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155.パウパウと大漁祈願祭8
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恐縮しきりの少年達、四人が買ってきた巻貝や、揚げ菓子などを摘まんで──ククルビタ屋は売り切れ閉店だったそうだ──遅い昼食を済ませた一行は社への坂道を登っている。
あの恐魚も驚きなベロンゴックンの食欲を見たミッちゃんは、内心で競り食いの真骨頂を見たなぁと驚いていた。
マールジェドは、大道芸なみに面白かったと思っていたし、パウパウはといえばゴドーやダグラスの腹回りをまじまじと見て首を傾げている。
「ナシタ?パウパウ」
「ダグ兄、あんなに食べても、お腹あんまり変わっていない。ぼく、あんな食べたらポポーンってなるよ」
「あ~、悪かったナァっ、なんか勢いついちゃってヨォ」
「スマネな、俺モダ」
顔を赤らめて頭を下げる二人にパウパウは首を振る。
「ゴドーもダグも兄弟が多いからさ、僕ら勝負にならないね」マルトフの言葉にフィリが頷いている。
「そうなんだぁ」
「あ~やって、大皿で出ット戦いダァ……」
ダグラスが何もない宙を見つめた。その目は歴戦を生き延びた戦士のように遠くを見ている。
いや、どれほどの戦場なの?ダグラス家⁉
かえって行って体験したくなるほど気になるんだけど?と、考えたパウパウの心を読んだのかというように、ミッちゃんが繋いだ手に少し力をいれて首を振る。
そのまま手を引かれて社への最後の階段を登ると左右に大樹が聳え立っていた。
両方の木から木に渡されている太い綱は漁で使う物だろうか。
まるで鳥居と注連縄みたいだ。
それを潜った途端、本当に空気が変わったように感じられた。
思わず背筋が伸びたパウパウだったが、前を歩くフィリ達は若干、声を落としているが至って普通に話をしているので、これは前世の記憶の神社=聖域の印象があったから、……かもしれない。
その切り変わった空間の正面に、社はあった。
レカベット村の子供達を見舞う前に、パウパウが来たことが無いという社を見せてあげようと、まずは正面の社へ向かう。
お祭りから流れてきた参拝者なのか、それともこれが日常なのかはパウパウには分からないが、敷地内には中々の人が来ていた。
大きくて重厚な、黒褐色の石を土台にした太い木柱の平屋造り。
本漆喰の白く神々しい外壁。
そして、真っ青な四角。
どうやら入り口から、まっすぐに海と空が見えているようだ。
誰もを迎え入れるように大きく開いた入り口で、マルトフが「ここから先は靴を脱ぐんだ」と教えてくれる。
「色々な御参りの仕方があるから汚れないようにね」首を傾げたパウパウに、サンダルを揃えながら説明をしたのはフィリだ。
少年達は、サンダルなので気軽に裸足で框を上がるが、パウパウもハイエルフ達も編み上げブーツなので、社の奥へ入るのは遠慮をする。
「あれ?パウパウ、上がらないの?」フィリが声を掛けてくれたが三人の気持ちは同じだ。
編み上げブーツ、時間がかかる。
上がらないではなく、面倒なので上がれません、が正解だ。
「う~ん、失敗したねぇ」ミッちゃんが眉を下げてパウパウを見た。
「つぎに来るとき、ペタンコの靴で来ようね」
見学するだけなら、ここからでも十分だ。
広い社の土間からでも一段高くなった磨き上げられた板の間と、白い左右の壁の奥、スパンッと切られたように漆喰が途切れた先、空の青と海の青が目に刺さってくる。
そして無音だ。
吹いて来るはずの潮風も入って来ないのは何故だろうかと、パウパウはきょろきょろと周りを見回す。
飾りもない、柱すらない、ただ四角いだけの建物だ。
正面一面が切り取られたように開かれ、吹き放たれているのだが、三方向の柱と壁だけで支えられる物だろうか。
広い板間に人々が思い思いの場所で、それぞれの信じるものに祈っている。
その殆どが、この開かれた青い大開口の前に座っているのは、海と漁の町だからなのだろう。
迷わず真っすぐに海の見える所に向かう少年達の背中を見ながら、パウパウが首を傾げると
「どうしたの?」ミッちゃんが直ぐに気付いて、小さく声を掛ける。
「この建物、壊れない?屋根だって重そうなのに」
先ほど見た外観は、巨大なただの四角い白い箱だ。
軒の部分には厚い木の板が整然と並んでいる。
「ふふ、これねぇ……」とマールジェドも声を潜めてパウパウに答える。
「誰が作ったのか分からないけれど、四角い結界を囲うように建てられているわよ」
「四角い結界?」
「うん、もともと聖域か何かだったのかしらねぇ」
小さな薄い薔薇色の唇に指を立てながらマールジェドが思いを巡らせる。
「……ふふ、凄いね。これ」小さな声でミッちゃんが笑うと、マールジェドも小さく頷いた。
それで潮風も音もしないのか、と納得していたパウパウにミッちゃんが、
「これ、気が付いたかい、パウパウ?」
「ん?なぁに?」
「あの見えている空と海、とても大がかりな幻影術だよ」
唇に人差し指を立てながらミッちゃんが言い、
「幻影っていうか、投影かしらね?少し角度をずらした景色を結界に写しているみたい」と、マールジェドが補足した。
「えっ?」
何、それ幻燈機械?プロジェクター?と驚いているパウパウを他所に
「床と屋根あたりに仕込んだ魔道具か、パティオル先生みたいに錬金符……う~ん、どうかしらねぇ」
「ここの社は凄いねぇ、こんな形で祀るものを見せているんだねぇ」
二人のハイエルフはそれぞれ、面白そうに正面の景色を見つめている。
この静謐な空間を支配している青が、魔法で写されていると知ってしまったパウパウは複雑な気持ちで、夏の二色の青の下に座って御参りする少年達を見た。
「どうして、こんな仕掛けをしたのかなぁ……」
「そうだねぇ……きっと、本当の神様を人は見てはいけないから、じゃないかなぁ」
少年達の姿は、ここからでは逆光で黒い影のように見えた。
もしも神様がいたら、こんな風に誰もが小さな黒い影にしか見えないのかもしれない、ふとパウパウは、そんな事を思った。
「なにをお祈りしているのかなぁ」
どうか、友達の祈りが彼らの神様に届きますように。
パウパウには信じる神様は居ない、この世界にどんな神様が御座すのか知らないけれど、正面に見える空と海にそう願った。
────────────────────────────────────
「おまたせ!」
トントンとつま先を突いてサンダルを履いたフィリが笑う。
「俺、今日は姫様に、お礼サ言いに来たんだ」
「あ、僕も!無事に生き延びたからねぇ」
ダグラスに笑いながらマルトフが言う。
あの巨大な化け物魚から逃げ切っただけあって、見た目と違って豪胆だ。
「ぼくも!あとね……」とフィリが少し俯いたので少年達は聞き耳を立てた。
と、パっと頭を上げて上を向いたフィリが
「へへ、な~いしょ!ゴドーは?ゴドーは何を言ってきたんだよ」
「ア、俺モナ…助カッタ御礼トカ、ダナ」
後は、もっと操舵が上手くなるように精進しますと言って来たのは内緒だ。
プタフォタンの子供達の頭を包んでいるのは、奇麗な更紗染めの布で、ゴドーの鮮やかな大漁旗とは違う。
あの戦いでダグラス達の大漁旗は吹き飛んでしまったからだ。
「うん、みんなが無事で良かった……」
オ前ラモナ……と、心で呟いたゴドーは、フィリの言葉に頷いて自分の漁師巻きした大漁旗に触れた。
「ん?お願いとかって、しないの?」前世の知識が頭をよぎったパウパウが尋ねる。
「お願い?」逆にマルトフに尋ね返された。
「んっと……健康になれますようにとか?お金持ちになれますようにって、お願い」
確かパウパウの記憶にある前の世界では、そんな願掛けみたいなことをしていた筈だ。
だが、帰って来たのは少年達の怪訝な顔だった。
「ソダなぁ……どっちかテェト、御礼ダナヤ」ダグラスが考えた末に答えた。
「おれい……じゃ、お祭りは?」
豊漁祈願のお祭りだ。
「ンダナ、去年ノ有難う御座いますと、今年もお願ゲェシマス?」
「ンダナ。今年モ頑張ンデ、魚サ分けて頂きヤスってぇ感じダナヤ」
そう漁師の子たちが言い、フィリとマルトフもコクコクと頷いているところを見ると、どうやらここの神様は前の世界の神様とは立ち位置が違う感じだ。
「じゃぁさ、お願いは誰にするの?」
「お願いって、例えばどんなの?」今度はフィリが尋ねた。
「ん~、ん~……レンアイジョージュとかゴーカクキガン?」
ブハッと隣で吹き出したのはハイエルフの二人。
マールジェドは口を押えて、ミッちゃんは片手で顔を覆っているので、流石に聖域での大笑いを堪えているようだ。
小さく「恋愛成就って……」と呟いているのはミッちゃんだ。
「そういうのは呪師さんの仕事だよ」マルトフが肩を震わせながら答えてくれた。
そんな話をしているうちに、木立に囲まれた四角い建物が見えて来た。
こちらは壁の色が薄い黄色味がかっている。
潮を孕んだ風のせいなのか、樹皮の色が深い茶色なので余計に可愛らしい色に見える、社より小さい建物だ。
規則的に並んだ四角い窓の枠が白いのも、なんだか可愛らしい。
「医療棟って言うんだ。薬師の作った薬で治らない時や、医師の治療が必要な時の建物だね」
笑いの衝動が納まったらしいミッちゃんが、静かに教えてくれる。
「あ、花とか持って来ればよかった?」
医療棟の入り口で思いつき、ミッちゃんにパウパウが尋ねると、
「いや、お花はね……」と身を屈めて耳元に顔を寄せて「大事な人にだけ」と囁いた。
ん?
パウパウは小首を傾げて……ん?と、もう一度、逆の方に首を倒した。
初めて会ったとき、マルトフはフィリに花束をあげていたことを思い出す。
「……あれ?」不思議そうな顔で立ち止まるパウパウを、ミッちゃんは面白そうに見ている。
「えっと、ミッちゃん、大事ってどれくらいの大事?」
ハイエルフはパウパウを向い合せに抱き上げた。
この方が内緒話がしやすい。
「花の命を捧げるくらいに大事な人だねぇ。私達、ハイエルフではそうだけど。ヒト族はどうだろうね?」
先を行く子供達を追いながらも、歩む速度を変えずにミッちゃんは答えた。
「んっと、ね?大事な友達の時もお花あげるかなぁ」
「……ふふ、かもねぇ。パウパウの前の所では、どうだったの?」
そう尋ねられてパウパウは首を傾げた。
冠婚葬祭、あらゆる処で花は贈られていた気がする。
「ん~、お誕生のお祝いとか、お見舞いとか色々な時に花束。花を作っている農家さんも居たと思う」
「へぇ!それは、大切な人が沢山いる、幸せな世界だったのだね」
いや、義務とか。
お祝い品を考えられないときとか、そういった濁し的な場合も花だった気がする……とは、酷く嬉しそうにキラキラな微笑みを浮かべたハイエルフには、流石に言えないパウパウだった。
あの恐魚も驚きなベロンゴックンの食欲を見たミッちゃんは、内心で競り食いの真骨頂を見たなぁと驚いていた。
マールジェドは、大道芸なみに面白かったと思っていたし、パウパウはといえばゴドーやダグラスの腹回りをまじまじと見て首を傾げている。
「ナシタ?パウパウ」
「ダグ兄、あんなに食べても、お腹あんまり変わっていない。ぼく、あんな食べたらポポーンってなるよ」
「あ~、悪かったナァっ、なんか勢いついちゃってヨォ」
「スマネな、俺モダ」
顔を赤らめて頭を下げる二人にパウパウは首を振る。
「ゴドーもダグも兄弟が多いからさ、僕ら勝負にならないね」マルトフの言葉にフィリが頷いている。
「そうなんだぁ」
「あ~やって、大皿で出ット戦いダァ……」
ダグラスが何もない宙を見つめた。その目は歴戦を生き延びた戦士のように遠くを見ている。
いや、どれほどの戦場なの?ダグラス家⁉
かえって行って体験したくなるほど気になるんだけど?と、考えたパウパウの心を読んだのかというように、ミッちゃんが繋いだ手に少し力をいれて首を振る。
そのまま手を引かれて社への最後の階段を登ると左右に大樹が聳え立っていた。
両方の木から木に渡されている太い綱は漁で使う物だろうか。
まるで鳥居と注連縄みたいだ。
それを潜った途端、本当に空気が変わったように感じられた。
思わず背筋が伸びたパウパウだったが、前を歩くフィリ達は若干、声を落としているが至って普通に話をしているので、これは前世の記憶の神社=聖域の印象があったから、……かもしれない。
その切り変わった空間の正面に、社はあった。
レカベット村の子供達を見舞う前に、パウパウが来たことが無いという社を見せてあげようと、まずは正面の社へ向かう。
お祭りから流れてきた参拝者なのか、それともこれが日常なのかはパウパウには分からないが、敷地内には中々の人が来ていた。
大きくて重厚な、黒褐色の石を土台にした太い木柱の平屋造り。
本漆喰の白く神々しい外壁。
そして、真っ青な四角。
どうやら入り口から、まっすぐに海と空が見えているようだ。
誰もを迎え入れるように大きく開いた入り口で、マルトフが「ここから先は靴を脱ぐんだ」と教えてくれる。
「色々な御参りの仕方があるから汚れないようにね」首を傾げたパウパウに、サンダルを揃えながら説明をしたのはフィリだ。
少年達は、サンダルなので気軽に裸足で框を上がるが、パウパウもハイエルフ達も編み上げブーツなので、社の奥へ入るのは遠慮をする。
「あれ?パウパウ、上がらないの?」フィリが声を掛けてくれたが三人の気持ちは同じだ。
編み上げブーツ、時間がかかる。
上がらないではなく、面倒なので上がれません、が正解だ。
「う~ん、失敗したねぇ」ミッちゃんが眉を下げてパウパウを見た。
「つぎに来るとき、ペタンコの靴で来ようね」
見学するだけなら、ここからでも十分だ。
広い社の土間からでも一段高くなった磨き上げられた板の間と、白い左右の壁の奥、スパンッと切られたように漆喰が途切れた先、空の青と海の青が目に刺さってくる。
そして無音だ。
吹いて来るはずの潮風も入って来ないのは何故だろうかと、パウパウはきょろきょろと周りを見回す。
飾りもない、柱すらない、ただ四角いだけの建物だ。
正面一面が切り取られたように開かれ、吹き放たれているのだが、三方向の柱と壁だけで支えられる物だろうか。
広い板間に人々が思い思いの場所で、それぞれの信じるものに祈っている。
その殆どが、この開かれた青い大開口の前に座っているのは、海と漁の町だからなのだろう。
迷わず真っすぐに海の見える所に向かう少年達の背中を見ながら、パウパウが首を傾げると
「どうしたの?」ミッちゃんが直ぐに気付いて、小さく声を掛ける。
「この建物、壊れない?屋根だって重そうなのに」
先ほど見た外観は、巨大なただの四角い白い箱だ。
軒の部分には厚い木の板が整然と並んでいる。
「ふふ、これねぇ……」とマールジェドも声を潜めてパウパウに答える。
「誰が作ったのか分からないけれど、四角い結界を囲うように建てられているわよ」
「四角い結界?」
「うん、もともと聖域か何かだったのかしらねぇ」
小さな薄い薔薇色の唇に指を立てながらマールジェドが思いを巡らせる。
「……ふふ、凄いね。これ」小さな声でミッちゃんが笑うと、マールジェドも小さく頷いた。
それで潮風も音もしないのか、と納得していたパウパウにミッちゃんが、
「これ、気が付いたかい、パウパウ?」
「ん?なぁに?」
「あの見えている空と海、とても大がかりな幻影術だよ」
唇に人差し指を立てながらミッちゃんが言い、
「幻影っていうか、投影かしらね?少し角度をずらした景色を結界に写しているみたい」と、マールジェドが補足した。
「えっ?」
何、それ幻燈機械?プロジェクター?と驚いているパウパウを他所に
「床と屋根あたりに仕込んだ魔道具か、パティオル先生みたいに錬金符……う~ん、どうかしらねぇ」
「ここの社は凄いねぇ、こんな形で祀るものを見せているんだねぇ」
二人のハイエルフはそれぞれ、面白そうに正面の景色を見つめている。
この静謐な空間を支配している青が、魔法で写されていると知ってしまったパウパウは複雑な気持ちで、夏の二色の青の下に座って御参りする少年達を見た。
「どうして、こんな仕掛けをしたのかなぁ……」
「そうだねぇ……きっと、本当の神様を人は見てはいけないから、じゃないかなぁ」
少年達の姿は、ここからでは逆光で黒い影のように見えた。
もしも神様がいたら、こんな風に誰もが小さな黒い影にしか見えないのかもしれない、ふとパウパウは、そんな事を思った。
「なにをお祈りしているのかなぁ」
どうか、友達の祈りが彼らの神様に届きますように。
パウパウには信じる神様は居ない、この世界にどんな神様が御座すのか知らないけれど、正面に見える空と海にそう願った。
────────────────────────────────────
「おまたせ!」
トントンとつま先を突いてサンダルを履いたフィリが笑う。
「俺、今日は姫様に、お礼サ言いに来たんだ」
「あ、僕も!無事に生き延びたからねぇ」
ダグラスに笑いながらマルトフが言う。
あの巨大な化け物魚から逃げ切っただけあって、見た目と違って豪胆だ。
「ぼくも!あとね……」とフィリが少し俯いたので少年達は聞き耳を立てた。
と、パっと頭を上げて上を向いたフィリが
「へへ、な~いしょ!ゴドーは?ゴドーは何を言ってきたんだよ」
「ア、俺モナ…助カッタ御礼トカ、ダナ」
後は、もっと操舵が上手くなるように精進しますと言って来たのは内緒だ。
プタフォタンの子供達の頭を包んでいるのは、奇麗な更紗染めの布で、ゴドーの鮮やかな大漁旗とは違う。
あの戦いでダグラス達の大漁旗は吹き飛んでしまったからだ。
「うん、みんなが無事で良かった……」
オ前ラモナ……と、心で呟いたゴドーは、フィリの言葉に頷いて自分の漁師巻きした大漁旗に触れた。
「ん?お願いとかって、しないの?」前世の知識が頭をよぎったパウパウが尋ねる。
「お願い?」逆にマルトフに尋ね返された。
「んっと……健康になれますようにとか?お金持ちになれますようにって、お願い」
確かパウパウの記憶にある前の世界では、そんな願掛けみたいなことをしていた筈だ。
だが、帰って来たのは少年達の怪訝な顔だった。
「ソダなぁ……どっちかテェト、御礼ダナヤ」ダグラスが考えた末に答えた。
「おれい……じゃ、お祭りは?」
豊漁祈願のお祭りだ。
「ンダナ、去年ノ有難う御座いますと、今年もお願ゲェシマス?」
「ンダナ。今年モ頑張ンデ、魚サ分けて頂きヤスってぇ感じダナヤ」
そう漁師の子たちが言い、フィリとマルトフもコクコクと頷いているところを見ると、どうやらここの神様は前の世界の神様とは立ち位置が違う感じだ。
「じゃぁさ、お願いは誰にするの?」
「お願いって、例えばどんなの?」今度はフィリが尋ねた。
「ん~、ん~……レンアイジョージュとかゴーカクキガン?」
ブハッと隣で吹き出したのはハイエルフの二人。
マールジェドは口を押えて、ミッちゃんは片手で顔を覆っているので、流石に聖域での大笑いを堪えているようだ。
小さく「恋愛成就って……」と呟いているのはミッちゃんだ。
「そういうのは呪師さんの仕事だよ」マルトフが肩を震わせながら答えてくれた。
そんな話をしているうちに、木立に囲まれた四角い建物が見えて来た。
こちらは壁の色が薄い黄色味がかっている。
潮を孕んだ風のせいなのか、樹皮の色が深い茶色なので余計に可愛らしい色に見える、社より小さい建物だ。
規則的に並んだ四角い窓の枠が白いのも、なんだか可愛らしい。
「医療棟って言うんだ。薬師の作った薬で治らない時や、医師の治療が必要な時の建物だね」
笑いの衝動が納まったらしいミッちゃんが、静かに教えてくれる。
「あ、花とか持って来ればよかった?」
医療棟の入り口で思いつき、ミッちゃんにパウパウが尋ねると、
「いや、お花はね……」と身を屈めて耳元に顔を寄せて「大事な人にだけ」と囁いた。
ん?
パウパウは小首を傾げて……ん?と、もう一度、逆の方に首を倒した。
初めて会ったとき、マルトフはフィリに花束をあげていたことを思い出す。
「……あれ?」不思議そうな顔で立ち止まるパウパウを、ミッちゃんは面白そうに見ている。
「えっと、ミッちゃん、大事ってどれくらいの大事?」
ハイエルフはパウパウを向い合せに抱き上げた。
この方が内緒話がしやすい。
「花の命を捧げるくらいに大事な人だねぇ。私達、ハイエルフではそうだけど。ヒト族はどうだろうね?」
先を行く子供達を追いながらも、歩む速度を変えずにミッちゃんは答えた。
「んっと、ね?大事な友達の時もお花あげるかなぁ」
「……ふふ、かもねぇ。パウパウの前の所では、どうだったの?」
そう尋ねられてパウパウは首を傾げた。
冠婚葬祭、あらゆる処で花は贈られていた気がする。
「ん~、お誕生のお祝いとか、お見舞いとか色々な時に花束。花を作っている農家さんも居たと思う」
「へぇ!それは、大切な人が沢山いる、幸せな世界だったのだね」
いや、義務とか。
お祝い品を考えられないときとか、そういった濁し的な場合も花だった気がする……とは、酷く嬉しそうにキラキラな微笑みを浮かべたハイエルフには、流石に言えないパウパウだった。
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