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第二章 握力令嬢、修道女になる
2-6.握力令嬢復活!
しおりを挟む「メリメリメリメリィィィッ!」という音が、孤児院の廊下で鳴り響く。
それは、美しい音。
そんなはずはなく、頬から血を流す男と、それを見て慌てふためく二人の男達。
理解をしていない孤児もいれば、「こわい。こわい」と泣いている子供もいる。
そんな中、クライネスは飄々としていた。
「お姉ちゃん、やっちゃえ」と。
実は、この三人の男が人さらいみたいなことを言い始めたので、私と口論になった際、クライネスが食べていたクッキーを男たちが、取り上げてしまったのだ。
それを見て、クライネスが「返して!」と言うものだから、調子に乗った男が、「言うことを聞かないと、こうだ!」と食べてしまった。
「このクッキー、硬いし、マズイ」
「マズいですって……」
「お姉ちゃんのクッキー、マズくないから返して」
「うるさい」と、蹴り飛ばしてしまった。男としては、つい反射的にしてしまったのだろう。
「おい、大事な商品だ」
「何ですって、今、何と言いましたかッ」と、私は、人生初料理のクッキーを食べてくれたこの娘が、蹴り飛ばされた上、「売り飛ばしてしまおう」というこの連中に対し、正義の鉄槌を、いや掌を振りかざしてしまった。
「お前らは、子取りだったのだな」
とは言え「子取り」など、この時代、いくらでもいる。表向きは禁止されているが、親の眼を離したすきに、誘拐し売り飛ばしてしまう。※1
時に、労働力として、時に愛玩として。
そして、今は、新大陸の開拓で人手が不足している。
開拓する者。
商品を運ぶ者、売りさばく者。
そして、それらを奪う者。
すべてが足らない。
足らないから、奪う。
しかし、教会がそれと関与しているのか? ※2
そこに、院長先生たちが駆けつけた。
「皆さん、これは一体。どうしたということ」
「シスター・ヴィルヘルミーナ。何がありましたか?」と先輩が尋ねるも、次の瞬間には、血を流している男を見て軽く悲鳴を上げていた。
これは、素晴らしいわ。大声で悲鳴を上げなかったのは、我が先輩、褒めて差し上げますわ。
私は、捕まえた男を残りの二人の男目がけ投げつけた。
二人の男は上手く取ることが出来ず、尻もちをついてしまった。
投げられた男が頬から血を流しているので、それを見たデリアさんが卒倒しているじゃない。
男は頬から血を流し、子供は「こわい、こわい」と泣き、他の子どもは半べそながらも「デリア先生ぇ」と、卒倒しているデリアさんを起こしている。
そして、その真ん中には魔人の様なデカい女が、バベルの塔のようにそびえ立っている。
まさに、地獄絵図だ。
で、バベルの塔のような女とは、誰だ?
やはり、私だ!
「シスター・ヴィルヘルミーナ。訳を説明して」と、先輩に言われて、私は気を落ち着かせた。
「ええ、皆さま。この男が孤児院を売り飛ばすだけでなく、この子供たちも売り飛ばすと言い、「嫌だ」という、この子を蹴り飛ばしましたの。人身売買にかかわる者ですわ」
すると、院長先生が、「今日のところはお引き取りください。教会からも、孤児院を売るとは聞いておりませんし、ましてや子供を売るなど聞いておりません」と、きつく言い放った。
すると、男たちは「また来る」と言って、帰って行った。
「なんだかのぉ。どこもかしこも物騒じゃないの。この帝国内は」
※1 子取りの買い取り手は、貴族。
※2 教会は黙認
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