握力令嬢は握りつぶす。―社会のしがらみも、貴公子の掌も握りつぶす― (海賊令嬢シリーズ5)

SHOTARO

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第二章 握力令嬢、修道女になる

2-4.クリスマスまで待てるはずもなく

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 子どもたちの歓迎で、すっかり和んでしまったが、院長先生に出来立てのクッキーを渡すことになった。

 先輩の配慮なのだろうか?
 これを作った私から渡すように言ってくれたのは。

「いつも、ありがとうございます。さあ、皆さん、お礼を言いましょうね」と院長先生が子供たちに礼をするように言っている。
 しかし、次の瞬間には、もう「食べたいぃッ」と幼女が駄々をこねているわ。

「クリスマスはまだよ。我慢しましょうね」と、院長先生。
 いやぁ、和みますねぇ。

「シスター・ヴィルヘルミーナ! 子どもたちと歌を歌って」
「あっ、はい」と、返事をすると子どもたちと聖歌を歌うことになった。

 その頃、ドイツ騎士団修道院では。

「総長様、ヴィルヘルミーナ嬢は、単式の誓願でなく、盛式の誓願をされた方がよろしいのではないでしょうか?
 貴族令嬢が修道院で修道女になるケースは珍しくはありません。彼女としても拍が付くというものですし、ブランデンブルク辺境伯様にも顔が立つというものです」
「そうだな。司祭殿の言う通り、機会を見つけて正式に修道女になってもらおう」
「はい、なんなら、この先も、ここにいてもらっても結構ですし」
「となると、ホーエンツォレルン家からの献金もあてになると」
「そのようなことは、言っておりません。総長様」
「いや、騎士団への献金は、あれだな」
「……」

 一方、ヴィルヘルミーナをドイツ騎士団へ送り込んだ、ブランデンブルク辺境伯は。

「行ったか。あの怪力娘は……騎士団で女騎士にでもしてもらえば、有り余った体力を使うのに良いだろう」
と、皆が、ちぐはぐなことを思っていたとは、当然、当事者の私が知る由もなかった。


 いや、私は歌を歌うはずだったが、何故か、本棚の狭い隙間に隠れていた。
 先程の「クッキーがクリスマスまで待てない」と言っていた幼女が、「かくれんぼうをしたい」ということで、隠れているのだが……
 そろそろ苦しい。
 出して欲しい……

「お姉ちゃん、どこぉ?」と、幼女が近くまで来るも、過ぎ去ってしまう。
「ここにいるから、早く見つけなさいよ」

 その頃、先輩修道女二人と孤児院の院長先生は応接間で話していた。

 それは、孤児院の出資教会が変わったということだ。

 そう、ここ宗教改革と無縁の地で僅かであるが、新教に改宗した村がここなのである。
 そして、教会も新教だった時は、新教徒から献金も多く集まり、順調に運営出来ていたが、数年前、この領地は旧教となったため、新教徒からの出資が減った。
 だからといって、旧教徒が支援してくれればよいのだけれど、そう簡単にはいかなかった。

 理由の一つとしては、新教徒はカルヴァンの予定説のように、商売や金儲けを悪と見ていないが、旧教徒にとって金儲けは悪なのだ。
 だから、裕福層は新教を好むわけだ。
 支店がどうのこうのと言って、新教徒の領主のいるところへ移っているのではないだろうか?
 そういえば、あのアインス商会も、元々はうちの領地とは違ったような……

 まあ、とどのつまり、「孤児院はいつ畳むか」と、院長先生は修道女二人に相談していたのだ。
 修道院で、孤児院か最悪でも孤児だけでも、引き取ってくれないかとか。


***

 待てど暮らせど、私を見つけてくくれない。
 かくれんぼうで、見つけてくれないことの悲しさをおもいしることになるとは、トホホ。
 仕方がないので、自ら出て行くことにしましたよ。
「あ……お嬢ちゃん? どこぉ?」と、隠れている方が「どこ?」って。

 そぉっと、出て行くと、誰もいない……
 それは、仕方がないということで、出て行くと、クリスマス用のクッキーをあの幼女が食べているでは!
「こいつめぇ。私を放置して、クリスマス前にクッキーを……」


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