握力令嬢は握りつぶす。―社会のしがらみも、貴公子の掌も握りつぶす― (海賊令嬢シリーズ5)

SHOTARO

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第二章 握力令嬢、修道女になる

2-2.シスター・ヴィルヘルミーナですわ(笑)

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 ドイツ騎士団の本拠地であるバート・メルゲントハイムに着き、ハインリヒ・フォン・ボーベンハウゼン総長の帰りを待っていた。

 すると、ドアがノックされ、総長が帰ってきたと連絡を受けると、
「礼拝堂でお待ちです」とのことだ。
 何故、礼拝堂なのだろうか?

 考えても仕方がないので、アンと共に、礼拝堂に行くこととした。
 そこで待っていたのは、総長以下の騎士だけでなく、修道服の者たちが数人ほどいる。

 ここで、付け加えておかないといけない。
 16世紀の帝国と言えば、宗教改革に宗教戦争の真っただ中なのだ。
 ところが、ここバート・メルゲントハイムは、そんなものとは無縁の土地。
 まったく影響下にない珍しい地方なのだ。
 だから、旧教しかない。
 いや、新教の影響もあったが、以前の騎士団の総長が旧教にしたようだ。 
 ただ、どの会派が仕切るかは別問題で、旧教だから一本でもないのだから、人の欲とは無限のようだ。

「ようこそ、ドイツ騎士団城へ。ブランデンブルク辺境伯様から事情は聴いております。大変でしたね」と総長。
「突然のことで申し訳ございません」などとあいさつを交わし、今後の説明を受けることになったが、そこで修道士が前に出てきた。

「ヴィルヘルミーナ嬢、そなたは、新教徒のようですので、ここで旧教に改宗していただきます」
「はあ?」と、この時代の人間としては反応が薄いと言えるだろう。
 正直、私は、新旧にとらわれていないし、「信じるのは神であり、てめえじゃねぇ」という考えだ。

「では、誓願を行っていただきます」
「そうですか」と、また薄い反応をしていた。
「とりあえず、単式の誓願ですので、これで貴女は、この修道会のシスターです」
「えっ?」、この私がシスター?

 ウィーンの握力令嬢も、この森の中ではシスターですって!
 田舎って良いなぁ……
と思うと、しみじみとした気分になり、涙ぐんでしまった。

 それを見た、修道士や騎士たちが、いたく感動しているようだ。
 おそらく、それは”美しい勘違い”と言う奴だと思うよなぁ。

 その中から、修道女が一歩前に出って、私にこう言ったのだ「シスター・ヴィルヘルミーナ! これに着替えてください」と言って修道服を渡された。
 何と地味なぁぁ。
 とても若いお嬢様の着る服ではないわ。

 修道服というと白黒なのだが、この修道院の修道服は、ほぼ真っ黒。

 すると、アンが「あの、お嬢様が修道服を着て修道女になるのですか?」と言った。
「お付きの方、命を狙われているとお聞きしました。人を隠すなら人の中です。ましてや修道院の中となると外部からは入れません」と騎士団の騎士が説明してくれた。
 私もそう理解している。春になれば、故郷に帰るのだから、半年程度のこと。

 すると、先ほどの修道女が、「修道女ではありませんよ、シスターです」

 何のことか新教徒には、さっぱりわからないのだけれど、どうやら、修道女とやらは盛式誓願を行った者、単式誓願を行った者はシスターということになるので、格下ということだ。
 新教には修道女などいないので、ピンとこないところだ。

 この様に、私はシスターということで、学園生活の様な早寝早起きの集団生活を過ごすことになるのでした。
 となると、アンは付いてきたけど、どうするのよ?


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