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154.パウパウと大漁祈願祭7
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ワクワクして並んでいるうちに、漂うジャンクな匂いと空腹もあってフィリが勧めた食べ物へのパウパウのハードルは上がりっぱなしである。
そうして、ついに自分達の番になったのだが、
「ミッちゃん。ぼく、クククビ見たい」
パウパウの身長では残念なことに作っているのは見えなかった。
鉄板の縁しか見えない。
爪先立ちならどうにかという絶妙にしょんぼりな高さだ。
香ばしい匂いが謎度を上げてくる。
だから、何だよククク。
どんな食べ物なんだ。
なんだか、漂う匂いが記憶の中のに似ている気がするので、余計に見たいのだ。
「ククルビタだよパウパウ~」
「クククビタ」
「ククルビタだって~」フィリがゆっくりと訂正をしてくれる。
ミッちゃんが後ろから抱き上げてくれて、見ることが出来た念願のククルビタだが……
まず熱い鉄板にトロっとした黒いソース状の物をジュワっと入れて、ちょっと焦げてきたかな?って匂いのところに、うっす~い肉?を入れてヘラでジャッジャッ、野菜をジャッジャッ、その上から黄色い麺を置いたら何かの粉を掛けて、大きなフォークと金ベラでジャッジャッジャッと炒めてガンガン!で出来上がり。
甘辛い匂いは記憶のとは少し違う。
けれど…
うん、聞こえてくる音で予想はついていたが、まさか王道がくるとは!
──ヤキソバ!──
もうウッキウキである。
さっきから頭の中で謎の呪文がグルグルと【アオノリベニショーガカツオブシマヨネーズ】と回っているけれど、何か心の奥底から湧き上がるのを無理やりに蓋をする。
「これはオイシイヤツ!」
「ふふ、分かるのかい、パウパウ?」
「野生の勘!」
「野生……?」君の何処に?ってフィリの顔に書いてあるがパウパウは気にしない。
七人いるから7皿頼もうとしたミッちゃんをフィリが止めた。
「ウルジェドさん、マルトフ達が他のも買って来るから、3,4皿でいいですよ!」
「そうなのかい?でもダグラス君たちが沢山食べるだろう?」
こういった御使いをしたことのないハイエルフには加減が分からない。
「はっは!エルフの兄ちゃんのお陰で、客が来てるからオマケするぜっ」鉄板でジャッジャジャとしながら煙の向こうで屋台の人が笑って言う。
「ありがとう。では4つ貰おうか」
薄く笑ったミッちゃんの顔を見た屋台の人の手が止まった。
「焦げる!焦げてるよぉ~おじさん!」
「あ、あぁ、ワリィ、ワリィ。しっかしトンデモねぇなぁ…アハハハ…」
屋台の人が焦げたのを作り直す間、出来上がるまで店横で、ちょっと失敗したのを食べて待っていてくれと言われ、皿代わりの木の皮に盛られた出来立てを渡された三人。
ハイエルフ、ハーフエルフ、妖精族に間違われる子供の三人は、屋台の横でククルビタを味見することになった。
立ち食いなんて、お行儀悪いとグー姉様に叱られそうだが、パウパウのお腹が限界だったのである。
【焦げ気味のソースの香りは祭りの雰囲気というバフを得て、パウパウに襲い掛かったのだ!】
と、脳内ナレーションを自分で響かせるくらいに。
使い捨ての荒い作りの木のフォークに細い麺を巻き付けて、
「はい、パウパウ。あ~ん」ミッちゃんが運んでくれたのを、パカリと開けた口に入れてもらう。
あれ?
美味しい……
焦げ気味のソースも少しの肉も美味しいが、
これ。何だろう?
麺だと思ったら違うのだ。
食感が少しシャキっとしているのだ。
…これ、モヤシ?
前世の記憶、モヤシの食感が口に蘇る。本当に役に立つ知識が無い。
美味しい!
けど…思ってたんと違う~~!
内心の叫びに蓋をして、パウパウの様子を伺っているミッちゃんに
「美味しい!ミッちゃんも食べて!」と促す。
うん、ソースの味は少し違うけれど魚粉が利いていて美味しいのは間違いない。
隣で食べているフィリもウンウンと頷いているので、この食感で正解なのだろう。
長いモヤシ炒めだけどねっ!
モヤシっぽい麺っぽい何かだけどねっ!
パウパウに言われたミッちゃんも、同じように口にして、少し口角を上げた。
「うん、初めて食べたけれど美味しい。アボフラだね、これ」
え?
「アボフラ?」
「そうだよ、アボフラの仲間だよ、ククルビタ。美味しいよねっ」
モヤシですらなかった!
黄色くて長くてシャキシャキ。
訳が分からないよククルビタ……
ミッちゃんの手にある黒いククルビタを、カボチャなのかぁと見ていると、勘違いをしたミッちゃんがまた口に運んでくれた。
「美味しいかい?」
「…」
シャキシャキしながらコクコクと頷くと、口の端についたソースをミッちゃんが親指で拭ってくれる。
ペロリと自分で舐めてから
「それは良かったね」と微笑んだ。
何処からか拍手が聞こえたのは何があったんだろうと、パウパウは首を傾げた。
なお、このクククビタが似合わない三人が楽しそうに食べていたお陰で、屋台の列がズンズンと伸びている事に屋台の人がニヤニヤとしていた事を三人は知らない。
「いや~アンチャン達のお陰で、商売繁盛だわ。アンガトな」とニッコニコの屋台のおじちゃんが出来上がったククルビタと、少し大きめの紙袋に入った何かを「オマケなっ」と渡してくれる。
「ありがと。なぁに?」
重さが余り無い紙袋をパウパウが両手で受け取って、尋ねると
「ククルビタの種を炒ったのよ。オヤツにしてな」
二人も礼を言っている所に、マルトフが小走りでやってきた。
「あぁ!やっぱり居た。あっちに席を取れたから、迎えに来たよっ!」
屋台の並んでいる先に、食べるための場所が設けられているらしい。
妙に視線を感じながらマルトフに案内された場所では、すでにダグラス達もマールジェドも座って待っていた。
「すまない、待たせたか?」
「大丈夫。面白いくらい凄いことになってたわねぇ」ニヤニヤと猫のような微笑みを浮かべてマールジェドが言う。
首を傾げるミッちゃんとパウパウに、フィリが「気付いてなかったんですか?」
「ぼく達…特にウルジェドさん。客寄せになってましたよ」
「え?」ミッちゃんが声を上げた。
「だから探すの楽だったよ。一番に人が居る所って思ったモン」
「認識阻害してないからよ~さぁ、座って!いただきましょう?」
パチンッと手を叩いたマールジェドに促されて三人は席に着いた。
今の動作で防音結界を張っている辺りが叔父上らしいと、ウルジェドは苦笑するが、確かに何やら他人の目が煩わしくはあったので目を合わせて感謝をしておく。
ギルドの裏でも売っていた大きな赤イカ焼きに、ゴドーも買っていた腸詰と何かの肉の串焼き。パリパリに焼いた白い生地に香草とレバーのペーストが乗った物はマルトフの好物らしい。そしてフィリのククルビタ。他にもゴツゴツした栄螺に似た巻貝。細長い揚げ菓子と毒々しい…いや、鮮やかな色の細かい飴が塗されたナッツ。
まぁ並ぶわ並ぶわ……。
ウルジェドが渡した銀貨のお陰で少年達、夢の爆買いをしてきたようだ。
「あ。有難うウルジェド、残りのお金」
チャリっと手に乗せられて、ミッちゃんは微妙な気持ちになる。
なんで叔父上、私からの御小遣いで買い物しているんだろうか…
「仕方ないでしょ。金貨だと、どこも断られるんだものぉ」口を尖らせながら揚げ菓子を千切るマールジェドに、
「まぁ、こういった所で金貨は駄目ですよ」
「金貨の下なんて持っていないもの……」と小さく文句を言っているマールジェドを後目に、少年達の戦いの火蓋は切られていた。
まずプタフォタンでは中々、普段は口にすることが無い肉串の取り合いが始まる。
最近は肉祭りや屋敷の食事で食べているはずのサリレの三人が、パウパウが串についた肉を噛み切れずにモツモツしているうちに食べ終わっている。
いや、噛んで!咀嚼。咀嚼してっ!と目を丸くして見ていると、腸詰が消えた。
え?収納魔法なの?って勢いで、少年達の腹中に収納されている。
「は?」「え?」「ん?」ハイエルフ二人と、パウパウが呟いているうちにレバーペーストが消え、巻貝はカラしか残っていない。
ズゾゾーとククルビタを啜ったかと思うと、既に左手には揚げ菓子を持ったダグラスと、右手の赤イカ焼きを口に放り込んでムッムッと噛みながら左手で毒々しい化粧がされたナッツを握りしめるゴドー。
マルトフは貰った小遣い銭を握りしめて、既に他の店へ走っているし、奇麗な顔を油まみれにして揚げ菓子に齧りつくフィリはナッツを握りしめたゴドーの拳を躱して、皿ごと自分の方に寄せようとしている。
恐るべし【祭りバフ】!
マルトフが今度は鳥っぽい肉を山盛りにして戻って来た。
荒く裂いた胸肉に、ドライハーブが掛かってホカホカと湯気が立っていて熱そうだ。
秒で消えた。
最初の串焼きを手に握りしめて、パウパウは異次元の戦いに固まっているし、マールジェドは千切った揚げ菓子を片手に眼を丸くしている。
ミッちゃんも珍しく口を半開きにして、少年達を見ていた。
「はぁ~」満足したように空を見上げたダグラスが、ふと気づいたようにパウパウを見た。いや、正確には串焼きを見た。
「あれ?パウパウ、残すんナラ俺、食ってヤッカ?」
「ダグ兄……ぼく達、何も食べてない」
え?っと我に返る少年達に、三人はコクコクと頷いた。
屋台で客寄せにされたククルビタで空腹は紛れているとはいえ、あれだけ色々とジャンクな食べ物を見せられて、それを一口も味わえなかったことが、一瞬で消えた腸詰が、走り去って行った赤イカが残像となってパウパウを苛む。
大げさだけれど、食べられなかった記憶って、不思議とずっと残るのだ。
パウパウは未だに、兄のテレスが勝手に持って行ったリンゴの事を覚えている。
母親がお昼にと置いて行ったパンとリンゴを、友達と食べると言って持って行ったのだ。
「イヤなこと思い出しちゃった……」
パウパウは、謝り倒してパウパウ達の御飯を買いに屋台へと走るダグラス達を見送りながらポツリと呟いた。
そうして、ついに自分達の番になったのだが、
「ミッちゃん。ぼく、クククビ見たい」
パウパウの身長では残念なことに作っているのは見えなかった。
鉄板の縁しか見えない。
爪先立ちならどうにかという絶妙にしょんぼりな高さだ。
香ばしい匂いが謎度を上げてくる。
だから、何だよククク。
どんな食べ物なんだ。
なんだか、漂う匂いが記憶の中のに似ている気がするので、余計に見たいのだ。
「ククルビタだよパウパウ~」
「クククビタ」
「ククルビタだって~」フィリがゆっくりと訂正をしてくれる。
ミッちゃんが後ろから抱き上げてくれて、見ることが出来た念願のククルビタだが……
まず熱い鉄板にトロっとした黒いソース状の物をジュワっと入れて、ちょっと焦げてきたかな?って匂いのところに、うっす~い肉?を入れてヘラでジャッジャッ、野菜をジャッジャッ、その上から黄色い麺を置いたら何かの粉を掛けて、大きなフォークと金ベラでジャッジャッジャッと炒めてガンガン!で出来上がり。
甘辛い匂いは記憶のとは少し違う。
けれど…
うん、聞こえてくる音で予想はついていたが、まさか王道がくるとは!
──ヤキソバ!──
もうウッキウキである。
さっきから頭の中で謎の呪文がグルグルと【アオノリベニショーガカツオブシマヨネーズ】と回っているけれど、何か心の奥底から湧き上がるのを無理やりに蓋をする。
「これはオイシイヤツ!」
「ふふ、分かるのかい、パウパウ?」
「野生の勘!」
「野生……?」君の何処に?ってフィリの顔に書いてあるがパウパウは気にしない。
七人いるから7皿頼もうとしたミッちゃんをフィリが止めた。
「ウルジェドさん、マルトフ達が他のも買って来るから、3,4皿でいいですよ!」
「そうなのかい?でもダグラス君たちが沢山食べるだろう?」
こういった御使いをしたことのないハイエルフには加減が分からない。
「はっは!エルフの兄ちゃんのお陰で、客が来てるからオマケするぜっ」鉄板でジャッジャジャとしながら煙の向こうで屋台の人が笑って言う。
「ありがとう。では4つ貰おうか」
薄く笑ったミッちゃんの顔を見た屋台の人の手が止まった。
「焦げる!焦げてるよぉ~おじさん!」
「あ、あぁ、ワリィ、ワリィ。しっかしトンデモねぇなぁ…アハハハ…」
屋台の人が焦げたのを作り直す間、出来上がるまで店横で、ちょっと失敗したのを食べて待っていてくれと言われ、皿代わりの木の皮に盛られた出来立てを渡された三人。
ハイエルフ、ハーフエルフ、妖精族に間違われる子供の三人は、屋台の横でククルビタを味見することになった。
立ち食いなんて、お行儀悪いとグー姉様に叱られそうだが、パウパウのお腹が限界だったのである。
【焦げ気味のソースの香りは祭りの雰囲気というバフを得て、パウパウに襲い掛かったのだ!】
と、脳内ナレーションを自分で響かせるくらいに。
使い捨ての荒い作りの木のフォークに細い麺を巻き付けて、
「はい、パウパウ。あ~ん」ミッちゃんが運んでくれたのを、パカリと開けた口に入れてもらう。
あれ?
美味しい……
焦げ気味のソースも少しの肉も美味しいが、
これ。何だろう?
麺だと思ったら違うのだ。
食感が少しシャキっとしているのだ。
…これ、モヤシ?
前世の記憶、モヤシの食感が口に蘇る。本当に役に立つ知識が無い。
美味しい!
けど…思ってたんと違う~~!
内心の叫びに蓋をして、パウパウの様子を伺っているミッちゃんに
「美味しい!ミッちゃんも食べて!」と促す。
うん、ソースの味は少し違うけれど魚粉が利いていて美味しいのは間違いない。
隣で食べているフィリもウンウンと頷いているので、この食感で正解なのだろう。
長いモヤシ炒めだけどねっ!
モヤシっぽい麺っぽい何かだけどねっ!
パウパウに言われたミッちゃんも、同じように口にして、少し口角を上げた。
「うん、初めて食べたけれど美味しい。アボフラだね、これ」
え?
「アボフラ?」
「そうだよ、アボフラの仲間だよ、ククルビタ。美味しいよねっ」
モヤシですらなかった!
黄色くて長くてシャキシャキ。
訳が分からないよククルビタ……
ミッちゃんの手にある黒いククルビタを、カボチャなのかぁと見ていると、勘違いをしたミッちゃんがまた口に運んでくれた。
「美味しいかい?」
「…」
シャキシャキしながらコクコクと頷くと、口の端についたソースをミッちゃんが親指で拭ってくれる。
ペロリと自分で舐めてから
「それは良かったね」と微笑んだ。
何処からか拍手が聞こえたのは何があったんだろうと、パウパウは首を傾げた。
なお、このクククビタが似合わない三人が楽しそうに食べていたお陰で、屋台の列がズンズンと伸びている事に屋台の人がニヤニヤとしていた事を三人は知らない。
「いや~アンチャン達のお陰で、商売繁盛だわ。アンガトな」とニッコニコの屋台のおじちゃんが出来上がったククルビタと、少し大きめの紙袋に入った何かを「オマケなっ」と渡してくれる。
「ありがと。なぁに?」
重さが余り無い紙袋をパウパウが両手で受け取って、尋ねると
「ククルビタの種を炒ったのよ。オヤツにしてな」
二人も礼を言っている所に、マルトフが小走りでやってきた。
「あぁ!やっぱり居た。あっちに席を取れたから、迎えに来たよっ!」
屋台の並んでいる先に、食べるための場所が設けられているらしい。
妙に視線を感じながらマルトフに案内された場所では、すでにダグラス達もマールジェドも座って待っていた。
「すまない、待たせたか?」
「大丈夫。面白いくらい凄いことになってたわねぇ」ニヤニヤと猫のような微笑みを浮かべてマールジェドが言う。
首を傾げるミッちゃんとパウパウに、フィリが「気付いてなかったんですか?」
「ぼく達…特にウルジェドさん。客寄せになってましたよ」
「え?」ミッちゃんが声を上げた。
「だから探すの楽だったよ。一番に人が居る所って思ったモン」
「認識阻害してないからよ~さぁ、座って!いただきましょう?」
パチンッと手を叩いたマールジェドに促されて三人は席に着いた。
今の動作で防音結界を張っている辺りが叔父上らしいと、ウルジェドは苦笑するが、確かに何やら他人の目が煩わしくはあったので目を合わせて感謝をしておく。
ギルドの裏でも売っていた大きな赤イカ焼きに、ゴドーも買っていた腸詰と何かの肉の串焼き。パリパリに焼いた白い生地に香草とレバーのペーストが乗った物はマルトフの好物らしい。そしてフィリのククルビタ。他にもゴツゴツした栄螺に似た巻貝。細長い揚げ菓子と毒々しい…いや、鮮やかな色の細かい飴が塗されたナッツ。
まぁ並ぶわ並ぶわ……。
ウルジェドが渡した銀貨のお陰で少年達、夢の爆買いをしてきたようだ。
「あ。有難うウルジェド、残りのお金」
チャリっと手に乗せられて、ミッちゃんは微妙な気持ちになる。
なんで叔父上、私からの御小遣いで買い物しているんだろうか…
「仕方ないでしょ。金貨だと、どこも断られるんだものぉ」口を尖らせながら揚げ菓子を千切るマールジェドに、
「まぁ、こういった所で金貨は駄目ですよ」
「金貨の下なんて持っていないもの……」と小さく文句を言っているマールジェドを後目に、少年達の戦いの火蓋は切られていた。
まずプタフォタンでは中々、普段は口にすることが無い肉串の取り合いが始まる。
最近は肉祭りや屋敷の食事で食べているはずのサリレの三人が、パウパウが串についた肉を噛み切れずにモツモツしているうちに食べ終わっている。
いや、噛んで!咀嚼。咀嚼してっ!と目を丸くして見ていると、腸詰が消えた。
え?収納魔法なの?って勢いで、少年達の腹中に収納されている。
「は?」「え?」「ん?」ハイエルフ二人と、パウパウが呟いているうちにレバーペーストが消え、巻貝はカラしか残っていない。
ズゾゾーとククルビタを啜ったかと思うと、既に左手には揚げ菓子を持ったダグラスと、右手の赤イカ焼きを口に放り込んでムッムッと噛みながら左手で毒々しい化粧がされたナッツを握りしめるゴドー。
マルトフは貰った小遣い銭を握りしめて、既に他の店へ走っているし、奇麗な顔を油まみれにして揚げ菓子に齧りつくフィリはナッツを握りしめたゴドーの拳を躱して、皿ごと自分の方に寄せようとしている。
恐るべし【祭りバフ】!
マルトフが今度は鳥っぽい肉を山盛りにして戻って来た。
荒く裂いた胸肉に、ドライハーブが掛かってホカホカと湯気が立っていて熱そうだ。
秒で消えた。
最初の串焼きを手に握りしめて、パウパウは異次元の戦いに固まっているし、マールジェドは千切った揚げ菓子を片手に眼を丸くしている。
ミッちゃんも珍しく口を半開きにして、少年達を見ていた。
「はぁ~」満足したように空を見上げたダグラスが、ふと気づいたようにパウパウを見た。いや、正確には串焼きを見た。
「あれ?パウパウ、残すんナラ俺、食ってヤッカ?」
「ダグ兄……ぼく達、何も食べてない」
え?っと我に返る少年達に、三人はコクコクと頷いた。
屋台で客寄せにされたククルビタで空腹は紛れているとはいえ、あれだけ色々とジャンクな食べ物を見せられて、それを一口も味わえなかったことが、一瞬で消えた腸詰が、走り去って行った赤イカが残像となってパウパウを苛む。
大げさだけれど、食べられなかった記憶って、不思議とずっと残るのだ。
パウパウは未だに、兄のテレスが勝手に持って行ったリンゴの事を覚えている。
母親がお昼にと置いて行ったパンとリンゴを、友達と食べると言って持って行ったのだ。
「イヤなこと思い出しちゃった……」
パウパウは、謝り倒してパウパウ達の御飯を買いに屋台へと走るダグラス達を見送りながらポツリと呟いた。
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