悩める男子高校生たちの論争。

結川

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悩める男子高校生たちの論争。

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チクタクと、時計の秒針の音だけが部屋を包む静寂を妨害する。
いつも過ごしている8畳の自分の部屋を、こんなに窮屈に感じたことはない。

夜の帳もすっかり下りた深夜1時。
いつもなら階下にあるはずの家族の気配は今日はない。
何故なら家族は部活に勤しむオレを一人置いて、家族旅行に出かけてしまったからだ。
代わりに、いつもだったら絶対にないはずの姿が一つ。

「風呂、ありがとー」

ドアの開閉音の後、現れたのは普段見慣れない無地のTシャツに、スウェット姿。
火照っていつもより血色のいい肌に、ぽたりと髪を伝って雫が落ちる。

つむぐ、髪きちんと乾かしてから来い」
「うお、ごめん、ありがと、晃平こうへい

肩に掛かっていたタオルを使って、ガシガシと両手で濡れそぼった頭を拭いてやる。
その振動に耐えるように、紡がぎゅっと両目を瞑る。

あ、この距離感、なんだか。

紡も同じことを考えたのか、そっと目を開けて、ゆっくりとこちらを見上げる。
その頬の赤みが少し増したように見えたのは、この状況に期待しているオレの勘違いなのか否か。

「…………」

見つめあって、沈黙3秒。
どちらともなく、距離を離して、視線を別の場所へと移す。

「…な、なんか、この部屋暑くね?」
「そ、そうだな、エアコンの温度下げるか」

互いに言葉をどもらせているこの間抜けな状況をツッコむのは、墓穴を掘ることに直結するため、互いが互いにスルーする。

いや、馬鹿か!むしろ今は墓穴を掘りにいくべきなんだ。
財布事情が厳しい高校生が、長い間2人きりになれる場所や時間なんて、そうそう作れない。
今を逃したら、こんな絶好の機会は今度いつ訪れるか分からない。
意を決して、視線を紡に戻すと、すでに紡はこちらをじっと見ていた。

「あのさ、晃平」
「えっ?」

出鼻をくじかれて、少し素っ頓狂な声を上げてしまう。
しかし、紡は気にしていないのか、気にする余裕がないのか。
口を開いて、閉じて、少し躊躇いを見せた後、決心したように言葉を紡いだ。

「しよーよ」

ドクンと心臓が跳ねて、体温が急激に上がったような錯覚を起こす。
漫画やドラマで見聞きしたことはある誘い文句は、実際に恋人から言われるとこんなにも破壊力があるのか。

頷いて、傍にあるベッドに押し倒そうと、両腕をその肩に掛けようとする。
その時、自分が動くより前に肩を軽く押され、その反動でベッドに腰を付く。

「大丈夫。オレ、優しくするから」

そのまま両肩を掴む手が、ゆっくりと優しくベッドへ押し倒そうとしている。
状況が、言葉が、体勢が、自分の予想と反したことばかりで、全く理解が追い付かず、一瞬思考が止まる。

「ちょ、ちょっと待て!違うだろ!」
「え!?うそ、もうオレ何か間違えた?」

ごめん、と謝られるが、そうじゃない。

「いや、男側はオレだろ!」
「は?オレの役目に決まってんじゃん!?」
「いや、オレが上だ。さっさと早く退いてくれ」
「いーや、オレが上だ。お前はこのまま下にいろ」

ベッドの上で始まった上下論争は、平行線を辿るばかりで一向に終着地点は訪れない。
下を向いていた分針が上を向き始める頃には、甘い雰囲気なんてとっくに霧散し、お互いにあるのは疲労感だけだ。

「……今日は普通に寝よーぜ」
「だな」
「電気消せよ、眠れない」

電気の壁面タップを押そうとした手が不意に動きを止めたのは、何となく察したからだ。
この電気を消したら、本当にこのまま何もしないまま寝て、朝を迎えるだろう、と。
躊躇ったままでいると、後ろから小さく溜め息が聞こえた。
ハッとして、電気を消そうと手を掛けた時、その手に別の手が重なる。

「お前、ほんと、ヘタレすぎでしょ」

絶対オレの方が手取り足取りエスコートした方が上手くいく気がするのにな、とぼやく声に振り向けば、やれやれと肩を竦めて紡が笑っていた。

「今日はオレの負け。しょーがないから譲ってやるよ」

それは、つまり。
浮かんだ考えは、紡がオレの首に腕を回したことで、正解だと分かる。
応えるかのように、背中に腕を回せば、どちらからともなく2人の距離を縮めていく。
オレたちの論争は、一先ず決着を迎えたのだった。



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