【完結】ヴィルヘルミーナの白い海賊船 ―自由と冒険を愛する貴方へ― (海賊令嬢シリーズ1&2)

SHOTARO

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第2部 第一章 お転婆令嬢、海賊になる!

2-1-9.ジプシーのアン

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第九話
ジプシーのアン



 男たちは、海に捨てられてしまった。
 中世温暖期とは言え、10月の海は泳ぎたくはないだろう。

 さて、この女だ。
 先日のアナとヘマとは、明らかに身なりも顔立ちも違う。

 中東辺りの者か?
 あまり良い身なりではない。

「ありがとうございます。ありがとうございます」
「まずは、訳を話してもらおう」と、私が言う頃には、船員たちが集まって来た。

「はい、私は、いわゆるロマです。放浪者です」
 なんと、ロマか!
 これは想定外だ!
 想定外のハプニングだ。

 同性愛者を船に乗せたのとは、ケタ違いのトラブルだ。
 ロマを匿ったとなると、教会、貴族、庶民問わず、すべての人々の嫌悪の対象にされかねない。
 それほど、この時代、ロマは嫌悪されていた。

 そう、私自身、ロマはウソつきだと思っている。
 それは、彼らがこの地に来て、「低地エジプトから来ました。教皇様の許可を得て、巡礼をしています」と言い、ヨーロッパ各地を巡礼をした。

 そして、巡礼者は食事や宿を無償で与えられる。この制度を利用して、時に教皇様の、時に領主様の、時に皇帝様の許可を得て、巡礼をしている。
 と言って、何十年も巡礼をしているのだから、ウソに決まっている。

 このウソは、やってはいけないウソだ。

 これは許されない、許してはいけないウソなのである。

 そして、彼らは庶民からは嫌悪の対象となり、各地の領主からは取締りの対象となり、迫害され数百年が経過した。

 また、『低地エジプトから来た』という彼らを、蔑視を込めて、“ジプシー”と呼ぶ者もいた。

 この娘を仲間にするということは、カトリックやプロテスタントという枠組みでなく、ヨーロッパ全土から弾き出されてしまう。

 私には、判断出来ない。


「ロマのお嬢さん、今まで、どう過ごしてきたの?」と、クリスティアーネが聞いた。
 すると、「はい、各地を仲間の馬車で巡り、歌や音楽でおカネを稼いでいました」
「何日ぐらい街にいるの?」
「その日の夜には旅立ちます」

 はぁん、クリスティアーネのヤツ、税金のことを聞いたのだな。
 つまりだ。役所に収入の申告をせずに立ち去ったことを、確認したのだ。

 今で言う、所得税は当然ある。
 その他にも、通行税がある。
 その通行税が陸だと高いので、今、海上運搬が盛んなのだ。

 まあ、この娘が脱税者ということも、分かった。
 申し訳ないが、お断わりしようと思う。
 スマンな。

「お嬢さん、申し訳ないのだけれど、次の港で降りてくれる」と、私が言うと、アガーテとアンナが、ハッとした顔をした。何故だ?
 脱税者を囲む訳には、イカンでしょうよ。

 私は、この娘に、何故、追われているのかを説明してやった。

 すると、
「払っておやりよ」という声が聞こえた。
 それは、イリーゼだった。

「何ならカシにしておいても、良いんだよ」
 私は、返答ができなかった。ただ、額に汗を流すのみだ。

「ミーナ、見損なったよ。
 キーナ・コスペル海賊団にはロマもいた。
 不倫で家を追い出された女もいた。
 妾の子供だと虐められて、泣きながら入団を乞うものもいた。
 そんな彼女たちを受け入れたキャプテンは、ただキャプテンと自分に自由ある未来を信じることが出来るか、どうかだったよ。
 今のミーナに自由のある未来があるかね?
 ミーナ、お前の旗印は何だ?」

 確かにそうだ。
 ただ、お祖母様に憧れていた。
 自由に大海原を駆け巡りたい。
 お祖母様の様な恋愛をしたい。
 それだけだった。

 しかし、この数日で、私と共にしても良いという“仲間”が集まった。

 クリスティアーネは貴族だが、弱小貴族で領地も小さい。
 領地も南部にあるため、いつオスマントルコ帝国に襲われるかもしれない。
 そんな領地の娘と結婚すると、オスマントルコ帝国が侵攻した際、妻の実家を見殺しにする訳も行かず、オスマントルコ帝国と戦わないとイケないではないか。
 とんでもない不良債権だ。

 アガーテは、実家は騎士家だ。
 父の後は兄が家を継ぐから、今のところは大丈夫なのだが、妹がうちに行儀見習いに来て、海賊していますとバレると家の大事だ!
 しかし、「家士たるもの領主に使えるのが義務」と、吹っ切れたようだ。

 アンナは、「漁師の私がいないと、お嬢様がお困りになるでしょう」、だから付いていくそうだ。
 一番気楽に感じる。助かる。

 アンとヘマは、宗教的理由で祖国を追い出された。祖国にいると処刑されると聞く。

 皆、何らしかに縛られて生きてきた。
 
 家柄も人を救えなかった。
 宗教も人を救えなかった。
 法律も人を救えなかった。
 

 なら、人を救えるのは何か?

「自由」
「……」
「そう、自由だ。
 自由になる権利は、貴族だろうが、庶民だろうが、誰しも平等に行使すべき権利。すべての縛りから解き放たれること、すなわち……
『自由』だ。
 自由と平等の権利を有する者、すべての縛りから開放された者。
 これ則ち、海賊なり」

 私の言葉に、誰もが黙っていた。

「ロマの娘、海賊だ。海賊になる勇気はあるか?」
「は、はい。難しいことはわかりませんが、海賊でもなんでもやります」
「何ができる?」
「う、歌と音楽が出来ます」

 えっ、ロマだから、歌と音楽か……

 すると、イリーゼが助け舟を出した。
「海賊には、音楽は大事だね。時に音楽を鳴らして鼓舞するものさ」
「うん、では頼む。それと、名前が名乗れないのなら、“ジプシー・アン”だ。アンを名乗れ」
「はい、わかりました」
 こうして、アンの入団を認めた。

 このことが、いずれ来る戦闘を早めることになろうとは、今の私には分からなかったのだ。


 次回の女海賊団は、イザベラパトロール艦隊です。
 乞うご期待!
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