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第二章 握力令嬢、修道女になる
2-7.暴力シスターですって?
しおりを挟む「ヴィルヘルミーナは、ベルリンに行っていないのは間違いないのだな」
「はい、クレマンティーヌさま」
「では、領地に帰ったのか?」
「クレマンティーヌさま、今のところ確認はされておりません」
「アレクサンドラ、アインス商会の連中は?」
「はい、まだ、ウィーンでございます」
「うん、おそらくアインス商会がヴィルヘルミーナと接触する可能性がある。会長と娘を張っておくように!」
「「「はい、お嬢さま」」」
ブルゴーニュの亡霊たちが、その様な会話をしていたとは、つゆ知らず、私はエマリーに手紙を書くことにした。
先日の孤児院のことについてだ。
つまり、この孤児院を買い取ることは、我々に可能だろうか? という内容になる。
とはいえ、21世紀の価値で見ても、この規模の孤児院なら年間にして、2億円程度は必要だろうか。
新教徒って、やはり有難いじゃないの。
それと、あのクライネスとは、この一件以来、近い関係になった。
実は、あのクッキーは、焼き立ての時は自画自賛するぐらい美味しく感じたのだけれど、今、改めて食べてみると、「うん、確かに硬いわ」。
あの子は、これを黙々と食べてくれたのかと思うと、クリスマスまで待てなかったこと等、もうどうでも良いわ。
私は、クライネスがとても愛おしいと感じるようになった。
「次は、美味しく焼くからね。クライネス! ふふふ」
さて、この日は、とある教会へ修道女数人で向かっていた時のこと。
すると、街の人たちが、ひそひそ話をし、どことなく私を見ているように感じた。
「あの人なんて、どうかしら」
「そうかもね。背も高いし」
あの人とは、私か?
「聞いたよ。男が顔面から血を流して、逃げていたそうじゃないか」
「あぁ、襲ったのはドイツ騎士団の修道女って言うから」
あぁ、そういうことか……
そこだけ、切り取られたのだな。
まるで、どこかの国のマスコミじゃないか!
そして、聞こえたのだ。この様な言葉が。
「暴力シスターですって!」
その声が聞えた時には、私の心臓が「ドキッ」と高鳴りを上げた。
私は、大柄な体を小さくし、俯きながらその通りを早足で通り過ぎようとしたが、困ったことに年配の修道女がいて、なかなか進まなかった……
そんな中、エマリーからの手紙が届いた。
近々、こちらに来てくれるとか!
さて、街は年を越して、クリスマスが終わった。
雪の降るバート・メルゲントハイムは美しい。
まるで絵本の様な街並みが楽しめる。
その街では、「暴力シスター」の他にも、うわさが広がっていた。
それもご婦人限定で!
「カッコ良い鍛冶職人が流れ着いた」と言う話だ。
それは、2カ月ほど前のことだという。
この森に囲まれたバート・メルゲントハイムに、丘を越えて、ひとりの鍛冶職人が職を求めてたどり着いたそうだ。
勝手に領地から出ても大丈夫なのだろうか?
実は、この職人は、父親と二人で鍛冶屋を営んでいたが、父が隠居し店を閉めることになったそうだ。
そこで、一人では鍛冶屋は難しいのと、他の店に修行したいということでこの街に流れ着いたのが2カ月前ということだ。
「へへぇ。そうなんだ」と、この時の私は、またも薄い反応をしていたのだが、この鍛冶職人が、将来、私を看取ることになろうとは、この時の私に知る由もなかった。
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