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第二章 握力令嬢、修道女になる
2-3.もうすぐクリスマスですわ!
しおりを挟むさて、部屋に戻り、早速、修道服に着替えてみた。
一言断っておくと、想像上の「シスター」というイメージと、現実は異なるということを先に言っておく。
若くて美人な女性がシスターであって欲しいという願望は、古今東西にあるようだが、若くて美人が修道院に来るかどうか考えてみろと言うものだ。
修道院に来るということは、訳アリなのだ。
訳アリの女が美人だと、あれじゃ。
さて、真っ黒の修道服に着替えると、確かに、周りからは誰が誰だかわからない。これなら、暗殺者の眼をごまかせるだろうか?
それに、ここは外部の者が入ることのできない修道院なのだ。
ただ、例外もある。
こちらから出かける時と、恒例行事だ。
そう、冬の恒例行事と言えば!
クリスマスだ!
クリスマスと言えば、クリスマスクッキーね。
そこで考えたのだけれど、あれを私が焼くの?
「ア、アンッ! クッキーって、どうやって焼くの?」
「お嬢様、如何なされました?」と、アンが言うので、私の不安を吐露してみた。
「そうですね、私が屋敷にいたころは、薄力粉、砂糖に卵に無塩バターを用意しまして」
「うんうん」とアンの話を聞いていたのだけれど、よくわからんのよ。
「薄力粉はフランスのものはタンパク質が多いので私は使いません。北欧産のバイオレットが適量かと思います」
何のことなの? アン?
タンパク質が多いとダメなの?
「すると、ふんわりとケーキの出来上がりです」
「いや、クリスマスクッキーを作るのですわ。ケーキ―は……卵は高価だし」
さて、クリスマス近し!
ということで、やはり修道院では、定番のクリスマスクッキーを作ることになった。
当然、私が料理など、生まれてはじめてに決まっているわけで、実は、びくびくしながら厨房に立っていた。
しかし、幸いなことに、お菓子作りには包丁は使わないので、ホッとした。
クッキーなのだから、かき混ぜて焼くということで助かったわ。
さて、使用人のアンなのだけれど、行き場がないので、修道院の住み込みとなった。
規律として、私の使用人という立場で行動してはいけないことにはなっている。だから、私のお世話はダメということだ。
ワタクシとて、学園生活を通じて、身の回りのことは出来るつもりだ。
そんな日々を過ごしていると、郊外の孤児院へ訪問することとなった。
どうやら、ドイツ騎士団修道院からは毎月一回、訪問をしているとのことで、孤児たちのお相手をするのが仕事のようだね。
ちょっと気になったのが、この地域は宗教改革や宗教戦争と無縁の土地なのだけれど、若干、影響があったのがこの村と聞いたのだ。
「う~ん、何もないと思いますけれどね」と、私は思っていたのだけれど、自身の命を狙われるぐらいに、トラブルを引き寄せる体質なのだ。
しかし、私自身はまったく自覚していない。
おそらく、「私はトラブル体質なの」とか言っている人を見たことが無いのだから、自覚した人はこの世にいないと思うなぁ。
さて、先輩の修道女二人と私の三人が、問題の孤児院に到着すると。
「こんにちは!」と、孤児たちの明るい声が聞えてきた。
まあ、小さきものは、皆、いとうつくし!
しかし、こんな村の外れの孤児院に宗教改革の波が押し寄せていたとは、私は気が付くはずもなかった。
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