10 / 58
【第1部】―真珠の白を薔薇色に染上げて―
10.女海賊団解散
しおりを挟む
10.女海賊団解散
私は、夏の暑い太陽が注ぐ海の上にいた。
大西洋をアフリカよりのところにいた。
スペインの商船が西インド諸島へ行く、あるいは帰るのを襲うためだ。
太陽を見上げては、ため息をつくのが癖になっていた。
それを見たクルー達が、
「そんなにため息を付くぐらいなら、シュベルツ海賊団と一緒に行けば、良かったではないですかね」
そんなやり取りが、ここしばらく続いていた。
シュベルツ海賊団が出航する日には、見送りに行った。
相手は社交辞令として、キスをしたのだろうが、生まれてこの方、“貴族令嬢が軽々しくキスをするなど!”という環境だったので、実は、生れて始めてキスをした。
なので、盛大に赤くなって、トマトになっていた。
恥ずかしかった……
そして、イリーゼに盛大にバカにされるんだがな。
「トマトだっちゃ!」と。
「お前たちを残して、私だけ行けるかよ」
「何言ってんですか、お頭。私達もついていきますよ」
「それこそダメだ。私のために人生、狂わせるわけにはいかない」
すると、皆が、やれやれって感じで肩をすくめている。
私は、皆には、海賊をいずれ止めても、普通に暮らして欲しいと思っている。
私も、いずれ領主として実家に戻らなくてはいけない。
私だけ、実家の領地があるのはズルいのだ。皆、幸せになってほしい。それだけが私の願いなのだから。
そして、1年が経過した。
シュベルツからは、何度か、手紙が届いた。
大きな港に着くと書いてくれたようだ。
なんとも、うれしいではないか。
移動している船に、返事が書けないのが残念なのだが、『先に付く港を書いてくれたら、書けるのになぁ』と思っていたが、オーストラリアからは、北上するらしく、大きな港はないらしい。
それでも、一度は書いた。
うまく届いたらしく、喜んでもらえた。
しかし、この数か月、そろそろ、ワークワーク島に着いてもよいはずなのに、手紙が途絶えた。
居ても立っても居られなくなり、今すぐにでも会いに行きたかった。
しかし、どこにいるのかわからない。
できるだけ、東方へ行く船には、シュベルツの情報を何でも良いので知らせてほしいと頼んでいたが、それらしい話は聞けなかった。
そして、約束の2年が経過した。
しばらくは、イングランドにいたが、スペインと海戦が起こるみたいだな。
スペインは相当やる気になっているようだ。
国王のフェリペ2世が、自ら指揮を執ると言っている。
私は、戦争には参加しないつもりだ。
自由を求めて海原に出たが、国家間の戦争とは、自由とは逆方向にある上、ドイツ出身の貴族がイギリスの見方もおかしな話だ。
海戦が始まる前に、海賊団は解散することにした。
貯めた財産は船員で山分けにするつもりだ。
「私のことは心配なく、皆で分けるんだよ」と言っておいた。
「私は、この船を売れるんだから、幾分かカネになるからね」と、さらに付け加えた。
故郷に帰る者、旅に出る者、別の海賊団に入る者がいたが、行く当てのない者は、私の領地とエマリーの商会で働くことになった。
エマリーとは、商売でよくわが領地にきてもらっているので、顔を合わせることがある。
皆、元気らしい。
「もう、あれから5年ね」とエマリーが言った。
「ああ、もう5年だな」
「シュベルツ海賊団は、帰ってこなかったね」
そうなのだ、結局、彼らは、誰一人と帰って来なかった。
そして、最後の彼からの手紙の内容は、船員たちには話していない。
「実は、彼らは、オーストラリアから北上したあたりで、風土病らしきものに感染したみたいなんだよ」
「えっ、そんな話は聞いてないよ」
「すまない、怖くて話せなかったんだ」
「それで、どうなったの?」
「クルーの大半が高熱を出して、半数が死亡した、したんだ」
しばらくの沈黙ののち私は、
「『これで手紙を書くのも最後かもしれない』と書いてあった。『いつ自分も感染するかもしれない』と」
「そうだったの。キーナ」
「すまない、エマリー。
怖くて言えなかったんだ。それに、もし帰ってくるかもって思うと、言い出せなくて、そうしたら、5年も経ってしまったんだ」と言うと、私は、泣いていたようだ。
エマリーは、そんな私により沿うように、なだめてくれた。
「父も結構な歳になってきたので、領地のことをすることにしたよ。そろそろ、婿探しもするつもりだ。気持ちを切り替えることにするよ」
若き日、貴族の生活が嫌で自由を求めて大海原に出た私だが、結局は、貴族のしきたりに従うことになったのだ。
しかし、後悔はしていない。
もし、自由を求めなければ、恋愛などすることはなかっただろう。
見合いで連れられて来た貴族の三男あたりと結婚し、退屈な余生を過ごしただろう。
こんなに胸を焦がす思いも知らなかっただろう。
こんなにエマリーが、頼もしいとは知らなかっただろう。
こんなに仲間といるのが、楽しいとは知らなかっただろう。
「お頭、今日はライン川のウナギが手に入りましたよ。燻製にしますね」と言ったのは、砲術長をしていたヤスミンだ。
エマリーがヤスミンに手を振っている。
私たちは、船を降りても仲間なのだ。
そして、翌年、伯爵家の三男と結婚し、彼は入り婿となった。
貴族の三男であるのに、騎士にもならず、文官にもならず、このままではどうなるのか? というような男であったが、我が領地に来ることで、救ってやったというわけだ。
そして、彼とは、男の子二人を授かった。
にもかかわらずである。
この入り婿ときたら、実家の長男が亡くなったことに乗じ、実家に戻ろうとしている。
また、妹がそれを後押しており、次男と相続権を争っているようだ。
なので、1年のうちで、私のもとに帰ってくるのは、2か月ぐらいだろうか?
次回は最終回、未来への鍵
私は、夏の暑い太陽が注ぐ海の上にいた。
大西洋をアフリカよりのところにいた。
スペインの商船が西インド諸島へ行く、あるいは帰るのを襲うためだ。
太陽を見上げては、ため息をつくのが癖になっていた。
それを見たクルー達が、
「そんなにため息を付くぐらいなら、シュベルツ海賊団と一緒に行けば、良かったではないですかね」
そんなやり取りが、ここしばらく続いていた。
シュベルツ海賊団が出航する日には、見送りに行った。
相手は社交辞令として、キスをしたのだろうが、生まれてこの方、“貴族令嬢が軽々しくキスをするなど!”という環境だったので、実は、生れて始めてキスをした。
なので、盛大に赤くなって、トマトになっていた。
恥ずかしかった……
そして、イリーゼに盛大にバカにされるんだがな。
「トマトだっちゃ!」と。
「お前たちを残して、私だけ行けるかよ」
「何言ってんですか、お頭。私達もついていきますよ」
「それこそダメだ。私のために人生、狂わせるわけにはいかない」
すると、皆が、やれやれって感じで肩をすくめている。
私は、皆には、海賊をいずれ止めても、普通に暮らして欲しいと思っている。
私も、いずれ領主として実家に戻らなくてはいけない。
私だけ、実家の領地があるのはズルいのだ。皆、幸せになってほしい。それだけが私の願いなのだから。
そして、1年が経過した。
シュベルツからは、何度か、手紙が届いた。
大きな港に着くと書いてくれたようだ。
なんとも、うれしいではないか。
移動している船に、返事が書けないのが残念なのだが、『先に付く港を書いてくれたら、書けるのになぁ』と思っていたが、オーストラリアからは、北上するらしく、大きな港はないらしい。
それでも、一度は書いた。
うまく届いたらしく、喜んでもらえた。
しかし、この数か月、そろそろ、ワークワーク島に着いてもよいはずなのに、手紙が途絶えた。
居ても立っても居られなくなり、今すぐにでも会いに行きたかった。
しかし、どこにいるのかわからない。
できるだけ、東方へ行く船には、シュベルツの情報を何でも良いので知らせてほしいと頼んでいたが、それらしい話は聞けなかった。
そして、約束の2年が経過した。
しばらくは、イングランドにいたが、スペインと海戦が起こるみたいだな。
スペインは相当やる気になっているようだ。
国王のフェリペ2世が、自ら指揮を執ると言っている。
私は、戦争には参加しないつもりだ。
自由を求めて海原に出たが、国家間の戦争とは、自由とは逆方向にある上、ドイツ出身の貴族がイギリスの見方もおかしな話だ。
海戦が始まる前に、海賊団は解散することにした。
貯めた財産は船員で山分けにするつもりだ。
「私のことは心配なく、皆で分けるんだよ」と言っておいた。
「私は、この船を売れるんだから、幾分かカネになるからね」と、さらに付け加えた。
故郷に帰る者、旅に出る者、別の海賊団に入る者がいたが、行く当てのない者は、私の領地とエマリーの商会で働くことになった。
エマリーとは、商売でよくわが領地にきてもらっているので、顔を合わせることがある。
皆、元気らしい。
「もう、あれから5年ね」とエマリーが言った。
「ああ、もう5年だな」
「シュベルツ海賊団は、帰ってこなかったね」
そうなのだ、結局、彼らは、誰一人と帰って来なかった。
そして、最後の彼からの手紙の内容は、船員たちには話していない。
「実は、彼らは、オーストラリアから北上したあたりで、風土病らしきものに感染したみたいなんだよ」
「えっ、そんな話は聞いてないよ」
「すまない、怖くて話せなかったんだ」
「それで、どうなったの?」
「クルーの大半が高熱を出して、半数が死亡した、したんだ」
しばらくの沈黙ののち私は、
「『これで手紙を書くのも最後かもしれない』と書いてあった。『いつ自分も感染するかもしれない』と」
「そうだったの。キーナ」
「すまない、エマリー。
怖くて言えなかったんだ。それに、もし帰ってくるかもって思うと、言い出せなくて、そうしたら、5年も経ってしまったんだ」と言うと、私は、泣いていたようだ。
エマリーは、そんな私により沿うように、なだめてくれた。
「父も結構な歳になってきたので、領地のことをすることにしたよ。そろそろ、婿探しもするつもりだ。気持ちを切り替えることにするよ」
若き日、貴族の生活が嫌で自由を求めて大海原に出た私だが、結局は、貴族のしきたりに従うことになったのだ。
しかし、後悔はしていない。
もし、自由を求めなければ、恋愛などすることはなかっただろう。
見合いで連れられて来た貴族の三男あたりと結婚し、退屈な余生を過ごしただろう。
こんなに胸を焦がす思いも知らなかっただろう。
こんなにエマリーが、頼もしいとは知らなかっただろう。
こんなに仲間といるのが、楽しいとは知らなかっただろう。
「お頭、今日はライン川のウナギが手に入りましたよ。燻製にしますね」と言ったのは、砲術長をしていたヤスミンだ。
エマリーがヤスミンに手を振っている。
私たちは、船を降りても仲間なのだ。
そして、翌年、伯爵家の三男と結婚し、彼は入り婿となった。
貴族の三男であるのに、騎士にもならず、文官にもならず、このままではどうなるのか? というような男であったが、我が領地に来ることで、救ってやったというわけだ。
そして、彼とは、男の子二人を授かった。
にもかかわらずである。
この入り婿ときたら、実家の長男が亡くなったことに乗じ、実家に戻ろうとしている。
また、妹がそれを後押しており、次男と相続権を争っているようだ。
なので、1年のうちで、私のもとに帰ってくるのは、2か月ぐらいだろうか?
次回は最終回、未来への鍵
0
あなたにおすすめの小説
彼の巨大な体に覆われ、満たされ、貪られた——一晩中
桜井ベアトリクス
恋愛
妹を救出するため、一ヶ月かけて死の山脈を越え、影の沼地を泳ぎ、マンティコアとポーカー勝負までした私、ローズ。
やっと辿り着いた先で見たのは——フェイ王の膝の上で甘える妹の姿。
「助けなんていらないわよ?」
は?
しかも運命の光が私と巨漢戦士マキシマスの間で光って、「お前は俺のものだ」宣言。
「片手だけなら……」そう妥協したのに、ワイン一杯で理性が飛んだ。
彼の心臓の音を聞いた瞬間、私から飛びついて、その夜、彼のベッドで戦士のものになった。
転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました
桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。
言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。
しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。
──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。
その一行が、彼の目に留まった。
「この文字を書いたのは、あなたですか?」
美しく、完璧で、どこか現実離れした男。
日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。
最初はただの好奇心だと思っていた。
けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。
彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。
ヤンデレ王子を闇落ちから救ったら愛執まみれの独占欲に囚われました
大江戸ウメコ
恋愛
幼い頃に精霊の祝福である未来視の力が開花し、「夫である第二王子ナハルドに殺される」という己の運命を知った伯爵令嬢ツィーラ。この悲惨な未来を変えるべく、ツィーラは彼を避けようとしたが、ひょんなことから婚約者に選ばれてしまった! ならば、ナハルドが将来闇落ちしないよう、側で彼を支えることを決意する。そんな努力の甲斐あって、ツィーラへの好意を隠さず伝えてくるほど、ナハルドとの関係は良好になった。だけど、彼の並々ならぬ執着心のすべてを、ツィーラはまだ知らなくて――
里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます
結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります>
政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・?
※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
バッドエンド予定の悪役令嬢が溺愛ルートを選んでみたら、お兄様に愛されすぎて脇役から主役になりました
美咲アリス
恋愛
目が覚めたら公爵令嬢だった!?貴族に生まれ変わったのはいいけれど、美形兄に殺されるバッドエンドの悪役令嬢なんて絶対困る!!死にたくないなら冷酷非道な兄のヴィクトルと仲良くしなきゃいけないのにヴィクトルは氷のように冷たい男で⋯⋯。「どうしたらいいの?」果たして私の運命は?
つまらない妃と呼ばれた日
柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。
舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。
さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。
リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。
――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。
短編【シークレットベビー】契約結婚の初夜の後でいきなり離縁されたのでお腹の子はひとりで立派に育てます 〜銀の仮面の侯爵と秘密の愛し子〜
美咲アリス
恋愛
レティシアは義母と妹からのいじめから逃げるために契約結婚をする。結婚相手は醜い傷跡を銀の仮面で隠した侯爵のクラウスだ。「どんなに恐ろしいお方かしら⋯⋯」震えながら初夜をむかえるがクラウスは想像以上に甘い初体験を与えてくれた。「私たち、うまくやっていけるかもしれないわ」小さな希望を持つレティシア。だけどなぜかいきなり離縁をされてしまって⋯⋯?
【完結】番としか子供が産まれない世界で
さくらもち
恋愛
番との間にしか子供が産まれない世界に産まれたニーナ。
何故か親から要らない子扱いされる不遇な子供時代に番と言う概念すら知らないまま育った。
そんなニーナが番に出会うまで
4話完結
出会えたところで話は終わってます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる