パウパウは今日も元気

松川 鷹羽

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153.パウパウと大漁祈願祭6

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 マールジェドの王トンボレクシャダヤが見つけてくれた場所へと転移をすると、そこは小高い丘への登り口のようだった。
 楽しそうな家族連れや腕を組んで笑う見物人が通り過ぎていく。
 肩車をされたパウパウくらいの子供が、キラキラでふにゃふにゃの棒を振り回して、父親の髪の毛をかすっている。

 突然現れた六人に周りが驚かないのは、マールジェドかミッちゃんが認識を阻害する魔法でも掛けたのかもしれないと思いながら、パウパウは辺りを見回した。

 プタフォタンの町は上空から見たなら、緩やかな湾の奥に位置している。
 ハイエルフの屋敷は湾の終わりの南側、そして社は北側と丁度、まるで対を成しているような場所にそれぞれが配置されている。
 ならば、この丘を上がった先の社からも海が見下ろせるのだろうとパウパウは推察した。

 登り口にある開けた場所にも祭り屋台が出ていて、駆けだしそうになるダグラスの服の裾を素早くマルトフが掴んでいた。
 う~ん、ダメワンコと飼い主の図だなぁと、パウパウが見る。
「ダグラス……」フィリの目も冷たい。
「わぁ~!あれ、何?あれ、あれ」
「叔父上……」
 駆けだしそうなダメ犬、もう一頭の服の裾を掴んでミッちゃんが言う。
「マールちゃん……」パウパウの目も冷たくなった。

 マールジェドの目に入ったのはキラキラ光る風船だ。
 買って貰った子供達が店先で早速、細いストローで膨らませているのだが、七色にヌメッと光りながら膨らんでいくのを見て、パウパウは記憶の中に同じような物があったことを思い出す。

「わあ、ブッカだ。懐かしいなぁ」と、フィリが目を細めた。
「ブッカっていうの?」
「うん、あれね、魔力を込めて息を吹くと、大きく膨らむんだよ」
 マルトフが説明をしてくれた瞬間、手が緩んだのかダグラスダメワンが縁日に放たれた。
「あっ!ダグ‼」

 結構な人ごみをすり抜けて行くダグラスダメワンに、マルトフとフィリが溜息を吐いたとき
「あっ!叔父上!」
 そしてマールジェドは、手を離れた風船のようにフラフラとブッカ売りへと近づいて行く。

「ごめんね、パウパウ。僕たち何だかさ、パウパウ達と一緒が楽しくて、すっかり依頼だってこと忘れちゃうんだよね」
 パウパウは首を振る。
 パウパウだってサリレの三人と一緒が楽しくて、これが依頼だって事なんて忘れていたのだ。
「ぼくも!ぼく、依頼って忘れてた。あ、あのね……」

 フィリとマルトフを見上げて、パウパウは息を吸った。
 繋いでいるミッちゃんの片手を、ぎゅっとしている事に気づいていない。

 本当はダグラスも居たら良かったんだけれど、こういうのは勢いだ!
「ぼ、ぼくと友達になってください!」
「「え?」」
 フィリとマルトフから怪訝そうな声が聞こえた。
 横に居るミッちゃんも、ちょっと目を見開いているが、パウパウは気付いていない。

「あ、あのね、依頼が終わっても、たまには遊んだり…したいんだけど
 騒めきや、何処からかの子供のはしゃぎ声、何かを焼いている香ばしい匂いが鼻をくすぐる。
 そんな祭りの一角で、パウパウの言葉の後ろの方は力無く、小さくなっていって喧噪に溶けていく。

 パウパウには今まで人の友達が居なかった。
 たまに脳裏をよぎる前世の記憶や知識にも、そういった物は出て来ない。
 だから、どうやったら友達が出来るのかも分からないし、だいたいが、そんな機会もなかったのだ。

「えっと……ぼく、友達だって思ってたんだけど」フィリが怪訝そうな声を上げた。
「うん、僕たちパウパウのこと、他の村の子に弟分って紹介したよね?依頼、関係なしに友達だって思ってるよ」マルトフも頷いた。
「え……」
 パウパウは驚いて、ぎゅっとミッちゃんの手を握り、思わず横のハイエルフの顔を見上げた。
 ミッちゃんは柔らかく微笑んで頷く。

 嬉しくて口をムニュムニュさせたパウパウは、フィリとマルトフに顔を向けなおして、何を言っていいのか分からなくて
「えへへ……」と笑う。
 フィリ達も、少し恥ずかしくて、
「ふふ」っと小さく笑った。
 子供達が、ちょびっと照れ臭くて、困ったようなくすぐったいような空気が漂ったとき、

 それを掻き消すように、わあっ!と歓声と拍手が聞こえた。

「?」
 声の方に皆で思わず目を向けると。
「え?ブッカ……?」

 ヌタっとした虹色というには、毒っぽい色──前世の記憶なら、一番近いのは【油膜】の七色──の風船がふわふわと飛んでいる。

 丸だけではない。
 花の形のブッカ。
 猫のような四つ足のブッカ。
 蝶の形まである。
 そのどれもがフワリフワリと飛んでいる。

「ブッカって飛ぶんだ~」知らないパウパウが楽しそうに言う。
「いや、飛ばないよ!普通のは飛ばない。膨らむだけ」マルトフが否定する。
「なんで……て…」何かに気づいたフィリは途中で言葉を飲んだ。
「あ~、叔父上……」ミッちゃんが眉をひそめた。

 客足がまばらだったブッカ屋の前は、今では人が取り囲んでいて、多分その先に居るマールジェドを見ることは出来ない。
 楽しそうな子供達の声と、おぉーという大人の声がするばかりだ。
 何だ何だと後から来た人達が「おぉい!見えないぞぉ」と声を上げた。
 と、人垣からマールジェドが浮遊を使って浮き上がった。
 見物客からは歓声と拍手。
「……なにやってんだ。あの人」

「~そうそう、そぉっと、そおっと。うん、上手上手。ほ~ら、膨らんだ!上手に魔力できたね!」
 多分、下で風船ブッカを膨らませている子供に、魔力の息吹きを教えているのだろう。
 立派な大道芸人になっているが……
 子供の作ったらしい丸い風船ブッカを手に取ったマールジェドが、それにフッと息を吹きかけた。

 駄菓子屋で売っている玩具の風船を持っているだけなのに、そんなマールジェドは宝珠を手にした女神に見えるのだから、ハイエルフの美貌は恐ろしい。
 微かな風の息を吹きかけられた風船ブッカはフワフワと眷属のようにマールジェドの周りを飛び交うと人垣の陰に沈んだ。
 多分、作った子供の高さを漂っているのだろう。

「……ん?そうねぇ、練習すれば……こんな事も」
 他にも子供が居るのか、別な下方向を見ながら話したマールジェドは、上をフワフワ漂う風船ブッカの幾つかをクシャッと潰した。
 見物客からキャーとかウォォという声が上がるが、ハイエルフは気にもせずに両手の中の風船ブッカをムキョムキョっとした後で、フゥ~っと静かに息を吹きかけると両手を前に伸ばして、ゆっくりと開いた。

 両手から一匹の小さな魚が飛び出て宙をクルリと回って泳ぐ。
 一匹、二匹、三匹……どんどんと虹の魚が溢れてくる。
 わあぁ~とから歓声が上がる。
 小さな魚の魚群は光の帯のようにクルクルとマールジェドの周りを泳ぐ。キラキラというよりも毒々しい油膜色ではあるが、これはこれで美しい。

 マールジェドの体をすっかりと包んで泳ぐ魚の帯が解けて、一つ、また一つと消えたとき、そこに居たはずの女神の姿は無かった。
「おぉ~!」「すごい!」拍手喝采。
 風船ブッカ屋さんはたちまち大盛況である。

「……何をやってるんですか、叔父上」
 ミッちゃんは後ろに転移で現れた──逃げて来た──マールジェドに声を掛けた。
 自分の空間収納から、そそくさと認識阻害効果を付与したローブを出して、羽織ったマールジェドは「あ~、なんか人気者になっちゃった?子供に魔力制御を教えただけなんだけどねぇ」と、ヘラリと笑う。

「はぁ、とりあえず私達も何か食べましょうか。パウパウもお腹が空いただろう?」
 通常営業のマールジェドは無視をすることにしたミッちゃんは隣のパウパウに尋ねる。

 収納にもパウパウのナイナイ袋にも、食物は入っているけれども、こういう場所で食べたほうが子供達は楽しいのだろうと思ったのだ。
「うん。お腹空いた!ね?フィリ兄、マル兄?」
「そうだね。何があるかなぁ…お祭りっていったら、ククルビタかなぁ?」フィリが少し顎を上げて呟いた。
「パウパウは何食べたい?」
「ん~、マル兄は何が好き?ぼく、お祭り初めてだから知らないんだよね」

 マールジェドが人寄せをしてくれた為か、それぞれの屋台に貼り付いた客が薄くなっている。
 その分、風船ブッカや駄菓子物などの子供向けの店が盛況になっているようだ。

「おや、ダグラス君……と、あの子は」一行の中で一番に背の高いミッちゃんは、ダグラスが戻って来るのに気が付いた。
「あ、おーい!マルトフ~」
 銀色の髪のハイエルフを見つけたダグラスは、その近くに居るだろう仲間を呼ぶ。
 もしかしたら、未だに狙われているかもしれないフィリの名を呼ばない辺り、こういった所は抜け目がない。
 駄犬ダメワンだけど。

「あ、ゴドーも一緒だぁ。どうしたん?」
 サコッタのゴドー。
 舟競争の参加者であり、ダグラスと同じ船好き仲間であり、そして、怪魚騒ぎの時にマールジェドに助けてもらった少年であった。
 だから、認識阻害のローブを羽織っていてもマールジェドに気が付いて、憧れの眼差しを向けるのは当然だろう。
 
 なにせ、ダグラス達の夏空号が怪魚を引き付けている間に、残りの八隻の舟、それぞれに飛び移っては港まで舟ごと転移をして皆を助けてくれたのだ。
「ア、アノ、本当、助ケテクレテ有難ウ、御座イマシタ」
 片手に揚げ芋みたいなのを3個刺した串と、もう片方には腸詰と肉串を持った状態で、今日も紺色の大漁旗をシェブロンターバンにした少年はペコリと頭を下げた。

「いいのよ~、みんな無事で良かったわねぇ」
 ニッコリと笑うマールジェドの笑顔に頬を染めるゴドーは、こうして見ると昨日と違って少年っぽい。

「オラモ、あんがとナ。プタフォタンの舟、スゲカッタわ」
 三番手となったサコッタの舟よりも、遥かに先を走っていたレカベット村の舟が空に吹き飛んだのを、その後の岩のような生き物を、ゴドーは震えながら見た。
 そして、この四人が決死の覚悟で、あのズナシのラキップ達を助けるために海で踊ったのも。
 小さき勇者たち、とベネ様がいうのも分かる働きだった。
 そんなサリレの三人とパウパウに、しっかりと頭を下げてゴドー少年はフゥーっと息を吐いた。

 夏空号を代表したダグラスがニパっと笑って、その言葉を受け取る。
「ナンモだぁ」の一言だけ。
 握手とかハイタッチをするシーンなのだろうが、残念ながらゴドーの手は戦利品で埋まっているから、締まらない。
「ンデ、ゴドーは、ナシテここさ来たんよ。御参りケ?」
「アァ、ラキップ達サ、様子見ダ」

 ここで昼食をしてから、同じ舟の子達と示し合わせて見舞いをすると聞いて、ダグラス達は当然、同行を申し出た。
 なんて言うとカッコイイが、要は「ナラ、一緒に行くベヤ」である。
 勿論、二つ返事でゴドーが了解したのは言うまでもない。


 この縁日の先行者であるゴドーの案内のお陰で、フィリの言ったククルビタの屋台へと迷わず進むことが出来た。
 甘辛くて香ばしい匂いと、ジャジャジャッと鉄板で何かを炒める音が、お祭りっぽくてワクワクして、思わずパウパウはミッちゃんと繋いだ手を揺らす。
「どうしたの?」
「んふふ~なんでもな~い」
 フィリと三人で並んでいるだけなのに、なんだか楽しい。
 マルトフとダグラス、マールジェドとゴドーは何か別の物を買ってきてくれるらしいので、それも楽しみだ。

 並んでいると、どんどん後ろに人が増えてくる。
「ん~?ねぇ、フィリ兄。ここって美味しくて評判?」
「あー、いや、ほらウルジェドさん、認識阻害をしていないからさぁ」
「え?」言われたハイエルフは首を傾げる。

 そういえば、この町に来てからは、全くと言っていい程に無頓着である。
「……ま、いいか」
 少し考えてハイエルフは、全部ぶん投げた。
 もう今更だ。
 マールジェド叔父上だって、やらかしているのだ。自分がククルビタの屋台で客寄せになっても、同じことだと脳筋を発動した。
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