔が輝きだす。

「【夜参り】……内緒の神事……」そう呟く青い瞳が玩具を見つけた猫のように爛爛と光り出した。
 なにせマールジェドは、フッバーとパティオルが旨いこと行きそうになってご機嫌なのだ。そう、調子に乗っているのである。

「でもね、夜はミッちゃんが出してくれないだろうから、見れないよね……」
「あ~、ね。そうねぇ、ウルジェドが許さないわねぇ」
 マールジェドが溜息を吐いて、サリレの三人も頷いて答えたとき、話し合いが終わったらしい倉庫からベネやギルマス、そしてウルジェドが出てきた。

 流石に龍人二人に挟まれるとハイエルフが小柄に見える。
「ウルジェド、すまんが頼むぞ」
「はっはっは。ではの、ウルジェド殿。広場にて夕刻会おうぞ」
 ご機嫌に笑いながらベネが言い置いて去る姿をウルジェドは、少し不機嫌そうに見送った。

「ウルジェド、どうしたの?」
「ミッちゃ~ん」
 手を振るパウパウに微笑んで
「あのね、今日の夕方から祭りにフッバーと出るように頼まれたんだよ。夜、遅くなるかもしれないんだ」
「え?」
「あら?」
 パウパウとマールの声に勘違いをしたハイエルフは、申し訳なさそうに眉を下げて続けて
「うん、それでサリレの皆と一緒に、お家で留守番してくれるかい?ごめんねパウパウ」

 これは、もしかして姫神様がくれた好機ではないだろうか。
 今、ここにしくも、サリレの三人とパウパウ、そしてマールジェドという、が結成されたのであった。

「あ、そうだ。ミッちゃん、ぼくね~社って見たいの。行ってもいい?」
 夜参り前に、現場を確認したいと思った四歳児である。その計画性は多分、前世の知識に基づいているのだろう。本当に知恵が碌な事に使われていない。
「社?」
「そうだ!ウルジェドさん、社の上り口にも出店が出てるんですよ」マルトフが誘導する。
「ヤッタ!」喜ぶダグラスは、単にお腹が空いているだけだ。

 確かに昼を過ぎているので腹が減る時間帯である。
 マールジェドが収納空間から取り出して、「じゃ、社を探してきてね」と飛ばしたのは大きなトンボだ。
「え?王トンボレクシャダヤ?」フィリが目を輝かせて魔道具に見入る。

 マールジェドの手の平から垂直に浮かび上がった魔道具は、銀色の体に黒い縞を持ち、金針水晶の4枚羽に青い巨大な複眼を持つ、子供の憧れギンヤンマに良く似ていた。
「社を見つけて、皆で転移をしたほうが早いでしょ?」けだし真っ当な事を言うマールジェド。
「あれ?叔父上も一緒ですか?」
「なによぅ、私も屋台?出店?行きたいんだから、いいでしょ~」
「いや、それは構わないが……」
 妙に乗り気な叔父にミッちゃんは首を傾げる。
 基本、マールジェドはインドア派だ。これほどにウキウキして祭りの人ゴミを苦にしない質では無いのだ。

 そうして、王トンボレクシャダヤの返事を待っていると、倉庫から出てきた表討伐船のサヤーダが、ダグラス達を認めて声を掛けて来た。

「オウ、オラ、ナシタンヨ」
「こんにちは!勝船、おめでとうございます」「おじさん、カッコ良かったです!」フィリ達の声にサヤーダは少しだけ口角を上げて頷いた。
「あ、オヤジ、これから社サ行ッテクッサ」
 それを聞いてサヤーダは少し考えてから息子に告げた。

「ホカ。シッタラ、ダグ、オ、レカベット村ノラキップ達ノ様子サ、ツイデニ見テキィヤ」

 昨日の魔魚騒動で海に投げ出されたレカベット村の子供達は、大事を取って社に併設された医療施設に居るのだそうだ。
 まさかの言葉に、すっかり彼らの事を忘れていた子供達は、互いの顔を見合わせたのだった。
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