【完結】ヴィルヘルミーナの白い海賊船 ―自由と冒険を愛する貴方へ― (海賊令嬢シリーズ1&2)

SHOTARO

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【第1部】―真珠の白を薔薇色に染上げて―

10.女海賊団解散

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10.女海賊団解散

 私は、夏の暑い太陽が注ぐ海の上にいた。

 大西洋をアフリカよりのところにいた。
 スペインの商船が西インド諸島へ行く、あるいは帰るのを襲うためだ。
 太陽を見上げては、ため息をつくのが癖になっていた。

 それを見たクルー達が、
「そんなにため息を付くぐらいなら、シュベルツ海賊団と一緒に行けば、良かったではないですかね」
 そんなやり取りが、ここしばらく続いていた。

 シュベルツ海賊団が出航する日には、見送りに行った。
 相手は社交辞令として、キスをしたのだろうが、生まれてこの方、“貴族令嬢が軽々しくキスをするなど!”という環境だったので、実は、生れて始めてキスをした。

 なので、盛大に赤くなって、トマトになっていた。

 恥ずかしかった……
 そして、イリーゼに盛大にバカにされるんだがな。
「トマトだっちゃ!」と。


「お前たちを残して、私だけ行けるかよ」
「何言ってんですか、お頭。私達もついていきますよ」
「それこそダメだ。私のために人生、狂わせるわけにはいかない」
 すると、皆が、やれやれって感じで肩をすくめている。

 私は、皆には、海賊をいずれ止めても、普通に暮らして欲しいと思っている。
 私も、いずれ領主として実家に戻らなくてはいけない。
 私だけ、実家の領地があるのはズルいのだ。皆、幸せになってほしい。それだけが私の願いなのだから。

 そして、1年が経過した。

 シュベルツからは、何度か、手紙が届いた。
 大きな港に着くと書いてくれたようだ。
 なんとも、うれしいではないか。

 移動している船に、返事が書けないのが残念なのだが、『先に付く港を書いてくれたら、書けるのになぁ』と思っていたが、オーストラリアからは、北上するらしく、大きな港はないらしい。
 それでも、一度は書いた。
 うまく届いたらしく、喜んでもらえた。

 しかし、この数か月、そろそろ、ワークワーク島に着いてもよいはずなのに、手紙が途絶えた。

 居ても立っても居られなくなり、今すぐにでも会いに行きたかった。
 しかし、どこにいるのかわからない。
 できるだけ、東方へ行く船には、シュベルツの情報を何でも良いので知らせてほしいと頼んでいたが、それらしい話は聞けなかった。

 そして、約束の2年が経過した。

 しばらくは、イングランドにいたが、スペインと海戦が起こるみたいだな。
 スペインは相当やる気になっているようだ。
 国王のフェリペ2世が、自ら指揮を執ると言っている。

 私は、戦争には参加しないつもりだ。

 自由を求めて海原に出たが、国家間の戦争とは、自由とは逆方向にある上、ドイツ出身の貴族がイギリスの見方もおかしな話だ。

 海戦が始まる前に、海賊団は解散することにした。
 貯めた財産は船員で山分けにするつもりだ。

「私のことは心配なく、皆で分けるんだよ」と言っておいた。
「私は、この船を売れるんだから、幾分かカネになるからね」と、さらに付け加えた。

 故郷に帰る者、旅に出る者、別の海賊団に入る者がいたが、行く当てのない者は、私の領地とエマリーの商会で働くことになった。

 エマリーとは、商売でよくわが領地にきてもらっているので、顔を合わせることがある。
 皆、元気らしい。

「もう、あれから5年ね」とエマリーが言った。
「ああ、もう5年だな」
「シュベルツ海賊団は、帰ってこなかったね」

 そうなのだ、結局、彼らは、誰一人と帰って来なかった。

 そして、最後の彼からの手紙の内容は、船員たちには話していない。
「実は、彼らは、オーストラリアから北上したあたりで、風土病らしきものに感染したみたいなんだよ」
「えっ、そんな話は聞いてないよ」
「すまない、怖くて話せなかったんだ」
「それで、どうなったの?」

「クルーの大半が高熱を出して、半数が死亡した、したんだ」

 しばらくの沈黙ののち私は、
「『これで手紙を書くのも最後かもしれない』と書いてあった。『いつ自分も感染するかもしれない』と」
「そうだったの。キーナ」
「すまない、エマリー。
 怖くて言えなかったんだ。それに、もし帰ってくるかもって思うと、言い出せなくて、そうしたら、5年も経ってしまったんだ」と言うと、私は、泣いていたようだ。
 エマリーは、そんな私により沿うように、なだめてくれた。

「父も結構な歳になってきたので、領地のことをすることにしたよ。そろそろ、婿探しもするつもりだ。気持ちを切り替えることにするよ」

 若き日、貴族の生活が嫌で自由を求めて大海原に出た私だが、結局は、貴族のしきたりに従うことになったのだ。
 しかし、後悔はしていない。

 もし、自由を求めなければ、恋愛などすることはなかっただろう。

 見合いで連れられて来た貴族の三男あたりと結婚し、退屈な余生を過ごしただろう。
 こんなに胸を焦がす思いも知らなかっただろう。
 こんなにエマリーが、頼もしいとは知らなかっただろう。
 こんなに仲間といるのが、楽しいとは知らなかっただろう。

「お頭、今日はライン川のウナギが手に入りましたよ。燻製にしますね」と言ったのは、砲術長をしていたヤスミンだ。
 エマリーがヤスミンに手を振っている。
 私たちは、船を降りても仲間なのだ。


 そして、翌年、伯爵家の三男と結婚し、彼は入り婿となった。
 貴族の三男であるのに、騎士にもならず、文官にもならず、このままではどうなるのか? というような男であったが、我が領地に来ることで、救ってやったというわけだ。
 そして、彼とは、男の子二人を授かった。

 にもかかわらずである。

 この入り婿ときたら、実家の長男が亡くなったことに乗じ、実家に戻ろうとしている。
 また、妹がそれを後押しており、次男と相続権を争っているようだ。
 なので、1年のうちで、私のもとに帰ってくるのは、2か月ぐらいだろうか?


 次回は最終回、未来への鍵
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