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【第1部】―真珠の白を薔薇色に染上げて―
9.開戦
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9.開戦
予定では、23時に商船は、この地点を通過するはずだ。
スペイン商船は、三隻のガレオン船と聞いている。
しかしである、このイギリス海峡は、ラッパのように、ドーバー海峡側が狭く、ケルト海側は広がっており、また、隠れる島が無いと来ている。
上手く近付かないと、追い付かなくなる可能性もある。
そして、慎重に海岸線を進んで行くと、予定通りガレオン船が三隻、灯りを消して、航行していた。
予定通りだな。
このまま、後ろを取り、一気に近づいて、砲撃を食らわせる!
こちらは、ブリテン島を背後にしているので確認し難いはずだ。
そして、舵を切り、スペイン商船に一気に近づこうとしたとき、突如、灯りがともされた。
「バレている」
しかも、このガレオン船は、武装船ではないか!?
商船が、“大砲を積んでいます”というようなものではなく、武装特化型の船だ。
つまり海軍船だ。
「嵌められた!」
エマリーが
「面舵(おもぉぉかぁじ)」と叫んでいる。
いや、ここで、右に曲がり広いケルト海に向けたら、逃げれるかもしれないが、ダメージで難破することもありうる。
港もないので、援軍も期待できない。
ここは、正面突破し、ドーバー海峡へ行けば、他の海賊船と共闘できるかもしれないし、なんと言っても、イギリス海軍のおひざ元だ。
スペイン海軍を見逃すわけはない。
「強行突破だ。取舵いっぱい!」と、私は、叫んだ!
すると、
「とぉぉりかぁじッ」と、航海士の声が聞こえた。
続いて、私は、
「全砲門を開け! 好きにさせるな!」と、叫んでいた。やるしかない。叩きのめす。
3対1でも、こちらは、射程の長い最新式の大砲を積んでいる。
距離を取れば、こちらが有利なのだ!
数で負けていても、射程距離と命中率は最新の大砲を積んでいるこの船が有利なはずだ。
必ず、逃げ込める!
そして、敵船が反転して、こちらを追いかけてくる。
さすが海軍、訓練しているのだろう、あっという間に三隻とも反転してきた。
こちらの最新の大砲だが、なかなか、命中しない。
これは、敵の“数の有利”が働いていたのだ。多くの砲弾が海面に波を起こし、正確に射撃ができない。
いつもなら、目と鼻の先のドーバー海峡が、こんなに遠くに感じるとは。
しかし、ドーバー海峡が見えてきたが、海賊も海軍もいない。
なぜ?
実は、情報操作されていたのだ。
スペイン海軍は、我々が出航した後、この情報はガセネタと流したようだ。
つまり、我々、“Der Schlüssel zur Zukunft”号だけを狙っていたのだ。
「こんなところで、Der Schlüssel zur Zukunft(未来への鍵)を失うわけにはいかない」というも、船内に火災が発生した。
「消化! 消化しろ」と、クルーの声が響く。
『もはやここまでなのか!』
その時である。
あの巨大な黒い船が、本船とスペイン海軍との間に、滑り込むように割り込んできた。
「いつの間に? シュベルツ!」
五隻の船に沈黙が訪れた。
「ここで、退散しなければ、本船が相手になるぞ」と、シュベルツがスペイン海軍に向かって、発している。
この巨大海賊船に、ガレオン船が三隻では、いささか分が悪い。
港の方も、騒がしくなってきた。灯りの数も増えてきた。
するとスペイン海軍の三隻は、方向転換しケルト海側へ下がっていった。
まあ、これだけ騒いだのだ。
対岸のフランス側も黙っているかは、知らんけどな。
消化をしながら、シュベルツの船と共に、港に帰港した。
夜も白けてきたころ、私は、シュベルツに礼を言いに行った。
「シュベルツ、すまない。危ないところを助けてくれて、ありがとう」
すると、シュベルツは、深く頷いて、
「なに、お前さんが、うちのクルーを助けてくれたからだ。恩返しができてよかったよ」
そうか、あの時のことを、いつまでも恩にきてくれて、なんだかすまないな。
「オレたちは、ワークワーク島を探しに出るつもりだ」
「あの黄金の島へか?」
「ああ、西廻り航路を見つけてみせる。
その時は、黄金を船いっぱいに積んで、売りさばくつもりだ」
「それは楽しみだな、シュベルツ……」
「なあ、シュベルツ。たまには、手紙でもよこせよ」
「無論だ。あとで住所を教えてくれ」
その返事を聞くと、無性にうれしくなってしまった。
すると、あの時に助けたシュベルツ海賊団のマリーネという女性船員のことが気になった。
まさか、先のことを約束しているのではないだろうか? そう思うと、不安になってきた。
「あ、あ、あの、シュベルツぅ」
「なんだ?」
「あのマリーネさんとは、どういう関係? なんか仲が良さそうなので、先のこととか、その、ほれ」
ああ、“その、ほれ”って、なんだよ。自分で言って、恥ずかしくなったではないか!
「マリーネか? 大事な船員だ。別に恋仲とかではないよ」
「ほ、本当か!?」と、笑顔になってしまった。
なんか、自分がこんな乙女なことが出来るとは意外だったし、自分でも知らなかった。
「2年で帰ってくるつもりだ。キーナ・コスペル」
「いや……」
「???」
「いや違う。ヴィルヘルミーナ、私の名前はヴィルヘルミーナだ。ライン川のふもとで領主をやっている」
それから、夜が明けるまで、私は自分のこれまでの人生を彼に話した。
領地では、父が領主をしているが男がいないので、私が領主を継ぐことになるだろう。
そして、それは入り婿を迎えることになるということだ。
貴族間の結婚など、政略結婚なのだ。
文句はないが、何かむなしさを感じる。
社交界などは、そういった家の事情のために参加しているのであって、ストレスをためる一方だった。
そんなある日、限界が来た。
「自由を求めて大海原を行きたい」という思いを、我が領地と取引のある大商人の娘のエマリーに相談したら、
「じゃあ、私がお供するわ」と、返事が返ってきた。
「うちの船を安くしておくわ。最新のガレオン船と最新の大砲なんて、どうかしら」
私は大笑いした。
「これでは、君の商売ではないか。エマリー」
この時、この笑い声で、私は自由を求める海賊になったのだ。
「シュベルツ、2年後にライン川に来てほしい。共にローレライでも見に行こう」
「ああ、分かった約束だ」
そして、数日後、シュベルツ海賊団は、イングランドを出港して行った。
この時、彼についていかなかったことを、私は、一生後悔することになろうとは思わなかった。
次回の女海賊団は、解散します。
予定では、23時に商船は、この地点を通過するはずだ。
スペイン商船は、三隻のガレオン船と聞いている。
しかしである、このイギリス海峡は、ラッパのように、ドーバー海峡側が狭く、ケルト海側は広がっており、また、隠れる島が無いと来ている。
上手く近付かないと、追い付かなくなる可能性もある。
そして、慎重に海岸線を進んで行くと、予定通りガレオン船が三隻、灯りを消して、航行していた。
予定通りだな。
このまま、後ろを取り、一気に近づいて、砲撃を食らわせる!
こちらは、ブリテン島を背後にしているので確認し難いはずだ。
そして、舵を切り、スペイン商船に一気に近づこうとしたとき、突如、灯りがともされた。
「バレている」
しかも、このガレオン船は、武装船ではないか!?
商船が、“大砲を積んでいます”というようなものではなく、武装特化型の船だ。
つまり海軍船だ。
「嵌められた!」
エマリーが
「面舵(おもぉぉかぁじ)」と叫んでいる。
いや、ここで、右に曲がり広いケルト海に向けたら、逃げれるかもしれないが、ダメージで難破することもありうる。
港もないので、援軍も期待できない。
ここは、正面突破し、ドーバー海峡へ行けば、他の海賊船と共闘できるかもしれないし、なんと言っても、イギリス海軍のおひざ元だ。
スペイン海軍を見逃すわけはない。
「強行突破だ。取舵いっぱい!」と、私は、叫んだ!
すると、
「とぉぉりかぁじッ」と、航海士の声が聞こえた。
続いて、私は、
「全砲門を開け! 好きにさせるな!」と、叫んでいた。やるしかない。叩きのめす。
3対1でも、こちらは、射程の長い最新式の大砲を積んでいる。
距離を取れば、こちらが有利なのだ!
数で負けていても、射程距離と命中率は最新の大砲を積んでいるこの船が有利なはずだ。
必ず、逃げ込める!
そして、敵船が反転して、こちらを追いかけてくる。
さすが海軍、訓練しているのだろう、あっという間に三隻とも反転してきた。
こちらの最新の大砲だが、なかなか、命中しない。
これは、敵の“数の有利”が働いていたのだ。多くの砲弾が海面に波を起こし、正確に射撃ができない。
いつもなら、目と鼻の先のドーバー海峡が、こんなに遠くに感じるとは。
しかし、ドーバー海峡が見えてきたが、海賊も海軍もいない。
なぜ?
実は、情報操作されていたのだ。
スペイン海軍は、我々が出航した後、この情報はガセネタと流したようだ。
つまり、我々、“Der Schlüssel zur Zukunft”号だけを狙っていたのだ。
「こんなところで、Der Schlüssel zur Zukunft(未来への鍵)を失うわけにはいかない」というも、船内に火災が発生した。
「消化! 消化しろ」と、クルーの声が響く。
『もはやここまでなのか!』
その時である。
あの巨大な黒い船が、本船とスペイン海軍との間に、滑り込むように割り込んできた。
「いつの間に? シュベルツ!」
五隻の船に沈黙が訪れた。
「ここで、退散しなければ、本船が相手になるぞ」と、シュベルツがスペイン海軍に向かって、発している。
この巨大海賊船に、ガレオン船が三隻では、いささか分が悪い。
港の方も、騒がしくなってきた。灯りの数も増えてきた。
するとスペイン海軍の三隻は、方向転換しケルト海側へ下がっていった。
まあ、これだけ騒いだのだ。
対岸のフランス側も黙っているかは、知らんけどな。
消化をしながら、シュベルツの船と共に、港に帰港した。
夜も白けてきたころ、私は、シュベルツに礼を言いに行った。
「シュベルツ、すまない。危ないところを助けてくれて、ありがとう」
すると、シュベルツは、深く頷いて、
「なに、お前さんが、うちのクルーを助けてくれたからだ。恩返しができてよかったよ」
そうか、あの時のことを、いつまでも恩にきてくれて、なんだかすまないな。
「オレたちは、ワークワーク島を探しに出るつもりだ」
「あの黄金の島へか?」
「ああ、西廻り航路を見つけてみせる。
その時は、黄金を船いっぱいに積んで、売りさばくつもりだ」
「それは楽しみだな、シュベルツ……」
「なあ、シュベルツ。たまには、手紙でもよこせよ」
「無論だ。あとで住所を教えてくれ」
その返事を聞くと、無性にうれしくなってしまった。
すると、あの時に助けたシュベルツ海賊団のマリーネという女性船員のことが気になった。
まさか、先のことを約束しているのではないだろうか? そう思うと、不安になってきた。
「あ、あ、あの、シュベルツぅ」
「なんだ?」
「あのマリーネさんとは、どういう関係? なんか仲が良さそうなので、先のこととか、その、ほれ」
ああ、“その、ほれ”って、なんだよ。自分で言って、恥ずかしくなったではないか!
「マリーネか? 大事な船員だ。別に恋仲とかではないよ」
「ほ、本当か!?」と、笑顔になってしまった。
なんか、自分がこんな乙女なことが出来るとは意外だったし、自分でも知らなかった。
「2年で帰ってくるつもりだ。キーナ・コスペル」
「いや……」
「???」
「いや違う。ヴィルヘルミーナ、私の名前はヴィルヘルミーナだ。ライン川のふもとで領主をやっている」
それから、夜が明けるまで、私は自分のこれまでの人生を彼に話した。
領地では、父が領主をしているが男がいないので、私が領主を継ぐことになるだろう。
そして、それは入り婿を迎えることになるということだ。
貴族間の結婚など、政略結婚なのだ。
文句はないが、何かむなしさを感じる。
社交界などは、そういった家の事情のために参加しているのであって、ストレスをためる一方だった。
そんなある日、限界が来た。
「自由を求めて大海原を行きたい」という思いを、我が領地と取引のある大商人の娘のエマリーに相談したら、
「じゃあ、私がお供するわ」と、返事が返ってきた。
「うちの船を安くしておくわ。最新のガレオン船と最新の大砲なんて、どうかしら」
私は大笑いした。
「これでは、君の商売ではないか。エマリー」
この時、この笑い声で、私は自由を求める海賊になったのだ。
「シュベルツ、2年後にライン川に来てほしい。共にローレライでも見に行こう」
「ああ、分かった約束だ」
そして、数日後、シュベルツ海賊団は、イングランドを出港して行った。
この時、彼についていかなかったことを、私は、一生後悔することになろうとは思わなかった。
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